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第678話「この異音は、そしてこの憶えのある気配はもしや!?」

……しばらくぶりに、

リオネルとイェレミアスのフォルミーカ迷宮共同生活が始まった。


イェレミアスとの出会いを機に、リオネルはイエーラへ肩入れし、

ヒルデガルドとも仲良くなったと思えば感慨深い。


初日に古代都市の各所確認とメンテナンスを終え、

様々な機能が無事働いている事を見届けると……

思い立ったが吉日、早速イェレミアスは、リオネルから、

シーフ職スキル『隠形』『忍び足』の指導を受けた。

一度の指導でイェレミアスはコツをつかんだが、

これから毎日、時間のある時に指導を受ける事となった。


そして翌日からは各自の目標クリアに向け動き出す。


ただ古代都市を出て迷宮内では単独行動をしないと決めているから、

まずはイェレミアスが、リオネルのゴーレム捕獲に協力する事に。


初日にリオネルが古代都市の各所確認とメンテナンスに協力したから、

今度はイェレミアスがゴーレム捕獲に協力する、

フィフティフィフティ、いわゆる持ちつ持たれつ。


また今やゴーレムはイエーラの農作業や土木工事に欠かせないし、

有事の際は貴重な戦力となる、

だから、ゴーレム軍団の拡大と充実はイェレミアスにとっても、

願ったり叶ったりなのだ。


……という事で朝食後すぐ出発する事になったが、その前にと、


『イェレミアスさん』


『おお、何でしょうか、リオネル様』


『いろいろあってずっと先送りにしていましたが、良い機会なんで、ちょっとやってみたい事がありまして』


『先送りにしていた? ちょっとやってみたい事……ですか?』


『はい、この迷宮で英霊召喚をやろうと思いますが、構いませんか?』


『え、ええええ!!?? 英霊召喚!!??』


しれっと言うリオネルにイェレミアスは驚いた。

いつもの事だが、超高難度の術をいかにも簡単に使おうとする事に驚愕したのだ。


先述したかもしれないが、改めて補足しよう。


英霊とは戦死者の霊を敬い、呼ぶ言葉である。


そして、この世界の英霊とは、


邪念を一切持たず、当該者を守り戦う、『強大な守護霊』の事を意味するのだ。


一説によれば……


聖人や英霊が昇華……つまり高次元のものへ移行すると、

聖霊にランクアップし、更に高位へランクアップすると、

『天の使徒』などにもなるという。


ちなみに(いにしえ)の時代には、

人間が、創世神の麾下である『天の使徒』になったという伝承もある。


そして『英霊召喚』とは自分の『守護霊』として、この英霊を召喚する術なのだ。


繰り返し言うが、英霊召喚は誰にでも行使出来る術ではなく、

術の習得、召喚レベルのクリア等々、厳しい条件が必要なのである。


それをリオネルが、これからやろうというのだ。


『はい、これから召喚するのは、以前邂逅したのですが、ソヴァール王国建国の開祖、アリスティド・ソヴァール様で、レベル88の英霊です』


ちなみにリオネルの現在のレベルは50。

50の補正があるので、ひとつ下のレベル99の対象まで召喚可能だ。


『な!!?? ソヴァール王国建国の開祖アリスティド・ソヴァール様を召喚するのですと!!?? おお!! そ、それは!! ぜ、ぜひ会ってみたい!!』


イェレミアスは結構、興奮しているようだ。


『はい、分かりました。では早速お呼びします』


リオネルはそう言うと、軽く息を吐き、精神を集中する。


『ビナー、ゲブラー……(いにしえ)の英霊よ、我は求め訴えたり!』


すると、ぴいいいいいんんん!!!

と激しい異音が鳴り響いた。


そして、そして、そして!!


ふたりの目の前には、クラシックで豪奢な鎧に身を固め、

腕組みをした金髪碧眼の若き戦士がひとり現れたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


見かけはやけに若いが、発する波動は間違いなく以前話したアリスティドのもの。


リオネルはさっと(ひざまず)き、


『大変ご無沙汰しております。ようこそ、いらっしゃいました、アリスティド様』


と言い放った。


対して逞しい金髪碧眼の戦士は、にやっと笑い、リオネルへ話しかけて来る。


『ふん! 本当に久しぶりだな、リオネル。そして臣下のように跪くのは不要だ、立って気楽にな』


『分かりました、では、失礼致します』


リオネルは素直に、さっと立ち上がった。


そんなリオネルへアリスティドは、


『ふっ、異界から見ていたが、お前は高貴なる4界王様のうち、既にティエラ様、そして3人の界王様にお会いしたではないか。ならば、いつ我を召喚し、引き合わせてくれるのかと、じりじりしながら待ちくたびれていたのだぞ!』


『はあ、いろいろありまして、アリスティド様をお呼びする機会を逸してしまい、申し訳ありません』


『むう! 言い訳は聞かぬ! 許さぬぞ! と言いたいところだが、まあ、仕方がない。物事にはタイミングがあるからな』


『ご理解頂き、ありがとうございます。いずれはご会見の機会をお作り出来るよう努力致します』


『うむ、分かっているのなら良い!』


『はい、アリスティド様、ひとつお聞き致します』


『ふむ、何だ? リオネル』


『そもそも英霊とは亡霊であり、術者の魔力で実体化したとしても、ミストのような精神体(アストラル)だと魔術書を読んでイメージしておりましたが、今のアリスティド様のお姿は生身の人間に近い雰囲気ですね』


