第745話「俺にも、けいこをつけてくださいっ! 強くなりたいんですっ! この村の為にっ!」
エレーヌの家で熱い歓待を受けたリオネル達。
リオネルは久々に味わう故国の家庭料理に感動して、
今は亡き母の料理の記憶が甦り、思わず、涙ぐみそうになったのは内緒だ。
またエレーヌ、アンナと面識のあったミリアンは勿論、
ヒルデガルドも母娘ふたりとは、とても気が合ったらしく、
リオネルそっちのけ?で『女子会』はとても盛り上がった。
初対面である異種族アールヴとも、すぐ仲良くなれる、
アンナのコミュニケーション力は、母エレーヌ譲りなのか、大したものである。
そしてアルエット村の誰もが寝静まった後……恩返しの第一弾。
キャナール村同様、リオネルはケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟へ、
村周囲を跋扈する賊、魔物、肉食獣などの排除、討伐を命じた。
特にクレマンとともに赴いたオークどもの巣である洞窟の確認と封印も。
対して、魔獣兄弟は粛々と、課せられた任務を遂行。
ちなみにオークの洞窟は異常は無く、入口を大岩でふさいだとの事。
……その結果、アルエット村の脅威も大幅に軽減された。
当分、村民達はより安全に暮らせるようになるだろう。
……お世話になったと思っていますから、もっと恩返しさせてください!
という言葉通り、翌朝、リオネルは更に恩返しを実行。
今回カントルーブ男爵家、キャナール村と回り、恩返しの手順は慣れている。
次に、エレーヌ、アンナとともに、アルエット村自警団の訓練に参加する事に。
当然ながら、ヒルデガルドとミリアンも一緒であり、全員、革鎧姿だ。
そもそも……アルエット村の周辺に出没、
人間を襲っていたオークどもを討伐したリオネルが、
更なる有事に備え、村の自警団の充実を提案し、指導。
以降、リオネルが旅立った後も、
毎朝4時開始、村の中央広場において、戦闘訓練が行われるようになった。
約1時間ほど訓練を行った後、食事や準備の為の休憩をはさみ、
午前6時に、農作業へ出発。
その際、魔物、肉食獣の被害を防ぐ為、
武装した村の自警団員2~4名が護衛に付く。
そして各自が自分の農地まで赴き、仕事に入る。
ちなみに自警団以外、農作業に向かう村民達も、
自分の身を守る為、ナイフ、手斧、防犯笛の携帯、など、最低限の用意はしている。
また護衛をする自警団員も殆どが耕作者で自分の農地がある為、
毎朝、護衛にかかりきりは出来ない。
それゆえ持ち回りの交代制で護衛役を務め、
特定の個人に負担がかからないようにしているのだ。
そして半日、お昼まで働く者は、
再び武装した自警団員が午後0時から迎えに行き、ピックアップ。
全日で働く者は、持参した昼食を農地で摂り、夕方まで働き、
午後5時に自警団員がピックアップして帰村する。
それ以外、イレギュラーな時間に単独で帰村する者は、
農地へ赴く際に完全武装で行く。
……というのがアルエット村の一般的な防犯パターンらしい。
さてさて!
