第725話「まだまだ緊張気味のブレンダであったが…… 昨夜のあいさつが良い『練習』となったようである」
引っ越したばかりのブレンダの新居へ……
そのブレンダとお泊りをするヒルデガルドを送ったリオネル。
官邸へ戻ると、すぐに呼び出しがあった。
自分の執務室へ来るよう連絡を入れて来たのはイェレミアスだ。
官邸に泊まる事となったボトヴィッドと3人で少し飲もうぜ、気楽に、
というお誘いらしい。
了解したリオネルは、イェレミアスの執務室へ。
いつでもどこでもというのはやり過ぎだが、
適度なこのような『付き合い』もコミュニケーションには必要不可欠と、
リオネルは考えている。
このケースでは自分が居る事で、
イェレミアスとのボトヴィッドの潤滑油になる場合もある。
そして自分だけではなく、ボトヴィッドと仲良くするイェレミアスを見て、
この特別地区の武官、事務官、公社職員達が、
アールヴ族と人間族は、やはり仲良く出来るのだという認識を深めて欲しいとも。
『お疲れ様です、イェレミアスさん、ボトヴィッドさん』
『お疲れ様です、リオネル様』
『おお、リオネル、お疲れさん!』
『ええっと、これ差し入れです』
リオネルは収納の腕輪から、ワイン、エール、つまみ各種を出す。
この差し入れは、先ほど各所へ配置した『備品』同様、多忙の中、時間を作り、
リオネルがワレバッドやフォルミーカなどで買い貯めたもの。
これらの備蓄された食料、水、資材等々は莫大な量となり、
収納の腕輪に仕舞われている。
まさに備えあればうれいなし、だ。
『おお、悪いな! ありがたく頂くぜ! だがよ! イェレミアスが用意してくれたイエーラ産のワインも結構いける! つまみのドライフルーツもえらく美味いしな! これからの食生活が楽しみだぜ!』
『ははは、気に入ったか! ボトヴィッド! イエーラは素晴らしいと、素直に褒めたらどうだ! この偏屈者め!』
ボトヴィッドとイェレミアスは既にある程度酒が入っており、饒舌である。
いろいろと話していたらしいが、現在の話題は、
ボトヴィッドが開店する魔道具店、新『クピディタース』の事だ。
『おい、リオネル、聞いてくれ!』
『何でしょうか? ボトヴィッドさん』
『フォルミーカの山猫亭でも相談されていたんだがよ。イェレミアスがな! ウチの店の卸売業者になろうって、言うんだ』
補足しよう。
卸売業者とは、生産者から商品を仕入れて卸売市場で販売する仲介会社の事。
イェレミアスは、ボトヴィッドが改めてオープンする魔道具店、
新『クピディタース』へ、フォルミーカ迷宮で発見したお宝を販売用の商品として、
有償で譲る業者となるつもりなのだろう。
『成る程。それでイェレミアスさんは、フォルミーカ迷宮滞在中、お宝探しにこだわったわけですね』
『はい、リオネル様、宝箱を欲する願望は元々ありましたし、実際、叶えて頂き、とても感謝しております。ですが、ボトヴィッドが特別地区へ店を開くと聞いて、更に考えが及びました』
イェレミアスはリオネルに答え、更にボトヴィッドへは、
『おい、ボトヴィッド! 私はな、フォルミーカ迷宮で発見した膨大な数のお宝をリオネル様に預けてある! だから私が卸売業者となれば、お前の店の売り物には全く困らんぞ!』
『ああ、もう分かった。でもインチキ悪徳業者はノーサンキュー、粗悪品はお断りだぞ!』
『ははは! 残念ながら確保したお宝はピンキリだし、未確認の物も多いから、それは何とも言えん。だがボトヴィッド、私とお前でそれを判定し、良品をチョイスするのもありだろうよ』
イェレミアスの意図がはっきりと見えて来た。
リオネルの協力で、やりたかった迷宮のお宝探しをした上、収穫物を売り、
そのやりとりでボトヴィッドとのコミュニケーションを取りつつ、友情を深め、
自身の利益も得るという、一石二鳥どころか、それ以上を狙う作戦なのだ。
そんなイェレミアスの意図を理解しているのか、どうか、
ボトヴィッドは毒舌を吐く。
『お前みたいに頑固で口うるさい卸売業者など、わしは、ごめんなのだがな』
『はははは、その言葉はそのまま返してやろう。お互い様だろうが』
やりとりを聞いているリオネルも笑顔である。
『俺も備蓄した自分の分のお宝がありますから、ボトヴィッドさんへ有償で提供しますし、付呪、解呪の魔法でも協力しますよ』
『おお、そりゃ、何よりだ。であれば、わしはリオネルとだけ取引をしようか?』
『はあ!? 何を言っとるのか、お前は!』
『はははは、冗談だよ! そう怒るなって、イェレミアス!』
『ええ、俺もイェレミアスさんありきで、協力をしますので』
とまあ、他にもいろいろな話をし……
そんなこんなで、夜はふけて行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌朝6時前……リオネルは、ふたりの女子を迎えるべく、
ブレンダのマンションから少し離れた場所に立っていた。
念話で、お泊りしたヒルデガルドを呼び出す。
このような場合、本来は世帯主たるブレンダを呼び出すのが普通ではある。
だが、今回は話の筋として、業務でリオネルに同行するヒルデガルドへ連絡を入れ、
オブザーバー参加するブレンダを連れて来て貰う。
もしも逆の場合は、ブレンダに連絡を入れ、
ヒルデガルドを連れて来て貰う事となったであろう。
面倒がり、このような配慮をしない男子も多いだろうが、
筋を通し、丁寧な対応をするのがリオネルのモットーなのだ。
間を置かず、ヒルデガルドがブレンダを連れ、やって来た。
『おはようございます! リオネル様!』
と、笑顔のヒルデガルドがあいさつすると、
『おはようございます! 旦那様! じゃなかった! リオネル様!』
同じく笑顔でブレンダもあいさつし、
『あの、私の雇い主であるヒルデガルドさんが様付けしていますから、私も倣い、リオネル様って呼びます! そしてヒルデガルドさんの事も様付けします! 結婚するまではその方が良いと、昨夜ふたりで話し、決めました!』
対してリオネルも笑顔。
『了解です。支障は無いと思いますし、おふたりで決めた事であれば、俺がどうこう言うつもりはありません』
という事で3人はリオネルの転移魔法発動により、フェフへ跳んだ。
フォルミーカからイエーラへの道中、馬車ごと跳んだ時は、そう実感しなかった。
だが、今回は自分の周囲の景色が瞬間的に変わり、ブレンダは改めて驚愕した。
そう!
