第752話「お節介かもしれないが…… このまま恩人のナタリーを放っておくわけにはいかない」
「失礼致します! ナタリー・モニエでございます!」
リオネルが駆け出しの頃、散々励まして貰った懐かしい声が、
扉越しに、はっきりと聞こえた。
対して、ギルドマスターは、声を張り上げる。
「おお、お疲れさん! ナタリー、入ってくれ! 皆様がお待ちかねだ!」
すると、
「はいっ! 入りますっ!」
という、はきはきした返事と共に、扉が開けられ、ナタリーが入って来た。
金髪碧眼、端麗な顔立ちをした、すらっと長身でスタイル抜群な妙齢の美女。
ナタリーを言葉に表せば、そんな形容となる。
リオネルをじっと見たナタリーは、感慨深いという表情で、
あいさつの後は、しばし無言。
視線には慈しみの感情が込められていた。
溺愛した今は亡き弟に重ねたリオネルが、出世し、
元気に帰って来たのがとても喜ばしいに違いない。
それも、とびきりの美女ふたりを連れているから尚更だ。
対して、リオネルはシンプルに、ひと言!!
懐かしい!! と、感無量。
ただ、ナタリーを見て、リオネルは少し心配になった。
いつものように、にこやかに輝くような笑顔を見せるナタリーだが……
少し無理をしている感がある。
そう、彼女が発する心の波動に重いモノがあるのだ。
え!? こ、これは……深い悩みを意味する波動。
勿論、リオネルが原因ではない。
ナタリーさん、何か心配事があるようだな、と。
当然ながら、凄く気にはなる。
ただ、さすがに会って開口一番。
もしかして、悩みがあるんですか?
と聞くわけにはいかない。
それにリオネルは、彼女の心を魔法を使い、見ようとまでは思わない。
まずはナタリーと話し、事情を聞けたら、聞きたいとは思う。
一方……
ヒルデガルドとミリアンは、初対面のナタリーに興味津々。
へえ! この綺麗な女性が、
愛する想い人リオネルの『初恋の相手』……
なのだと、思いつつ、やはり、じっとナタリーを見ていた。
そんな空気の中……立ち上がってリオネルは深く一礼。
顔を上げると、はきはき、あいさつする。
「ご無沙汰しています、お久しぶりです、ナタリー・モニエさん。リオネル・ロートレックです。お元気そうで何よりです」
本当は……ナタリーは元気ではない。
と、リオネルには分かっているが、ここは便宜上そう言うしかなかった。
対してナタリーも。
「こちらこそ、ご無沙汰しております、お久しぶりですね、リオネルさん、いえ、リオネル・ロートレック顧問。ええ、私は変わりなく元気に暮らしております。顧問のご活躍ぶりは、しょっちゅう耳に致しますよ」
と笑顔で応えた。
つい、一度は『さんづけ』で呼び、慌てて言い直したのはご愛敬、である。
それからは……これまでと同様、リオネルが王都を旅立ってからの話がメイン。
アルエット村、キャナール村、ワレバッド、英雄の迷宮。
国境を越え、アクィラ王国フォルミーカとその迷宮を経由し、
現在は、アールヴ族の国イエーラで暮らしている様子も話す。
ただ、魔法の奥義、国家秘密等々、秘す内容が数多ある。
全てをオープンには出来ない。
旅の全てを話すと変に長くなってしまうし。
また、あまり詳しく話し過ぎると変に自慢になるので、
冒険譚は極力抑え気味にした。
そもそも討伐のデータベースは、ギルドマスター、サブマスター、ナタリーが、
チェックし、把握していると思うので。
そしてヒルデガルドとミリアンもリオネルの話を度々フォロー。
ただアンセルムに対しての話し方とは違い……
あくまでも自分達は、リオネルのクライアント、後輩冒険者。
共に働く、『ビジネスパートナー』としての立ち位置を告げる。
そうは言っても、話し方、接し方、態度等々、誰が見ても、
リオネルとは、とても近しい特別な間柄だと思われるのは当然。
しかし正式発表がまだまだ先なので、婚約者等云々は、尋ねられても、
表向きには、一応、否定しておくのだ。
そんなこんなで、ひと通り話が終わり……リオネルは締めの言葉を告げる。
「自分がここまで成長出来たのは多くの人々と出会い、助けて貰ったからです。ギルドマスターとサブマスターには、先ほどお礼を申し上げましたが、ナタリーさんにも改めてお礼を申し上げたい」
リオネルはここまで言うと軽く息を吐き、更に話を続ける。
「ナタリーさんには冒険者に成りたての駆け出しで未熟な自分を、何度も何度も励まして頂き、その都度、適切なアドバイスを頂き、とてもご尽力して頂きました。
今思えば、自分の礎を作って頂いたと、深く深く感謝しております。本当にありがとうございました」
対して、ナタリーは大いに恐縮。
「いえいえ、そんな! 私は大した事はしておりません。リオネル顧問はこのギルドでデビューされた頃から、真摯で努力を惜しまない方でしたから」
