第684話「うふふ、りょうか~い! 任せて、リオ! 貴方の命令なら、私がイェレミアスをしっかりと守ってあげる!」
ゴーレム討伐、ドラゴン討伐という『課題』を順調にクリアしたリオネル達。
本拠地たる古代都市居住区へ帰還してからは、
リオネルの作る各種料理とストックしてあった飲み物で宴を楽しみ……
宴の後は、4人で存分に魔法談義、バトル談義に花を咲かせ……
明日の探索についての打合せも行う。
ちなみにティエラ、イェレミアスは、特に不満はないが、
アリスティドは、自分の思うように戦えず、少しストレスがあるようだ。
クランリーダーとして、リオネルが言う。
『2日連続で俺の課題クリアに付き合って貰いましたので、明日はイェレミアスさんの課題クリアの番――迷宮の素材収集を行おうと思います』
賛成だとばかりに、無言で頷くティエラとアリスティド。
イェレミアスが挙手し、言う。
『ありがとうございます。ただ迷宮内の素材と言っても様々ですな。私の基準では、リオネル様と共同で倒したドラゴンの死骸など魔物の部位から、宝石の原石、地下庭園の果実までが範疇で、千差万別だと言えますぞ』
『成る程、いろいろと収集したいのですね?』
『そしてですな、決して素材とは言えませんが、私がこれまで行わなかった宝箱の探索、開放を行い、故国イエーラの為、価値あるレアもののお宝も回収したいと思っています』
『宝箱のお宝もですか?』
リオネルが聞けば、イェレミアスはじっと見つめ、言う。
『はい、ここには配下もおりませんし……この際ですから、正直に申し上げます』
『正直に、ですか?』
『はい! 正直に本音を申しますと、他のものは二の次で、迷宮における宝箱の探索が第一目的なのです』
『迷宮における宝箱の探索が、第一目的なのですか?』
『はい! 私の希望は独特な雰囲気の迷宮内で宝箱を開け、宝箱の中身を、それも素晴らしいお宝を獲得出来ればと!』
『了解です。イェレミアスさんのご希望を尊重します』
『あ、ありがとうございます、リオネル様』
『いえいえ、では迷宮における宝箱の探索を最優先します。ただ上層階、中層階では宝箱の中身のクオリティが、がくんと落ちるので、深層階でご希望のレアものだけを狙いましょうね』
……リオネルの話は冒険者の『常識』である。
宝箱は迷宮の片隅に「ぽつん」と置き捨てられたようにあったり、
魔物を倒した後に出現したモノ等々、様々なパターンで得る事が出来る。
しかし極めて浅い迷宮上層階の宝箱に関してはショック、100倍!
罠が無しに大喜びし、開放しても、スカの空っぽ! ……が殆ど。
もしも『戦利品』が入っていたとしても、
「お宝だあ! 取ったど~!」とは到底言えないような、
中古っぽい汚れた棍棒、廃材で作られたような安っぽい魔法杖、
果てはすぐ廃棄処分にするような半壊状態の武器防具、
異臭付きの毒々しい色のポーション、
賞味期限を過ぎたような薬草などが8割以上……
『価値のあるお宝』はほぼ『皆無』、
万が一状態が良くても中身は安価なものばかり。
また、たとえ難解な罠が仕掛けられていても中身は変わらないのだ。
リオネルはカミーユとともに、英雄の迷宮で散々それを経験し、
単独で入ったフォルミーカ迷宮においても、
いくつか試験的に開放した宝箱が全然ダメ。
中層階においても罠解除の労力に全く合わないので、
上層階、中層階の宝箱は、ほぼスルーしているのだ。
つまりある程度、深層階において宝箱の探索、開放を行わないと、
駆け出しならいざ知らず、上級冒険者的には「割に合わない」のである。
『まずは地下111階層から120階層の深層階――『増援、加勢が現れる混沌のフロア』で宝箱の探索と発見、罠の解除、開錠、開放を行い、中身を確保します。ちなみに俺の探索を視点で観察していたイェレミアスさんはご存知でしょうが、俺には解除、開錠スキルがありますから、シーフ職を担います』
『おお! ありがたいです!』
『ええ、その後で時間が許せば、ドラゴン討伐を実施した121階層から149階層の地下庭園で、超レア狙いの宝箱探索と並行し、様々な種類の素材収集を行いましょうか』
リオネルの提案を聞き、イェレミアスはにっこりと笑う。
『そうして頂ければ尚更ありがたいです』
『いえいえ、それくらい、お安い御用ですよ。ただ時間切れの場合は、改めて後日という事にしましょう』
『分かりましたぞ、それでリオネル様』
『はい、何でしょう?』
