第750話「はい、最善手を尽くし、彼女達を守りますよ」
「分かった! 俺はリオと一緒にイエーラへ行くよ!」
リオネルからオファーを受けたアンセルムは、イエーラ行きを決意してくれた。
対してリオネル。
「オファーを受けて頂き、ありがとうございます! 今後とも宜しくお願いします」
リオネルの礼を聞き、アンセルムは機嫌良くにっこにこ。
経営が上手く行かず、閉塞感に満ち、
ならば宿屋を閉鎖し、引退。
平々凡々に生きようと考えていた日常が、劇的に変わるだろうという予感。
そして予感が実感に変わり、確信へと近付いて行く……
そう!
終盤に差し掛かっていた自分の人生が改めてリスタートすると。
ひょんなことから出会い、実の息子同様に可愛がったリオネルが、
進むべき道へ導いてくれたというのが嬉しくてたまらないようだ。
「おう! リオ! こちらこそ宜しくな! このオルドルにはそこそこ長く暮らしたが、前にもお前に告げた通り、俺は元々、ソヴァール王国の人間ではないし、未練は全く無い!」
「ですか」
「ああ、親父も亡くなり、故郷には誰も身内が居ない」
「ええ、そうおっしゃっていましたよね」
「ああ、だからソヴァール王国同様、故郷にも未練は全く無い。良い機会だ。遥か遠き未知の国イエーラへ赴き、お前と共に、改めて人生をリスタートさせる! まだまだ俺は終わらないぜ!」
「ええ、その通りです。これからですよ、アンセルムさん」
「おおよ! リオのお陰で新たな旅立ちが出来るとは、血沸き肉躍るぜ! ちなみに! 旅に必須、道中、提示を求められる身分証明書は、ばっちりだ。冒険者ギルドの所属登録証が使える」
「成る程。冒険者を引退しても使えるんですね」
「おう! 俺はとうの昔に冒険者を引退したが、籍だけはギルドに残してあるからな。依頼を受けなくても、ギルドへ離籍届けを出さない限り、生涯冒険者さ」
「あはは、生涯冒険者ですか。そのフレーズ、俺も使わせて貰いますね」
「ははは、全然OKだ!」
「そして俺の話はまだ終わりではありません」
「おい、まだあるのか? 話が?」
「はい、先ほど不要だろうとアンセルムさんは言いましたが、この宿屋、俺に譲って貰えませんか? 相応のお金を払います」
「え? この宿屋を?」
「はい、俺に考えがありまして」
「ほう、考えか? 元々リオにはこの宿を無償で譲ろうと思っていたし、タダで構わんぞ。どうしても金を払うというのなら、金貨1枚でOKだ」
「たった金貨1枚? いえいえ、それはさすがに」
「ははは、だからタダで構わんって話だよ。で、考えって何だ?」
「はい、論より証拠。その考えを話す前に宿屋の厨房を貸して貰えます?」
「論より証拠? 厨房?」
「はい! 食材は俺が所持しているものを使い、昼飯を作ります」
「はあ!? お前の食材で昼飯を作る? 何だそれ? 意味がさっぱり分からん! お前の話に何の関係がある?」
「あはは、完成後、皆で昼飯を食べてから改めてお話ししますよ」
「むう、分かったよ。厨房は好きなように使ってくれ」
……と、いう事で。
リオネル、ヒルデガルド、ミリアンは宿屋の厨房へ……
アンセルムも気になるのか、厨房の片隅に。
早速、リオネルは収納の腕輪から食材を出し、調理にかかる。
まずは下準備。
肉塊のすじを取り、切り身にする。
野菜を洗い、様々な形状に切る。
軽快な包丁さばき。
さくっ、さくっ、さくっ、
とんとんとんとん! とんとんとんとん!
そして調理。
ひときわ目を引くのはやはりリオネルだ。
大きな鉄製フライパンも軽々と使う。
じゃじゃじゃっ! じゃじゃじゃっ!
じゅ~ううう! じゅ~ううう!
じゅわわわぁ! じゅわわわぁ!
「………………………………」
一流シェフさながらの手際の良さ。
ヒルデガルドとミリアンも負けじと腕を振るう。
そんな3人を見て、アンセルムは大いに感嘆。
「おお、大したもんだ、リオ! お前は強さだけじゃなく料理の腕も、とんでもなく上げているな! 今や手ほどきした俺なんか、全然、足元に及ばねえ! そして、女子ふたりも結構な腕だ!」
対してリオネルは、
「アンセルムさんにそこまで褒めて頂き、素直に嬉しいですが、まだ早いです。出来上がった料理を食べてから、改めてお願いします」
と柔らかく微笑んだ。
……そんなこんなで、リオネル達の調理作業は続き、遂に料理が完成。
宿屋の食堂のテーブルに所狭しと並べられた。
やはりというか、出来上がったのは3種類の料理が各3品ずつ。
アンセルムが見覚えのあるソヴァール王国料理だけではなく、
隣国アクィラ王国料理、そして未知たるアールヴ料理である。
アンセルムがずらりと並んだ多国籍料理を見て目を輝かせる。
「おお!! こりゃ、美味そうだ!! 俺が食べた事どころか、見た事の無い料理もいくつかある!」
「ですか。じゃあ、昼飯にしましょう」
「ああ、すっげえ楽しみだ! 遠慮なく、思い切りご馳走になろう!」
こうしてアンセルムは、リオネル達から昼食を振る舞われたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「うお!? 見た目だけじゃねえ!! こ、こりゃ、本当に美味いっ!! 美味過ぎるっ!!」
がつ! がつ! がつ! がつ! がつ!
