第748話「俺は……以前の俺ではない!」
翌朝、リオネル達はアルエット村を出発した。
村長のエレーヌからはやりすぎた感のある『恩返し』に対して、
もう!と苦笑されつつも、大いに感謝され、
「まだまだゆっくりして行って」と熱心に引き留められたが……
この後の予定も押しており、そうのんびりもしていられない。
という事で、出発したのは朝、午前8時。
村民達の中には仕事中の者も結構居たが、エレーヌ、アンナ、クレマンは勿論、
ドニ、ルネの兄弟などなど、別れを惜しんだ村民達は総出で見送ってくれた。
特にアンナは名残惜しそうに、
「リオ兄ちゃ~んん!! また遊びに来てねええ!! 絶対だよおお!!」
と声を張り上げていた。
対して、魔獣車の御者台に並び、3人は手を振って応え、
正門を開けて貰い、けん引するケルピー達は元気良く、いななき、快走し、街道へ。
さあ、次はいよいよ、王都オルドルへ赴くのだ。
オルドルが生まれ故郷のリオネルにとっては久々の『里帰り』である。
先日、リオネルはローランドとブレーズから教えて貰った。
……かつて、優秀な魔法使いを数多輩出した由緒ある家名を理由に、
劣等生のリオネルを散々馬鹿にし、遂には追放した父と兄、計3人の悲惨な末路を。
父と次兄ふたりは王都から出奔?し、現在は行方不明。
長兄は収賄、暴行、暴言、等々の罪で郊外の刑務所に服役、収監中……
それゆえ、追放した上、帰省を禁止した、
リオネルの『凱旋』をとがめる者は皆無。
という事で、魔獣車を走らせながら、
オルドルにおけるスケジュールに関し、3人は話す。
会話は当然、心と心の会話、念話である。
リオネルが言う。
『王都におけるスケジュールに関しては、先日、相談しましたが……
念の為、確認します。
まずは俺が最初にお世話になった宿屋へ行き、店主のアンセルムさんにあいさつ。
次に冒険者ギルド王都支部へ行き、ギルドマスター達へあいさつ。
ちなみに昨日、魔法鳩便で、ギルドマスター宛にオルドル訪問の旨は連絡済です。
またその際、職員のナタリー・モニエさんが居れば、
こちらへもあいさつするという流れで、その後はいつも通り。
そんな予定で構いませんか?
俺の都合でふたりを引き回し、申し訳ありませんが』
そんなリオネルの問いかけに対してヒルデガルドとミリアン。
『いえいえ、リオネル様のご都合で何て、とんでもありません。私もアンセルム様とナタリー様へお会いするのを楽しみにしておりましたので』
『私もヒルデガルドさんとおんなじ! それに久々の王都で楽しみ! 生まれ故郷だしね!』
リオネルの立てたスケジュールを快諾する、
女子ふたりの言葉を聞き、リオネルは笑顔。
『そう言って貰えるとありがたいし、本当に助かります。宿泊はもしも可能ならば、アンセルムさんの所に泊まりたいのですがね。もしも満室だったり、保安上などで、折り合いが付かなければ、ギルドマスターにご紹介して貰おうと思っています』
後はいつもの通りというのは、視察&仕事を兼ねて、
食べ歩きを含めた観光、買い物等々をリオネルが提案。
こちらもヒルデガルドとミリアンは文句無しに賛成。
冒険者の総本山ワレバッドほどではないが……
この王都オルドルも、所持金がインプット&プールされた、
所属登録証カードシステムが充分に浸透しており、
存分に買い物をするのは相当便利なのである。
良い事づくめの王都だが、懸念はある。
そう! リオネルに対し、王家からの謁見等々要請のアプローチがあるのか、
無いのか。という事。
ワレバッドでローランドとやりとりをしてから、多少の時間は経っている。
王弟かつ宰相フェリクス・ソヴァールへ、
リオネル達にはお構いなしにと、話が通っているのは間違いない。
問題はフェリクスが部下ローランドの進言を素直に聞き入れるのかどうか。
もしも聞き入れず、こちらの意向を無視したような強硬手段に訴えるのならば、
リオネルもそれなりの手段を取らざるをえなくなる。
礼を尽くさず、家族や自分に無遠慮に踏み込み、迷惑をかける者は、
まず充分に話をし、もしも聞き入れなければ容赦せずに排除。
更に害を為す者が居れば、徹底的に戦う、とリオネルは決めている。
また、下手に干渉すれば、ヒルデガルドをも巻き込み、
イエーラとの国際問題になる可能性も大。
そこまでフェリクスが愚かならば、リオネルは故国に何の未練も無い。
ヒルデガルドの夫としてイエーラ国籍になれば良いし、
ローランド達へは告げなかったが、アクィラ王国からも誘いがあった。
まあ、あまり想定、想像ばかりしていても仕方が無い。
どちらにしても、王都へ入場してみないと何とも言えないから。
どんな事が起こっても対応出来るよう、準備だけしておけばOK。
リオネルはそう思い、転移魔法発動を告げると、安全確認を行った上で、
オルドル近郊へ、跳んだ、のである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
いつもの通り、転移先は街道からそれた無人の場所。
今回は、近郊の森の中。
リオネル達はしれっと街道へ。
そこから魔獣車を適度な速度で走らせ、オルドルの正門前へ。
さすがに1年と少しでは、正門の趣きは変わらない。
リオネルは苦笑。
故郷よ、さらば! と思い、旅立ったんだなあと、懐かしくなる。
そして実感する。
今、俺は、帰って来たんだ!と。
以前の俺より、心身とも逞しくなって。
ふう! と軽く息を吐いたリオネルは正門前でケルピー達をハーネスから外し、
帰還させ、魔獣車も、収納の腕輪へ、搬入。
馬と馬車がぱっと消え、
入場待機者達からは、おお!! 手品か!?
