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第749話「はい、楽勝の旅でした! その方は現在、元気に働いて頂いています」

「失礼しまあす! リオネル・ロートレックがただ今、王都へ戻りましたあ!」


と声を張り上げ、宿屋の中へ足を踏み入れたリオネル達3人。


敢えて、戻ると一報を入れずのサプライズ。


対して、正面のカウンターに陣取っていたアンセルムは飛び上がるぐらいびっくり。


目を大きく真ん丸に見開き、


「え、え!!?? お、おいっ!! リ、リオじゃねえかっ!! こりゃ驚いた!! も、もしや!! ゆ、夢かあっっ!!??」


「いえ!! 夢ではありません!! ご無沙汰しております!! アンセルムさん!!」


元気に声を発するリオネルを見て、間違いなくリオネル本人だと認識し、

アンセルムは破顔。


くしゃくしゃの笑顔となり、


「おいおいおい! まさか、遥かな異国で暮らすお前が顔を出してくれるとはな! 噂は聞いてるぞ! レジェンドと呼ばれるランクSになり、ドラゴンまで倒したとか! 大した出世だな、お前!」


リオネルの名声はここ王都オルドルへも届いていたようだ。


対してリオネルは柔らかく微笑む。


「いえいえ、それより3人でこの宿に泊まりたいのですが、部屋は空いていますか?」


「おお、空いてるぜ! お前からは、ウチの宿に未来永劫泊まれる金を貰っているからよ! 連れはふたりか! どちらも、えれえ美人だな!」


そんなアンセルムの言葉に応え、


「アンセルム様、初めまして! ヒルデガルド・エテラヴオリですわ!」


「同じく初めまして! ミリアン・バザンですっ!」


と、女子ふたりは笑顔で自己紹介し、深々とお辞儀。


そして、すかさずリオネルがフォロー。


「ふたりとも俺の大切な人です」


きっぱり言い切ったリオネルに対し、アンセルムは嬉しそうに笑う。


「ははは、ふたりとも俺の大切な人って、言うじゃね~か。丁度、4人まで宿泊可能な家族部屋が空いてる。全員一緒の部屋で構わないか?」


「はい、俺は以前泊まった部屋じゃないとダメとか、こだわりは全くありませんし、全員一緒の部屋の方が良いです」


「おお、お前、本当にいろいろな意味で成長したんだな。とりあえず宿泊手続きだけ先にしようか。積もる話はそれからだ」


「了解です」


「ちなみに、リオ達は朝飯を食ったか?」


「はい、もう済ませました」


「じゃあ、皆で茶でも飲みながら話すか。部屋で待っていてくれ。支度が出来たら呼ぶからよ」


……と、いう事で。


アンセルムに案内され、リオネル達は宿泊する家族部屋へ。


しかし、リオネルは廊下を歩きながら、違和感を覚える。


索敵でアンセルムが居る事だけは分かっていたが、

それにしても、人の気配があまり無いのだ。


朝の8時にアルエット村を出発し、転移魔法を行使し、この王都バルドルへ。


入場手続きもスムーズに行えたので、ここまで1時間も経っていない。


現在の時刻は午前8時45分。


通常ならば、宿泊客達が朝食中か、済んだとしても、

まだ部屋でくつろいでいるはずだから。


そういえばと、リオネルは記憶をたぐる。


宿屋街を抜けてくる際、出来て間もないらしき、

おしゃれなカジュアルホテルを数軒見かけたのだ。


そのカジュアルホテルの冠には、王都では誰もが知る大手商会の名前がついていた。


料金表も掲出されていた。

個室、2食付きで1泊2日で銀貨3枚(3,000円)から……


「から」というので、銀貨3枚は基本料金であり、

オプションが付いたら、銀貨5枚とか、もっと高くなるのだろうが……


ぱっと見、安い! いや、安すぎる!! と感じた。

新築で設備も段違いに良いはずなのに、

アンセルムの宿屋の料金とあまり変わりがないのだ。


もしかしたら、競合店?であるそれらに客が流れている?

