第760話「はい、ギルドとしてこれぐらいは。大事な職員の身を守る為、当たり前の対応です」
オルドル中央市場からつけて来た蠅団どもをまいたリオネル達。
転移したアンセルムの宿屋の裏庭から表へ出て、
出入り口の扉を、とんとんとん!とノック。
「アンセルムさん、リオネルです! ただいま市場から戻りました!」
と告げ、
「おう! 合言葉通りで、その声は間違いなくリオだ! お帰り!」
とアンセルムが答えた上、リオネルは預かった宿の鍵で開錠した。
時刻は午前6時を少し過ぎたろころ。
中にはアンセルムとブライムは勿論、ナタリーも待っていた。
ナタリーに聞けば、少し前に起きたという。
すっきりした感のある彼女の様子を見ると、
ぐっすりたっぷり眠る事が出来たようだ。
発する心の波動も昨日よりもずっと落ち着いていた。
リオネルの胸に改めて歓びがこみ上げて来る。
良かった! 少しはナタリーへ恩返しが出来たと。
声を張り上げ、あいさつするリオネル達。
「おはようございます! ナタリーさん!」
「「おはようございます!」」
対して、ナタリーも柔らかく微笑み、声を張り上げる。
「おはようございます! リオネルさん! 皆様! 昨日は本当にありがとうございました!」
「いえいえ、まだまだこれからが山場です。俺達は勿論、アンセルムさん、ブライムも力を貸しますので、しっかりと解決しましょう!」
「はいっ! 宜しくお願い致します!」
「これから先は、昨日の打合せ通り進めます。但し予定は未定、臨機応変に対応します」
「了解です!」
という事で、皆でアンセルムの作った朝食をさくっと摂り、
ナタリーはリオネル達に護衛されながら、冒険者ギルドへ出勤する事に。
現在の時刻は午前7時少し前。
午前8時からカウンター業務が開始される、
業務課所属のナタリーは、午前7時30分が出勤時間。
午前7時15分までには職場へ出勤する。
ちなみに宿から冒険者ギルド王都支部までは徒歩10分弱なので、
余裕をもって歩く事が出来る。
リオネルはブライムを加えた布陣で、ナタリーを護衛すべく周囲を固めた。
先頭にリオネル、次にヒルデガルドとミリアンに左右をガードされたナタリー。
最後方を守るのはブライム。
服装はナタリーが通勤用のブリオー、護衛の4人全員は革鎧姿である。
先頭のリオネルこそフツメンモブ男だが、
背後の3人は、手をつなぎ合う見目麗しき美女達。
そして最後方を進むのは、長身ガチムチ筋骨隆々のいかつい男なので、
アンバランスな組み合わせの一行は非常に目立つ。
道行く人々からは、あいつら何だ!? 何者だ!? という奇異の目で見られ、
ひどく注目されるが仕方が無い。
まあ、それはまだ害は無いから良かったが……やはりというか居た!
リオネルの索敵は、ギルド王都支部の周囲に、
待ち伏せする蠅団どもの気配を、しっかり捉えていたのだ。
奴らの人数はぐっと増え、何と30人。
市場の見張りの件といい、本腰を入れて来たに違いない。
ただギルド周囲で待ち伏せされるのはリオネル達の想定内。
早朝の市場でさえ、十数人という結構な数の奴らが居たから、
全然驚くものではなかった。
絶対に油断はしないが……
そもそも、リオネルは奴らを脅威に感じてはいない。
それに常識的に考えれば、
朝っぱら、衆人環視の中で、ナタリーをさらうなど強硬手段が取れるものではない。
せいぜい声掛けして脅すくらいだろう。
しかし! 石橋を叩いて渡る以上のリオネルは、それさえも絶対に許さない。
蠅団どもが少しでもこちらへ近付こうものなら、
ぎん!と鋭い威圧の魔力を送り、奴らを怖がらせ後ずさりさせていた。
ちなみに、最後方を固めるブライムも、以前、妹のルベルが述べた通り、
遠国かつ南方の国、ジャヌーヴにおいて、冒険者ギルドに登録。
既にランクBの判定を受けており、当然、所属登録証も携帯している。
出勤する他ギルド職員達注視の中……
リオネル達は悠々とギルドの本館へと入ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ギルド本館内へ入ったリオネル達は、
ナタリーの上司たる業務課の課長経由で、
ギルドマスターへ会見の申し入れをする事に。
大事な打合せをする為に、と。
まずは1階ロビーでリオネル達が待つ間、
ナタリーがロッカーでギルドの制服に着替え、所属先の業務課へ顔を出し、
上司の業務課長へ朝のあいさつ。
更に詳しい報告を行う。
昨日起こった『事件』と、自分の依頼で、リオネル達が護衛役となった事。
ギルドを介し、正式にリオネル達を、
自分ナタリー・モニエの護衛役として契約する事。
その上で、リオネル達が調査確認を行いながら、問題の解決に動いて貰う事。
以上の件を、王都支部のギルドマスターへ伝え、
ワレバッドの総マスター、ローランド様、
同サブマスターのブレーズ様へ報告を入れて頂く等々をお願いすると。
驚いた業務課長からは、
