第744話「そんな師匠にこれ以上は逆らえない」
アルエット村へ到着したリオネルの前に、現れたアンナと同年齢くらいの少年は、
「お、お、おいっ! リ、リ、リオネル・ロートレックう! お、お、俺と勝負しろおっ!」
と、何度も噛みながら、大きく叫び、いきなり戦いを宣言。
拳を突き上げ、御者台のリオネルをにらみつけた。
対してリオネルは、当然ながら全く動じず、
「ははは、いきなりの宣戦布告だね。理由次第では勝負しても構わないが、俺達は着いたばかりだ。旅支度を解き、話をしてからだな」
と柔らかく微笑んだ。
と、そこへ! ばたばたばたと擬音が聞こえると思うくらい、
慌てて駆け込んで来たのが、門番のドニである。
「ル、ルネ!! お、お前!! な、何を言っている!?」
とがめるドニ。
そして、
「リオネル様! 俺の弟がとんだ失礼を! 本当に申し訳ありませんでした!」
と深く頭を下げ謝罪。
しかし、ルネと呼ばれた少年はいきり立ち、叫ぶ。
「兄貴!! 何で謝るんだよ! あっさり村を見捨てて旅立った奴にアンナちゃんを任せてはおけないだろ!!」
「はあ!? あっさり村を見捨てて旅立ったあ!?」
ふたりの会話を聞き、リオネルには状況と事情が分かって来た。
ルネと呼ばれた、アンナと同年齢ほどの少年はドニの弟。
彼はアンナに好意を持ち、リオネルを恋のライバル?視し、勝負を挑んで来たと。
だが、ここでアンナが怒りに満ちた声を張り上げる。
「ごら! ルネ! 何考えてるの!」
激おこ状態のアンナから一喝され、驚き戸惑うルネ。
「え!? ア、アンナちゃん! で、でも……こいつは!!」
「シャラップ! デモも、ストも無いわ! 村に着いたばかりのリオ兄ちゃんに理由もなく勝負を挑むなんて、わけがわからない! そもそも! 村を救った大恩人を、こいつとか呼ぶなんて、何て失礼なのよ! さいってい!! 最悪!! 顔も見たくない!!」
こ、これは効いた!
恋する相手から「最低!!」「最悪!!」「顔も見たくない!!」と言われたのだ。
まさに『オーバーキル』である。
「ぐ!?」
言葉を発せなくなったルネへ、アンナは口撃の手を緩めない。
「あんただって憶えているはずよ! リオ兄ちゃんはね! 街道でオークに襲われたママと私を助けてくれた! そして! この村を救う為! おじいちゃんを守りながら、たくさんのオークどもと! たったひとりで戦ったじゃない!」
「…………………」
遂には無言となってしまったルネ。
アンナの口撃はまだまだ続く。
「はっきりと言っておくわ! リオ兄ちゃんは絶対に村を見捨ててなんかいない! 修行の旅の途中だから、再び旅立っただけ! その証拠に、私達の村の次にミリアン姉ちゃんの村を救い、更にワレバッド、フォルミーカまで行ったんだから!」
怒りの声で一気にまくし立て、ルネをにらみつけるアンナ。
ここで御者台に座ったまま、ミリアンも声を上げる。
「お~い、ルネ君! アンナちゃんの言う通りだよ! リオさんはアルエット村を救った後、私達のキャナール村もゴブリンどもから救い、その後はワレバッドへ行き、私達と一緒にたくさんの町村を復興させたよ。更にはフォルミーカへも旅したんだからね!」
更には同じく御者台に座ったままヒルデガルドも、満面の笑みを浮かべ、
誇らしげに言う。
「で! リオネル様はフォルミーカで私のおじいさまと出会い、我がイエーラへ。現在は様々な施策を行い、イエーラを大いに助けて頂きつつ、隣のアクィラ王国もドラゴンどもからしっかりと守りましたわ!」
「…………………」
無言のルネへ、ヒルデガルドは更に言う。
「そして再び旅に出て、今、このアルエット村へ戻って来たのです。もし見捨てたのなら、戻って来る事はないでしょう?」
アンナから糾弾され、ミリアンから諭され、
ヒルデガルドからは問いかけられ、
渋面だったルネは、ようやく不承不承という感じで小さく頷いた。
ここで再びアンナが声を張り上げる。
「もう! ルネなんて無視、無視! スルーしよう! 構ってちゃんだから、放っておいていいの! それよりもリオ兄ちゃん! 早く私の家へ行こう! 建て直して、今は大きな家に、おじいちゃんと3人で暮らしているのよ!」
そんなアンナの言葉を聞き、村長のクレマンは笑顔。
わしは幸せだ、という波動を発していた。
「おお、そうなんだ」
アンナの言葉を聞き、クレマンの笑顔を見て、リオネルは嬉しかった。
リオネルが初めて訪れた際、血のつながった3人は過去のいきさつから、
人間関係が上手く行っておらず、ぎくしゃくしていた。
しかし! 今やわだかまりは完全に無くなり、3人で仲良く暮らしているらしい。
「うん! そうなの! ママ、この前、村の皆からのお願いもあって村長になったんだよ!」
「おお、エレーヌさんが村長に?」
そしてアンナの母エレーヌも、
「ええ、皆様方、とりあえず我が家へいらして頂き、ゆっくり休んでくださいな」
と柔らかく微笑んだのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……という事で、いきなり乱入した、お騒がせ少年ルネは、
片思い?のアンナから散々怒られ、涙目。
加えて、兄のドニにも怒られ、