その影響が出ているのかと、リオネルは想定した。


しかし、そんな状況をこの場でいきなり尋ねるのは野暮であり愚の骨頂。


リオネルはそこまで、空気、よみ人知らずではない。


アンセルムと積もる話をする際、さりげなく聞くというのがセオリーだろう。


部屋に通されたリオネル達は旅支度を解くと、

朝の仕事がひと段落したら呼ぶと言うアンセルムに従い、

部屋でくつろぐ事に。


落ち着いたところで、ヒルデガルドが話しかけて来た。


当然、会話は念話、である。

3人限定念話にしてあるから、ミリアンも会話の共有が可能だ。


『リオネル様、私、修行中の索敵を行使してみたのですが、私達とアンセルム様以外、この宿には、人間族の方が3人しか居ませんわ』


ヒルデガルドの言葉を聞き、ミリアンも驚く。


『ええ!? それって少なすぎないですか? 私がリオさんから聞いたのは、この宿屋は全部屋合わせて20人は宿泊出来るって』


『はい、リオネル様がご宿泊の当時、ほぼ満室で、活気に満ち溢れた宿とお聞きしたので、私にはとても違和感がありましたわ』


『確かに! 現在のこの状況では、繁盛しているとは言い難いですよね』


女子ふたりの話を聞いていたリオネルは、


『こうなっている宿の状況にはいろいろわけがありそうだ。さりげなくアンセルムさんから聞き出してみよう』


と、言葉を返したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


やがて……アンセルムが「午前中の仕事は終わった」と呼びに来た。


リオネルは索敵で認識していたが、

先ほどヒルデガルドが確認した3人の人間族もチェックアウトしたらしく、

既にこの宿には居ない。


今後の予約云々までは把握していないが、

現在この宿にはリオネル達とアンセルムのみ。


以前はかつてのリオネルのように半月滞在や仮住まいの者も居たはず。


さすがに、これは閑古鳥が鳴き過ぎる。


複雑な思いでアンセルムへついて行くと、食堂に案内された。


お茶の準備がされていたので、リオネルもお茶うけにと、

収納の腕輪から、ワレバッドで購入しておいた焼き菓子を出した。


気になるアンセルムの現況ではあるが、いきなりストレートに聞くなどはしない。


やはりというか、元冒険者でもある事から、

リオネルの旅路とそれに伴う冒険譚の話となる。


重ね重ね言うが、現在、この宿屋にはリオネル達以外、第三者は居ない。


なので、内輪の話を聞かれる心配はナッシング、肉声で話す事に。


まずはお礼を伝える。

アンセルムから譲って貰った魔道具のお礼だ。

特に収納の腕輪には、大いに助けて貰ったと。


そして王都を出発しての道中、ワレバッド、フォルミーカ迷宮、

現在はイエーラで暮らしている様子も話す。


ヒルデガルドとミリアンもリオネルの話を度々フォローした。


自分と、リオネルとの出会い、どれほど愛しているかもはっきりと。


……子供のように目を輝かせ、話に聞き入るアンセルム。


実の息子の様に可愛がったリオネルの成長、活躍、

そして出世、想い人達と巡り合った事が心の底から嬉しくてたまらないようだ。


凄いな! 凄いな! 良かったな! 良かったな! を連発していた。


ひと通り話が終わり……頃合いだと思ったリオネル。


「アンセルムさん」


「ん?」


「俺達ばかり、しゃべってしまって申し訳ないです。最近、調子はどうですか?」


「調子? 俺のか?」


「です!」


「ああ、若い頃に比べ、無理は出来なくなったが体調はほぼ万全。日々、問題無く過ごしているよ」


「それは良かったです。ちなみに、商売の方は?」


さりげなく尋ねるリオネルの質問を聞き、アンセルムの表情が曇る。


「商売? ……むう、そっちは最近パっとしねえな」


「ぱっとしませんか」


「ああ、実はよ、このところライバル店が何軒か 、出来たんだ。あっちは新築で綺麗な建物、ベッドも大きくてふかふからしい。それでいて値段はウチとあまり変わらん。とくりゃ、客は来なくなるわな」