「これまで話は聞いていたが、本当に大変だったな! 無事で何よりだ! もろもろ了解したから、とりあえず貴女は本日午前8時からのカウンター業務を行わず、リオネル顧問とともに、応接室で待機するように」
と指示が出た。
リオネル達がロビーで待っていると聞き、急ぎナタリーと共に現れた業務課の課長。
「おはようございます! お疲れ様です!」
と、朝のあいさつをリオネルがすれば、業務課長は、
「リオネル顧問、おはようございます! お疲れ様でございます!」
とあいさつを返しつつ、
「リオネル顧問! 報告はナタリーから受けました。お手数をお掛けしました。ウチの部下を助けて頂きありがとうございます。私からもギルドマスターへ報告しますので、その間、特別応接室でお待ちください」
と平身低頭であった。
……という事で、業務課長の先導でリオネル達とナタリーは特別応接室へ移動。
案内後、業務課長は一旦退場。
それからしばし経ち……再び現れた業務課長が、
ギルドマスター、サブマスターを伴い応接室へ。
そんなこんなで、回りくどいやりとりではあるが、これが組織というもの。
筋を通す為には致し方ない。
まあ、これでやっと全員が揃ったので、
ナタリーから、ギルドマスター、サブマスターへ、
先ほど業務課長へ行ったのと同じ報告を行う。
対して、以前から話が通っていたせいか、
ギルドマスター、サブマスターは了解し、大いに喜びもした。
今や冒険者ギルドで世界トップ3に入る実力と称されるリオネルが、
王都支部職員の苦難を救う為、尽力してくれるのだから。
「リオネル顧問!」
「はい! ギルドマスター!」
「私からもお礼を言わせてください。ウチの職員のナタリーの為に、ありがとうございます。今回の件はナタリー個人からだけではなく、ギルドからも正式な依頼として顧問へ出させて頂きます。何卒宜しくお願い致します」
「そうですか。ではナタリーさんだけではなく、ギルドの正式な依頼としても受けさせても頂きます。ナタリーさんにはとてもお世話になりましたし、問題解決の為、自分達は全力を尽くしますので」
しかし、これまでの事情を知るギルドマスターは、注意をするのを忘れない。
「重ね重ね、ありがとうございます。ただ、ご認識されているとは思いますが、愚連隊の蠅団はまだしも、確たる証拠が無いので、当冒険者ギルドのクライアントであるデスタン伯爵閣下、そのご子息ガエル氏とやりとりされる場合は、充分にご注意をお願い致します」
「了解です。各所に影響が無いよう、ギルドマスターのおっしゃる通り、充分に注意します」
「何卒、何卒、宜しくお願い致します。もしも、先方が理不尽な事をおっしゃって来るようであれば、ケースバイケースではありますが、ローランド様に出張って頂きます。この件では、だいぶお怒りのようでしたし、先方と交わした誓約書もまだ有効ですからね。顧問がナタリーの警護についた件もすぐ報告を入れておきます」
リオネルは既に、夢魔法で、ローランドの部下であるブレーズへ話は通してある。
事が事だけに、すぐ主従間で共有されるだろうし、
王都支部のギルドマスターから報告が行けば、万全なはずだ。
「宜しくお願い致します」
「ちなみにナタリーは業務課所属のままですが、しばらくカウンター業務をさせず、事務所で内勤させ、事務を行って貰います。出勤時間はこれまで通り基本的に午前7時30分、退勤時間は早めの午後5時とし、残業もさせません」
「成る程、良かったです」
「はい、ギルドとしてこれぐらいは。大事な職員の身を守る為、当たり前の対応です。そしてリオネル顧問が警護しやすいよう、おっしゃって頂ければ、ナタリーの勤務時間は更に融通を利かせます。出勤時間、退勤時間も顧問のご都合に合わせますよ」
「いろいろとご配慮頂き、助かります。お言葉に甘えます。ただナタリーさんが勤務中、自分達は四六時中、傍についているわけには行きません。万が一、ギルド内でトラブルが起きそうな際は、専任の警備員さん達にしっかり対応させるようお願いします」
「はい! それはもう約束致します! 当然ですよ!」
「当然ですか? 安心します。では本日は午後5時前予定で、ナタリーさんをお迎えに上がります」
「了解です! 受付に伝えて頂ければ、上手く対応致します」
「分かりました。……そうそう、ギルドマスターへ自分からもお礼を申し上げます」
「おお、顧問から」
「はい! 商業ギルドのギルドマスターへの口利きをして頂き、本当にありがとうございます。昨日すぐ商業ギルドへ伺いました。紹介状をお見せし、あちらのギルドマスターへ直接お会いして、お話しして、お陰様で打合せはとても上手く行きましたので」
「おお、それはそれは! 良かったです! こちらもご紹介した甲斐があったというもの、本当に喜ばしいです」
こうして……ナタリーの件だが、予定通りに事が運び、
まず根回しは上手く行った。
しかし、ナタリーへ告げた通り、これからが本番だと、
リオネルは気合いを入れ直したのである。
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