と感慨深く言い、更には、
「リオネル顧問が、ここまでの素晴らしい実績をお上げになったのは、間違いなく、ご自身のお力です。ただ、冒険者デビューの際は、少し無茶をする方だなあと思い、要らぬ心配をしてしまいました。誠に申し訳ございません」
と丁寧に謝罪をした。
すると、上機嫌のギルドマスターは、
「うむうむ、東方のことわざで、男子、三日会わざれば刮目して見よ、と言います。さすがに3日ではありませんが、たった1年と少しで、デビューから一気にランクSまで駆け上がった。この『ことわざ』こそ、まさにリオネル顧問の事ですなあ」
と、笑顔で言い放ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……それから場は、一種の『質疑応答』となった。
ギルドマスター、サブマスターが、
リオネル、ヒルデガルド、ミリアンへ冒険譚だけではなく、
自分達にとって未知たる国イエーラの事についても、いろいろと尋ねたのである。
ちなみに、ナタリーは遠慮し、ただただ話を聞いていた。
対して、リオネルとヒルデガルドは、話せる範囲内で、
差しさわりなく答える。
そしてミリアンは、新たな仕事へ就く為、イエーラへ行くのが、
楽しみでたまらないとも。
話が始まってから……約2時間が経った。
ここでいきなり魔導通話機の内線が鳴り、「失礼」と言い、
サブマスターが受け、ギルドマスターへ、こそっと耳打ち。
そして、ギルドマスターが頷き、壁の魔導掛け時計を見た。
時刻は……午後3時を回っている。
この後、リオネル達は商業ギルドへ訪問すると聞いている。
だから、これ以上の引き留めは宜しくないと思ったようだ。
「リオネル顧問」
「はい!」
「今、連絡があり、先ほど私が、事務官に頼んでおいた商業ギルドギルドマスターへの紹介状が出来上がったとの事です」
「ありがとうございます」
「いえいえ、お安い御用です。すぐに持って来させますよ。そして私がこの場でサインをします。この書面を持参すれば、商業ギルドが間違いなく便宜を図ってくれるでしょう」
「助かります、本当にありがとうございます。話は尽きませんが、そろそろおいとまします……そしてギルドマスター、サブマスターとは改めてお会いし、ゆっくりとお食事でも致しましょう。勝手ながら、希望日は後程そちらへお送りします」
と言ったリオネル。
「おお、ぜひ! 私達はリオネル顧問のスケジュールに合わせますよ」
「では、こちらで場所はセッティング致しましょう」
と、大乗り気なギルドマスター、サブマスター。
もしかしたら……
ギルド総マスターのローランド侯爵や、王国宰相フェリクスが、
リオネルとは、極力コミュニケーションを取っておくようにと、
ギルドマスター達へ命じているのかもしれない。
それゆえ、「ありがとうございます」
とシンプルに礼を述べたリオネルは、ナタリーへ向き直る。
「あの、ナタリーさん」
「はい! 何でしょうか? リオネル顧問」
「申し訳ありません。お礼を言い忘れていましたが、自分が王都を旅立つにあたり、ナタリーさんに催して頂いた送別会、とても嬉しく且つ楽しかったです。本当にありがとうございました」
リオネルの言葉を聞き、目が少し遠くなるナタリー。
どうやら、懐かしいと記憶をたぐっているようだ。
「いえいえそんな! 私も凄く楽しかったですし、参加した他の職員達も同様だったと思います」
ここで、リオネルが提案。
「今度はお返しに、自分達がナタリーさん達同じメンバーの方々をお招きし、懇親の為の食事会を開きたいと思います。いかがでしょう?」
そう!
リオネルは、このような公式の場ではなく、
ナタリーと気楽に話す機会を設けたかった。
遠縁にあたるギルド総本部のサブマスター、ブレーズ・シャリエへ、
手紙を送り、自分への尽力をお願いしてくれた事に対するお礼などなど……
ナタリーと話したい事は、まだまだたくさんあるから。
そして……お節介かもしれないが……
このまま恩人のナタリーを放っておくわけにはいかない。
彼女に何か、深い悩みがあるのなら、何とか助力したい、そうも考えたのである。
リオネルの言葉を聞いたギルドマスター、サブマスターは、
「おお、遠慮なく顧問のお言葉に甘えなさい」
「ぜひ、皆で行って楽しんで来なさい」
と大いに後押し。
GJ、ナイスアシスト、と言いたいようなフォローだ。
対してナタリーも、嬉しそうに、
「リオネル顧問、お誘い頂きありがとうございます! かしこりました。あの時のメンバーへ声を掛けておきます。そしてスケジュールを調整しておきます。皆、喜んで参加すると思いますわ」
と笑顔で応えたのである。
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