リオネルに対して、「ごめんなさい! ごめんなさい!」と何度も謝罪。
謝罪後、しょげ、肩を落とし、去って行った。
一方、リオネル達は魔獣車に乗り、エレーヌ宅へ向かう。
どうせならと、リオネルはエレーヌ、アンナ母娘、クレマンを、
魔獣車の客席へ乗せてあげた。
同じくヒルデガルドとミリアンも客席へ。
新居の場所を聞いたリオネルの御者で村内をゆっくりと走る魔獣車。
立派な魔獣車に乗ってアンナは大喜び。
「わあ! こんな凄い馬車に乗れるなんて、どこかの王女様みたい!」
と、嬉しそうにはしゃいだ。
やがて新装なったエレーヌ宅へ到着。
旧クレマン宅のあった場所を一旦更地にし、新たに上物を建てたとの事。
つまりここが現在のアルエット村村長エレーヌ宅である。
リオネル達の前にあるのは、
アンナが自慢するのも分かる3階建てプラス屋根裏部屋もある大きな家屋。
敷地内には大きな倉庫、少し離れた場所に家畜小屋もあった。
リオネルは、御者席から降り、扉を開けると、
アンナが飛び出し、もう我慢出来ないという感じでリオネルへ抱き着いた。
更にリオネルの胸へ顔を埋め、すりすりし、甘えまくるアンナ。
「リオ兄ちゃん! 今夜はウチに泊って行ってね! しばらくは居てくれるんでしょ?」
「ああ、アンナちゃん。お言葉に甘えて今夜はお世話になるよ。滞在は迷惑でなければ、数日間なら」
「もう! リオ兄ちゃんが迷惑なわけないでしょ! 数日なんて言わず、1か月でもそれ以上でもず~っと居て!」
しばらく甘えて、ようやく落ち着いたアンナと離れたリオネル。
この家には大きく立派な倉庫も併設されていたので、まずはお世話になったからと、
カントルーブ男爵家、キャナール村同様、
大量の生活物資の無償差し入れを申し入れた。
対して、アンナ、クレマンは素直に喜んだが、少し渋い表情で、
しかるべき対価を支払うと、告げたのがエレーヌである。
「いやいや、リオネルさん。何から何まで、タダでこんなに頂くのは、さすがにまずいでしょ。きちんとお金を払います」
リオネルさん、リオ兄ちゃん、
エレーヌとアンナは、リオネルの呼び方を変えてはいない。
それが、ただただ嬉しい。
加えて、でしょ、という物言いが母娘そっくりだなとも思いつつ、
笑顔のリオネルは言う。
「いえいえ、エレーヌさん。俺が駆け出しの頃、お世話になったお礼です。加えて、今夜お世話になる宿泊費の代わりですよ」
リオネルの言葉を聞き、エレーヌは苦笑。
「もう! リオネルさんったら、全てが逆でしょ! お世話になったのは助けて貰った私達母娘と父、そしてこのアルエット村の方よ」
「ですか」
「ええ! 誰が見たってそう!」
「成る程」
「ただ、このままだと堂々巡りで時間の無駄。こうしましょ」
「お聞きします」
「うん! 聞いて! まず、リオネルさんとお連れさんはいつ村へ遊びに来ても、滞在費はタダで大歓迎。滞在期間も気にせず、ず~っと居てくださいね」
「それは、ありがとうございます」
「ううん、お安い御用だし、恩返しするのは当たり前よ。そして! 今回譲って頂いた物資に関しては、ウチの個人用だけではなく、殆どを村用の物資として使おうと思っているわ」
「村用にですか」
「ええ、ご領主様への報告との兼ね合いもあるから、タダじゃダメ」
「分かりました」
「こんなにたくさんの物資だから、対価としては超格安で申し訳ないけれど、この村が持てる予算としては精一杯、半額相当の金額を支払うわ。落としどころとして、これで納得して頂戴!」
相変わらずエレーヌは性格が変わっていない。
押しが強く、剛毅である。
ぱっと見は、華奢な女性ながら、
村長として、その貫禄は半端ない。
さすがに本人へは告げていないが……
リオネルの新たな人格形成に、
大きな影響を与えたのが、このエレーヌの強気な性格。
ぼっちで陰キャ、お子様性格だったリオネルが
ゴブリンなど、いくつかの厳しい戦いを経て、
冒険者生活を送り、独り立ちし、大人への階段を上っていたが……
エレーヌと出会い、話し、自分はまだまだだ、と感じたのだ。
愛する夫の死、結婚を認めなかった父との確執、
そして、ひとりで幼子を育てつつ、生きるという辛い運命に負けず、全てに前向き。
意志がしっかりしていて、ひるまない、凛としたエレーヌに憧れ、
『生きる励み』としたのである。
言わば、エレーヌはリオネルの師匠のひとり。
そんな師匠にこれ以上は逆らえない。
また貰ったのは『生きる励み』だけではない。
エレーヌとアンナからは、癒され、『ぬくもり』も貰った。
「分かりました! ただ俺はお世話になったと思っていますから、もっと恩返しさせてください!」
笑顔のリオネルは、師エレーヌを見習い、きっぱりと告げた。
そしてその夜の歓迎会を兼ねた夕食は……様々な話に花が咲いたのは勿論、
エレーヌとアンナがメインで作り、クレマンも手伝った、
ソヴァール王国の郷土料理がたくさん並び、リオネル達は舌鼓を打ったのである。
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最後に、
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