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第713話「そう、下手な借りは作らない方が良いのだ」

魔道具店クピディタースを出て、イェレミアス達と別れ、

フォルミーカの街を手をつなぎ、ふたりで歩くリオネルとブレンダ。


リオネルに手を引かれたブレンダは歩きながら「はあ~」と息を吐く。


だが、疲れたという感じではない。


『どうしました? ブレンダさん』


『はい、リオネルさん。胸がいっぱいになってしまいました。何だか昨夜の続きで……夢の中に居るみたいですから』


『夢の中ですか?』


『ええ、こうやって念話を経験して、生まれて初めて精霊の魔人を見たというのもありますが……あんなに恋焦がれていたリオネルさんとしっかり手をつなぎ、今こうして、生まれ育ったフォルミーカの街を歩いている。そしてゆくゆくはリオネルさんと結婚するなんて、まるで夢みたいで、全然信じられないんです……』


ブレンダの言葉にリオネルも同意。


『ですね! 俺も夢を見ているようですよ』


『え!? リオネルさんも、ですか!?』


『はい、前にも少しだけ話しましたが、俺は魔法や勉強が全く出来ない劣等生、友達皆無のボッチ、そして引っ込み思案の臆病な陰キャでした』


『ええ、そうおっしゃっていましたよね』


『です! 魔法学校の女子の同級生とあいさつするくらいで、女性には全く縁のなかったそんな俺が、素晴らしい女性達4人と結婚が出来るなんて、夢を見ているようなんですよ』


『うふふ、私から見ればとても博識な高位魔法使いな上に、強くて優しいリオネルさんがそんなキャラだったなんて、とても信じられないですけどね』


『はい、俺自身も驚いていますし、実感しています。人間は成長し、変わって行くと。そして先の運命なんてどうなるか分からないって』


『それ全く同感です。思い起こせば、努力の積み重ねは無駄にはならない、情けは人の為ならずっていうのが亡き父のモットーでした。勤勉で他者へ優しいリオネルさんはそれを体現した私の理想の男性ですよ』


『ありがとうございます。そう言って貰えるのは素直に嬉しいです。俺はその言葉を励みにして、ブレンダさん達を愛し、愛されるよう努力します。そして全員を一生、更に死後も守り抜くよう頑張ると誓います』


『凄く嬉しいです。私も同じく誓います』


『ただ、ティエラ様の件はまだまだ明かせませんし、ヒルデガルドさんを含めた公式発表まで表向き、ブレンダさんとは親しい女性のビジネスパートナーという関係にさせて頂きます。申し訳ありませんが……』