ばくっ! ばくっ! ばくっ! ばくっ! ばくっ!
リオネル達の料理を口にしたアンセルムは旺盛な食欲を見せた。
フォークとナイフ、そしてスプーンも止まらない。
そんなアンセルムを見て、リオネルは嬉しくなる。
ヒルデガルドとミリアンも笑顔だ。
4人は、作った料理を全て完食した。
「ふう~……満腹だ。この年で、数十年ぶりに目一杯、食っちまった。ありがとう、凄く美味かったよ」
ポンとお腹を軽く叩き、満足げなアンセルム。
にやりと笑い、言う。
「成る程なあ。食ったら分かるか。リオが論より証拠と言った意味が分かったよ」
「ははは、分かりましたか?」
「ああ、まさに誰もが認めるプロの味だ。この料理で宿屋を立て直す気なんだな」
「ご名答、当たりです」
「うむ、この味なら、客が数多来るだろうぜ。そもそもこのオルドルでは、アールヴ料理が珍しいから尚更だ」
「で、あれば良いと思います。また補修、改修、増築もして新たな宿屋として生まれ変わらせます」
「そして、名物料理を売りにした宿って事で、新装オープンか!」
「はい! また隣の空き店舗も可能ならば、買い取り、同じく補修、改修、増築します」
「おお、隣の空き店舗もか?」
「はい! この宿屋と共に、売店を備えたテイクアウトありのレストランとして併設する形で、新規オープンします」
……どこかで聞いた事のある構想である。
そう!
リオネルはフォルミーカで進めている宿屋山猫亭新規オープン計画と、
ほぼ同じ方法で、アンセルムの宿屋も再生しようとしているのだ。
「成る程、成る程。でもよ! 俺達はイエーラへ旅立つんだろ?」
「はい、なので、オルドルの商業ギルドへ行き、相談して、しかるべき方を紹介して貰い、工事、人材募集などの進行をお任せするつもりです」
リオネルはそう言うと、自分の名が記載された商業ギルド所属登録証を見せた。
フォルミーカで山猫亭の案件を相談した時、作成したものだ。
「そうか! お前、商業ギルドの会員でもあるのか! 俺も商業ギルドの会員だが、お前が依頼した方が、上手く事が運びそうだな」
「ですか」
「ああ、多分だが、商業ギルドなら、今や英雄のお前に対し、変な人物をあてがったり、あこぎな真似はしないだろうよ」
「成る程。ちなみに、工事着工に目途が立つまで俺達は王都に滞在します。他にも用事があるし、それらを済ませつつ、段取りを組み終わったら、商業ギルドから報告を貰える手はずも整え、イエーラへ出発しましょう」
「了解! 当然、俺も一緒にやるぜ! この宿の立て直しをよ!」
「ですか! 心強いですし、大歓迎です」
「ははは、それと料理も教えてくれよ!」
「勿論です!」
「おお、ありがとうよ!」
……という事で話はまとまった。
まずは宿屋譲渡の話となったが、
アンセルムは「どうしても無償で譲る」と言い張り、頑なに意思を曲げなかった。
そのままだと不毛な会話となるので、リオネルが譲歩。
宿の補修、改修、増築、空き店舗の買い取り、補修、改修、増築、の各費用、
商業ギルドへの支払いなどをリオネルが一切負担するという事で話がついた。
そんなこんなで、時刻は午後1時前。
そろそろ宿を出て、冒険者ギルドへ赴き、
ギルドマスターへあいさつしなければならない。
近日中に訪問の連絡こそ入れてはあるが、アポイントは無し。
なので、もしもギルドマスターが不在だったり、多忙で会えない場合、
先に業務担当職員であるナタリーへあいさつし、
彼女経由でアポイントを取って貰おうと考えている。
その後で、商業ギルドへ立ち寄り、
こちらもギルドマスターへアポイントの申し入れをするつもりだ。
そんなスケジュールをこなしつつ、観光、買い物も同時に行う。
いつもながら、リオネルの行動は合理的。
支度をした3人は、宿を出発する事に。
「では、行って来ます」
「行ってきますわ、アンセルム様」
「アンセルムさん! 行ってきまあす!」
「おお、リオ! ヒルデガルド! ミリアン! 気を付けてな、3人とも。夕食の準備をしておくから間に合うように戻って来いよ」
「「「はいっ!」」」
元気に返事をした3人の声を聞き、アンセルムは苦笑。
「まあリオが居たら、変な野郎は寄って来ないとは思うが、その並びは男どもをひどく刺激するからな」
苦笑したアンセルムが懸念するのも無理はない。
王都に来て歩いた時と同様、はぐれないよう、案内をしやすいよう、
更にはもしもの時を考え、警備上リオネルを真ん中にし、
ヒルデガルドは右、ミリアンは左に、先導するよう手をつないで歩く形だから。
何度も言うが、まさに両手に花、リア充爆発しろ!という趣きである。
「はい、最善手を尽くし、彼女達を守りますよ」
きっぱりと言い切ったリオネルに、アンセルムは大いに感嘆。
「おお、リオ! お前、本当に頼もしくなったな! まさに男子、三日会わざれば刮目して見よ、だな!」
するとヒルデガルドとミリアンも、
「私達も日ごろの修行の成果をお見せしますわ」
「守られるだけじゃないですよお」
当然ながら、リオネル、ヒルデガルドの索敵も最初から最大範囲全開だ。
3人はアンセルムに笑顔で手を振り、意気揚々と宿屋を出たのである。
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最後に、
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