第731話「リオネルは思いを巡らせ、ローランドの落としどころを受ける事にした」
アクィラ王国ドラゴン討伐の冒険譚。
同国北方の険しい山岳地帯に、数年前から邪悪な巨大ドラゴンが住み着き、
呼び寄せた手下のワイバーンとともに、周辺の町や村を襲い、
甚大な被害が出ていた。
アクィラ王国からは、騎士隊、王国軍を、ドラゴン出現時から派遣しても、
犠牲者が増えるだけで、中々討伐が叶わず、遂に冒険者ギルドへ依頼があった。
依頼主かつ窓口は、兄の王、ヨルゲン・アクィラの意を受け、
申し入れをした宰相ベルンハルド・アクィラだ。
イエーラの鎖国を解除した後、隣国のアクィラ王国と国交を開き、輸出入を始め、
全てにおいて、優位に物事を進めたいというリオネルの思惑もあり……
リオネルとヒルデガルドは、冒険者ギルドリーベルタース支部マスター、
マウリシオ・アロンソを介し、ベルンハルドとコンタクトを取り、
依頼を受諾し、ドラゴンどもを討伐した。
その際、提出され、情報共有された完遂報告書により、
冒険者ギルドの頂点に位置する総マスター、ローランド・コルドウェル侯爵は、
立場上、だいたいの経緯と結果を把握していた。
しかし!
書面にて、情報を得る以上に、
当事者であるふたりから、直接話を聞くのはリアル感が全然違う。
それゆえ、ローランドは冒険譚の聴取を望んだに違いない。
とまあ、こんな事だろうが、シンプルに話は盛り上がった。
リオネルの思惑、アクィラ王国の内情、軍事上の機密など、
完遂報告書に記載されず、明かせない情報はあったのだが、
ローランドは大満足であった。
そのままランチを、という話となり……
既に手配済みだったらしく、総本部ホテルのレストランから、
ケータリングされた料理、飲料が続々と運ばれ、引き続き食事会となる。
話がここまで来ても、ローランドは、
リオネルのソヴァール王国への復帰を望むという、
『自分の本音』を話そうとしない。
「ふむ、最高に面白かった! リオネル君はまさに冒険者ギルドのレジェンドとしての名に恥じぬ大活躍ぶりだし、ヒルデガルド様もランクAの実力を遺憾なく発揮された。で、これからのスケジュールはどうなっておるのかな? 差し支えなければ教えて欲しいが」
対してリオネルが、これはあくまで予定ですが、と断った上で、
「ワレバッドに数日滞在した後、出発。ヒルデガルド様とともに、ソヴァール王国各地を回り、見聞を広めつつ、旧友達と再会したいと思います」
と告げた。
曖昧な言い方だが、リオネルは嘘をついてはいない。
今回の旅の最大の目的は、妻となるミリアンのピックアップだが、
それ以外に機会があれば、再会したいと望む相手が数多居たからだ。
さすがにローランドは、荒くれボッチのリオネルに友人が居たのか?などと、
変な突っ込みはしなかった。
「成る程。ヒルデガルド様とともに、久しぶりに故国を巡り、見聞を広めつつ、旧友と再会するのか? で、その行先の中に王都オルドルは入っているのかい?」
「王都……ですか。予定には入っている、というところですね」
「ふむ、予定には入っている、か……」
冒険者ギルド総本部のナンバーワン、ナンバーツー、
ローランドとブレーズは、リオネルが実家から勘当され、
その際にディドロの姓を無理やりロートレックへ変えさせられ、
王都から追放された事を知っている。
「ローランド様」
「うむ、何だね? リオネル君」
「王都で思い出しました。興味が無いので、自分ではあまり情報収集をしていませんでしたが、かつての自分の父と兄達がどうなったのか、ご存じでしょうか?」
「ああ、君を不要とし、躊躇せず追放した非道な『元家族達』か」
「はい、そうです」
「君の辛い過去を知り、私も気にはなっていた。ブレーズが気を利かせ調べてくれ、報告は聞いてはいる」
「ですか。宜しければ、お教え頂けますか?」
「うむ、分かった。ブレーズ、調査した君から伝えてやってくれるか?」
主ローランドの言葉を受け、ブレーズは、
「かしこまりました! 閣下! では私から申し上げます。……ディドロ家の長兄で魔法省職員ケヴィン氏は収賄に加え、後輩に対する暴言暴行などもあきらかとなり、裁判で有罪が確定し、10年の懲役刑を受け、オルドル郊外の刑務所へ収監中です」
「…………………………………………」
「同じく魔法省職員で次兄のセルジュ氏は、自身の私的な不始末で懲戒を受けた上、兄の逮捕、収監の影響もあり、いたたまれなくなり魔法省を退職したそうです」
「…………………………………………」
「実子の不始末で責任を取るように言われたリオネル君の父上ジスラン氏は、長期にわたる謹慎、休職の上、その最中に自身の部下に対する暴言の告発もあり、復帰が叶わず王宮魔法使いを辞職したと聞きました」
「…………………………………………」
「周囲からの噂話と冷たい視線に耐えられず、ジスラン氏とセルジュ氏のふたりは名を変えて王都から逃げ去り、現在は行方が分からず、所在は不明だそうです」
「……成る程。ひとりは有罪で服役中、ふたりは行方不明ですか。分かりました、ローランド様、ブレーズ様、ありがとうございました」
まさに!! ざまあ!!
