第675話「それに私だってリオネル様にチャンスを頂いてる身ですから、ブレンダさんへも平等にチャンスをさしあげたいですわ」
ダニエラ、ブレンダ母娘、イェレミアスと話が終わった後、
自分の部屋へ戻ったリオネルは念話で、ヒルデガルドへ連絡を取る事にした。
行使するのは長距離の個人念話、時刻は午後11時前である。
『夜分遅く失礼します……ヒルデガルドさん、まだ起きていますか?』
『え!? 本当にリオネル様!? ……なのですか!?』
ヒルデガルドがびっくりする心の波動が伝わって来た。
対してリオネルはいつものように穏やかに話を続ける。
『はい、本当に俺リオネル・ロートレックですよ。フォルミーカからフェフの官邸へ長距離の個人念話を行使し、話しかけています。今、話せますか?』
『はい! 本日の仕事は終わりましたが、まだまだ起きていますし、全然話せます!』
『ありがとうございます。もしも眠くなったら遠慮なく言ってください』
『はい! 今のところ、全然眠くありませんわ!』
『そうですか。それとケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟からは異常なしと報告を受けていましたから、そちらに問題はなさそうですね』
『はい、私は大丈夫ですし、各業務も順調に進捗しております。こちらに全く問題はありません!』
『それは良かった、ヒルデガルドさんがご無事で何よりです』
『いろいろとお気遣い頂きありがとうございます。先日私も特別地区でフェフのおじいさまと長距離の個人念話で話しましたが……5千キロもの長距離でお話し出来るなんて……凄いですね!!』
『はい、異界のティエラ様や魔獣兄弟とは問題なく通話が出来たので、普段個人念話を交わしている相手なら、これくらいの長距離通話も可能だろうと、ヒルデガルドさんへ使ってみました』
『素晴らしいですわ! 私の心には、はっきりとリオネル様の声が聞こえますよ』
『良かった! この精度と感度なら、今後も使えそうだし、これ以上の距離の延長もOKそうですね』
『はい、とても便利になりますわ』
『それで話を戻しますと、先ほどまでイェレミアスさんを交え、宿の人達と話していたのですが、話の流れでヒルデガルドさんへ説明とお願い、そして確認が発生する事となりました』
『おじいさまと一緒に、宿の方々と話していたら、私へ説明とお願い、そして確認が発生したのですか?』
『はい、俺が初めてフォルミーカへ訪問した際、お世話になった宿屋山猫亭へ、イェレミアスさんとともに宿泊しているのですが、結論から先に言いますと、そこの娘さんのブレンダさんから、俺が告白を受けたのです』
『え!? えええ!? リ、リオネル様が、こ、告白を受けたって!! それ……ま、まさか愛の告白ですか!?』
『はい、そのまさかです。先般のドラゴン討伐の話からの流れで、まずブレンダさんから、ヒルデガルドさんとの間柄を尋ねられ……』
『リオネル様と私の間柄を、ですか?』
『はい、大前提としてクライアントと契約者という位置づけです。同じ術者としては尊敬し合い、高め合うという間柄ですと答えたら、個人的にはヒルデガルドさんをどう思うのかと更に尋ねられ……』
『わ、私を!? そ、それで、リオネル様はどうお答えされたのですか?』
『はい、個人的には、ヒルデガルドさんはとても好ましい方だと思っていますと、俺は答えました』
その後にイェレミアスが、
「ウチの孫娘はリオネルにベタぼれ」と告げた事は敢えて言わないでおく。
「個人的にはとても好ましい方だと思っている」というリオネルの答えを聞き、
ヒルデガルドはとても嬉しかったようだ。
『あ、ありがとうございます!!』
『ですが、話は更に続きました』
『え? そうなのですか?』
『はい、まず俺と出会った経緯の話を経て、気が付けば、俺の事を大好きになっていましたと、ブレンダさんから告白されたのです』
『そうなのですか!』
『はい、俺の迷宮探索が終わり、戻ったら告白しようとブレンダさんは決めていたらしいのです』
