第699話「そんなリオネルの心を見抜くように、ティエラはまた柔らかく微笑む」
読者様へ。
2025年、本年も宜しくお願い致します。
新作が連載中です。
⛤『無能と呼ばれた俺が思いもよらず超覚醒!異能冒険者達と組み、成り上がる話!』
中世西洋風異世界を舞台にした成り上がり冒険ファンタジーです。
一気に読めます!
既存作同様に、ご愛読、応援を何卒宜しくお願い致します。
とりあえず、今回の地属性魔法の修行においてリオネルは全てに合格。
与えられた課題を見事にクリアした。
ティエラは悪戯っぽく笑う。
『うふふ、リオ。じゃあ、お待ちかねのお楽しみタ~イム。皆の下へ戻る前に、ふたりきりで少しイチャイチャ、ベタベタしようか?』
『……ティエラ様とふたりきりでイチャイチャ、ベタベタ、ですか?』
『うふふ、リオのフルパワーだとさすがにまずいから、私をそっと、抱きしめてもOKだよ!』
『ええっと……』
リオネルは口ごもり、頬を少し赤くした。
愛し合う女子と、語り合うだけではなく、更にスキンシップまでするなど、
生まれて初めての経験だから。
『うふふ、照れ屋ね、リオは。他の女子達と恋愛する前に、私と少し練習して、経験を積んでおいた方が良いわ』
『は、はい』
『念の為に言うと、女子への接し方という点では、基本的に、普段のヒルデガルドへのリオの接し方は間違っていないと思うよ』
『で、ですか』
『ええ。女子と向き合った時、男子は優しく穏やかなのは勿論だけど、堂々としていて、余裕のある態度が望ましいもの』
『成る程。念の為、再度の確認ですが、俺が今、ヒルデガルドさんへ接する態度はOKって事ですね』
『そうよ。おどおどなんてしちゃ、絶対にダメダメ』
『まあ、そうですね。ヒルデガルドさんに限らず、俺が変にびびって、一緒に居る相手を不安にさせたくはないです』
『ええ、普段のリオの立ち居振る舞いを考えれば、恋愛に関しても基本的に問題はないわ。でもね、真剣にガチ恋愛するんだったら、リオはもっともっと女子慣れした方が良いと思う』
『真剣にガチ恋愛するんだったら、俺はもっともっと女子慣れを……ですか』
『うん、女子とふたりきり、甘い雰囲気のシチュエーションで、男子はいかに堂々として、余裕のある態度をとれるか、って事ね』
ティエラから言われ、リオネルは、イメージする。
大好きな女子と一緒、ふたりきりで、堂々として、余裕のある態度を取れるか、と。
『むむむ、余裕のある態度をとれるか、って尋ねられたら、俺は大丈夫です、ノープロブレム、問題ありませんと自信を持って答えられない。本当に情けないですが』
『でしょ? だから頑張って今のうちに経験を積んで! 私みたいな勝気な子でも、いざという時は頼もしい男子に、ぐいぐいリードして貰いたいと思うものよ。まあ、それも個人的な意見だけどね』
『いやいや、ティエラ様でさえ、いざという時は頼もしい男子に、ぐいぐいリードして貰いたいと思うのですか、いろいろと勉強になります』
『という事で、リオ。今後はいろいろとお姉さんが優しく教えてあげる』
『はい、ご教授ください、何卒宜しくお願い致します』
『じゃあ、私、本来の姿に戻るね』
『え!? 本来の姿!? ティエラ様本来の姿、ですか?』
『うん、魔力消費の関係で、現世で活動しやすいよう人間族10代少女の姿をしていたけど、本当はこうなの、ほら!』
ティエラはピン!と指を鳴らした。
するとすると、ぼん!と白煙が立ち上り、一旦彼女の姿を包み込み……
しばし経ち、白煙が消えてから現れたのは、
健康的な褐色肌をしたスタイル抜群なボンキュッボン。
同じ絶世の美女でも……
色白スレンダーで、透明感あふれるヒルデガルドとはタイプが全く違う、
ゴージャスかつミステリアスな雰囲気をまとう、
エキゾチックな顔立ちをした絶世の美女であった。
出で立ちは変わらず複雑な刺繍が施された茶色の革鎧。
身長はぐっと伸びて、170㎝弱くらいだろうか、
肩まで伸びた栗色の髪がさらっさらっ。
切れ長で、美しいとび色の瞳も変わらない
……人間族でいえば、20代前半くらいに見える。
愛らしい可憐さから、ゴージャスかつミステリアスへ……
あまりの変貌ぶりにリオネルは圧倒される。
『ええええ!?』
『ふふ、リオ、驚いた? 人間族的に言えば、前の姿より10歳くらい年上となった大人の女って感じでしょ?』
『は、はい!』
『修行を積んで同じくらいの魔力消費で済むようになったから、これからは本来の、この姿で行くからね』
『わ、分かりました』
『さあ、リオ、おいで! それと、ティエラ様ではなく、愛称のティーって呼んで! 敬語もケースバイケース、必要最低限で構わないわよ』
柔らかく微笑んだティエラはそう言うと、ゆっくり両手を広げる。
「私の胸へ遠慮なく飛び込みなさい」という受け入れの意思を示していた。
ためらう事はない。
『はい! ティー!』
リオネルは声を張り上げると、ティエラの胸へ飛び込んで行った。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
胸へ飛び込んだリオネルの背へ手を回し、
ティエラは優しく抱きしめてくれた。
柔らかく甘い香りのするティエラの身体。
ふんわり優しく包まれているという表現がぴったりである。
これが地母神になろうとする地の精霊の母性……なのだろうか?
