第759話「こんな朝早くから動いているという事に、奴らの本気度が伝わって来る」
無事に夜が明け……本日からアンセルムの宿屋は休業する事に。
ナタリーの件が解決した後、リオネルの立てた計画により、
この宿屋は大規模な改築、増築工事に入る。
そして同じく購入予定、改築、増築予定で隣接するレストランと共に、
改めてリニューアルオープンするのだ。
……という話で、アンセルムとは合意。
譲渡書も作成され、正式に宿はリオネルへ譲られる事となった。
そして、現在の時刻は午前5時。
昨日の疲れがあったのか、まだナタリーは眠っていたが、
アンセルムは先ほど起床。
一方、早起き慣れしたリオネル、ヒルデガルド、ミリアンはとっくに起床。
身支度を整え、バルドルの中央市場へ出かけようとしてスタンバイしている。
実は……ここ最近、アンセルムはひとりで宿を回していた為、人手が足りず、
考えた末に、市場の買い物代行便を依頼し、食材等々の仕入れを行っていた。
現在、一般客は居ないが、リオネル達4人が滞在している為、
食材を始め、生活物資は必要不可欠。
なので、今後の改築計画との兼ね合いもあり、業者へは断りを入れ、
代わりにリオネル達が仕入れを行うと申し入れしたのだ。
これは、業者が蠅団に拘束されて入れ替わったり、
脅されて食材にいたずらされるのを懸念した為でもある。
リオネルの提案を聞いたアンセルムはすぐに了承、既に業者へ連絡を入れていた。
さてさて!
話を戻すと、ここで起きて来たアンセルムがリオネル達へ声をかける。
「おう! おはよう! リオ!」
「おはようございます! アンセルムさん!」
「おはよう! ヒルデガルド、ミリアン」
息子同様なリオネルのパートナー達へ、気安く呼び捨て。
良く言えば、身内と認めた者には、とことんフレンドリー。
変に気を遣い過ぎないのが、アンセルムの良さである。
しかし、逆に言えばもっと気を遣えと言えなくもない。
対して、ヒルデガルドとミリアンは、嫌な顔どころか笑顔で応える。
「「おはようございます!」」
「おお、おはようさん! 3人とも、もうスタンバっているな。 打合せした通り、中央市場へ買い出しに行ってくれるのか? 俺が書いた買い物リストのメモは渡したよな?」
「はい、そのリストに従い、多めに購入します。そして当座の分は勿論ですが、ついでに旅用、備蓄用の食料品等々も購入して来ます」
「おお、了解だ。リオ達が市場へ行っている間に、俺が朝飯を作っておくぜ」
「分かりました、お願いします。それとナタリーさんを連れて行くかどうか迷いましたが、まだ眠っているし、置いて行きます」
「そうか! 昨日いろいろあったもんな」
「はい、彼女は今日も冒険者ギルドへ出勤して仕事をしますし、ギルドマスターへ話をする際、同席もして貰わなければなりません。なので朝から疲れさせたくありません」
「だな!」
「俺達が出て行ったら、しっかりと扉を施錠してください。戻って来た時はノックして、俺が名乗り、『ただいま市場から戻りました』を合言葉にして声掛けをした上、アンセルムさんから預かった鍵で扉を開けますから」
「おお、『ただいま市場から戻った』が合言葉か? 了解だ。それに俺だったら、リオの声は聞き間違いしないからな」
「はい、俺達が市場へ行っている間は、ナタリーさんの事、宜しくお願いしますね。万が一の蠅団来襲も想定し、念の為、ブライムを召喚しておきますので、1階の食堂で警備にあたらせてください」
「おう! あの炎の魔人か! 彼が居れば、心強いぜ! 物腰も丁寧だしな!」
「はい、ブライムは威圧も使えますし、おふたりを必ず守るよう、指示もしておきますので」
「ああ、頼むぜ」
と、いう事で。
アンセルムの目の前で、一旦、異界へ戻し、休ませていたブライムを再び召喚。
空間が割れ、現れた偉丈夫にアンセルムはびっくり。
ここはアンセルムにも聞こえるよう、肉声でリオネルは話しかける。
「おはよう! ブライム、お疲れ様」
「は! おはようございます! リオネル様! お疲れ様でございます! いつでもどこでも、お気を遣わず! ぜひ、私をお呼びください!」
「いやいや、間を置かず何度も召喚し、せわしなくて申し訳ない。俺達は、出かけるから、戻って来るまで1階の食堂にスタンバイし、アンセルムさんとナタリーさんを護ってくれ。人間族相手ならば、威圧のスキルを使うと良いだろう」
主らしからぬリオネルの丁寧な物言い、
そしてリオネル達が戻ったら、共に朝食を、と伝えたので、
ブライムは大いに歓び、「かしこまりました!」と勿論快諾。
これで、出発準備はOK!
