第740話「改めて、ヒルデガルドは実感する。 本当にリオネルの言う通りだと」
キャナール村の誰もが寝静まった後……
リオネルはケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟へ、
村周囲を跋扈する賊、魔物、肉食獣などの排除、討伐を命じた。
対して、今やリオネルに忠実な魔獣兄弟は、粛々と、課せられた任務を遂行。
……その結果、村を襲う脅威も大幅に軽減された。
村民達の警戒心を解かぬよう、内緒にし、敢えて告げないが、
当分、村民達はより安全に暮らせるようになるだろう。
更に翌朝……リオネル達は、村長パトリス、副村長モーリス他、
数人の幹部村民の立ち合いのもと、キャナール村近くの広大な原野に居た。
岩だらけで、転用困難な荒れ地を開拓し、村の農地を増やすべく、作業するのだ。
そう! リオネルは世話になった師モーリスへ『恩返し』という事で、
イエーラにおいて遂行中の『富国計画』を、このキャナール村においても、
『ミニマム規模』で行うつもりなのである。
ちなみに、モーリスへは事前に『ミニマム富国計画の実施』を夢魔法で伝え、
モーリスは親友で上司のパトリスへ伝え、了解を貰っていた。
ここで……一番肝心な相手を忘れてはいないか?
という皆様の懸念があるかもしれない。
でも大丈夫!
ワレバッド訪問の際、キャナール村領主であるローランドにも、
師モーリスへ『恩返し』という趣旨で伝え、
行き違いの無いよう『許可』は取っていた。
さすが万事に抜かりが無い、深謀遠慮のリオネルである。
ローランドとしても、リオネルの頼みを聞き入れ、関係が深まる事、
自身の有する領地の村の治安が良くなり豊かになるなど、
メリットしかないので断るはずはなかった。
さてさて!
これまでの数々の経験から荒れ地の開拓、耕作地化はお手の物。
リオネルは鋼鉄製ゴーレムを10体呼び出し、邪魔な岩を移動させ、
樹木は抜いて、別の場所へ植え直した。
表向きは地属性魔法が付呪された魔法杖を使い、
抜いた樹木へは枯れないよう地の加護を与える念入りさである。
そしてゴーレムへ特製アタッチメントを付け整地させ、畝を作らせ、
更には地の加護を与え、周囲を岩石製の防護壁で囲んだ。
荒れ地の開拓が終わると、モーリスが予定していた村の周囲の道、
村内の広場などを石畳化するのを手伝う。
パトリス達村民はリオネルの手際にびっくり。
モーリスから話は聞いていたが、こんなにあっさり鮮やかに、
とは思っていなかったからだ。
また、レサン村でもそうであったが……
ヒルデガルドの美しさとアールヴ族の物珍しさに惹かれ、
村の子供達が指さし、駆け寄って来た。
そんな子供達へ柔らかな笑顔を向け、手を振るヒルデガルド。
次にリオネル達は、『モーリス商会』の社屋兼店舗へ。
運営責任者マルレーヌ・ビゼーと会い、いろいろと打合せ。
表向きは「モーリスへ有償で譲った」という形で、
新たに様々な販売用商品を無償で渡す。
更にリオネル達は、ミリアンが営んでいた村のカフェへ。
訪れる客のキャパがいっぱいになったので、
以前営んでいた『モーリス商会』の社屋兼店舗内の店を畳み、
現在は、別店舗にてリニューアルオープン。
そして今やこのカフェは村民達が休日や労働の合間に立ち寄る村のオアシス。
ちなみに、スタッフ全員がキャナール村の女子。
ミリアンが村の雇用を考えつつ、自分が仕切りやすいように、
トラブルが無いようにと、村の女子しか採用しなかったのだ。
そしてそして!
先に述べた通り、旅立つミリアンが、
村で仲良くなった副店長の少女カロル・ベキュへ、格安の有償で譲った店。
カロルはミリアンと同じ16歳、栗毛のショートカット。
小柄ですばしこく働き者、リスのように可憐な少女である。
「あ、ミリアン! いらっしゃい!」
「うふふ、来たわよ、カロル店長。そしてスタッフのみんなにも改めて紹介するわ。私の新たな雇い主となるイエーラのソウェル、ヒルデガルド様よ」
「皆様、改めまして。アールヴ族のヒルデガルド・エテラヴオリですわ」
そもそも、ミリアンがリオネル一途なのは、
キャナール村の村民なら誰もが知っていた。
しかし、アクィラ王国ドラゴン討伐の噂が村へ伝わった際、
リオネルとヒルデガルドの親密さ、ヒルデガルドの絶世の美女さが伝わり、
もしもヒルデガルドが立ちはだかるのならば……
恋のライバルとして、ミリアンには絶対に勝ち目がない、
分が悪いと村民達からは心配されていた。
それゆえ、ミリアンに恋い焦がれる村の数多の青少年達が千載一遇のチャンスだと、
『逆転勝ち』を狙い、口説いたのだが、
ミリアンは全くなびかず華麗にスルーしていた。
そして今回ミリアンがキャナール村を旅立つ『表向きの話』は、
リオネルの口利きで、ヒルデガルドがミリアンへオファーを出した事になっている。
「特別地区でオープンするホテルのカフェレストランのオーナー店長として迎えたい」と。
そのオファーに対してミリアンが、
「喜んでお受け致します! 大好きなリオさんが居る未知の異国の地で、私はスキルアップ、ステップアップしたい」
と承諾した形なのだ。
そんな話の中……村へ来訪したリオネルと親密に接するヒルデガルドの、
透明感あふれる、神々しい美貌を目の当たりにして……
巷に伝わるドラゴン討伐の噂話は本当だった!