いい気味だ!! と言える、真っ逆さまな転落人生ではあるが、
リオネル自身の感情はフラットで、全く乱れなかった。
以前、リオネルから経歴を聞き、心配そうに見つめていたヒルデガルドへも、
「大丈夫」と微笑むくらいだ。
ここで、ローランドが言う。
「ふむ、リオネル君」
「はい」
「因果応報というのか、皆、悲惨な末路をたどっておるな。君へした仕打ちが天罰として返って来たと言えなくもないが、血のつながった者達だ。少しは気になるかね?」
「いえ、身ひとつで王都を追放された時、もう自分に家族は居ないのだと割り切り、その後は、亡くなった母の事ぐらいしか思い出しませんでした」
「ふむ、そうか……」
「はい、今のお話を聞いても、そうか、と思うくらいで何も感じません」
「うむ……ほぼ無関心、という事か」
「はい! それに自分には、一生護ると心に決めた愛し愛される新たな家族が出来つつあります。旅立ち、心の絆を結び、縁が出来た方々ともども大切にしたいと存じます」
「成る程。過去を振り返らず、新たに出会った者達と前向きに生きて行くと決めたのだな」
「はい、敢えて言うのなら、育てて貰った恩から、かって家族だった彼らには、自身の人生を全うして欲しいと願うだけです」
……リオネルは、とんでもない暴言を浴びせまくり、
自分をゴミ屑のようにポイ捨てした肉親をひどく恨んだ事もあった。
だが、追放され、冒険者となり、ひ弱だった自分を見つめ直す事が出来た。
己の力で生活し、ここまで成長出来たから。
また、旅に出たからこそ、様々な素晴らしい人々と邂逅出来たと実感している。
助け合い、支え合う歓びも知った。
愛し合える想い人達とも巡り合えた。
そして、この世界はとてつもなく広く、
自分より凄い存在、未知の相手がたくさん居るとも!
だから自分は更に高みへ行きたい! そう願う!
