第747話「明日は絶対に恩返しなどせず、ゆっくりくつろいでください」
リオネル達の提案で行われたアルエット村立食パーティーは、
キャナール村同様に大好評。終了したのは、午後9時である。
後片付けやらなんやらで、リオネル達が就寝したのは午後11時過ぎであるが、
翌朝4時、元気な姿を見せていた。
そう! リオネルの恩返しはまだまだ続く。
昨日同様、村の自警団へ武術指導を行い、朝の護衛に同行。
帰村後、空き家を借り、回復魔法を行使し、
リオネル、ヒルデガルド、ミリアンは、
このアルエット村でも村民の治癒を行ったのである。
ちなみに、アンナも手伝いを申し出たが、
夜までかかりそうな事、不慣れな事などを理由に説得され、
「じゃあ! 私はママ、おじいちゃんと3人で夕食を作っているね」
と、切り替え、笑顔で納得してくれた。
さてさて!
上級回復魔法を使いこなすリオネルは手慣れたものだが、
回復魔法修行中のヒルデガルドもかなり慣れて来ていて、
スムーズに治癒を施して行く。
ミリアンも初歩の回復魔法でケア。
結果、重病、重傷の者は著しく回復。
軽度の怪我やコンディション不良はほぼ改善され、体力気力とも万全となった。
合わせて魔法ポーション、薬草なども結構な数を贈り、
カントルーブ男爵家、キャナール村同様、
医療体制が不充分だったアルエット村にとっても、
何物にも代えがたい、とても嬉しいケアとなった。
ちなみに、魔法ポーション、薬草などの譲渡はエレーヌと既に話がついており、
先に有償で譲った物資の追加分で、料金変わらずという事になっている。
当初エレーヌは、絶対に代金を払うと言い張ったが、結局リオネル達に説得され、
しぶしぶ飲んだのである。
そして予想通り、治癒は農作業から戻って来た村民へも施され、
全てが完了したのは、何と午後8時。
朝からぶっ通しの『恩返し』となってしまったが……
村民達が健康になり、嬉しそうにしているのを見て、
リオネル、ヒルデガルド、ミリアンも笑顔に満ち溢れている。
「ねえ、リオさん」
ミリアンが呼びかけ、会話は念話へ変わる。
彼女から内緒話にして欲しいという波動を感じないので、
ヒルデガルドを含めた限定念話だ。
『何だい? ミリアン』
『ふたりとも回復魔法を完璧にマスターしているよね。リオさんは上級レベルをガンガン行使するし、ヒルデガルドさんも中級レベルをきっちり使いこなすじゃない』
『まあな』
『でも私はモーリス父さんに手ほどきして貰ったけれど、修行の時間も短かったし、まだほんの初級レベル。だから、もっともっと上達したい! 水属性魔法だけじゃなく、回復魔法もリオさんに修行を付けて貰って構わないかな?』
『ああ、構わない、お安い御用だよ』
『うふふ、やったあ! 私って、治癒士の仕事が好きかも……何か、傷ついた人を癒し、治すのって、楽しいから』
『そうか!』
『うん! 治った人達の笑顔を見ると、すっごく嬉しくなるんだ! ありがとうって言われるのは最高!』
『おお! カフェレストラン経営以外に、やりたい事が増えるのは良いじゃないか。それに、丁度イエーラ富国計画の中に、医療改革があるから、その仕事に携わって貰うのもありだ』
『え? イエーラの医療改革?』
『ああ、詳しい事はおいおい話す。ティーにフォローして貰い、改革は既に始動しているが、ミリアンが回復魔法を上達してくれれば、大いに助かるよ』
リオネルが言えば、話が大きくなってプレッシャーを感じたのか、
ミリアンが口ごもる。
『で、でも……』
『どうした?』
『うん、そこまで期待されちゃうと……やっぱり上達出来ないかもしれないし』
『良いさ、それでも。トライアルアンドエラーの精神だよ。挑戦する事が大事なんだ』
そんなふたりの会話を聞いていたヒルデガルドが無言で微笑む。
既にヒルデガルドへは、ミリアンが自分へのライバル心を燃やし、
高みに行きたい、それゆえ修行に参加すると伝えてあった。
以前のヒルデガルドならば、嫉妬心を燃やしたに違いない。
だが、今のヒルデガルドは全く違う。
ティエラの仕切りで、ともに妻となり、家族となるミリアンには、
寛容力を持ち、姉のような気持ちで接している。
一緒に修行し、術者として、更に上を目指そうという気持ちになっていたのだ。
リオネルとの邂逅と様々な経験により、心身とも成長したヒルデガルド。
地母神修行の為、現世と異界を行き来、留守がちな正妻ティエラに成り代わり、
新たに家族となり、自分が統治するイエーラで暮らす者達を、
「私が守らねば!」という強い気概を持っている。
一種の『母性』かもしれない。
ヒルデガルドは思うのだ。
妻達の中では魔法が使えないブレンダへも、何かケアを考えたいと。
そして……リオネル達はエレーヌ宅へ戻り、
何度も何度も礼を言うエレーヌ、アンナ、クレマンの作った料理で、