やはり、ミリアンに勝ち目は絶対に無い!
心配する村民達と、まだ俺達に逆転の目があるのではと、色めき立つ青少年達。
そんな周囲をよそに、ミリアンはショックを受けた様子も無く、
相変わらずリオネルに熱々。
また、とても意外だったのは、恋のライバル同士であろう、
ヒルデガルドとミリアンが、何と! 姉妹のように仲良く接していた事。
おいおい!? 一体、どうなっているの!?
という戸惑いの視線を浴びつつ、
ヒルデガルドとミリアンは楽しそうに話していたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
この日のランチ以降、村のカフェはリオネルの貸し切り。
今夜、行われる村民参加の宴の為の料理作りの為に、
カフェの厨房を使用するのだ。
材料はリオネルが提供し、宴の料理作りはカフェスタッフとの共同作業。
モーリス、カミーユも思い出作りも兼ね、参加する。
出されるメニューは、ソヴァール王国は勿論、
アールヴ族、アクィラ王国の料理各種。
いわゆる多国籍料理だ。
リオネル、ヒルデガルド、ミリアンは、下ごしらえ、手順を丁寧に教え、
協力して貰い、自らも腕を振るう。
とんとんとんとん! とんとんとんとん!
じゃじゃじゃっ! じゃじゃじゃっ!
じゅ~ううう! じゅ~ううう!
じゅわわわぁ! じゅわわわぁ!
特にプロレベルのリオネルの腕前には誰もが感嘆した。
やはり、伝説の英雄たるドラゴンスレイヤーが、
シェフ並みの腕を持つのは相当のギャップらしい。
そんなこんなで、やがて……次々に料理が出来上がった。
スタッフ達が良く知る故郷の料理は勿論、
見た事の無い異国の料理がずらりと並んだ。
おお! と湧き上がるスタッフ少女達の歓声。
モーリス、カミーユも、笑顔で見つめていた。
リオネルが笑顔で言う。
「皆さん、これらの料理は全て今夜の宴に出します。これまで俺が作って来た料理であり、数多の人々に喜んで貰いました。味の好みはあると思いますが、もし気に入ったものがあれば、カロル店長と相談し、希望を出してください。レシピと当座の材料をお渡ししますので」
再度、スタッフ少女達は「おお!!」と歓声を上げた。
「では、試食してください」
「「「「「はい!!!」」」」」
モーリスとカミーユも、
「おお、リオ君、ヒルデガルド様、ミリアン、頂きます」
「すっごく美味しそうでっす! 自分が手伝ったから尚更っすね!」
そして、試食した誰もが「美味い!!!」「素晴らしい!!」と声を上げる。
やがて……試食が終わり、今回作った料理の味は全て問題ナッシング。
宴へ出せば、村民誰もが喜ぶのは間違いないと意見は一致した。
ここでカロルがリオネルをじっと見つめ、声を張り上げる。
「リオネル様! どれもが素晴らしい料理です! そして驚きました! 慣れ親しんだ故郷の味は勿論ですが、食べた事の無い異国の料理がこのように美味しく心を震わせるなんて! ぜひウチのカフェでも出来る限りのメニューを、提供したいと思います!!」
対してリオネルは笑顔。
「はい、今後は材料が全て手に入らないかもしれませんが、それで宜しければ、レシピと当座の材料をお渡しします」
リオネルの言葉を聞き、大歓喜のカロル。
「わあ!! ありがとうございます!!」
と礼を述べ、更に熱く熱く語る。
「はい!! ぜひ!! お願い致します!! まずは限定メニューで、材料が無くなったら、創意工夫を凝らし、ウチのカフェのオリジナルメニューを作って行きます!!」
歓びに満ち溢れるカロルの言葉を聞き、ヒルデガルドは思い出す。
自分がフェフの官邸で、初めてリオネルの料理、
アクィラ王国、ソヴァール王国の料理を食べた時の事を。
その時、ヒルデガルドは、生まれて初めて経験した素晴らしい味の料理に驚嘆。
まだ見ぬ異国へ思いを馳せた。
どのような国で、どのような人々が暮らしているのかと。
その時にリオネルはこうも言った。
「ヒルデガルドさん、食と音楽は種族、国境を越えた素晴らしいコミュニケーションツールなのです」と。
改めて、ヒルデガルドは実感する。
本当にリオネルの言う通りだと。
そして、予感がする。
今夜の宴は大層、盛り上がると。
そんなヒルデガルドの予感通り……
その夜、キャナール村中央広場で行われた宴は、
食えや、飲めや、歌えや、踊れやと、とんでもなく盛り上がったのである。
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