第705話「そんな状況を鑑みれば、ドヴェルグ族から見て、 今の俺は犬猿の仲である相手の身内に等しい」
ぱちん!と、ムラマサを納剣したリオネルは転移魔法で撤退。
ブライムの傍らへ、ぱっ!と現れ、
『てな感じだ、ブライム。残りの5体は任せた! 宜しくな!』
と、笑顔で告げた。
対して、ブライムも微笑み、
『は! お任せあれ!』
そう、きっぱり言い切るとダッシュ!
残りのノーマルオーガ5体へ肉薄すると、シミターを振りかざし、
しゅばっ!しゅばっ!しゅばっ!しゅばっ!しゅばっ!
と、まるで舞うかのような軽快なステップで、あっという間に斬り捨てた。
斬り捨てた後、シミターを鞘へ納め、口をすぼめ、火の息を吹きかける。
ノーマルオーガ達の死骸はあっという間に塵と化した。
そしてブライムは回れ右し、ささっとリオネル、ティエラの下へ戻り、跪く。
自分の身体能力と技を活かした見事な手際、
妹のルベルもそれを見て満足そうに微笑んでいる。
『リオネル様! ノーマルオーガ5体の討伐、完了致しました!』
『お疲れさん! キレッキレなお前の身のこなしに加え、卓越した剣さばき、見事なものだ』
『は! お褒めに預かり恐縮至極!』
『次は連携して倒してみようか』
『御意!』
という事で、リオネルとブライムは手分けしてノーマルオーガ10体を討伐。
『お待たせ! では私達の番よ、ルベル。同じように手分けして倒すから』
『はい! ティエラ様!』
それから、しばし経ち……再びノーマルオーガ10体が現れ、
まずティエラが湾曲した古代の片刃剣――マカエラを振りかざし、
ノーマルオーガ5体を、
ルベルは兄ブライムと同じくシミターを振りかざし、
ノーマルオーガ5体をあっさりと倒した。
ふたりとも流れるような身の動き、『華麗』という言葉がぴったり。
3人の戦いぶりを見て、リオネルはすぐに分かった。
ティエラは勿論だが、ブライムとルベルも、まだまだ余力充分であると。
そして3人の剣さばき、体さばきの視認と観察は、
ユニークスキル『見よう見まね』の発動を呼び……
向上心の塊であるリオネルは、あれやこれやと、すぐに取り入れ、
元々我流で剣聖ブレーズ・シャリエの剣を模倣したリオネルにとって、
更なる能力の底上げにもなった。
探索と戦いを続ける中、ティエラはその能力アップにすぐに気づいた。
柔らかく微笑む。
『うふふ、リオ。更に強くなったわね』
『ですかね』
『ええ! 戦いぶりを見れば、一目瞭然! 妻の私には、はっきり分かる。地の精霊的に言えば、乾いた砂が水をどんどん吸い込むように成長しているわ』
『ありがとうございます! でもまだまだです。更に上を目指しますね』
『了解! 期待しているわよ!』
ティエラだけではない。
ブライムとルベル、炎の魔人兄妹もリオネルの実力をしっかりと認め、
主として仕えて行く決意を新たにしたようだ。
そんなこんなで……気心が知れて来たリオネル一行は順調に討伐と探索を重ね、
鋼鉄製、岩石製のゴーレムと宝箱を数多ゲットしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
階層を進んだリオネルは、第50階層へ到達。
ここで、ブライムとルベルに対し、
変身魔法可否の問いかけをすれば、得意中の得意だと言い切る。
であればと、元々人間族っぽい炎の魔人兄妹に、人間族へ擬態して貰う事に。
結果、兄のブライムは、ダンディなイケメンおじに、
ルベルはきりりとした男子顔の女傑に、変身したのである。
……という事で、リオネル一行は、小ホールで休憩し、先へと進む。
リオネルとティエラは勿論、隠形&忍び足。
敏捷なブライムとルベルも気配を限りなく消し、音も立てずに歩く。
迷宮を歩むリオネルは、以前ここで人間族の冒険者クランに遭遇したと、
思い出した。
その時はランクAだったが、今やランクSのレジェンドと呼ばれる、
冒険者達の頂点に立ったと実感する。
ティエラからも、強くなったと言われたが、まだまだまだまだ物足りない。
もっともっともっともっと上を目指す。
他者に口外は出来ないが、
所持する世界の至宝『ゼバオトの指輪』からも、文句なしに認められる術者になる!
と、新たに決意するリオネルである。
地下51階層からは、魔導灯が設置されていない。
真っ暗闇である。
リオネルはとても夜目がきく。
ユニークスキル『見よう見まね』で得た猫の能力のお陰だ。
また魔力を感知し、真っ暗闇でも敵の動きを把握する事が可能だ。
ティエラも同様だと聞いていたが、ブライムとルベルも問題なしという。
これで炎の魔人兄妹が夜戦も可能な事が分かる。
だが、探索には明かりがあるに越した事はない。
『ルークス!』
ぽわ!
