第738話「ええ、そうですが、お久しぶりですね」
リオネルとヒルデガルドがカントルーブ男爵家へ滞在して3日目の早朝。
昨夜、家臣達の宴が開かれていた城館の中庭では、
リオネルとヒルデガルドが指導する武術訓練が行われていた。
そもそもジェロームは、『親友』というだけではなく、
リオネルの『弟子』という間柄でもある。
ジェロームは、自分と別れてから、更に著しく腕を上げ、
レジェンドと称された師リオネルの実力を見てみたくなったのと、
自分を含め、家中の者達に手ほどきをして欲しいと希望したのだ。
対して、リオネルは快諾。
ジェローム達へは、リオネルが剣聖ブレイズを始めとし、
様々な剣技をミックスさせ創り上げたオリジナル剣技の基本技を、
練習用の雷撃剣で指導。
また、師モーリス直伝の破邪聖煌拳をベースとし、
同じくミックスさせたオリジナル格闘技の基本技を、これまた指導した。
そしてエリーゼ、女性の従士、使用人へはリオネルとの修行の結果、
『師範代レベル』となったヒルデガルドが指導。
そんなリオネルとヒルデガルド、ふたりのバトルスタイルは、
ヒットアンドアウェイで華麗のひと言。
まるで蝶のように舞い、蜂のように刺す。
抑えめに抑えめに動いたとはいえ、ふたりの動きは達人の域に達しており、
特にリオネルは人間族の域を遥かに超えていた。
さすがランクSのレジェンド、ランクAの一流冒険者だと、
ジェローム達は「凄すぎる!!!」と大いに感嘆する。
また手ほどきして貰った家臣達は、
ドラゴンスレイヤーたるリオネル、
アールヴ族の長ソウェルから直接指導を受けたのは、
「一生の思い出になる」と歓喜したのである。
……訓練後、朝食を摂り、リオネル、ヒルデガルド、ジェローム、エリーゼは、
改めてじっくりと話し込む。
ここまで来ると、親友同士のリオネルとジェロームだけではなく、
ヒルデガルドとエリーゼも完全に意気投合し、
まるで姉妹のように呼び合い、気安い仲となっていた。
さてさて!
これまで話題は公私の『私』が殆どであったが、今回は『公』
領地に関する政務が中心の会話となる。
またその内容は多岐にわたった。
農業、商業、工業、建築、土木、娯楽などなど。
お互いに機密事項もあったので、全てをオープンには出来なかったが、
話せる範囲内で、突っ込んだ濃い話し合いになり、
4人は忌憚のない意見を交わしたのである。
その上で、数多の質疑応答も為され、それぞれの状況かつ事情も共有出来た。
ちなみにリオネルは上級念話の派生能力から、
相手の心を読み取るサトリのスキルを有するが、
この場で使用し、友情を壊すような愚かな行為はしなかった。
そんなリオネルは政治顧問を務め、ヒルデガルドを助け、イエーラの国政を担うが、本来は行政のプロではない。
却ってソウェルたるヒルデガルドの方が行政のスキルを有してはいる。
だが、イェレミアスから地位を託され、日も浅く経験不足は否めない。
なので、エリーゼの父アロイス・カントルーブ男爵から
薫陶を受けた、エリーゼ、ジェロームの知識と経験談は地方領主の施策といえど、
リオネルとヒルデガルドには、とても参考となった。
またヒルデガルドにしてみれば、ジェローム達と親交を深めるだけではなく、
人間族領主の考え方、価値観も学べた貴重な機会だったと言えよう。
さてさて!
昼食を摂った4人は城館を出て、馬でレサン村と周辺の領地の視察を行う。
乗用馬はリオネルが呼び出した水棲馬ケルピーを使う事に。
ジェロームとエリーゼはケルピーの頑丈さ、俊敏さに驚く。
ケルピーは妖精馬。
正体はリオネルが召喚の際、正直に伝えたが、
見た目は普通の馬に擬態しているので、
ジェロームとエリーゼが「魔物だ」と臆する事は無かった。
その魔物の害はほぼ無くなっていたとリオネルは、ジェロームから聞いてはいたが、
熊、狼など人間を脅かす獣の気配は結構あった。
だから、リオネルはさりげなく威圧スキルを行使し、
内緒で跋扈していた肉食獣どもを追い払っておく。
破邪の防護壁同様に普段の警戒心を無くさぬよう、
敢えてジェローム達には伝えなかったが、
これで当面『不慮の事故』が起こる可能性は大いに減っただろう。
翌日、逗留4日目……リオネルとヒルデガルドは、
回復魔法を行使し、城館の面々、レサン村住民の治癒を行った。
結果、重病、重傷の者は著しく回復。
軽度の怪我やコンディション不良はほぼ改善され、体力気力とも万全となった。
合わせて魔法ポーション、薬草なども結構な数を贈り、
医療体制が不充分なカントルーブ男爵家には、健康が第一という言葉通り、
何物にも代えがたい、とても嬉しいケアとなったようだ。
「ヒルデガルド様、ありがとうございます。そしてリオネル! 何から何まで本当にありがとう! 出会った時から、いつもお前には助けられてばかりだ!」
と感謝の言葉を告げるジェローム。
対して、
「いやいや、こちらこそ、ありがとうだし、とても世話になった。俺だって、お前の存在が励みとなり、刺激にもなっている。先に告げてある通り、数日逗留という話だったし、明日の朝に出立する」
