第765話「お前の失敗は、ナタリーさんの護衛についたのが俺だと知りながら、とんでもなく舐めていた点だ」
「ははは、いつまで、ぼ~っとしている。俺の方から出向いてやったんだ。いいかげんに、しゃきっとしろよ」
リオネルの声がけを聞き、我に返りハッとした、
愚連隊蠅団のボス、マチアス・バタイユ。
マチアスが改めて見やれば、相手はたった19歳の若造。
そして顔をまじまじと見れば、ヤキをいれようとしていたターゲットではないか!
そんな奴に舐められたと感じたのだろう、怒る、怒る。
「な、な、何だと!! てめええっ!! ……ああ! リオネル・ロートレックだなあ!! ぶっ殺してやる!!」
と激高。
冒険者ギルド、ランクSのレジェンド、
ドラゴンスレイヤーであり、稀代の英雄という噂は、
世間へ伝わっているはずなのに……
リオネルは所詮、ひ弱な魔法使い。
だから、蠅団の多勢、組織力でどうにでもなると、
リオネルを舐めてかかっている節が、マチアスには、あった。
実際、蠅団は団員の数400人強を頼み、
この王都バルドルで幅を利かせていたから。
なので、リオネルに対し、身体特徴くらいの、
おざなりな情報収集しか行わなかったのである。
そして、リオネルの周囲に自分の幹部以下、アジトの配下達大勢が居るのを見て、よし! こちらが優勢だ! とばかりに声を張り上げる。
「お、おい! てめえら! こいつを思いっきり袋にしてしまえ!」
念の為、補足しよう。
袋にする、とは暴力的な行為を指す表現で、リンチと同義。
大勢の人々がひとりを囲んで殴ったり蹴ったりする「袋叩き」を意味する言葉だ。
しかし!
リオネルの周囲に群がる蠅団団員達は、動きさえしない。
いつもなら、ボスである自分が命令を下せば、
忠実に迅速に働いてくれるというのに。
「あれ? あれ?」と戸惑うマチアスへ、リオネルはふっと笑う。
「無駄だよ、マチアス。こいつらはお前の言う事など聞かない。この建物にお前の味方は皆無、ゼロだ」
「な、何ぃぃ!!?? お、俺の味方がゼロだあ!!?? そ、そんなバカなああ!!??」
「おお、そうか! このまま、蠅団を組織ごと、俺が頂くってのも良いな」
「な、な、何ぃぃ!!??」
「ああ、マチアス。この建物に居るお前の配下は皆、俺の忠実なしもべになった。他の奴らも含め400人強全員、俺の配下にしてやる。そしてまとめて更生させるってのも良いな。……おお、我ながら、GJだ」
現状に納得、まるで独り言のように言い放つリオネル。
リオネルの自己問答?を聞き、マチアスは更に激高。
「ふ、ふざけるなあ!! 蠅団をてめえの物にするだとおお!! んな事が出来るわけないっ!!」
「あはは、出来るよ。論より証拠。お前は、しばし、おとなしくして貰おうか」
リオネルはそう言うと、特異スキル『フリーズハイ』レベル補正プラス60を行使。
「ぐ、が!」
拘束の魔力を受け、短い悲鳴を上げるマチアス。
このフリーズ、リオネルが初めて授かった際、
確認して貰ったオルドルの司祭には、
おいおい何だこりゃ? こりゃ完全に大ハズレ!
いや! くそハズレ! だなっ。
スライムみたいな超雑魚や素人相手にたった3秒なんて本当に笑えるな!
クソだ! 誰でも大笑いするくそな! 屑のスキルなんだよ! あ~ははははは!
と散々、罵倒され笑われたスキルであったが……
地道な修行の結果、今や、補正60のお陰でドラゴンや巨人族にも通用。
有効時間は30分、射程は1㎞へ延長、連射は無限になっていた。
という事で! へなへなと崩れ落ちるマチアス。
ここでリオネルはマチアスのメンタルへ大ダメージを与える事にした。
一番間近にいた団員10人へ、命令を下したのである。
「おい、お前達、こいつをソファに座らせろ」
「はい……リオネル様。かしこまり……ました」
のそのそと動いた10人は、行動不能化した巨躯のマチアスを何とか立たせ、
全員で運び、無理やり応接用のソファへ座らせた。
硬直し続けるマチアスは信じられないと、驚きの目で配下達を見たが、
配下達はスルーし、無反応。
しゅくしゅくと、リオネルの命令に応えている。
「ほら、見ろよ、論より証拠だろ? こいつらは今や、お前とは無関係、俺の忠実な部下だ」
「く、くう……」
言葉を発する事が出来ない為、悔しそうに唸るマチアス。
「ほう! マチアス。あの剣はお前の護身用か? 見事な剣だな」
リオネルが指さしたのは、マチアスの机脇に立てかけられている、
革製の鞘へ入った大型の幅広な鋼鉄剣である。
「しかし、残念ながら、この場には不要だな」
そう言うと、リオネルは無造作に剣を指さした。
瞬間!