現在、エレーヌから任され、
自警団の団長として差配するのはドニ。
という事は……彼のあの弟、お騒がせ乱入少年ルネもセットで一緒、という事。
ドニとルネが居るのを見て、アンナが手を振り、声を張り上げる。
「おはよう! ドニさん! リオ兄ちゃん達を連れて来たよ!」
以前は生意気盛りで、容赦なく年上のドニを呼び捨てにしていたアンナも、
母エレーヌにたしなめられたとかで、さすがにさん付け。
しかし、ドニの傍らに居るルネは昨日の事もあってか、華麗にスルーされた。
そのルネはと言えば……
恋するアンナにスルーというか完全に無視されてもショックを受けず、悔しがらず、
暗い顔をし、ただただ、無言でうつむいているだけ。
この様子だと……昨夜は兄にしこたま厳しく叱られたに違いない。
一方、アンナの言葉を聞いたドニは、
「おはようございますっ!」と元気にあいさつをした後、
予想外!という顔つきで驚く。
「え!? リオネル様達が!? こんなに朝早く!? 昨日村へ到着したばかりなのに!?」
「うん! 以前と同じく、また村のみんなへ武術の指導をしてくれるって!」
そこまで聞き、ドニはリオネルへ向き直る。
「おお、それは本当にありがたいですし、とんでもなく光栄です! リオネル様! ありがとうございます!」
と言い、深く深くお辞儀。
「いやいや、お安い御用さ」
という事で、ドニは老若男女が入り混じる自警団員達へ、
大きな声を発し、呼びかける。
「お~い! いつもの訓練は中止だあ! 特別に、レジェンドのリオネル様達が指導をしてくださるそうだぞお!」
対して、自警団員達は、
おお!!!
わあ!!!
とか、歓声を上げた。
その中で、唯一無言でうつむくルネ。
そして、ここからは、いつもと一緒。
練習用の雷撃剣を使用した剣技、
破邪聖煌拳を基本とした格闘技を、
それぞれ指導する事に。
また、女性村民へは、ヒルデガルドとミリアンが指導する事に。
村長母娘が親しくしているので、やはりというか、
村の女性陣も気を許し、すぐ親しくなっている。
ただし、アンナだけは頑なに、
絶対にリオネルから指導を受けると言い張り、譲らなかった。
そんなこんなで、まず『手本』をという事で、リオネルとヒルデガルド、
そしてミリアンが交互に模擬戦闘を行う。
いつもの事ながら……3人のバトルスタイルは、
ヒットアンドアウェイで華麗のひと言。
まるで「蝶のように舞い、蜂のように刺す!」というのも、
同じように見せたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネル達のパフォーマンスを見て……
「す、すっご~い!! リオ兄ちゃんは勿論だけど、ミリアン姉ちゃんも、ヒルデガルドさんも凄いわ! 凄すぎる!」
そんなアンナの感嘆に、母エレーヌもうんうんと頷く。
「初めて会った時……街道で、リオネルさんが私達母娘をオークから助けてくれた時も、強い!って思ったけれど……全然桁が違い過ぎるわね。この剣技、体術に加え、魔法も使うんでしょ?」
対して、リオネルとヒルデガルドは肯定。
「ええ、俺達3人、本来は魔法使いですから」
「ええ、リオネル様の言う通りですわね」
しかし、ミリアンは少し悔しそうな表情。
リオネル、ヒルデガルドと比べ、
自分の実力が著しく劣っているのを改めてはっきりと実感したのだ。
改めて、というのはキャナール村でも同じく自警団への訓練をした際、
感じていたから。
ミリアンはキャナール村で生活し、カフェを立ち上げ、経営する傍ら、
父モーリスを師とし、魔法、体術とも修行は地道に続けていたが……
水と地という、モーリスとの魔法属性の違いもあり、体術はともかくとして、
魔法修行の質は劣るし、量も足りず、
何とか、回復魔法と葬送魔法の基礎を習得した程度。
村での生活第一の為、冒険者稼業稼業から足も遠のき、ランクはCのまま。
元々、上級魔法使いたるアールヴ族の長ヒルデガルドが、
この世界では唯一無比の術者リオネルを師として、
じっくり修行を積んだら差が出てしまうのは必然。
冒険者ランクも総マスターのローランドが認めたというA。
リオネルと共に、アクィラ王国のドラゴンどもも討伐した。
誰が見ても違い過ぎるレベルの差。