リオネルが照明魔法の言霊を念じると、
極力魔力を抑えた『魔導光球』が「そっ」と闇に浮かび上がった。
リオネルは記憶を手繰る。
確か、フォルミーカ迷宮地下51階層から60階層は、完全にオーガの帝国だったな。
出現するのはオーガのみ。
ノーマルタイプのオーガに、上位種は、オーガソルジャー、
オーガオフィサー、オーガカーネル、オーガジェネラル、
そして奴らの王と言われるオーガキング……
オーガ全般に無双状態となるユニークスキル『オーガハンター』を備えた自分に、
この超強力メンバー。
いつも心がけている。
決して油断はしないと。
だが、探索進行自体に問題はナッシング。
魔法、スキル、剣技、格闘技、リオネルの指示に従い各々が能力を発揮。
さくさくさくっと、出現するオーガキング以下どもを倒しながら進んで行く。
時間の関係もあり、倒した魔物は葬送魔法で塵にし、宝箱は罠のみを解除、施錠状態のまま、収納の腕輪へ放り込む。
そんなこんなで、60階層へ到着。
リオネルは、歩きながら考える。
……ええっと、地下61階層から70階層は、睡眠誘因、毒、麻痺、石化など、特殊攻撃を主とする、曲者どもが出現するんだったな。
出現するのはテイムしているアスプ、そしてコカトリス、バジリスク、
リザードマンか。
以前探索した時、テストしておいたけど、
究極防御魔法破邪霊鎧の効果で、
奴らの睡眠誘因は無効、毒も無効、麻痺も無効、石化も無効……一切効かない。
ティーも同様だと聞いたけど、一応、ブライムとルベルにも確認の上、
3人へ破邪霊鎧をかけておこう。
探索の手順は変えず、ついでだからアスプもテイムして、補充しておくか。
考えをまとめたリオネルは、ティエラ達3人へ、もろもろの概要を伝え、
破邪霊鎧を発動した。
ちなみに、聞いたところ、ブライムとルベルは、睡眠誘因、毒、麻痺、石化に関し、無効とまではいかないが、結構な耐性があるという。
ならば、破邪霊鎧をかけておくのは、賢明である。
『さあ! 行きますか!』
『『『了解!』』』
という事で、返事は一斉、息もぴったり。
一行は改めて出発、61階層へ……
出現したコカトリス、バジリスク、リザードマンをかる~く一蹴。
敵は睡眠誘因、毒、麻痺、石化を仕掛けて来たが……
眠くならず、毒も受け付けず、身体が痺れたり、石になったりはしなかった。
そう!
やはり敵の『特殊攻撃』は一切効かず、足止めにもならなかったのだ。
そうこうしているうちに、リオネル一行はアスプに遭遇。
以前、テイムした事があるので、対処はスムーズである。
リオネルは、フリーズ、威圧、大地の束縛を立て続けに使う。
アスプ達は、縛られたように身動きが出来なくなる。
リオネルは師モーリスから伝授された言霊を言い放つ。
『……古より生きる魔の者どもよ! 我が言霊を聞き、我に従えっ! お前達の心を、身体を、我へ、一切渡すが良いっ!』
リオネルは心の声でそこまで詠唱し、魔力を更に込め、同じく決めの言霊を吐く。
『……支配っ!』
すると!
「戦う気」、「リオネル達を殺す気」満々だったアスプどもが、
全て「がくっ!」と脱力。
戦闘態勢を解いたのだ。
リオネルの言霊で心の根幹を縛られたのである。
ここでリオネルは『テイム』の仕上げへと入る。
『忠実なる魔の者よ、我に従え! さすれば、汝達の道は開かれん!』
対して、アスプからは迷いのない『従属』の波動が伝わって来る。
『よし! お前達は、これから俺の仲間だ。先輩も居るから、宜しく頼むぞ』
更にリオネルが呼びかけると、アスプ達は親愛の情を示す波動も送って来た。
パーフェクトな仕上がり、以前と同様に『テイム』は見事成功したのである。
その後も、リオネルはティエラ達とともに、テイムとバトルを継続。
数多のアスプを『従士』とし、第70階層へ達し、更に下層へと降りる。
そして71階層から80階層では、青銅製、ミスリル製のゴーレムを、
81階層から90階層では、銀製、水晶製のゴーレム、加えて岩石製のガーゴイルも、
ガンガン倒し、収納の腕輪へ搬入して行く。
そういえばと、リオネルは記憶をたぐる。
……87階層でドワーフことドヴェルグ族達を救ったっけ。
クランリーダーは、ランクBのランカー冒険者バルトロメイ・アンドルリークさん、
帰国したら、ドヴェルグ族、族長ブラーズダ・バルヴィーン様へ、
事の経緯を報告すると言っていた。
ティーとのやりとりで、イェレミアスさんが、
ドヴェルグ族と仲直りをする事になっているけど……
少し前にイェレミアスさんから、相談があった。
この件で、手助けを、大いに尽力してくれないかと。
まずはドヴェルグ族との橋渡し……俺が、しなくちゃいけないな。
ただあの時、俺はフリーの冒険者。
アールヴ族とは何のつながりもない。
だからドヴェルグ族と、親しく出来たと思う。
しかし、今は全く違う。
俺はイエーラの政治顧問で、国内の改革に尽力。
事あるごとに、ソウェルたるヒルデガルドさんと行動を共にしている。
彼女の様子、俺への接し方を見れば、
俺はヒルデガルドさんの恋人だと思われているに違いない。
今回の旅でもイェレミアスさんが同行しているのを目撃され、
ドヴェルグ族の国、ロッシュへ報告が行っている可能性もある。
そんな状況を鑑みれば、ドヴェルグ族から見て、
今の俺は犬猿の仲である相手の身内に等しい。
彼らを救助した恩など、とっくの昔に吹き飛んでいるかも。
……まあ、良いや。
とりあえず、今日の探索が終わったら、いろいろと考えよう。
以上を、さくさくっと考えたリオネルは、
自分の拳をぎゅ!と握り、歩みを進めたのである。
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お持ちのスマホでお気軽に読めますのでいかがでしょう。
最後に、
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