仲良く遅い夕食を摂ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
楽しい夕食が終わり……エレーヌ宅はお茶を飲みながらの歓談タイム。
こんな機会は滅多に無いと、
好奇心旺盛なアンナは、リオネルの旅の話を聞きたがる。
そんなアンナの要望に応え、リオネルは差し障りの無い範囲内で、
話をしてあげた。
様々な町村の話……
ワレバッド、アクィラ王国のフォルミーカ、リーベルタース、
そしてイエーラのフェフ、これから住まう特別地区などなど。
様々な冒険の話。
親友ジェローム・アルナルディ、
否、ジェローム・カントルーブとの出会い、友情と冒険譚。
フォルミーカ迷宮の探索と魔物との戦い。
ヒルデガルドの祖父イェレミアスとの出会い、イエーラ行き。
現在の暮らしなどなど……
目を輝かせ、リオネルの話に聞き入っていたアンナであったが……
ふいっとミリアンを見て、いきなり直球を投げ込む。
「ねえ、ミリアン姉ちゃん!」
「な、なあに?」
「ミリアン姉ちゃんは、初恋の相手、リオ兄ちゃんと結婚するの?」
「え!?」
唐突に投げ込まれたド直球。
虚をつかれた形となったミリアンは口ごもりつつ、
アンナへ嘘は言えないと、曖昧に明かす。
「……ええっと、まあ、考えてはいる、かな」
「ふうん、考えてはいるの? でもさ、ミリアン姉ちゃんが、ヒルデガルドさんとも、そんなに仲が良いって事は、もしかして、ふたりで一緒にリオ兄ちゃんのお嫁さんになるの?」
女子は勘が鋭い、と巷では言われる。
アンナも多分に漏れず、そうらしい。
「ええっと、まだ詳しく言えないけれど、そうなるかもしれない」
曖昧な答えを聞いたアンナだが、ピンと来たようだ。
「やっぱりね! うふふ、言葉を濁すその感じだとまだ秘密って事で、言っちゃダメって事だよね? 良いよ、内緒にしておく」
ここでようやく態勢を立て直したミリアン。
「ありがとう! お願いね」
「絶対幸せになってね、ミリアン姉ちゃん、そしてヒルデガルドさんも」
そしてアンナは軽く息を吐き、更に言う。
「私ね、リオ兄ちゃんから今後の話を聞いて決めたわ。約束を破ってごめんなさい」
「約束を破ってごめんなさいって、どういう事?」
「ミリアン姉ちゃんと一緒にした5年後の約束の事。私、姉ちゃんと話したよね? 5年後、大人になったアンナと再会したら、リオ兄ちゃんは結婚を考えてくれるって。そしたら、一緒に結婚しようねって」
「ええ、確かにそう約束したわね」
「うふふ、5年後じゃなく、ずっと早くリオ兄ちゃんはアンナへ会いに来てくれた。凄く嬉しかった。けれど……」
と言葉をつなぎ、アンナは話を続ける。
「私は、リオ兄ちゃんと結婚したら遠くへ行くと思っていた。
それが当たり前で、全然平気だって。
元々、私は王都で生まれ育ったし……
でもママの故郷であるこの村で、
おじいちゃんも一緒に3人で暮らしていたら、気持ちが変わって来たの。
この村が心の底から、凄く好きになったの……離れたくないって。
そして遥かな遠い国イエーラで暮らすであろう、
リオ兄ちゃんとは結婚出来ないって、思った。
このアルエット村でず~っと暮らし、ママやおじいちゃんを助け、大好きなこの村を良くして行くって決めたから」
ミリアン同様、アンナはリオネルが初恋の相手。
そして一途に想いを持ち続けていたのも同じ。
だが、恋するリオネルが遠く離れた異国で暮らして行くと聞き、
葛藤が生まれ、大好きな村を離れる事に、思い悩んでいたに違いない。
対してミリアンは柔らかく微笑む。
「分かった。アンナちゃんがそう決めたのなら、尊重する。ただもう少し時間が経ったら、改めて考えてみて。それで最終的な答えを出せば良いと思うよ」
そんなミリアンのアドバイスを聞き、アンナは、ぱあっ!と顔を輝かせる。
「ありがとう! ミリアン姉ちゃん! そうする! ごめんね! リオ兄ちゃん! その時には相談してくれる?」
対してリオネルも微笑み、
「分かった、アンナちゃんの相談には必ず乗るよ」
と、シンプルに答えた。
結婚とは当然だが、まず相手があっての事。
ふたりの意思は最優先だが、
相手の身内関係、都合、事情等々、様々な要因も絡んで来る。
聡明なアンナは、そこまで言わずとも理解しているはず。
理解が及ばずとも、リオネル達が去った後、母、祖父と話をするだろうから。
そして話の成り行きを見守っていたエレーヌからは、
「明日は絶対に恩返しなどせず、ゆっくりくつろいでください」
と懇願され、その言葉に従い……
翌日、リオネル達は朝の訓練に参加したものの……
後はエレーヌ宅において、交代でアンナの勉強を見たりとか、
料理のレシピを教えたりとか、のんびりと疲れを癒したのである。
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