第687話「わお! それ、ナイスアイディア!」
ミノタウロスが落とした宝箱の中身は、
鋼鉄製スパイク付きメイス、同じく鋼鉄製の大兜、ガントレット、円盾、
鋼鉄のインゴット、スタミナアップの魔導ポーションであった。
マンティコアの時同様、たいそうなお宝ではないが、
深層階における宝箱の収穫としては充分なものだ。
それを認識しているらしく『順調ですな!』とイェレミアスは大喜び。
そして……得た収穫をリオネルは色分けした麻袋へ分別し、収納の腕輪へ搬入した。
時間がある時、リオネルは可能な限りそのように処理していた。
後で整理しやすいようにと、心がけ、ずっと続けている整理整頓法である。
さてさて!
次の『獲物』だが、既にリオネルの索敵に捕捉されていた。
『……ええっと、次は300m先の地点に居るミスリル製ゴーレムが4体です。各々2体ずつ倒すという事で。粉々にするのもありですが、先日ご協力して頂いたように一応俺、ゴーレムを捕獲、再利用していますので、ご考慮して頂ければありがたいです』
リオネルが言えば、ティエラがニッと笑う。
『だって! アリスティド、今の聞いた?』
『は、はいっ! 聞きましたあ! しっかりと!』
『だったら! ゴーレムのどこかへ刻まれた真理の文字だけにダメージを与え、機能停止になるような攻撃が望ましいわね!』
『で、ですねっ! ティエラ様の仰る通りですっ!』
『宜しい! だから、マンティコア、ミノタウロス同様、いかに、ほぼ無傷で倒すかが採点基準ね』
『は、はいっ! 重々、心得ますっ!』
とアリスティドは大声で返事をし、
『だな? リオネル!』
と、しかめっ面で同意を求めた。
対してリオネルは柔らかく微笑み、
『はい! ティエラ様、アリスティド様』
ふたりへ同意を告げ、倒しっこ勝負は再び開始される事に。
『アリスティド様、また先攻で行きますか?』
『う、うむ! と、当然だ! せ、先攻で行く!』
『了解です。では、100m手前に全員で転移します。5、4、3、2、1、転移!』
瞬間!
リオネル一行は、ミスリルゴーレム4体から100mの地点へ転移。
ゴーレム4体もリオネル達に気付き、接近して来た。
それらをじっと凝視のアリスティド様。
どうやら、先頭2体のゴーレムに刻まれた真理の文字位置を探っているようだ。
そんなアリスティドへ、リオネルは言う。
『では、アリスティド様、準備が整い次第、お願いします』
『お、おう! じゅ、準備は万端だ! さ、先に行くぞ!』
と、噛みながら声を発したアリスティドは、
『ふん!』
と気合を入れ、迷宮の床をダン!と蹴りダッシュ。
あっという間にゴーレム4体へ肉薄すると、
『だあっ!』
と、1体目のゴーレムの脳天へ、
ごつい鋼鉄製ガントレットを装着した右拳で、どかん!一撃。
そして、バックステップし、態勢を整えると、
2体目のゴーレムの脳天へも、どごっ!と一撃。
がく、がくっと2体のゴーレムは膝から崩れ落ちた。
先ほど同様、アリスティド様の攻撃をずっと見つめていたリオネル。
こちらはミスリル製のガントレットを装着済み。
うん、と納得したように頷くと、アリスティドと同じく、
迷宮の床をダン!と蹴り猛ダッシュ!