今まで特別地区の住宅地に居たはずが、違う街の路地の片隅に立っていたのだから。
『ええええ!!!??? こ、こ、これって!!!???』
そんなブレンダを見て、ヒルデガルドは既視感を覚える。
自分が初めてリオネルの転移魔法を体感した時の事を思い出したのだ。
そう! リオネルと初めで出会った日の事を。
驚き戸惑うブレンダへ、ヒルデガルドは笑顔で声をかける。
『ブレンダさん、さっきまではアクィラ王国との国境沿いの特別地区に居たけれど、私達が今居るここは、我がイエーラの都フェフよ。びっくりするでしょう? リオネル様の転移魔法は?』
『は、はいいい!! す、すっごく!! び、びっくりしましたああ!!』
そんなふたりへ、リオネルは促す。
『さあ、公社直営店舗の倉庫へ行きましょう。ヒルデガルドさん、早番の公社職員さん達が待っているんですよね?』
『ええ、そうです! 最近では公社職員達もすっかり仕事に慣れ、官邸同様、リオネル様がお決めになった早番、日勤、遅番の3シフト交代制勤務が、公社直営店舗でもスムーズに行われていますわ』
『おお、それは何よりですね』
という会話を交わしながら、3人は歩き、数分で公社直営店舗へ。
事前に周知しておいたので、この日このタイミングで、
リオネル達が販売用商品の納品へ赴く事に備え、
10人ほどの公社職員達が、店舗前に待機していた。
リオネルが来ると聞いてか、管理職の幹部職員も数人含まれている。
「おはようございます! お疲れ様です! ご無沙汰しておりました!」
いの一番にあいさつをしたのはリオネルである。
主ヒルデガルドがどう見てもべたぼれ、
前ソウェルのイェレミアスも敬い奉る、
そんなリオネルだが、おごり高ぶる事は一切無く、
万事が控えめで、腰が低く丁寧。
武官、事務官、公社職員にも分け隔てなく接してくれる。
また態度だけではない、文句なしにイエーラの誰よりも、一番良く働いている。
イエーラへ来て、わずかな期間なのに、
これまで出した結果、実績は高名な歴代ソウェルの誰とも比べ物にならない……
古来よりのアールヴ族の、人間族への偏見、蔑視が、
リオネルにより改められつつあると言っても過言ではないだろう。
「「「おはようございます! リオネル様! お待ちしておりました!」」」
対して、出迎えた公社職員達も元気よく答えた。
ブレンダを紹介するのには良いタイミングである。
ヒルデガルドが、公社職員達へ笑顔であいさつ。
「おはよう! 皆、ご苦労様!」
「「「おはようございます! お疲れ様です! ヒルデガルド様!」」」
「以前から伝えていた通り、特別地区において、人間族の公社職員を雇用致します! このようなタイミングですが、皆へ紹介致します!
この方は、ブレンダ・ビルトさん、アクィラ王国フォルミーカのご出身、ご実家は宿屋をご経営、ご運営。
ブレンダさんも幼い頃からご実家の宿屋を10年以上手伝われております。
仕事は特別地区新設のホテルの指導役を担って頂きます。
いずれ、このフェフへも頻繁に来る事となるでしょう!
さあ! ブレンダさん! ごあいさつをお願い致します!」
「は、はいっ! み、皆さま! 初めましてっ! ブレンダ・ビルトでございますっ! 特別地区新設のホテルの指導役を務める事とあいなりましたっ! まだまだ未熟者ですが、何卒宜しくお願い致しますっ!」
まだまだ緊張気味のブレンダであったが……
昨夜のあいさつが良い『練習』となったようである。
少しだけ嚙んだが、立派にあいさつをする事が出来た。
そんなブレンダへ、公社職員達は「ぱちぱちぱち」と、
温かい拍手を送ったのである。
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