3人はいつもの通り、リオネルを真ん中にし、
左右をヒルデガルドとミリアンが固める形で出かけたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
横並びで王都の街路を歩くリオネル達3人。
当然、行先はオルドルの中央市場。
元々自分の故郷なのは勿論、アンセルムの宿屋を手伝っていた際、
仕入れには何度も行ったので、リオネルには勝手知ったる道だ。
3人は会話を交わしながら歩いているが、当然、心と心の会話、念話である。
『リオネル様!』
『はい、何でしょう? ヒルデガルドさん』
『今更なのですが……この並びで歩くのは、私とミリアンさんにとっては、とてもとても嬉しいのですけれど、変に目立ちませんでしょうか?』
『ええ、目立つとは思いますが、まずは安全を優先しているので致し方ありません』
『まずは安全を?』
『はい、以前もお伝えしたかもしれませんが、ヒルデガルドさんとミリアンが、ふたりきりで歩くと、お誘いの言葉の嵐となる可能性が高いです。男の俺が居ると、若干声掛けが減りますし、彼らには威圧が有効です。だから、主にナンパ防止の為です』
『成る程』
『そして万が一何かあった際、すぐの間近で俺が即、動ける為のフォーメーションなのです』
『分かりました!』
『それと初めてとか、久しぶりに訪問した街だと物珍しく、つい、ひとりでふらふらっと動いてしまいがちですから、こうして3人で手をつなぐのは単独行動回避の為でもあります』
『成る程! 初めてとか、久しぶりに訪問した街だと物珍しく、つい、ひとりでふらふらっと動いてしまいがちですか。それ、あるあるですね』
『はい、という事で、つまり、ふたりに危害が及ばぬ為には、この隊列がベストなのですよ』
リオネルとヒルデガルドの会話を聞いていたミリアンが、
ここで『はい!』と挙手。
『うふふ♡ リオさんはいつも相手の事を考えながら、丁寧な物言いをするし、先々まで考えて動いてくれるから凄く頼りになるの。大好き♡』
すると、ヒルデガルドも、
『ミリアンさんに大いに同意です。私もオールマイティなリオネル様が大好きです!』
対して、褒め殺し?されたリオネルは苦笑。
『いえいえ、それより今回はゆっくり王都観光をする予定が、アンセルムさんの宿の件、ナタリーさんの抱えている問題解決と、ふたりを巻き込んでしまい、本当に申し訳ないです』
『いいええ、リオネル様は良くおっしゃっていますわ。予定は未定だと』
『そうですよお、リオさん。アンセルムさんの事も、ナタリーさんの事も、人助けだもの。私達だって全面的に協力するからさ』
『ふたりとも、ありがとう!』
と、そんな会話をしながら歩く3人。
早朝なので、さすがにナンパは無いが、道行く男子達からは、
リオネルに対して、羨望と嫉妬の眼差しを投げかけられる。
以前のリオネルなら、臆した事もあったが、
さすがに数多の経験で叩き上げた胆力はそんな眼差しなど簡単に跳ね返した。
そんなこんなで、やがて3人はオルドル中央市場へ到着。
以前リオネルが仕入れに通った頃と、店は少し入れ替わっていたが、
取り扱い商品のエリアは変わっていない。
買い忘れが無いよう、ヒルデガルドとミリアンに確認を取りつつ、
スムーズに買い物を行う。
見た目は華奢な19歳。
少年以上青年未満のリオネルだが、
ティエラが大地の化身たる父アマイモンに、
勝るとも劣らないと絶賛したパワーは本物。
ドラゴンや巨人族を簡単に殴り倒すレベルなので、
巨大な各種肉塊の詰まった樽、各種魚の干物がぎっしり入った樽、
大きなバゲットを数十本、各種野菜、フルーツの束、各種の酒樽、
様々な果汁の樽などなど、
数十キロどころか100㎏以上の荷物をひょいと持ち、抱えるのは楽勝。
お、おいおい!?