だが、それが分かっていても、負けず嫌いのミリアンは、
リオネルは別格としても、何とかヒルデガルドには勝ちたいと、
強く思ってしまうのである。
そんなミリアンの気持ちを察し、リオネルは限定念話でフォロー。
19歳の若輩ながら、リオネルは気配り上手だ。
『ミリアン、イエーラへ行ったら、家族全員、一緒に修行しよう。俺が手ほどきするよ、武術だけではなく、魔法もね』
『え!? リオさんが!? ほ、本当に!? 魔法も!?』
『ああ、家族皆で頑張ろう。各自が更に上を目指してさ』
『リオさん……』
『憶えているだろう? 俺はミリアンのおかげで水属性魔法を習得し、全属性魔法使用者として第一歩を踏み出す事が出来た』
『そ、そうだったよね』
『その後、修行を重ね、精霊の導きもあり、上級水属性魔法や様々な水属性のスキルを習得した』
『えええ!? 精霊様のお導きで上級水属性魔法に、水属性のスキルを習得!?』
『ああ、だから水属性魔法使いのミリアンへ良い指導が出来ると思うよ』
ミリアンも既に夢魔法で、自分と同じく妻となる地の最上級精霊ティエラ、
そして彼女の両親たる地界王アマイモン、地母神ストレィティに、
『身内』として会っていた。
ティエラとは気安く話もしている。
なので、以前ほど精霊が遠い存在ではなくなっていた。
しかし、リオネルと精霊の間柄は、更に更に近しい『際立った特別さ』のようだ。
という事で、リオネルとミリアンは、しれっとそんな会話をしたが、
肉声ほどやりとりに時間がかからないし、
顔を突き合わさずとも話せるので、誰も気付いてはいない。
まあ、ヒルデガルドには話を通しておくのが良いとは思うが。
そんなこんなで、ミリアンのケアをしたリオネルは訓練を続行。
指導する相手のリーダーと組み、マンツーマン指導を行うのもリオネルのやり方。
その後、リーダーから教授した事を広めて貰うという趣旨だ。
なので団長のドニを生徒役にして、剣技、格闘技とも、手取り足取りで指導する。
基礎とその反復、及び簡単な応用。
そして実践。
リオネルとドニは模擬戦闘を行う。
当然、とても手加減をしたのだが、リオネルはドニをまるで子ども扱い。
ふたりの実力差は超が付く歴然さ。
それを見て、大きなショックを受けたのはドニの弟ルネ。
先ほど行ったリオネル達のパフォーマンスを見て、
結構なショックを受けていたのだが、更に大大、大ショック。
アルエット村においては最強の存在であり、訓練で何度戦っても、
自分はまるで歯が立たない。
そんなリスペクトする兄が、リオネルには完全に遊ばれているのだから。
ただ……それでめげないのはルネの長所。
模擬戦闘が終わったリオネルの下へ、たたた!と駆け寄り、
深く頭を下げ、謝罪。
「リ、リオネル様! 昨日は本当にごめんなさいっ! 勘違いして、すみませんでしたっ!」
対して、リオネルは柔らかく微笑む。
「ああ、物事にはいろいろな面がある。人には様々な事情もある。一面だけを見ず、思い込まない事だ。今後、気をつけてくれたら、水に流すよ」
「ゆ、許してくださり! あ、ありがとうございますっ! そしてお願いしますっ! 俺にも、けいこをつけてくださいっ! 強くなりたいんですっ! この村の為にっ!」
ルネが発する波動は真っすぐで嘘は全くついていない。
思い込みすぎる部分はあるが、根は素直で良い少年のようだ。
「分かった。じゃあ、まずは基礎からやってみようか」
「は、はいっ! 本当にありがとうございますっ! 宜しくお願いしますっ!」
ルネの言葉を聞き、よし! と頷いたリオネル。
次にアンナへ向き直り、微笑む。
「彼も反省しているようだし、アンナちゃんも仲直りしてやってくれ。一緒に基礎訓練をしようか」
「うんっ! 分かった! リオ兄ちゃんが許すなら、私も許す! ルネと一緒に訓練するわ!」
こうして……しょげていたお騒がせ少年ルネもようやく元気になり、
村の中央広場には、気合の入った訓練の声が更に大きく響いたのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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