アンセルムの話を聞き、ああとリオネルにはピンと来た。


先ほど見かけた大手商会系カジュアルホテルであろうと。


「そうだったんですか……」


「ああ、という事で、この宿は、残念ながら近いうちに閉店する事になりそうだ」


「え!? 閉店……ですか? そこまでなんですか?」


「おお、このまま続けても赤字だし、俺は元冒険者だから、生きる為の(すべ)として始めた宿屋業に未練はねえよ」


「ですか……」


「ああ、俺は金のかかる趣味も無いから、金はある程度貯めてある。閉店したら、引退して、のんびりこの王都で暮らす事にしたよ」


「成る程」


「唯一気になっていたリオは出世して元気で幸せに暮らしていて、別嬪(べっぴん)の想い人が、何と、ふたりも居るようだしな。もう何の憂いもねえ」


アンセルムは引き際が肝心と言い、

自身の人生に満足している事に加え、リタイア宣言も出た。


「アンセルムさん……」


「おう! お前へ譲るとか、偉そうに言ったが、こんな不景気宿屋は要らんだろ」


「………………………………」


「今の話を聞く限り、どうせお前は、しばらく遠国のイエーラで暮らすだろうから、尚更だ」


「………………………………」


アンセルムの話を聞き、じっと考え込んでいたリオネル。


顔を上げると、ヒルデガルドとミリアンへ目配せ。


対してふたりも頷く。


どうやらアンセルムには分からないように『念話』で会話したようだ。


「アンセルムさん」


「おう!」


「今のお話を伺い、俺、思い出し、考えた事があります」


「思い出し、考えた事? 何だい?」


「はい! 駆け出しだった俺は、この宿屋でアンセルムさんからいろいろな事を教えて貰い、学ばさせて貰いました」


「ははは、懐かしいな。宿屋の仕事、料理に加え、冒険者の心得とかだったか」


「はい! そして俺がびっくりしたのはアンセルムさんの博識さです。右も左も分からない俺が何でもかんでも根掘り葉掘り聞いた事に対し、全て答えを返してくれましたから」


「ははははは、そんなの冒険者時代、そして宿屋のオヤジとしての経験から得て、答えた雑学だよ」


「いえ、その雑学が貴重であり、実戦的なんですよ」


「貴重であり実戦的か? まあ、一応、俺の経験から来ているからな」


「はい! 先ほどお聞きした限り、アンセルムさんのお身体の調子は問題無しのようですし、引退などせず、俺達にその力を貸して頂けませんか?」


「え!? 俺の力を!? 貸してくれだと!?」


「はい! イエーラでアンセルムさんの力を発揮してください」


リオネルは更に、イエーラにおいて、魔物の討伐による治安回復だけではなく、

都市、交通網の拡張整備。

農地開拓、土地改良、植え付け作物の種類増加などの農業振興、

資材の輸送と搬入、

商品開発、店舗運営、販売ルートの構築等の商業振興、

更には医療改革、教育改革の段取りを組み……

そして限定的な開国に向け、特別地区建設と整備を行いつつ、

アクィラ王国との交渉を行っている事を告げた。


話を聞き、改めて驚愕するアンセルム。


「おいおいおい! リオ! 本当に凄いな! 何から何までやるってか! 国造りのレベルだよ! それって!」


「はい! まだまだやる事が山積みなんです。人手も不足しています。このままアンセルムさんを引退させるなんて勿体ないですし、必ずアジャストする仕事があります!」


「そ、そうかもな! 俺も手助けしてやりてえ! し、しかし……」


「しかし、何ですか?」


「いや、俺も既に50代半ば過ぎだ。元気とはいえ、体力的に、遥か彼方、イエーラへの旅は少しきついかもな」


「ははは、大丈夫ですよ。現に俺、フォルミーカから、イエーラ特別地区まで、80歳前の男性の方をお連れしましたので」


「え!!?? 80歳前の男を!!?? イエーラまで!!?? ご、5,000Km強の旅だぞ!! 」


「はい、楽勝の旅でした! その方は現在、元気に働いて頂いています」


「おいおい、楽勝って……」


きっぱり言い切ったリオネルの言葉を聞き、アンセルムは苦笑しつつも、

大きく頷く。


「分かった! 俺はリオと一緒にイエーラへ行くよ!」


こうして……


オファーを受けたアンセルムは、イエーラ行きを決意してくれたのである。

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