と、どよめきが起こったが華麗にスルー。
ざわざわする、注目を浴びる、そんな中、何事も無かったかのように、
リオネル、ヒルデガルド、ミリアンの順番で列の最後に並んだ。
今更だが、リオネル達3人は冒険者ギルド所属の冒険者、
所属登録証を所持し、携帯している。
この所属登録証は、世界共通の身分証明書になる優れ物。
提示するだけで、面倒な入場手続きがオミットされる。
このソヴァール王国では国民ならば入場税も免除。
他国人のヒルデガルドだけが入場税を支払うが、ランクAだから通常の半額でOK。
それもカードシステムを使い、さくっと支払われるので、本当に手間いらずだ。
さあ、門番の反応はいかに?
果たして……リオネルの想定内、であろうか?
聞こえないドラの音が鳴り響く。
そして……結論はすぐに出た。
先に言えば、何事もナッシング。
筋骨隆々、屈強なソヴァール王国軍所属の門番は、リオネルの所属登録証を見て、
一瞬だけハッとした。
だが、大騒ぎなどせず、いかにも平静を装い、
次にはヒルデガルドとミリアンの所属登録証も確認、
笑顔を向け、お構いなしで全員を通してくれたのである。
他の入場者同様、「ソヴァール王国王都オルドルへようこそ!」とだけ告げて。
やはりローランドは、宰相フェリクスに信頼され、
腹心として大いに重用されているらしい。
論より証拠、進言が見事に通っていて、自分達への対処が、
門番にまで徹底されているのだから。
リオネルは心の中でローランドへ深く感謝し、3人は無事、オルドルへ入場。
早速、アンセルムの宿屋へ向かう。
迷い無く、中央広場を抜け、宿屋街へ……
きょろきょろ、あちこちへ視線を飛ばすヒルデガルドとミリアン。
一方、リオネルは勝手知ったる故郷、王都オルドルの道。
とはいえ、ヒルデガルドにとっては初めての街、
ミリアンも生まれ故郷の王都へ来るのは5年ぶり以上。
なので、はぐれないよう、案内をしやすいよう、
更にはもしもの時を考え、警備上リオネルを真ん中にし、
ヒルデガルドは右、ミリアンは左に、先導するよう手をつないで歩く。
だが……男ひとりに女子ふたりで、この歩き方は結構目立つ。
そして!
女子ふたりは革兜に革鎧という地味な冒険者スタイルだが、
遠目からでも分かる絶世の金髪碧眼美女と可憐な金髪碧眼美少女。
頼り切りという趣きで寄り添い、ベタぼれという雰囲気で甘えながら歩いている。
対して、真ん中で手をつなぐ、リア充爆発野郎は、同じく革鎧を身にまとうが、
容姿はと言えば平凡で地味な19歳、茶色の短髪青年冒険者。
フツメン以下のモブキャラで若造なのに……まさに理不尽な両手に花。
となると!
何であんなさえない奴が!!??
超生意気だああ!!
ぶっ飛ばしてやるう!!
という男達の羨望と嫉妬が集中するのは必然。
リア充、大爆発しろ、この野郎!!とばかりに、いきり立ち、
恋路を邪魔しようと近寄って来るが、そこはお約束のリオネルの威圧スキルが炸裂。
おい! この野郎! と難癖をつけ、乱入しようとした男達は何も出来ず、
きゃんきゃんと尻尾を巻き、一目散に逃げて行く……
かつてミリアンと一緒に歩いた時もそうであったし、
これまでの旅でヒルデガルドを連れていると、
どこの街でもこういう輩が居る。
だから、リオネルが行う威圧の排除も手慣れたもの。
そんなこんなで、やがて、無事にアンセルムの宿屋前へ到着した。
リオネルが見やれば……
簡素で、渋い建物の雰囲気は全く変わっていない。
本当に懐かしいなあ!!
と、リオネルの胸は一杯になる。
記憶が走馬灯のように甦る……
……実家から放り出され、右も左も分からない中、
なけなしの金を払い、2週間、宿泊した。
冒険者に成りたての頃、日々、安価な薬草を採集し、
最弱のスライムをちまちま倒しながら、ウサギを狩り、
店主のアンセルムに励まされ、収納の腕輪を譲って貰った。
そして徐々に力をつけ、旅立った……
そう! この宿屋が自分の人生リスタートの原点、なのだと。
改めて実感する。
俺は……以前の俺ではない!
まだまだ発展途上だけど、学ぶべき事が多い未熟者だけど、
各所で経験を積み、心身とも著しく成長し、遥かに強くなり、帰って来たと!
再度ふう! と息を吐いたリオネルは、ヒルデガルド、ミリアンに目くばせ、
ずいっと宿屋へ、3人で足を踏み入れ、
「失礼しまあす! リオネル・ロートレックがただ今、王都へ戻りましたあ!」
と声を張り上げたのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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