第716話「補足しておくと、渡すと言っても、これは顔合わせの儀式のようなもの」
ティエラの夢魔法による『結婚報告会』が行われ、無事終了。
午前4時少し前、目が覚めて、リオネルが起きだすと……
『おはよう! マイムです!』
何と何と! 水の精霊ウンディーネのマイムから念話が来た。
前日、折り返し連絡するとは言っていたが、まさかの早朝とは……
『リオネル君が起きたみたいだから、折り返しの念話をしたの。起きがけの朝早くからごめんなさいね。今、話しても大丈夫?』
さすがに、マイムの口ぶりには気遣いが感じられた。
対して、リオネルも元気よく肯定し、あいさつをする。
『はい、大丈夫です。マイム様、おはようございます!』
『ありがとう! で、昨日も話をしたし、早速なんだけど、アリトン様からお預かりしたケルピー100体を君に渡したいのよ。都合はどう?』
『はい、今日は午前中はOKで、午後いちから夜までは予定が入っています』
『うふふ、相変わらず忙しいわね。じゃあこの後すぐだけど、今日の午前中はどう?』
『はい、補足説明すると、午前9時30分から午後0時少し前まででしたら大丈夫です。もしくは夜であれば、午後10時以降ならば問題はありません』
『うふふ、そうか。リオネル君と夜会うのも素敵かもしれないけど、善は急げって事で、午前9時40分にこの場所に……今、分かるものを送るね』
『はい、お願いします』
念話とともに、マイムから送られて来たのは、森の中にある泉の映像。
美しい泉の周囲にはやや広めの草原が広がっていた。
この草原の面積ならば、ケルピー100体でも大丈夫そうだ。
マイムが補足説明をしてくれる。
『ここはね、フォルミーカ郊外にある、とある深い森の中にある、とある泉なの。人間は殆ど来ない、そして場所はここよ』
泉の映像の後には、印のついた地図の映像が送られて来た。
リオネルはしっかりと泉の映像と地図を記憶する。
『了解です、マイム様。場所は把握しました。本日の午前9時30分ですね。約束の時間よりも少し早めに伺います』
『うふふ、じゃあ、また後でね』
という事でマイムとのとの会話が終わった。
マイム様と会った時、アリトン様から何かメッセージがあるかもしれないな。
と、リオネルは思いつつ、素早く身支度をする。
そして食堂へ移動して待機。
まもなく、ブレンダもやって来て……
早朝故、周囲には客が居ない。
ここでリオネルは炎の魔人兄妹を召喚。
ダニエラの手伝いを命じて、ルベルを残し、
護衛にブライムを連れ、リオネルとブレンダは仲良く、
フォルミーカの市場へ買い出しに出かけた。
市場へ到着すると……山猫亭用の食材、物資を購入しつつ、
リオネルは今回のフォルミーカ迷宮で使ってしまった食材、物資を大量に購入した。
「買える時に買っておけ」というのがリオネルの信条。
購入したものを次から次へと、収納の腕輪へ放り込んで行く。
結果、フォルミーカ迷宮へ行く以前よりも備蓄が遥かに増えた。
山猫亭の仕入れも済んだし、これで良し!とふたりは帰還。
必要分を厨房へ入っているダニエラへ渡して残りは倉庫に仕舞い、
調理を手伝う。
午前5時となり、イェレミアス、アートスを連れたボトヴィッドも起きて来て、
全員で朝食の作業を行った。
作業終了後、リオネルとブレンダが接客を、
イェレミアスとボトヴィッドは配膳を分担し、9時に終了。
ダニエラとブレンダの手伝いにルベルとアートスを残し、
今度もブライムを護衛につかせ、
イェレミアス、ボトヴィッドは連れ立って街中へ。
そしてリオネルは、ウンディーネのマイムとの約束を守るべく、
宿泊している山猫亭の自分の部屋から、
転移魔法で、待ち合わせ場所へ「跳んだ!」のである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ほんの少しだけ、迷ったが……
リオネルはマイムが指定した泉へ到着。
念話の映像の通りの風景で、美しい泉の周囲にはやや広めの草原が広がっていた。
時間は約束した時間の少し前、午前9時30分である。
改めて索敵で把握したが、マイムが言った通り、
深い森の奥なので、周囲に人間は居らず、居るのは魔物と動物のみ。
軽く威圧の波動を放ち、彼らを平和的に追い払うと、リオネルはそのまま待つ。
やがて……澄み切った水をたたえた泉の中央に大きな水柱が立ち、