その為には、まだまだ足りない修行、
課せられた仕事も含め、努力し、やるべき事が多々ある。
そう考えた結果、非道な父、兄達に対して、
『どうでもいい奴ら』であり、『考える時間がもったいない』と、
全くの無関心に、なっていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ここでローランドは、苦笑。
少し言いにくそうに切り出した。
「うむ、いきなり、話は変わるのだが……ヒルデガルド様とリオネル君は、ドラゴンどもを討伐し、喜びに沸くアクィラ王国では祝いの晩さん会が開かれ、大いに歓待されたらしいな。その際、いろいろな好条件の提示や魅力的な誘いも数多あっただろう?」
ローランドの問いに対し、答えるのはリオネルである。
「まあ、そうですね」
「でな、我がソヴァール王国からも、陛下の弟君であらせられる宰相フェリクス・ソヴァール閣下より、リオネル君について、私へ話が来ていてる」
「フェリクス宰相閣下から、お話が来ている、自分について、ですか?」
「うむ、まあ、話というか、ほぼ命令だな。ソヴァール王国の至宝リオネル・ロートレックを何が何でも説得し、故国へすぐ帰参して貰えと」
補足しよう。
帰参とは、他の場所に長く行っていた人が、帰ってくる事。
すなわちリオネルをソヴァール王国へ帰国させ、
しかるべき国の要職に就かせる、という意味であろう。
「いえ、申し訳ありませんが、それは難しいかと。自分の立ち位置は現在イエーラの政治顧問ですし、まだまだやるべき事がたくさんあります。ここで投げ出すのは無責任ですし、契約の解除も全く考えておりません」
「うむ、そうであったな。私も閣下へはそのように返したよ。もしも無理を強いれば、君はあっさりソヴァール王国国民である事をやめ、イエーラの国籍になるだろうと」
「ええ、まあ、どうするかは即答は出来ませんが、何かしらの対応はすると思いますよ」
「ふむ、私が無理強いは避けた方が賢明ですと、閣下へ申し上げた」
「ですか、ありがとうございます」
「いやいや、もしも帰参を強行すればイエーラとの国際問題になる可能性もある。あるいは、その間隙をぬい、アクィラ王国からは上級貴族の爵位を提示、名誉国民でも構わないからと、リオネル君の取り込みにかかるかもしれません、そう、お伝えしたよ」
「そうですか。で、宰相閣下は何とおっしゃいました?」
「うむ、ひどく困ったお顔をして閣下はおっしゃった。では、国王陛下への謁見だけでもセッティングせよと」
「成る程。ただ自分が思うに、このままソヴァール王国国王陛下へお会いしたら、ただの謁見だけでは済まなくなると想定出来ます」
「だろうな。私も同感だ。……ちなみに陛下には王女がお三方、フェリクス宰相閣下にもご令嬢がおふたりいらっしゃる。以前、私が勧めたように結婚を前提とした縁戚関係となるご提案をされて来る事も考えられる」
ローランドの言葉を聞き、穏やかな雰囲気だったヒルデガルドが一転、
険しい顔つきとなり、
「ダメです! で、あれば、リオネル様を、ソヴァール王国の国王陛下へ謁見などさせませんわ!」
と、きっぱり言い切った。
加えて、リオネルも笑顔で、
「ローランド様。申し訳ありませんが、自分には婚約者に近しい結婚を意識した方が既に居ります。それゆえ、お相手がどのように高貴なお方でも、ご提案はお断りさせて頂くと存じます」
「成る程。結婚を意識した方とは、ずばり、ヒルデガルド様の事かな?」
「申し訳ございません。それはすぐにお答えしかねます。いずれ発表させて頂きます」
リオネルのコメントに嘘は無い。
ただ、具体的な物言いを避けただけである。
「ふむ、そうか。ならばその事も宰相閣下へはお伝えしておこう。やはり、リオネル君の意思ありきで様々な無理強いは無しが宜しいと。もし彼がバルドルを訪れても、お構い無しにして欲しいともな」
「それは本当に助かります、ありがとうございます」
「ははは、となると、先ほどの契約は活きて来る。リオネル君との確かな絆だ。冒険者ギルドの総本部はこのソヴァール王国ワレバッドで、総マスターは、この私ローランドなのだからな。宰相閣下へは、この契約締結を手土産にし、ご連絡を入れておくよ」
さすがは老獪なローランド。
全くの収穫無しを避け、宰相に対し、上手く『落としどころ』を作ったようだ。
また下された命令を遂行出来ずとも、
そんなに不安そうな様子が無いローランドを見ると、
宰相フェリクス・ソヴァールからの信頼も厚いに違いない。
もしかすると腹心のように扱われている可能性もある。
リオネルは思いを巡らせ、ローランドの落としどころを受ける事にした。
「お願いします」
「ふむ、すぐにオルドルへ魔法鳩便を送る。何かあればすぐリオネル君へ連絡するよ」
これでややこしい話は本当に終わり、のようだ。
話題は他愛もない内容に変わり、
リオネルとヒルデガルドは、ローランドへ、いくつかのお願いをし、叶えて貰う。
そして昼食が終わると、ローランドの下を辞去。
別室において、ブレーズ同席で、討伐報奨金の精算を行った。
既に契約が履行されるという事で、結果、
今月分の技術料金貨1万枚、
討伐報奨金はもろもろの魔物の討伐料の80%で、金貨8万枚。
都合、金貨9万枚がリオネルへ支払われたのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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