剣は、ぱきん!と音を立て、まっぷたつに折れてしまった。
リオネルが『貫通撃!!』を放ち、硬化した魔力で剣を破壊したのだ。
「!!!???」
剣が簡単に破壊されるのを見て、マチアスはびっくり。
その剣は、マチアスが大金を出し、特別に鍛冶師へ注文して作らせた剣で、
オーガをも倒せるという自慢の剣であった。
鍛冶師曰はく、比類無き切れ味、簡単には刃こぼれしない頑丈さを誇る剣との事。
それがリオネルが指さしただけで、あっさりと折れてしまった……
自分の命令は全く無視、原因不明な配下の寝返りに加え、
鋼鉄製の大剣を指さしであっさり折る……
底知れぬリオネルの力を体感したマチアスは、
行動不能となったまま、再度大きく目を見開き、心身を恐怖に満たしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そこからはリオネルの尋問タイム。
リオネルは、マチアスが座らされた対面のソファへ座った。
少しの回復魔法をかけ、マチアスがしゃべれるようにはしたが、
相変わらず行動不能状態のままとしている。
ただ、マチアスはさすがに大組織のボス。
行動不能とされ、メンタルに結構なダメージを受けても、
自分からは進んで、簡単に口を割らなかった。
しかし……リオネルには念話から派生した読心のスキルがある。
なので一見、尋問は一方的に見えるが、
質問に対し、心に浮かぶ言葉、内容をリオネルは、認識して行った。
「念の為に聞こうか、お前の本名は?」
「マチアス・バタイユ」
マチアスの心に浮かんだ名前も同じである。
そして発する心の波動も乱れてはいない。
ある程度、観念したのか、嘘はついていないようだ。
なので、リオネルは尋問を続ける。
「よし! マチアス。お前が蠅団のボスである事に間違いは無いな?」
「ああ、俺様が蠅団をまとめ、とり仕切っている」
「そうか。では、単刀直入に聞こう。何故、冒険者ギルド職員のナタリー・モニエさんにしつこく付きまとう?」
「………………………………」
マチアスは無言となる。
重要な話に関しては、ダンマリをしようと決めたようだ。
しかし、マチアスの心の声は、念話でしっかりとリオネルの心に響いていた。
『それは、……ある方に命じられたからだ』
「やはり、ある方か。その件を詳しく具体的に話せ。そのある方とは誰だ? ナタリーさんへ名を言わず、その方の言う事を聞けと言った者と同一人物なのか?」
「え!!??」
リオネルが発したの肉声の更なる質問を聞き、驚くマチアス。
お、おかしい!? 何だこれは!?
自分が隠そうと思った情報がつつぬけだから。
構わずリオネルは同じ質問を繰り返す。
「再度、聞こう、マチアス。お前に命じたある方とは誰だ? ナタリーさんへ言う事を聞けと言った者と同一人物なのか?」
「……………………………………………………」
少し声に「どすを利かせた」リオネルに対し、相変わらず表向きはダンマリだが、
戸惑い、動揺し、臆したマチアスの心には、はっきりとした答えが浮かぶ。
『あ、ああ、ご指示されたのはデスタン伯爵閣下のご三男、ガエル様。俺達がターゲットの女、ナタリーへ、言う事を聞けとは、同じく、ガエル様の言う事を聞けって事だ』
「……ふうむ、そうか。今回の件は、やはり、全てがデスタン伯爵の三男、ガエルの差し金なんだな」
念話で、マチアスの心を読み取った、いきなりなリオネルの突っ込み。
更にリオネルは突っ込む。
「おい、マチアス! お前達とガエルとの関係、そしてどんな指示が出たのかを、更に具体的に、かつ詳しく話せ!」
鋭い視線を投げかける、リオネルがそう言うと、
「な!!?? な、何故!!?? わ、分かる!!??」
またもマチアスは大いに驚いた。
今度はすぐに要望の回答が、マチアスの心に浮かぶ。
『そうだ! ガエル様からは当分は絶対に自分の名前を出すなと厳命された。
そしてナタリーを何度も脅し、言う事を聞くという状態になったら、このアジトへ連れて来いとも命じられた。
その後の段取りも指示をされた。
俺達から連絡を受けたガエル様が、
このアジトへこっそりとやって来て俺達と合流。
脅迫、暴力、買収等々、様々な方法を使い、連れて来たナタリーをガエル様の女にすると。
ただ、ナタリーもひどく用心し、衛兵へ通報したり、冒険者ギルドのガードも滅法固くなっていたから、俺達は中々ガエル様のご意向に添えなかった。