その上に、ふわっと水色のヴェールをまとった美しい少女、マイムが現れた。
髪はプラチナブロンドで肩の辺りまで伸びている。
切れ長の目で、瞳は碧眼。
鼻筋がすっと通り、唇は小さい。
身体はスレンダーでスタイル抜群。
やはりマイムは美しい。
以前出会った水宮城のある湖とこの場所は遠く離れている。
多分、水の一族が行使する水脈を利用した転移魔法だとリオネルは推察する。
まあ、あの湖も、水宮城がある異界とたまたまつなげただけの、
無関係な場所かもしれないが。
『うふふふ、お待たせ! 改めておはよう! リオネル君!』
『いえいえ! 俺も少し前に来たところです。改めて、おはようございます、マイム様。今、そちらへ伺いますね』
そうリオネルは言い、泉へ足を踏み入れると水面を歩き出した。
高貴なる水界王アリトンとマイムから水の加護を受け、
恵みを運び潤す、聖なる水の使徒たるリオネルは水属性魔法は勿論、
様々な水の技を使いこなす事が可能なのだ。
そのひとつ、ほんの初歩、『水面走行』を使い、たったったっと、
リオネルは軽やかに水の上を歩いて行く。
そしてマイムと向かい合う。
じっとリオネルを見つめマイムは言う。
当然ながら会話は、念話である。
『うふふ、見事な水面走行ね。ここ最近、地と火ばかりで、水の属性魔法、スキルの使用頻度が低い割には慣れているわ』
マイムの皮肉?にリオネルは神妙な面持ち。
『ええっと、申し訳ありません』
『うふふ、謝る事なんかない、ほんの冗談よ。あんまり言うと、ティエラ様、アマイモン様、ストレィティ様だけではなく、パイモン様からも叱られちゃうから』
『ですか』
『うん! でも水の使徒ミリアン・バザンが妻としてリオネル君へ嫁ぐ事となって良かったわ。これでアリトン様以下、私達、水の一族とリオネル君の絆は続いて行くからね』
ティエラから聞いたのか、それとも精霊間の情報網なのか、独自の調査網を持っているのか、マイムはリオネルの結婚情報を把握しているようである。
ここは変に隠したり、取り繕うのは悪手だ。
リオネルはシンプルに肯定する。
『ですね』
『もしもミリアンが嫁がなかったら、私マイムがリオネル君のお嫁さんになっても構わなかったけれどね』
『え!?』
さすがに驚くリオネルだが、マイムは至極真面目な口調で告げる。
『うふふ、これは冗談ではなく、結構真剣な話』
『ですか』
『ええ、何故なら私はリオネル君の事をすっごく気に入っているの。ティエラ様がご結婚しようとお考えになったのも分かる。君は精霊の夫として、とても相応しいわ。抜きんでた能力を持ち、これまで積み重ねた実績は勿論、誠実で勤勉な人柄も申し分ないから』
『こ、光栄です』
『それにリオネル君は読書好きだから、知ってるでしょ? 古来よりウンディーネと人間族の恋物語、結婚話はたくさんあるよ。古文書に記され、おとぎ話でも残っているわ』
『ら、らしいですね』
『あははは、らしいですねなんて、とぼけちゃって、おもしろ~い。リオネル君とは、こうやってず~っと話していたいけど、そうもいかない。そろそろ本題へ入るわ』
『お、お願いします』
『改めてここでも言うわ。ティエラ様からお聞きになっていると思うけど、アリトン様からケルピー100体をリオネル君の従士としてお渡しするように命じられているの』
『はい、ティエラ様からお聞きしています。ありがとうございます、深く感謝致します』
『ふふ、優秀な地、火の従士達がだいぶ増えたみたいだけど、ウチのケルピーも凄いポテンシャルを秘めている。上手く使いこなせば、とても役に立つよ』
遅まきながら、補足しよう。
ケルピーは、神話、民話に登場する 馬の姿をした幻獣であり、
妖精の一族だという者も居る。
湖や沼地に棲み、川辺に現れ、優れた変身能力を使い、
人間をおびき寄せ襲うと怖れられている。
荒々しい気性から人間にはなかなか馴れないが、
ケルピーから主として認められ、乗りこなす事が出来れば、
どんな馬にも負けないくらい走り、様々な恩恵をもたらすという。
『そうそう! 巷で言われるケルピーの気性難は心配しなくて大丈夫! アリトン様から命じられ、私達ウンディーネが心を込め、精一杯、馴致したから』
『ありがとうございます』
『リオネル君はある程度知っているでしょうけど、ちょっとケルピーの能力紹介をしておくわ。今回渡すのは、アリトン様がお選びになった特に能力が高い子達よ』