『成る程』
『しかし俺は迷宮探索を終えるとすぐイエーラへ旅立ち、勇気が出ず告白は出来なかった。ブレンダさんは、ひどく後悔し、俺に会いにイエーラへ来ようと考えていたらしいのです』
『まあ!』
『しかしイエーラは遠国で鎖国政策を取っているから、旅は難儀し入国がとても難しい。送る手紙も届くかどうか分からない。思い悩んでいるうちにドラゴン討伐の噂を聞き、俺がフォルミーカへ再訪したので、これはもう逃せない機会だと思ったようです』
『逃せない機会だと……』
『はい、それで言われました。どうか私をイエーラへ連れて行ってください。大好きなリオネルさんのお役に立てるよう一生懸命働きます。そんな私を見て返事をください。そして ヒルデガルドさんともお話しし、自分の初恋に 決着をつけたいのですと』
『えええええ!!?? ス、ストレートですね!! そ、それでリオネル様は何と、ご返事をされたのですか?』
『そこまでおっしゃるなら、俺も正直にお話しますねと言葉を返しました』
『正直に話すと……』
『はい、実はヒルデガルドさんから俺に対する真剣なお気持ちを打ち明けられ、いろいろと話し合った結果、現在、俺が依頼されているイエーラの仕事を全うしつつ、互いに理解を深め、納得し合ったら、結婚も考えようかという話になったと伝えました』
『はい! ですよね!』
『対して、ではどうして俺とヒルデガルドさんは結婚に向けた婚約をしないのか? ともブレンダさんから尋ねられたましので、こちらも正直に話しました。人間族とアールヴ族は寿命の差があるという事、そして純血主義の弊害。そのふたつを理由として俺がヒルデガルドさんを幸せに出来るのか懸念がある事、その懸念が解決されるまで婚約、結婚はしないと返しました』
『私はリオネル様と結ばれる事が一番の幸せなのですが、リオネル様のご懸念も理解出来ます。ですからふたりが納得出来るよう、ベストな方法を探りたいです』
『はい、ですから、それでも俺への想いは変わらないとおっしゃるヒルデガルドさんとは、じっくり話し合いましたとブレンダさんへは伝えました』
『ですね!』
『時間をかけ、もっとお互いを理解し合いながら、解決策を考える為に最大限の努力をし、折り合えて幸せになれる最良の着地点を見出すべきだとの意見で一致したとも伝えたのです』
『はい、リオネル様のおっしゃる通りですね、うふふふ』
『お話しする事は以上ですが、これでもイエーラへ行こうと思いますか?と、俺はブレンダさんへ尋ねました』
『そ、それでブレンダさんんは何と?』
『はい、いろいろお話を聞いて状況は理解しました。ヒルデガルドさんは強敵ですが、私の決意は変わりません! イエーラへ行きます! もうこんな気持ちで待つのは嫌です。何もせず座して後悔する人生になるくらいなら、良い結果が出ずとも、やるだけの事はやりたいです!と』
『そ、そこまで仰るとは! ブレンダさんのリオネル様への想いは本物なのですね』
『ですね。しかし俺はこう告げました。ブレンダさんが真剣に俺を想ってくれているのは分かりましたが、これまで結んだヒルデガルドさんとの絆がありますし、申し訳ありませんが、俺はブレンダさんの想いを、はいと、受け入れるわけには行きませんと』
『あ、ありがとうございます!! ホッと致しましたわ!!』
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
正直に告げるリオネルの話をヒルデガルドは理解し、
冷静に受け止めてくれたようだ。
『でもリオネル様。そのブレンダさんはどうしてそこまでリオネル様を愛するようになったのでしょうか?』
『はい、俺がフォルミーカへ来てすぐ、ブレンダさんを結構な数の暴漢どもから助けた事がありますが、それがきっかけで好意を持ったと言われました。その後、俺が宿屋の仕事を手伝い、仲良くなり、想いが深まったようです』
『そういう事だったのですか……』
