第660話「凶悪なドラゴンをさくっと倒したリオネルの強さは、 勇者レベルのドラゴンスレイヤーとして世界中へ響き渡った」
ドラゴン討伐報告を主旨とした、
アクィラ王国国王ヨルゲン・アクィラとの会談は、無事終わった。
身内の中で最も信頼していた弟、宰相ベルンハルドから、
詳しく報告を受けてはいたが……
それでも討伐を信じられず、半信半疑だった兄ヨルゲンも、
自身でドラゴンどもの死骸を直接、目の当たりに見て、
長きにわたり苦しめられて来た国難の解決をようやく、はっきりと確信したのだ。
国王への報告が無事済んだという事で、依頼した冒険者ギルド宛に、
ドラゴン討伐完遂の一報を入れるべく、ベルンハルドは使いを出した。
また国民へ広く披露しようと、討伐したドラゴンどもの一般公開も行った。
一方リオネルは、今回倒した残りのワイバーンどもの死骸も、
ベルンハルドへ引き渡した。
約束通りベルンハルドは、全てを買い取ると言い、死骸を確認した上で、
総額金貨10万枚を支払ってくれたのである。
さてさて!
ドラゴンどもの一般公開の場所は、そのまま王立闘技場にて。
緊急魔法鳩便を各所に飛ばし、広範囲に告知。
すると王都リーベルタース市内だけではなく、国内外から討伐されたドラゴンどもを見ようと、数多の人々が押し寄せる事になった。
その結果、王都リーベルタースは一時的とはいえ、
観光客景気にたっぷりと潤う事に。
これまでドラゴンどもが原因で、甚大な被害が出ていただけではなく、
国の発展が妨げられ、経済は停滞していた。
そこへ、まるで救世主のように現れたのがヒルデガルドとリオネル。
悩まされていたドラゴンどもがあっさりと退治されたのに加え、
停滞していた経済の復興起爆剤となる可能性を秘めた、
隣国イエーラとの交易が開始されるかもしれない。
これは、一気に運が向いてきたかも!!
そう考えたヨルゲンが上機嫌になるのも当然であろう。
……という事で満面の笑み状態の国王の許可のもと、
翌日午前からアクィラ王国の王宮にて、
イエーラとアクィラ王国の交易会議第一弾が行われた。
アクィラ王国側の交渉担当は宰相ベルンハルドと経済担当の大臣。
但しまだ、窓口となるイエーラの特別地区は建設中。
いつからどこでどうするとか、具体的かつ詳細な内容、実務、
輸出入の商品までは到底詰められない。
それゆえ今回は、交易のおおまかな方向性や基本方針を決める話し合いとなる。
また、そのレベルでもこの場で、いきなり決める事もない。
イエーラの代表として、交渉はヒルデガルドとリオネルに任されてはいるが、
いったん持ち帰り、
「ソウェル代行であるイェレミアスにも確認をして貰う必要がある」
とふたりの意見は一致して、アクィラ王国側の了解も得ていたのだ。
という事で、やりとりは、
事前に打ち合わせしていたリオネル達の方針主導で進む。
いつ……イエーラ特別地区の建設が終了し、稼働可能となって以降に交易開始。
どこで……同上の特別地区限定。
何を……輸出入の交易。取り扱い商品は要検討の事。
後日、具体的な取り扱い量や関税等の取り決めも行うが、
それらの取引条件に関しては、イエーラの希望を大幅に考慮する事。
特別地区における法律の整備と順守の徹底。違反者には厳罰を与える事。
どうする……随時、連絡を取り合い、その都度協議を行う事。
……とりあえず、以上の事に合意が取れたので、
リオネルは、書面にして貰い、宰相ベルンハルドと経済担当の大臣、
そして国王ヨルゲンの3者にサインをして貰った。
これらの内容を記載したものを基礎書類とし、改定を何度か行い、
最終的に『正式な書類』を作成するという流れに。
こうして……無事に最初の交易打合せも終わり……
アクィラ王国は、ドラゴン討伐記念を主旨とした、
王家主催の煌びやかな大晩餐会を行ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
念の為、補足しよう。
晩餐とは、夕方の食事をとる催しの事である。
そして晩餐会とは客を招き、食事を共にしつつ、
懇親や交歓を行う趣旨で開かれる会を指す。
この大晩餐会開催は、ヒルデガルドとリオネルの顔見世の為なのだ。
国王ヨルゲンと王弟でもある宰相ベルンハルドは、
改めて貴族達に今回の討伐と経緯を話した上、
自ら『接待役』となり、丁重にふたりをもてなした。
王国のナンバーワンとナンバーツーが、自らもてなす……
その様子を見た貴族達は、ヒルデガルドとリオネルに対し、
「ふたりはアクィラ王国の最高レベルの恩人であり、親交を深めるべき対象なのだ」
という認識を持ったのである。
ちなみに親密な雰囲気を醸し出すアールヴ族の正礼装をまとったヒルデガルドとリオネルに対し、「おふたりの間柄は?」という突っ込んだ質問も飛び出したが……
想定内の質問であったので、ふたりは、事前に考えていた答えを告げる。
まずリオネルが、
「クライアントと契約者ですが、お互いに尊敬し合い、高め合う間柄です」
これは今後も使う公式コメント。
更にヒルデガルドが言う。
「私は心よりリオネル様をお慕い申し上げておりますわ」
またリオネルも、
「ヒルデガルド様のお気持ちはとても嬉しいですし、自分はご期待に沿えるよう努力します」
と続いて述べた。
ふたりのコメントを聞き、
国王ヨルゲンと宰相ベルンハルドは「やはりそうか」と少し渋い表情となった。
あいさつしたアクィラ王国の貴族達も同様である。
彼らの魂胆ははっきりしていた。
非常に可能性は低いと思いながら、
もしも、万が一、ふたりがビジネスライクな関係であれば……と期待。
かつてワレバッド時代であったように、
王族や貴族の息女を平民のリオネルに娶らせ、姻戚関係を結び、
身内として、アクィラ王国側へ取り込みたいと考えていたからである。
だが、それは以前も経験したし、当然ながらそういったアクィラ王国の思惑も、
リオネルにはお見通し。
それゆえ、正直な気持ちも含め、コメントで牽制した。
ヒルデガルドとの間柄が、現在進行形で深いものだとアピールすれば、
過度な『アプローチ』はないだろうと見込んだのである。
そんなリオネルの読みは見事に当たった。
晩餐会が終わって、いわゆる『お見合い話』は、すぐ来る事はなかったのだ。
しかし、これはいわば小康状態。
凶悪なドラゴンをさくっと倒したリオネルの強さは、
勇者レベルのドラゴンスレイヤーとして世界中へ響き渡った。
アクィラ王国以外にも、故国ソヴァール王国、そして世界の国々の王家、貴族家が、
リオネル宛へ、ダメもとで『婚姻打診の便り』を送って来るのは時間の問題であろうから。
……その後、リオネルとヒルデガルドは、経済担当大臣から紹介して貰った、
リーベルタース市内にある、有力な商会をいくつも訪問。
商会の会頭、幹部社員とあいさつを交わし、今後の交易に関し、綿密に話をした上、
事前にチェックしてあった数多の物資や特産品を購入。
そうこうしているうちに、ドラゴン討伐の報奨金金貨3万枚も入金された。
リオネルとヒルデガルドは、当初の目的を果たすと……
イエーラへ無事帰国したのである。
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