『いえいえ、昨夜、ティエラ様から念押しされたから、充分に理解し、納得していますよ。うふふ、あくまでも私は親しいビジネスパートナー、なんですよね?』


『はい、だからこうやって手をつなぎ、紳士のマナーとしてエスコートしています』


リオネルがそう言うと、ブレンダは心底嬉しそうに笑い、

ぎゅ!とリオネルの手を握る。


『うふふっ、親しいビジネスパートナーの私を紳士のマナーとしてエスコート、ですよねっ!』


そんなこんなで、リオネルとブレンダは、冒険者ギルドフォルミーカ支部へ。


本日、リオネルが訪問した趣旨だが……

フォルミーカ迷宮からイェレミアスとともに帰還した事、

魔物討伐の申請は、改めて別の支部で行うと告げる為だ。


迷宮からの帰還はともかく、魔物討伐の申請を改めて別の支部で行うのは、

地下庭園でドラゴンどもなどを倒しまくり、

最早、天文学的な金額となる討伐報奨金を、極力抑えるという申し入れをする為だ。


そもそも依頼された以外の魔物討伐に関しても報奨金をギルドが支払うのは、

冒険者達が自発的に魔物を討伐する事でその脅威を軽減し、

各国の治安を維持させ、住民達が平穏に暮らして貰う為だ。


その為、世界各国は冒険者ギルドへ莫大な協力金を支払い、

そこから討伐報奨金が支払われている。


この負担に不満が出ないのは、理由がある。


いかに協力金が莫大でも、たかが知れていると。

何故なら治安維持の為、その都度、大勢の騎士や兵を派遣するよりも全然良い。

自軍に犠牲もない上、遥かにリーズナブルなコストで済むからだ。


それでも……さすがにリオネルが受け取る報奨金は、

冒険者の中では突出し過ぎている。


ドラゴン1体を倒したら、討伐報奨金は少なくとも金貨1万枚以上。

それが100体、更にその数倍、数十倍以上にも及べば、まさに天井知らず。


ランクSとなったリオネルは、自分が受け取る討伐報奨金に上限を設けようと、

ギルドへ申し入れをするつもりなのだ。


ただその申し入れを受け、最終的に決定を出すのは、

総マスターであり、今やソヴァール王国侯爵となった、

ローランド・コルドウェルである。


だから本当はワレバッドのギルド総本部へ赴き、

ローランドへ直接話をする方が断然早い。


しかし、何も告げずそうすると、

プライドの高いフォルミーカ支部ギルドマスター、アウグスト・ブラードは、

「自分が無視された」とへそを曲げるに違いない。


先日びしっ!と釘は刺したが、敢えて要らぬ恨みを買う必要はないだろう。


なので、アウグストへ話を入れ、「筋を通しておく」という事にしたのである。


受付に訪問を告げると、幸いアウグストは在席していた。

担当者が即、連絡を入れたら、急な訪問にかかわらず、

アウグストはすぐに会ってくれるという。


『町長の弟さんである冒険者ギルドマスターですか。私は初めてお会いしますが、緊張しますね』


『ですか。俺がついているから大丈夫ですよ』


そんな会話を交わしつつ、リオネルとブレンダは、迎えを待ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


数分後にアウグストの秘書イクセル・ベックが受付へ迎えに来て……

本館の最上階へ。


そしてリオネルとブレンダは、あいさつを交わした後、

専用応接室でアウグストと向かい合っていた。


やはりというか、アウグストから、

緊張気味に固まっているブレンダとの間柄は尋ねられた。


対して、リオネルは「彼女は宿泊先であるフォルミーカの宿屋山猫亭の従業員で、

このたびイエーラの特別地区で働いて貰う事になった、ビジネスパートナーなのだ」

と答えたら、アウグストは訝しげな視線を投げかけながら、

それ以上追及しては来なかった。


多分、先日の『釘差し』がまだまだ効いているのだろう。


神妙なアウグストは少し雑談をした後、


「さすがですね、リオネル様。イェレミアス様とふたりきりで迷宮の深層に赴かれ、かすり傷ひとつなく、ご帰還するとは」


と、無難な世辞を言った。対してリオネルは、


「まあ、そうですね。で、本日伺ったのは……」


リオネルは、今回の討伐報告をフォルミーカ支部で行わない事。

自分が受け取る討伐報奨金に上限を設けようと、ギルド総本部へ……

総マスター、ソヴァール王国ローランド・コルドウェル侯爵へ、

直接、申し入れをするつもりだと告げた。


リオネルを畏怖しながらも、さすがに世慣れて、勘が鋭いアウグスト。


すぐにリオネルの意図、つまり事前に筋を通してくれた事を察した。


このように腹に一物も二物もあるタイプでも、

自分を立ててくれれば、嬉しいものだ。


アウグストは、あっという間に上機嫌となった。


「リオネル様、何かご入用のものはありませんか? 何でもご手配致しますよ」


「はい、では、冒険者ギルドの講座テキスト全種類を可能な限りの冊数、有償で購入したいのですが」


いつものアウグストなら、用途は?などと聞いて来るだろうが、


「お安い御用です。後で山猫亭へお届けしておきます」


と何も尋ねず、あっさり快諾。


ちなみに「無償で構わない」と言われたが、リオネルは固辞。

講座テキスト全種類総数5千冊、代金の金貨500枚(500万円)を、

所属登録証のカード機能で支払う事に。


そう、下手な借りは作らない方が良いのだ。


「おお! まもなくランチタイムです。急いで兄を呼びますから、ご一緒にいかがでしょうか?」


などと誘って来た。


しかし、リオネルは再び固辞。


「いえ、申し訳ありませんが、急いで山猫亭へ戻り、昼食を兼ね、イェレミアスさんと打ち合わせをしなければなりません。それと講座テキスト全種類総数5千冊は、この後すぐ代価をお支払いし、倉庫からそのままピックアップします。自分は空間魔法を使えますので」


と言い、ブレンダとともにあいさつをして辞去。


秘書のイクセルに案内して貰い、代金を支払い、テキスト5千冊を受け取り、

収納の腕輪へ搬入した。


ぱぱっと、テキスト5千冊が目の前で消え、イクセルはびっくり仰天。


後で、アウグストへ報告が行き、彼も驚愕するに違いない。


ただ、ひどく驚いたのはブレンダも一緒。


ブライム召喚同様、リオネルが行使した魔法にまたまた唖然としていた。


そんなブレンダを連れ、リオネルは冒険者ギルドフォルミーカ支部を辞去。


本館を出て、守衛に一礼し、ギルドの正門を出たふたり。


『さて、ギルドでの用足しと買い物は済みました。まだ買い物は残っていますが、もう時間ですから、昼飯を購入して山猫亭へ戻りましょう』


『は、はい!』


『俺よりブレンダさんの方が美味いテイクアウトの弁当を売っている店を知っていますよね? 良かったらそこへ行きませんか?』


リオネルはそう提案し、つないでいるブレンダの手をぎゅ!と握った。


対して、ブレンダはようやく落ち着き笑顔となる。


『はい!』


と元気よく返事をし、今度はリオネルを先導するように歩き出したのである。

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