『はい、ブレンダさんから発する心の波動からは金銭欲、名誉欲などの邪念や野心を全く感じませんでした。純粋に俺を想い、偽りなく言葉を発していました』
『成る程。リオネル様のご説明は良く分かりました。それで私へのお願い、そして確認とはどのような事でしょうか?』
『ええ、ブレンダさんは、状況は良く分かったが、やはり気持ちは変わらない。どうしてもイエーラへ行き、働いて俺の役に立ちたい、私の働きぶりをしっかりと見て返事を欲しいと言われました』
『ブレンダさんの働きぶりを見て返事を欲しいと?』
『はい、そしてヒルデガルドさんとは、本音を言い合う形でいろいろ話してみたいと再度懇願されたので、そこまで言うのならと俺は仕事を打診してみました。特別地区に建設したホテルの指導役です』
『え!? あのホテルの指導役を!?』
『はい、俺の私見ですが良質な宿屋の娘さんであるブレンダさんにホテルの指導役は適任だと思います。彼女の持つおもてなしのスキルは役に立ちますし、仕事に対し真面目で一生懸命に取り組む姿勢は、公社職員達の良きお手本になってくれるとも思います』
『それでブレンダさんは何と?』
『はい、ホテルの仕事は未経験で、不安はありますが、せっかくチャンスを頂いたので、精一杯、頑張ってみます、ぜひやらせてくださいと』
『な、成る程』
『自分が納得したいというわがままを通すようで申し訳ありませんが、もし私の恋が上手く行かない結果となっても、決してヒルデガルドさんを恨んだりは致しませんとも言いました』
『そ、そこまでおっしゃるとは! ブレンダさんって誠実で熱い方なんですね!』
『ええ、誠実だし相当熱い方です。揺るぎない真っ直ぐな決意を告げられました。なので俺も正直に現状を伝えましたし、彼女の気持ちに報いたいと思ったのです』
『うふふふ、リオネル様のお話を聞いて、私もブレンダさんにお会いして、お話ししたくなって来ました。何だか彼女、私と似ているような気がしますから』
『そ、そうですか?』
『はい! それに私だってリオネル様にチャンスを頂いてる身ですから、ブレンダさんへも平等にチャンスをさしあげたいですわ』
『いえ、俺がチャンスを与えているなんておこがましいのですが、ありがとうございます、ヒルデガルドさん……じゃあ、ブレンダさんの雇用については?』
『はい、私は全然オッケーですわ。念の為、お聞きしますが、ブレンダさんをイエーラへお連れする事に関して、おじいさまも反対されてはいませんよね?』
『はい、俺と一緒に宿に泊まって、イェレミアスさんもブレンダさんの優秀なスキルと誠実な人柄を認めていますし、この提案をする前に内々で念話で相談し、了解は頂いています。最終決定に関しては、ヒルデガルドさんの判断を尊重すると言われました』
『ならば、全く問題はありません、ノープロブレムです。条件面を詰め、正式に雇用契約を結び、ブレンダさんをイエーラへお連れしてくださいませ』
『了解です。ブレンダさんは秘密を守れる方なのでその点も良いと思います。俺が転移魔法で連れて行っても問題ないと思いますよ』
『そうですか! 私もブレンダさんへお会いするのが本当に楽しみになって来ましたわ』
……という事で、ブレンダ雇用に関してヒルデガルドの確認、了解は取れた。
明日、ブレンダ、母ダニエラと話を詰める事となるだろう。
その後、リオネルとヒルデガルドの会話は続き……
ついでのようになってしまったが、イェレミアスの親友である魔道具店クピディタースのオーナー店主ボトヴィッド・エウレニウスを説得し、同じく特別地区の魔道具店店主役を務めて貰う事も報告した。
ヒルデガルドはたいそう面白がり……
『うふふふふ、おじいさまが偏屈者とおっしゃるとは、どれほど凄い方なのでしょうか?』
と楽しそうに笑ったのである。
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最後に、
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