逞しい、筋骨隆々なガチムチ戦士辺りなら分かるが、
な、何で、こんな細い子が!!?? と、
店主達が驚愕し、目を真ん丸にするのを華麗にスルー。
次にリオネル達は日常に使う生活用品のエリアへ行き、同じように購入。
その都度、ひと気の無い場所で、収納の腕輪内へ搬入した。
ちなみに何度も述べているが、収納の腕輪内は時間の進行がストップしているから、
購入物が経年劣化する事はない。
そんなこんなで、買い物は終了。
アンセルムの宿分、備蓄分が購入出来た。
『よし! とりあえずは、こんなもんだ。少なくともここ最近で使った分は購入した』
万事に慎重なリオネルは「備えあればうれいなし」がモットー。
収納の腕輪内に各物資を約5年分備蓄してある。
今回の旅において、各所で『差し入れを』を行ったので、
若干ストックが減少していたのだ。
『さあ、宿へ戻りましょうか』
『『はい!』』
という事でリオネル、ヒルデガルド、ミリアンは市場を撤収。
フォーメーションは当然、行き同様、
リオネルを真ん中にし、左右をヒルデガルドとミリアンが固める布陣だ。
そんなリオネル達を、少し前からチェックしている者共が居る事が、
索敵で認識されている。
人数は十数名ほど。
全員が男だ。
奴らの放つ心の波動でリオネルはすぐに正体を察知した。
そう! ナタリーへつきまとう愚連隊、蠅団の奴らだと。
奴らの心の中にある、自分は蠅団団員であるという自覚と認識。
そして男十数人の中には、リオネル達の顔を知っているであろう、
冒険者ギルド前で、ナタリーを待ち伏せしていた者が混ざっていたのである。
改めて言えば、蠅団は王都で400人超の構成員を誇る反社の愚連隊。
人数を頼み、要領良く立ち回る事もあり、幅を利かせているのであろう。
先日、リオネルと初めて遭遇した際も……
「ごらあ! 最初から言えだあ? このガキ! てめえ、冒険者みてえだが、俺達を舐めんじゃねえぞ!」
「ん、だとお!! てめえ! 俺達を知らねえのか! 誰もがびびるし、王都では、衛兵だって一目置くんだぞ!」
などと、自信たっぷりなセリフと様子から、
それなりの実力があるのもうかがえる。
それが……リオネルに、最初は兄貴分を気絶させられ、
ナタリーを待ち伏せしていた奴らも、全員あっさりと気絶させられた。
完全にメンツを潰された!!
と、蠅団のボスは激オコに違いない。
そこで絶対にやり返し、落とし前をつけようと、
リオネル達の正体と動向を探らせるべく、
即座に結構な人数を王都市内に放ったのであろう。
こんな朝早くから動いているという事に、奴らの本気度が伝わって来る。
そして、お約束と言わんばかりに、
蠅団の奴らはリオネル達3人をつけて来た。
リオネルは、このまま宿屋に戻り、
わざわざナタリーの所在を報せるつもりはない。
『ヒルデガルドさん、ミリアン』
『『はい!』』
『気付いているかもしれませんが、市場から、蠅団の奴らが俺達を尾行しています』
『はい、市場を出る時から尾行者が居るのは認識しておりました』
『私も! さすがに正体までは分からなかったけれど』
『という事で、馬鹿正直に奴らを宿へ案内はしません。いずれナタリーさんの所在がバレるにしても、今はまいてしまいましょう。そこの路地は無人なので、入って、俺が転移魔法を使います。転移先は宿の裏庭です』
『『了解!』』
3人の会話が終わった瞬間、全員がすっすっと速足。
目標の路地へ入り、リオネルは転移魔法を発動。
煙のように消え失せた。
慌てて後を追った蠅団どもが路地へなだれ込んだが、
誰もリオネル達を見つけ出す事は出来なかったのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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