第751話「何をやっても、裏目に出て、どつぼにはまっていた昔とは大違い」
リオネル、ヒルデガルド、ミリアンは、
アンセルムに笑顔で手を振り、意気揚々と宿屋を出た。
出たところで、ヒルデガルドとミリアンは、
改めてリオネルとしっかり手をつなぐ。
ここでリオネルは、ヒルデガルドとミリアンに断った上で、
従士たる妖精ピクシーのジャンを収納の腕輪から出し、上空へ放った。
何か変わった事があれば、すぐ念話で報告するようにと。
ちなみに……ジャンの存在を知らなかったミリアンへは、
キャナール村のモーリス宅で引き合わせ、従士として紹介している。
すると、ミリアンとジャンはすぐに意気投合。
会話は凄く盛り上がっていた。
という事で。
『了解!』と元気良く返し、ジャンは猛スピードで飛び去って行く。
ジャンには『別の目』として偵察、異常有無の確認をさせ、
リオネルとヒルデガルドの索敵フォローをさせるのは勿論だが、
今後の為、王都オルドルを見せつつ、勝手が分かるよう、全体を把握させるのだ。
念の為、ジャンの姿は常人の肉眼では認識出来ない。
だから、王都市民達が人外たる妖精の飛翔に注目し、大騒ぎする事は無い。
ジャンを放った後、3人はそのまま、王都オルドルの街中を歩いて行く。
ヒルデガルドは初めての街という物珍しさ、
ミリアンは久々の生まれ故郷という懐かしさ、
ふたりの美女は街のあちこちに熱い視線を走らせる。
仲良く寄り添い歩く3人を見て、
アンセルムの言う通り、
何だ!? この野郎!!
ひとりで、ふたりも女を連れやがって!!
『ど』が付くフツメンの癖に超生意気な!!
リア充、大爆発しろ!!
という嫉妬と怨嗟の視線も数多あった。
近付いて、因縁をつけ、喧嘩を売ろうとした者も居た。
だが、リオネルが軽い威圧のスキルで返すと、
誰もが黙って引き下がって行った……
さてさて!
先述したが、本日はまず冒険者ギルド、その後は商業ギルドへ赴く。
夕方までに宿へ戻る、という予定。
当然リオネルは故郷たるバルドルの地理は熟知していた。
道筋だけではなく、どこにどのような店があるかも。
なので、そのスケジュールありきで、ルートは完璧に組み上がっていた。
3人は会話も交わす。
当然、心と心の会話、念話である。
『ヒルデガルドさん、ミリアン、おふたりには伝えてありますけど、これから冒険者ギルド、商業ギルドへ赴き、ともにアポイントと用件の申し入れをし、会見可能ならばあいさつをします』
『ですね』
『出来れば両方ともギルドマスターに会えると良いよね、リオさん』
『はい、ちなみに、冒険者ギルドへは近日中に伺うと一報は入れていますが、ノーアポです。商業ギルドは先ほどの成り行きからの話なので、完全にいきなりの訪問です』
『ノーアポといきなりの訪問、どちらもイレギュラーですね』
『えらいさんであればあるほど、いきなり訪ねたら普通はスケジュールが合わないよね』
『はい、先方はとても多忙でしょうから、常識的に考えれば、俺達の都合ありきのスケジュール調整は難しいと思います。ただ冒険者ギルドはあくまでもあいさつレベルですし、顔見世して、ギルドマスターへ単に昔お世話になったお礼を伝えるだけ。商業ギルドの方は、ギルドマスターではなくとも、しかるべき方が対応してくださるならばOKだと思います』
『成る程ですね』
『顔見世レベルと代理OKなら、何とかなるかも』
『はい、もし両方とも会えない場合、明日以降のセッティングで、本日は、夕方まで観光と買い物を行いましょう』
『分かりました。アンセルム様の宿の件がありますから、今までよりは、この街にじっくり腰を据えるという事になりますわね』
『そうよ! リオさん! 私なんか生まれ故郷の王都だもん! 久々だし、あちこち見て回りたい! いろいろ用足しも出来るよね!』
『はい、事の運び次第でスケジュールが変わる可能性もありますが、基本的にはじっくり腰を据え、情報収集をしながら、いろいろ用足しをしましょう』
『『了解!!』』
……そんなこんなで、午後1時過ぎ、
3人はまず冒険者ギルド王都支部へ到着。
総本部のワレバッドに比べれば敷地の広さ、設備などは劣るが、さすがに王都、
結構な規模である。
リオネル達は本館へ赴き、受付へ。
自身の所属登録証を提示して名乗り、
「事前に魔法鳩便で一報は入れたが、連れふたりと旅の途中オルドルへ寄ったので、ギルドマスターへあいさつの為、会見を求めたい」と。
加えて、
「そもそも、ノーアポなので、折り合わなければ、後日都合が良い日に伺う」とも。
対して、受付の担当職員。
『ランクS』『顧問』と記載されたリオネルの所属登録証を見て、
あわあわあわと大いに驚き、恐れ入ってしまう。
「えええ!!?? あ、あの英雄!!?? リ、リオネル・ロートレック様ですかあ!!?? しょ、少々、お待ちくださいませえっ!!」
慌てて魔導通話機で、内線のやりとりを始め……しばしのやり取りの後、
「お、お待たせ致しましたっ!! リオネル・ロートレック様!! ギルドマスターがすぐお会いになるそうですっ!!」
と、叫ぶように言い放ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
事前に一報を入れていたせいか、
冒険者ギルド王都支部のギルドマスターはすぐに会ってくれるらしい。
聞けば、懐かしい、ぜひ会いたいと喜んでいるようだ。
これはラッキーである。
そして、リオネル達を迎えに来てくれたのは、
これまた顔なじみである王都支部のサブマスター。
懐かしそうにリオネルをまじまじと見て、
