第741話「しっかり者の姉と甘えん坊の弟」
キャナール村、村民総参加の宴が終わり、その翌朝……午前4時。
リオネルは早起きし、ヒルデガルド、ミリアン、モーリス、カミーユと共に、
村の自警団へ武術指導を行っていた。
指導内容と方法は、カントルーブ男爵家の従士達へ行ったものとほぼ同じ。
練習用の雷撃剣を使用した剣技、
破邪聖煌拳を基本とした格闘技を、それぞれ指導した。
また、女性の村民へはヒルデガルドが指導。
気さくなヒルデガルドに、ミリアンがまるで妹のように話すのを見て、
村の女性陣も気を許し、すぐ親しくなっている。
いつもの事ながら……リオネルとヒルデガルド、ふたりのバトルスタイルは、
ヒットアンドアウェイで華麗のひと言。
まるで「蝶のように舞い、蜂のように刺す!」というのも同じように見せた。
……はっきり言って、リオネルのバトルスタイルはずっと変わってはいない。
しかし、モーリス達が一緒に旅をした頃とはレベルが全く違っている。
魔法もスキルも膂力も身体の切れ、そして胆力も。
単純にランクSとか、レベル50オ―バーというものではなく、
人間の域を遥かに超えた『底知れぬもの』を感じさせるのだ。
それは当然かもしれない。
リオネルはティエラを始め、高貴なる4界王、魔獣兄弟、
英霊となったアリスティド等々……
人知を超える数多の者達と、ひたすら、ず~っと、
心身を鍛える厳しい修行を継続していたのだから。
モーリス達もある程度予想はしていたようだが、
リオネルのスーパービルドアップしたレベルは、
超が付く想定外だったようで、大いに驚愕していた。
そして訓練が済み、朝食後、リオネルとヒルデガルドは昼食をはさみ、夕方まで、
カントルーブ男爵家滞在時同様、回復魔法を行使し、
キャナール村、村民の治癒を行った。
結果、重病、重傷の者は著しく回復。
軽度の怪我やコンディション不良はほぼ改善され、体力気力とも万全となった。
合わせて魔法ポーション、薬草なども結構な数を贈り、
カントルーブ男爵家同様、医療体制が不充分だったキャナール村にとっても、
何物にも代えがたい、とても嬉しいケアとなった。
村民達が健康になり、嬉しそうにしているのを見て、
リオネルとヒルデガルドも笑顔に満ち溢れている。
『うふふ、リオネル様、村民の方々がお元気になり、とても嬉しいのは勿論ですが、私自身も回復魔法の良き修行になります。まずは上級の回復魔法を使いこなせるよう、おじいさまのレベルを目指し、更にはリオネル様に追いつけるよう頑張ります。最終目標はおこがましいかもしれませんが、ティエラ様ですわ!』
『成る程、良き心がけです。実は俺もフォルミーカ迷宮でティーの指導を受け、修行。これまで主に使っていた全快以外、数多の回復魔法も習得し、行使可能となりました』
『ええ!? 本当ですか!? す、素晴らしいですわ!!』
そう、リオネルはフォルミーカ迷宮において、ティエラから薫陶を受け、
超一流の治癒士にもなっていたのだ。
リオネルは、ティエラを目指すという、前向きなヒルデガルドを励ます。
『俺も更に練度を上げて行きますし、まだまだ新たな魔法を学びたい。ヒルデガルドさん、お互いに頑張りましょう』
『はい! 頑張りましょう! そしてイエーラへ戻り、各地の治癒士達にティエラ様の魔法杖を配布し、回復魔法を指導して、国中の医療向上をはかる際、このような経験がとても役立ちますね』
『です!』
治癒終了後は、宴の準備の際、世話になった村のカフェへ。
ミリアン、そして最近、何故か料理にはまっているというカミーユも一緒だ。
「ぜひ宴で出した料理をマスターしたい!」というカロル達の要望があり、
渡したレシピと食材を基に、懇切丁寧に指導を行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
村のカフェで料理指導を行ったリオネル、ヒルデガルド、ミリアン、
そしてカミーユは、作った料理を持ち帰り、
来訪初日同様、モーリス宅で身内だけでの夕食会を行う。
今夜の話題もイエーラにおけるミリアンの新生活について、だ。
リオネルとヒルデガルドは改めて詳しく話したのである。
ブレンダ、ボトヴィッドという人間族の『先発隊』が既に特別地区へ現地入りし、
新たな仕事を開始する準備をしていると先に話していたが……
実際、特別地区でふたりがこういうふうに暮らし、衣食住の心配はナッシング。
アールヴ族達ともこうやって打ち解け、のびのびやっていると、
ふたりの生活環境の現状をリアルに伝えれば、具体的なイメージはわく。
なので、ミリアンを送り出す側のモーリス、カミーユにとっては、
とても分かりやすかった。
更にリオネルからは、ワレバッドで世話になった冒険者ギルド職員のエステルも、
イエーラ富国計画遂行の補佐役として、
今回ヘッドハンティングした事も伝えていた。
「帰路合流し、ミリアンと共にイエーラ入りし、今後、現地で暮らして行く」
と聞いたので、「あのエステルが一緒なのだ」と、ミリアンは勿論、
モーリスとカミーユも、とても心強く感じたようである。
「へえ!! 私が理想の女性のひとりとして憧れていたエステル姉さんもイエーラへ行くのね!! 懐かしいなあ!! しばらく会ってなかったけど、そんな事になっていたとはね!! 私とカミーユは散々お世話になったし、凄く頼りになる人だから、本当に心強いね!」
「ああ、彼女は業務部から秘書室へ見習いとして異動したが、ギルド幹部秘書の仕事と、上手く折り合いがつかなかったみたいだな」