『はい、お聞きします』
『このケルピーは、さすがに天翔ける事は出来ないけど、水上を矢のように走り、水中はイルカのように自由自在に泳ぐ』
『成る程』
『勿論、陸上だって並みの馬の5倍の速度で走れるし、切り立った高い崖くらいは楽々と駆け上がるし、逆にその崖から降り立つのも全然平気。超が付く頑丈さで持久力も底なし、一度に1万キロ以上を休みなしに余裕で走れるわ』
『おお、本当に凄いっすね』
『でしょ? 戦闘能力も結構あるわ。後ろ足の蹴りは半端じゃないし、強靭な顎で嚙めば、敵は砕け散る』
『成る程!』
『そして変身能力も相当なものよ。人間族に擬態するのは有名だけど、リオネル君がイメージを念話で送ってやれば、ほぼその通りに変身が出来る。解除を命じるまで変身は有効。加えて意思疎通は肉声でも念話でも全然大丈夫だし、言葉も簡単なものなら話せるわ!』
『成る程! 成る程! アリトン様がお選びになったケルピーは、様々な能力に秀でた全属性魔法使用者ってとこですね!』
『あはは! さすがにそこまでは。複数属性魔法使用者ってところね』
『いえいえ、そんなケルピーが100体も頂けるのですか。心強いです』
『うふふ、じゃあケルピーを渡すね』
マイムがピン! と指を鳴らせば、大きな水柱が立ち、ケルピーが次々と飛び出し、
泉の水面を駆け、泉の周囲に広がる草原に整列して行く。
……やがて、100体のケルピーがずらりと草原に並んだ。
並び終わるとマイムが、ケルピー達へ呼びかける。
『お前達! 彼がお前達の新たな主、リオネル・ロートレック様だよ! 心して仕えるように!』
そんなマイムの呼びかけに対し、ケルピー達は、了解した! と答えるが如く、
ひひ~んん!! といなないた。
「これで良し!」というように頷いたマイムはリオネルへ向き直る。
『補足しておくと、渡すと言っても、これは顔合わせの儀式のようなもの』
『顔合わせの儀式、ですか?』
『ええ、野生のケルピー達は別だけど、アリトン様がお選びになったこの特別なケルピー達は普段、異界にある水宮城の厩舎で、私達ウンディーネの世話を受けて過ごしている。リオネル君がケルピーを何体必要か、念話で呼んでくれれば厩舎から召喚される事となるの』
『成る程、お手数をかけますね』
『ううん、全然お安い御用。ウンディーネは皆、アリトン様の為、喜んでケルピーの世話をし、馴致をしているから』
『ですか』
『ああ、そうそう、アリトン様からご伝言よ。うっかり忘れたらお叱りを受けるところだった、危ない、危ない』
『アリトン様からご伝言ですか、慎んでお聞きします』
『うふふ、じゃあ伝えるわ。ティエラ様と結婚しても、ミリアンや他のお嫁さんと全員一緒に、水宮城へ遊びにいらっしゃい。いつでも待っているから、ですって』
『そうですか! アリトン様のお心遣い深く感謝致します。ありがとうございます。分かりました。自分へ課せられた仕事が済み次第、伺わせて頂きますとお伝えください』
『了解! 私も楽しみにしているわ』
『はい! その際は何卒宜しくお願い致します』
『うふふ、でも、地界王アマイモン様、火界王パイモン様に引き続き、こうやって水界王アリトン様からも数多従士がリオネル君へ送られたら、空気界王オリエンス様も黙ってはいらっしゃらないんじゃない?』
『え!? オリエンス様が?』
『ええ、あの方は風の一族が他の属性の一族へ遅れをとるなんて風評をひどくお嫌いになる。だから鳥の王ジズだけでなく風の従士を更にリオネル君へ送るべく、シルフのリーアへすぐに手配を命じたと思うわ』
『成る程。貴重なアドバイス、ありがとうございます。もしリーア様がいらしたら対応出来るよう心構えを持っておきます』
『ふふ、それが賢明だわ。じゃあ私はケルピー達と一緒にそろそろ行くね。また会いましょう、リオネル君!』
マイムはそう言うと、再びピン!と指を鳴らした。
その瞬間!
100体のケルピーが煙のように消え去った。
そしてリオネルへ向かって、にっこりと笑ったマイムが大きく手を振ると、
再び大きな水柱が立ち上り、彼女の姿を隠し……
水柱が収まった後は、誰もそこには居なかったのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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