但しアリスティドを『剛』とすれば、リオネルは『柔』
流れるような華麗な動きで蝶のように舞い、
かん! かん!と蜂のように、ゴーレムの脳天ど真ん中へ拳を鋭く打ち込み、
残りのゴーレム2体を、あっさりと行動不能にしたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
結局……
リオネルとアリスティドの魔物倒しっこ勝負は、またも『引き分け』となった。
出現した宝箱の中身は、
『ミスリルのインゴット』に『スタミナアップの魔導ポーション』などなど。
イェレミアスが大喜びしたのは言うまでもない。
そのまま……リオネルとアリスティドは、勝負を続行するが、
次の、そして次の、そのまた次の勝負も引き分けに終わった。
更に更に勝負を行うが……50戦しても決着はつかず。
そんなこんなで、一行は探索の舞台を121階層へ移し、
ドラゴン、巨人族との戦いへ。
しかし、リオネルとアリスティドが、
ドラゴン、巨人を拳一撃でノックアウトする『引き分け』は、なおも続き……
結果、イェレミアスの欲する宝箱の中身は順調にたっぷりと確保出来たが、
魔物の倒しっこ勝負は何と!100戦100引き分け。
そしてティエラとイェレミアスは、
『リオネル優勢だけど、おまけで引き分け!』
『うむ、リオネル様の方が優勢だと思いますが、ほぼ引き分けです!』
と、全く同じ判定をず~っと繰り返した。
当然、負けず嫌いのアリスティドは、ひどく不満顔でぶ~たれていた。
しかし、ここでティエラが言う。
『アリスティド』
『はっ、はい! な、何でしょうか、ティエラ様』
『真実を知らしめる為に、リオと倒しっこ勝負をさせたけど。まだ理解出来ないみたいね』
『と、申しますと?』
『あんた、もういい加減に諦めなさい!』
『は!? あ、諦める!?』
『そう! きっぱりと諦めて潔く降参して!』
『むうう、それはないでしょう! ず~っと引き分けなのに、きっぱりと……潔く我が降参するのですか? ど、どういう事でしょうか、ティエラ様!!』
『もう! 100回も戦ったのに本当に分からないの?』
『わ、分かりません!』
『アリスティド! あんたは、全力、フルパワーで戦っているでしょ?』
『ええっと……、まあ、さすがにドラゴン、巨人へはそうですね』
『けどさ、リオはまだまだ本気を出していないよ』
『は!? リオネルが、まだまだ本気を出していない!? ま、まさか!?』
『まさかじゃないわ、アリスティド。あんたは分からないの?』
『むううう…………』
『私には分かるよ。ドラゴン、巨人族を倒すリオの力加減は……そうね……全力のうち、せいぜい1割っていったところかしら』
『な、な、な!!?? ぜ、ぜ、全力のうち、い、1割……』
『ええ! リオが本気のフルパワーで一撃を加えたら、ドラゴンでさえ、粉々に砕け散る』
『リ、リオネルが本気のフルパワーで一撃を加えたら……ドラゴンでさえ、粉々に砕け散る……』
『ええ、リオはパワーを極力抑え、速度、円滑さ、そしてコントロール重視で攻撃しているのよ』
『むう!! うううっ!!』
『魔法、スキルありなら勿論リオの圧勝になる。だけど、しばりを付けた単純な力勝負でもね、こういう結果になるの』
『た、単純な力勝負でも……』
『そうよ! この際だから、ばらしちゃうけど……正直に言えば、今のリオのフルパワーはね、私ティエラを超えている。もしかしたら私のお父様と同じくらいかも』
『ま、ま、まさか!?!? ア、ア、アマイモン様と互角うう!?!?』
『事実よ! こんな事、嘘をついてもしょうがないわ。それと、アリスティド、あんた肝心な事を忘れてるでしょ?』
『肝心な事?ですか』
『そうよ! あんた、自分で言ったでしょ? リオに召喚されて生前より強くなったって』
『あ!?』
『あ!? じゃないわ。自分でも分かってるでしょ? 生前の能力とは比べ物にならないくらい自分が強くなってるって』
『う、あ……』
『そもそも! 生前のあんたじゃ、リオには到底敵わない、これは、はっきりと認識してるでしょ?』
『………………………………』
『そしてアリスティド、今のあんたはね、死んでから英霊として昇華し、全ての能力が相当ビルドアップした上、超大賢者レベルのリオの召喚で更にかさ増しされてる。生前の数十倍は強くなってるの』
『………………………………』
『そのとんでもない能力のフルパワーでも、能力を大幅に抑えたリオとようやく互角なのよ』
『う……』
『分かった? いい加減、現実を直視しなさい! あんたがリオと何度勝負しても、全く歯が立たないわ』
イェレミアスも微笑み、興味深そうにやりとりを見守っていた。
と、ここで『はい!』とリオネルが挙手。
発言を求める。
『うふふ、何? リオ』
『はい、アリスティド様にご納得して頂くよう、最終戦は俺との腕相撲勝負で決めませんか?』
リオネルの『提案』を聞き、ティエラは笑顔でポンと手を叩く。
『へえ! リオとアリスティドの直接タイマン勝負の腕相撲か! わお! それ、ナイスアイディア!』
……と、いう事で!
リオネルとアリスティドは、腕相撲で決着をつける事に。
このような場合、冒険者達は酒樽を『闘技場』とするのだが、
頑丈とはいえ木製の酒樽はもたないだろう。
それゆえ、寝そべって大地に肘をつけ、がっつりと腕を組んだふたり。
『うふふ、ふたりの肘押しで迷宮の底が抜けないよう、私が強化しておいてあげる』
そんなティエラの気遣いもあり……いざ、勝負!
『はい! スタート!』
ティエラに真実を知らされたものの、諦めず、挫けず、
よし!とばかりに気合を入れたアリスティドであったが……
『う、うう……う、動かぬ!!』
そう、いくらアリスティドがフルパワーで力を込めても、
組んだリオネルの腕は微動だにしない。
さあ、次はリオネルの番である。
『では……行きます』
リオネルが淡々とした声をかけた、その瞬間!
だむ!
と鈍い音が響き、アリスティドの腕はあっさりと大地につけられていたのである。
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