「ふ~ん。成程ね。でもリオさん」
「ん? 何だい、ミリアン」
「これからの自分もそうなんだけどさ。エステル姉さん、イエーラで上手く仕事をやれるかなあ?」
「ああ、多分、大丈夫だと思う」
「多分、大丈夫なの?」
「うん。エステルさんには、まず俺とヒルデガルドさんの補佐をして貰い、もしダメだったら、責任を持って他に適性のある仕事を探す」
「成る程。他に適性のある仕事かあ」
「ああ、万が一、それでもダメだったら、ワレバッドなりどことなりへ送り届け、そこで仕事を探して貰う事になっている。まあ、そんな事にはならないよ」
「へえ、そんな事にはならないよって、いつも慎重なリオさんなのに、そこまで言い切っちゃうんだね」
「ああ、エステルさんは、ギルド秘書の仕事とはたまたま相性が悪かったが、有能で前向きなのは間違いなく、加えて万能タイプだから、いろいろな仕事に適性があると思う。そしてイエーラでは何でもあり、だからね」
「イエーラでは何でもあり?」
「ああ、やらなければならない、いろいろな施策が山積みなんだよ。言わば猫の手も借りたいって事なんだ」
「猫の手も借りたい、そっか! そんなに忙しいんだ! 実際にヒルデガルド様を助けているリオさんだからこそ、言い切れるんだね」
「ああ、だからエステルさんにぴったりの仕事は必ずある! もしミリアンもカフェ以外の仕事がやりたくなったら、気軽に遠慮なく、相談してくれ。相応しい仕事が必ずあるよ」
「あはは! 分かった!」
そんなリオネルとミリアンの話を聞いていたカミーユは羨ましそうである。
「良いなあ、姉さん。大好きな人と結婚出来て、やりたかった仕事も出来る。完全に人生の勝ち組っすね」
「何、言ってるの、カミーユ。あんただって幸せじゃない」
「え!? 俺も幸せって!?」
「だって、カミーユ。あんた、少し前にカロルへ告白して、付き合う事になったんでしょ?」
カフェを譲り受けた新オーナー店主カロル・ベキュとの交際を突然指摘され、
大慌てするカミーユ。
「げ!? な、何で!? 姉さんが知っているんすか!!」
そんなカミーユへ、ミリアンはジト目。
「はあ? そんなのカロルから話があったからに決まってるじゃない!」
「えええ!!??」
「それに話が無くても分かるわよ。こまめにカフェに通って来るあんたが、カロルの作る料理は凄く美味しい! って、いつも本人へ、べた褒め。徐々にカロルと仲良くなってたじゃない」
「う、うお!?」
「今じゃ、彼女が休みの日には彼女の家で一緒に料理を作って食べてるんでしょ?」
「げげ! そこまで知っているんすか!」
「そうよ! カロルからは黙ったまま付き合いたくない、自分の上司であり、あんたの姉である私へ伝え、筋を通しておきたいって話があったの。店長、私は貴女の弟、カミーユと付き合っています。真剣にカミーユが好きだから、応援してくださいって、お願いされたのよ」
「そ、そう、だったんすか……」
「ええ、カロルは普段から親友と言っても過言じゃない仲だし、カフェをオープンするにあたり、数多居る村の女子から私が片腕にと見込んだ子だもの」
「ま、まあ、元々、店でもそれ以外でも公私ともども姉さんと息ぴったりって感じだったすね」
「ええ、私はカロルが凄く気に入っているの。容姿が可愛いだけじゃなく、料理上手で機転が利く働き者。性格は優しく冷静沈着。礼儀正しくて、まじめ。そして現状に満足しない努力家。私達と同じ16歳だけど、姉御肌のしっかり者だから、カミーユ、甘えん坊のあんたにはぴったりどころか、勿体ない女子よ」
「うう、さすが姉さん。的確な人物判断とズバリの指摘っす」
「うふふ、だからあんたもカロルを好きになったんでしょ?」
「ま、まあ、そうっす」
「という事で、元々、私がイエーラへ旅立つ際、カロルへ店を譲ると決めていたし、あんたの彼女なら、更に超格安にしようと思ったの。いわゆる餞別よ」
「あ、ありがとうございまっす! 姉さんに感謝っす!」
「冒険者稼業と合せて、何でも屋をやっているあんたは、冒険者に成りたての頃と比べたら、だいぶ頼もしくなったけれど、まだまだ足りない。もっともっと頑張らなきゃダメよ!」
「はいいい!!」
「カロルと真剣に付き合い、人生を共にするのなら、彼女ありきの人生設計をきちんと作るのよ! そして設計するだけじゃなく、手を抜かず必ず実行する事!」
「ゆ、有言実行っすね! わ、分かったっすうう!!」
「あの子は村の他の男子達も狙っているから。あんたがふらふらして、頼りないと、すぐに振られるからね!」
「えええ!!?? カ、カロルにふ、振られる!!?? せっかく初めて出来た彼女なのに、それは、嫌っす!! 絶対に阻止するっすう!!」
姉の親友女子との交際を指摘され、更には教育的指導も受け、
「恐れ入りました」という感じのカミーユ。
しっかり者の姉と甘えん坊の弟。
いつも一緒に居て助け合い、生きて来た双子姉弟だが、
しばらくは離れ離れとなる。
「カミーユ! 気を引き締め、頑張って! カロルと父さんを大事に! そして私が居なくても、ガチでキャナール村を守るのよ!」
「はいっす!!」
これからは自分に頼らず、真摯に生きよという姉の激励を、
カミーユは神妙に聞いていたのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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