とリオネルは返した。
驚くジェローム達からは、
「おい! おい! おい! お前がこの地へ来てまだたった4日だぞ。1週間も経っていない、まだまだ居て欲しい」
と、何度も何度も引き留められたが……
「本当に申し訳ないが、次に行く場所がある」と、丁寧に告げ、
「またぜひ会いたい」と全員から惜しまれつつ、
翌日朝、午前8時。
笑顔のリオネルとヒルデガルドは、
ジェローム、エリーゼ以下総出の見送りを受け、
カントルーブ男爵家の城館を出発したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……という事で、カントルーブ男爵家出発後、妖精馬ケルピーに曳かせた魔獣車で、
城館から延びる街道を進む、リオネルとヒルデガルド。
やはり、ふたりは並んで御者台に座っていた。
御者はリオネルが担っている。
今回は自分の都合に付き合って貰ったと認識するリオネルは、
ヒルデガルドを労わる。
『ヒルデガルドさん、本当にお疲れ様でした。そしてありがとうございます。日々頑張っている幸せそうなジェロームに再会出来て、とても懐かしく嬉しかったです。親友としていろいろケアも出来ました』
『はい、リオネル様。こちらこそですわ。私もジェローム様、エリーゼ様にお会い出来て、楽しかったですし、とても勉強になりました。ジャムを始め、新たな販売商品のヒントも頂けましたし、人間族の統治についても学べました。剣技、格闘技、乗馬、回復魔法などなど、様々な課題の実践も出来ました。本当に有意義な訪問でしたわ』
ヒルデガルドはそう言いつつ、万事上手く行った今回の訪問が、
リオネルの計算、思惑通りに運んだとしたら、凄い! と素直に思ったのである。
そんな会話は、当然、心と心の会話、念話で交わされていた。
『そう言って貰えると嬉しいです。ほぼ予定通りの滞在日数でしたし、次は、キャナール村へミリアンを迎えに行きましょう』
『ですね!』
『カントルーブ男爵家へ来訪したタイミングで俺の夢魔法でミリアンへ連絡を入れ、キャナール村来訪のタイミングを伝えていますから、今頃彼女は引っ越しの準備を終えた状態で、スタンバイしているはずです』
『はい、リオネル様が事前に立てた予定通りですね』
『はい、順調にスケジュールを消化しています』
『うふふ、ティエラ様の夢魔法では散々話していますけど、改めてリアルのミリアンさんに会うのは楽しみですわ。これからはブレンダさん同様、基本的にはず~っと一緒ですわね』
『ええ、ティエラ様の修行次第とか、今回の旅行のようなイレギュラーイベントを除けば、基本的に俺達はずっと一緒に暮らして行きます』
『ですね! 嬉しいです!』
と、いう事で、リオネルはそのまま転移魔法を行使。
あっという間にキャナール村付近の森へ跳び、周囲の気配を確認の上、
しれっと、村へつながる街道へ出た。
この街道はリオネルの良く見知った道だ。
『ヒルデガルドさん』
『はい!』
『ここは、以前何度も通った事のある街道です。すぐにキャナール村へ到着します』
『分かりました、リオネル様。キャナール村は、先ほどのレサン村同様、防護壁で囲まれ、正門には物見台があり、門番さんが居るのですよね』
『です!』
と、いう事で。
いつもの通り、リオネルは索敵を張り巡らせ、街道を進む。
幸いと言うか、人影は無く、街道から村道へ入り、
しばし走って、無事キャナール村へ到着した。
ヒルデガルドの言う通り、
このキャナール村も高さ5mぐらいの石壁に囲まれていた。
以前は丸太を組んだ防護柵であったが、更に頑丈な物をと、
モーリスが地属性魔法で設置したに違いない。
村道が突き当たる正面には、ぶ厚い板で造られた正門があり、
外敵が侵入せぬよう固く閉ざされている。
そして正門の内側、物見台を備えた木製のやぐらがある。
そんな風景を見て、リオネルの心に既視感が満ちた。
懐かしいのひと言だ。
久々に来訪したキャナール村。
ただ物見台に陣取る革鎧姿の門番は、
リオネルを良く見知っている中年男アントナンではなかった。
門番は、20歳を少し過ぎた青年である。
しかしリオネルは彼に見覚えがあった。
確か、自警団の一員として共にゴブリンと戦った者だ。
青年門番は周囲に視線を走らせた後、
眼光鋭く、リオネル達を見て話しかけて来る。
記憶を手繰る前に、相手が不審者か、否か、確認する事が優先されているから。
「何だ、お前らあ? 旅人なのか?」
「ええ、そうですが、お久しぶりですね」
「は!? お、お久しぶりって……誰だ!? お前!? ……あ、ああ! リオネルさん!? い、いや!! も、もしかして!! リオネル様じゃないかああ!!」
慌てて口の利き方を直す青年門番もリオネルの容姿を憶えていた。
「はい! 大当たり! リオネル・ロートレックとその連れです!」
驚く門番に対し、リオネルは柔らかな笑みを浮かべ、
はきはきと応えていたのである。
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