ただ……ティエラに、抱きしめられていると、
何故だか、これまでの自分の人生が走馬灯のように甦り、
リオネルの目頭が熱くなって、じわじわと涙が出て来た。
『す、すみません!』
思わず謝るリオネルへ、ティエラは力を入れ直し、改めてそっと抱きしめてくれる。
『ふふ、泣いても全然構わない。良いのよ、リオ、むしろ思い切り泣きなさい』
『は、はい!』
嚙みながら返事をしたリオネルへ、ティエラはささやくように話しかける。
『リオは今まで良く頑張ったわ。本当に良く頑張った』
『…………………………………………』
「ああ、泣くなんて本当に情けないなあ」と思いながら、
リオネルは涙が止まらない。
……黙って、ティエラの言葉を聞こうと思う。
そんなリオネルへ、ティエラは話を続ける。
『家族の中で、唯一愛してくれたお母様は幼き頃に死に別れ、父親、兄ふたりからは、血がつながっていると思えないくらい、非道な扱いを受けた』
『…………………………………………』
『確かに、甘い部分があり、ひどく弱虫だったリオ。父、兄、同級生、その他もろもろ、口さがない、他者を貶める事で喜びを覚える下劣な卑怯者どもが、臆病な貴方を徹底的に蔑んだわ』
『…………………………………………』
『ゲスな父と兄ふたりは、家の恥だ、凡愚だと貴方へ一方的にレッテルを張り、しまいには、家から追い出してしまった』
『…………………………………………』
『だけど、家を追い出されたリオは己を省みて、客観的に見つめ直し、冒険者となって旅立ち、懸命に努力して、才能を開花させ、人生を劇的に変える事が出来た』
『…………………………………………』
『このままではいけない! 人生を絶対に諦めてはいけないんだ! 自分の至らない点を認識して変え、足りない必要な部分を新たに学び、人生を最初からやり直そう!! 追放され、ひとりぼっちでそう決めた貴方の勇気は称賛に値する。そして、継続こそ力なりと、地道に続けたひたむきな努力を、誇って良い、素晴らしいと私は思う!』
『…………………………………………』
『元々持っていたリオの優しさ、思いやり、誠実さ、勤勉さに、更に勇気、向上心が加わり花開いた素晴らしい大器たる才能。まるで呼び寄せられるように、様々な種族、数多の者達と出会い、固い心の絆を結ぶ事が出来たわ』
『…………………………………………』
『地の精霊たる私ティーも、そのひとり』
『…………………………………………』
『大丈夫。貴方はもうひとりじゃない。邂逅した数多の者達と支え合い、この世界を生きて行くのよ』
『…………………………………………』
『そして! この現世は勿論、更に来世だって、リオ! もし生まれ変わっても! 私ティーは貴方とず~っと一緒。決して離れない! 永遠に添い遂げて行くわ!』
ティエラの絶対的パートナー宣言に、リオネルは感極まり、思わず彼女の名を呼ぶ。
『ティー!!』
対して、しれっといきなり、ティエラがおねだり。
『うふふ、キスしてくれるリオ』
『え!?』
『正直に言うよ。これから貴方とするのは私の生まれて初めてのキス、初恋のファーストキス』
『ティー……』
『リオ、貴方にとっても、パートナーとして! 心と心の絆を結んだ者同士として!であれば! 唇と唇で触れ合う、生まれて初めてのキス、……だよね』
『ティー……』
『パートナーとして、リオと生まれて初めてのキスをするのは私の運命なの。さあ、顔を上げ、目を開けて』
ティエラに言われ、リオネルは顔を上げ、目をゆっくりと開けた。
リオネルを見つめるティエラは、やはり柔らかく微笑んでいる。
癒される、とリオネルは思い、涙だらけであろう顔も少し恥ずかしいと思った。
そんなリオネルの心を見抜くように、ティエラはまた柔らかく微笑む。
『うふふ、大丈夫。私を真っすぐ見つめ、貴方の唇で、そっと私の唇に触れて……』
『…………………………………………』
古い言い方かもしれないが、ここで決めねば『男』ではない。
軽く息を吐いたリオネルは、ゆっくりとティエラへ顔を寄せ、
そ~っと、自分の唇で彼女の唇へ触れた。
初めてのキスは果実のように甘い味……そしてティエラの唇はとても柔らかい。
とっても素敵だ、これが、愛し愛される相手とのキス……なんだな。
心の底から感動したリオネルは、夢ではなく現実である事を確認するかのように、
しなやかなティエラの身体をそっと抱きしめていたのである。
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