『実は、年甲斐もなく、お恥ずかしい話なのですが……宝箱の探索は、イレギュラーで何が出て来るのか分からないので、子供のようにわくわくするのです。特に迷宮で宝箱を開けるドキドキ感がたまりません!』
『成る程、イェレミアスさんのお気持ちは、よ~く分かります』
『おお! お分かりになって頂けますか! 何せクラン助っ人の際は、メンバーのシーフ職が宝箱を発見しても、臨時雇いの立場では獲得する権利などなかったのです。そして単独受注の際は私自身のシーフスキルの欠如から、罠が仕掛けられた鍵付きの宝箱を発見しても、罠の解除は不可能でした。それゆえ、涙を呑んで宝箱の開放、回収は全てスルーしておりましたからな』
イェレミアスの宝箱熱望の理由は、意外ともいえるカミングアウトで発覚した。
笑顔のリオネルは頷き、言う。
『成る程、分かりました、じゃあ明日は遠慮なく思い切りガンガン行きましょうね』
『ありがとうございます』
こうして、リオネルとイェレミアスの会話が終わった。
更にリオネルは、ティエラ、アリスティドも交え、
役回り、隊列などを3人で相談し、合意を得たのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
翌日……
新たな役回り、隊列に変更したリオネル一行は、古代都市居住区を出発。
地下150階層経由で、地下111階層小ホールへ転移、早速探索を開始する事に。
リオネルの照明魔法に照らされる一行。
先頭が盾役兼戦闘役のアリスティド、その背後にシーフ職兼戦闘役のリオネル。
中堅にイェレミアスの護衛を兼ねる戦闘&回復役のティエラ。
最後方に魔法攻撃&後方支援役のイェレミアスである。
補足しておくと、アスプ、リザードマン、バジリスク、コカトリスなどの特殊攻撃系、青銅製、ミスリル製、銀製、水晶製の各種ゴーレム、
ゴーレムと同じ疑似生命体のガーゴイル……
そして、ミノタウロス、狼男ワーウルフ、リザードマン、キマイラ、マンティコアの獣人、合成魔獣のパワー系。
これらの魔物が混在して現れ、
戦闘の途中で「増援、加勢が現れる」のだ。
先頭に立ったアリスティドが背を向けたまま、背後のリオネルへ念話で呼びかける。
『おい、リオネル』
『はい、何でしょうか、アリスティド様』
ティエラに締められたとはいえ、アリスティドはソヴァール王国開祖。
いくら召喚主とはいえ、必要以上にリオネルへ、へりくだる事はしない。
『出発前の打合せで確認済みだが、念の為もう一度聞こう。今日は我慢せずとも良いのだな? 我が思う存分ゴーレムどもをぶちのめしても』
『はい、出来ればアスプだけ回収希望ですが、無理は言いません。ゴーレム以外にも獣人やら、合成魔獣やらいろいろ出現しますので、構わずぶっとばしてください』
『うむ! 敵が居るのにわざわざ回避するのもナシだな』
『はい、探索終了時間の許す限り回避しません』
『うむうむ! 良いぞ!』
『ええ、ゴーレム討伐は労働力確保、ドラゴンの死骸は資金稼ぎという明確な目的があり、それぞれに注力する為、他の敵との戦いは回避しました。ですが、この地下111階層から120階層においては宝箱の発見と中身の獲得が最優先されますから、それを踏まえて頂ければ全然構いません』
『うむ! よ~く分かった! 皆、我について来るが良いぞ! ♬~』
好戦的なアリスティドは、ガンガン戦えず、やはり欲求不満だったようだ。
しかし、リオネルから許可が出たので、ひどく上機嫌だ。
口笛まで吹いていた。
『はい! ……では、全員、出発しましょう。宝箱探索のスタートです』
『うむ! 了解だ!』
『うふふ、りょうか~い! 任せて、リオ! 貴方の命令なら、私がイェレミアスをしっかりと守ってあげる!』
そんなティエラの言葉を受け、イェレミアスはティエラへ一礼。
『畏れ多いです、ありがとうございます、ティエラ様。私も出発OKです』
そんな全員のコメントを受け、リオネルは告げる。
『出発の確認が取れました……では行きますよ。アリスティド様、先導をお願いします。最寄りの敵は300m先に居るマンティコア5体です』
対してアリスティドは、ふんと鼻を鳴らすと、
『うむ! マンティコア5体か! 小手調べには丁度良い! 奴らなら剣など使わぬ。拳だけで打ち倒してやろうぞ!』
そう言い、意気揚々と歩き出したのである。
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