やきもきしたガエル様からは、まだかまだかと、何度も何度も催促が来るし、俺達は近いうちに、ナタリーをさらおうと思っていた』
「よし! そうか! 良~く分かった!」
リオネルは大きく頷いて更に言う。
「まずはガエルの名を出さず、お前達が、ナタリーさんを何度も脅し、怖がって根負けしたナタリーさんを無理やり、このアジトへ連れて来る。
お前達から連絡を受け、こっそりとやって来たガエルが、命にかかわるぞとナタリーさんを様々な方法で脅迫し、加えて大金も、ちらつかせ、それでも言う事を聞かねば、暴力も使い、なし崩しに言う事を聞かせ愛人にする手はずだったか。
だが、考えた通り事が上手く運ばず、最終手段として、お前達はナタリーさんの誘拐も考えていたんだな」
「うおおおおおっっ!!!!」
リオネルへは嘘が通用しない。絶対に誤魔化せない、
内々にしたい秘密を隠しきれない。
加えてダンマリの黙秘も効かないと知り、マチアスは絶望の叫びをあげた。
だが、リオネルの追及はまだ終わらない。
「マチアス。お前はでかい組織の頭を張るだけの事はある。
言った言わないが生じやすい、口約束を全く信用していない。
重要な決め事があれば、内容を細かく記載し、
日付け、サイン入りの書面にして絶対に残す。
それがお前の基本スタンスだからな。
ガエルと約束を交わした際も、タダ働きを避ける為に、報酬、条件等が記載された双方のサイン入り契約書があると、お前の心は告げている」
「うおおおおおっっ!!!!」
リオネルの言葉を聞いたマチアスは、更に大きく叫び、
ぶんぶん! と首を横へ振った。
「無駄さ。頑なに否定しても、お前の心が何でも教えてくれる。……成る程。契約書は机の後にある金庫の中か」
「……………………………………………………」
「ふむ……いくらガエルの命令通りに動いたとしてもだ。ナタリーさんを何度も脅し、ひどく怖がらせ、挙句の果てに誘拐まで考えたお前達を、俺は絶対に許さない」
「……………………………………………………」
「だから、犯した罪を償う為、重い罰を受けて貰う。ただ、すぐに金庫を開錠し、開けて、契約書を素直に渡し、自白という形で供述書を書けば、命だけは助けてやろう」
「ううううう………」
最後の抵抗だろうか、マチアスは泣きながら首を横へ振った。
「ほう、拒否か? そこまでガエルに忠義だてするのか? ならば、お前はこの剣のようになる。身体をへし折られ、即、あの世へ行きたいのだな?」
リオネルは再び、まっぷたつに折れた剣をしれっと指さすと、
発した強力な魔力――『貫通撃!!』により、パキン、パキンと軽い音を立て、
剣は更に4等分となった。
「見ろよ、このようにお前は身体を裂かれ、即座に死ぬ。原因不明の変死という事になるだろう。ちなみに俺は単にお前を指さしただけ。俺が殺したという証拠は全く無い」
「う、うわああ!」
「その前に、お前が死んだという事実も世間へは出ない。何故なら、変死したお前の死体は、すぐ誰にも見つからない魔境に捨て、魔物の餌にするからだ」
「ひいいいい!!!」
「結果、骨も何も残らず、お前の存在は行方不明のまま、この世界から完全に消える。お前が居た事は誰からも忘れ去られる、きれいさっぱり、無になるのさ」
「た、た、助けて!! ゆ、ゆ、許してくださあい!!」
大きな悲鳴を上げたマチアスへ、リオネルは言い放つ。
「いや、許さん! 許すわけがない!」
「そ、そ、そんなあ!!」
「散々悪事を働いた癖に、甘えるなよ、マチアス。お前の失敗はな、ナタリーさんの護衛についたのが俺だと知りながら、とんでもなく舐めていた点だ」
そして「ふう」と、軽く息を吐き、更に言う。
「もしも、お前が開錠を拒否し、死んだとしても、俺は魔法でその金庫を簡単に開けられ、ガエルとの契約書はあっさり手に入る。つまり、黙秘を貫いたとしても、お前は完全に無駄死にという事だな」
静かな物言いながら、本気モードのリオネル。
『とどめ』の言葉を聞き、マチアスは完全に降参。
「リオネル様! 完全に参りました! 嘘偽り無く! 貴方様に、絶対の服従を誓います!」
と言い放ち、行動不能を解除して貰うと……
震える手で金庫を開け、何とか『契約書』を取り出し、
「どうぞ」と差し出したのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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