『ははははは! リオネル! お前の問いに答えてやろう。召喚された英霊の姿、能力はな、術者の技量に比例するのだ』


『成る程』


『うむ! リオネルよ、お前ほどの術者ならば、召喚された我はこうして生身に近い姿での実体化と身体の維持が可能なのだよ』


『おお、そうなのですね』


『うむうむ、更に付け加えるとだ。お前の強靭な魔力のお陰で、実体化した我のこの身体は抜群の身体能力、魔法能力を誇る。若干のショック、わずかな痛みこそ感じるが、物理攻撃、土、火、水、風の魔法攻撃がほぼ無効。呪いや毒、石化なども同様である。英霊としては最上級の能力を有しておるのだ!』


『おお、それは凄いですね』


『うむ! お前のように瞬時に転移魔法を使って戦ったり、一度にとんでもない数の従士を使役したり、自由自在に飛翔魔法を使うなど、化け物じみたレベルではないがな』


『ええっと……』


いえいえ、俺を化け物レベルと言いつつ、貴方は充分に超勇者級のスペックですよ。そう思ったリオネルだが、沈黙は金。余計なコメントは差し控えた。


一方、更に気分が良くなったのか、アリスティドは言う。


『しっかりと詠唱し、発動までに若干の時間をかければ、我も生前のように転移魔法が使える! 皮肉な事に生きていた頃よりも遥かに強くなっておるぞ!』


『それは良かったです』


『そうだろう、そうだろう! ついでに! 25歳の若かりし頃の姿にしてみたわ! ははははははははははははははははは!!!!!!』


豪快に高笑いする『若き』アリスティド。


久々の再会なのか、とても饒舌である。


しかし、リオネルは視線を感じた。


チラ見すれば、イェレミアスが「そろそろこちらにも話を」

という雰囲気を醸し出し、ジト目でこちらを見ている。


リオネルは一旦イェレミアスへ小さく頭を下げてから、

再びアリスティドへと向き直った。


『アリスティド様、ご紹介致します。こちらはイエーラの前ソウェル、イェレミアス・エテラヴオリさんです。以前お聞きして申し訳ありませんが、確認させて頂きます。イェレミアスさんは、おいくつでしたっけ?』


『こ、今年で、せ、1,718歳になりますな』


『1,718歳ですか。ではお亡くなりになって1,000年余りのアリスティド様よりも年上ですね。……じゃあイェレミアスさん、ご紹介します。こちらはソヴァール王国建国の開祖、アリスティド・ソヴァール様です』


リオネルが紹介すると、アリスティドはイェレミアスへ軽く敬礼。


『うむ! 初めましてだな! 我より遥かに年上でアールヴ族の前ソウェルであれば敬意を払わせて貰おう。……イェレミアス様、我はアリスティド・ソヴァール。何卒宜しくな!』


アリスティドのあいさつに対し、イェレミアスは深く頭を下げ、


『いえ! こちらこそ、初めまして! アリスティド様! 何卒宜しくお願い致します』


あいさつを交わしたふたりは、更に少しやりとりし、改めて迷宮探索へ出発する事に。


そしてクランメンバーとなったふたりへの指示は、リオネルが出す事となった。


『念の為、お聞きしますが、アリスティド様は、このフォルミーカ迷宮を探索された事はありますよね?』


『うむ! 当然あるぞ! 任せろ!』


『では俺が先頭に立ち露払いを務めますから、アリスティド様には、俺の雇い主であるイェレミアスさんの守護をお願い致します。行先は150階層のストーンサークルの転移装置経由で、41階層へ転移。41階層から50階層で鋼鉄製、岩石製のゴーレムを、次いで地下71階層へ転移。71階層から80階層で青銅製、ミスリル製のゴーレムを、次いで地下81階層へ転移。81階層から90階層で、銀製、水晶製のゴーレムを、それぞれのエリアで捕獲します』


そうリオネルがつらつらと指示を出した瞬間である。


ぴいいいいいんんん!!!


と、先ほどのアリスティド出現時とは全く違う異音が響いた。


え? この異音は、そしてこの憶えのある気配はもしや!?


すると! やはりというか!

いきなり、何もない空間に、

茶色の革鎧をまとった10代前半とおぼしき少女が現れた。


肩まで伸びた栗色の髪と褐色の肌を持つ端麗な顔立ちの少女は、

高貴なる4界王のひとり、地界王アマイモンの愛娘ティエラである。


空中で静止していたティエラはそのまま華麗に一回転し、すたっと降り立った。


『はあ~い、みんなあ、おっひさあ!』


にこにこと笑顔で手を振るティエラは、

彼女の突然の出現に「おお!」とびっくりするアリスティドを見て、


『あれえ? そっちのはなたれ小僧とは1,000年ぶりかしらね、うふふふふ』


と悪戯っぽく、微笑みかけたのである。

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