「おお、リオネル君! 本当に久し振りだな! いや、もう君などと呼んではいけない! 今や、冒険者ギルドの誇りたるレジェンドS! 偉大なドラゴンスレイヤー、リオネル・ロートレック顧問! ようこそ! この王都支部へ、いらっしゃいました!」
しまいには敬語まで使った。
対してリオネル。
「ご無沙汰しております、サブマスター。その節は大変お世話になりました。ありがとうございます。そして今まで通り、自分の事は気安くリオネル君と呼んで構いませんよ」
「いやいや、ランクSは勿論、ギルドの顧問となったからには、貴方は私の上席ですから」
「そうですか、分かりました。改めてちゃんとごあいさつしますが、この場では、簡単にご紹介だけしておきます。共に旅をしているイエーラのソウェル、ヒルデガルド様と後輩の冒険者ミリアンさんです。ちなみにふたりとも冒険者ギルド所属です」
「初めまして! ヒルデガルドですわ」
「同じく初めまして! ミリアンです!」
「おお、これはこれは、おふたりともお美しい!」
サブマスターはそう言うと、自分も名乗り、簡単に自己紹介。
リオネル達を連れ、ギルドマスター室へ。
その間にリオネルは念話を行使。
王都上空を飛翔しているジャンへ、
しばしの間、冒険者ギルドで打合せを行うから、
自由に街を見ているようにと指示を出した。
そして専用の応接室で、ギルドマスターと再会。
リオネルは改めて、あいさつ。
「ご無沙汰していました」と告げ、
サブマスター同様にお世話になった礼を丁寧に告げる。
そしてヒルデガルドとミリアンの紹介を行う。
双方があいさつを終え……
久しぶりにリオネルと会い、気持ちが高ぶったのか……
ギルドマスターの目が少し潤んでいた。
この支部で薬草探しの冒険者デビューを果たした、
18歳の線が細かった少年リオネルが、
たった1年と少しで、レジェンドと呼ばれるランクSの顧問となり……
ドラゴン、巨人族をあっさりと、それも数えきれないくらい倒すまでの、
凄まじい強さを身に着けた。
……と思えば、ひどく感慨深いのだろう。
このオルドルを旅立ってから……
アルエット村、キャナール村、ワレバッド、様々なソヴァール王国の町村。
アクィラ王国のフォルミーカ、イエーラ、アクィラ王国の王都リーベルタース等々……を旅して来た。
リオネルの戦歴はギルド内において、データベースで共有されているから、
ギルドマスターとサブマスターは、しっかりと把握しているはず。
加えて、ふたりはリオネルの『内々の事情』を知っている。
リオネルが魔法使い家の名門ディドロ家の子息で、
姓を捨てさせられ、非道な父と兄ふたりに切り捨てられた事も……
ヒルデガルドとミリアンも交えた、しばしの雑談の後……
頃合いと思ったのか、ギルドマスターが言う。
「リオネル顧問」
「はい!」
「少し申し上げにくいが、貴方の父上、兄上達の現状はご存じだろうか?」
「はい、耳にはしたので存じております。ですが今、自分はリオネル・ディドロではない。リオネル・ロートレックです」
リオネルの含みのある物言い。
ギルドマスターは、その含みの意味を理解したようである。
「成る程」
「なので、リオネル・ロートレックたる自分を支えてくれる新たな家族、仲間を大事にし、こちらも支えたいと思います。そして自分を罵倒し、一方的に捨て、決別した者達がどうなっていようと全く関心はありません」
笑顔でそう言われては、これ以上、この話題を続けるのはナッシング。
ギルドマスターは柔らかく微笑み、話題を切り替える。
「ところで……頂いたお手紙によれば、リオネル顧問はご旅行中だとか。この後のご予定は?」
「はい! この後は、お世話になったこちらの職員のナタリー・モニエさんにごあいさつし、お礼を言い、その上で、商業ギルドへ伺おうと思っています」
リオネルがそう言うと、ギルドマスターはすぐに反応。
「おお、では、すぐにここへナタリーを呼びましょう! 今日は出勤しているはずですから!」
「え? ナタリーさんをすぐここへ呼んで頂けると? それは助かります」
「ははは、ナタリーは顧問のご活躍をとても励みにしていましたので、再会を大喜びするはずです。それと商業ギルドへいらっしゃるのならば、私に口利きをさせて貰えませんか?」
想定外なギルドマスターの申し出。
リオネルは驚き、問いかける。
「ええ!? 商業ギルドへ口利きとは? 実はご相談したい事があるのですが」
「おお! 相談事があるのですか? ならば尚更です。商業ギルドへ口利きというのは、私が商業ギルドのギルドマスターとは幼馴染で且つ親友だからです。幼い頃から、ず~っと懇意にしていますから、話が早いと思いますよ」
またまた何というリオネルの運の良さ。
覚醒した今は違うのか、あの至宝『ゼバオトの指輪』の力なのか……
何をやっても、裏目に出て、どつぼにはまっていた昔とは大違い。
まあ、事が上手く運ぶ時はこんなものである。
という事で!
ギルドマスターが商業ギルドへの紹介状を作成を指示し、
サブマスターは、魔導通話機で連絡し、内線でナタリーを呼んだ。
それからしばし経ち……応接室の扉が、こんこんこん!と軽やかにノックされた。
そして、そして!
「失礼致します! ナタリー・モニエでございます!」
リオネルが駆け出しの頃、散々励まして貰った懐かしい声が、
扉越しに、はっきりと聞こえたのである。
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最後に、
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