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第654話「分かりましたわ、いつでもどうぞ」

魔導発煙筒を転移魔法で放り込んでから、約10分後……

耐えられなくなったのだろう、

最後の一体、首魁のドラゴンは魔法煙に苦しみながら、その姿を現した。


リオネルとヒルデガルドは、改めてドラゴンを見る。


やはり体長は20mを超えるだろう。

緑色の鱗に覆われた頑丈そうなたくましい体躯で、

前足と後足ともに鋭い爪が生えていた。

かあっ!と開けた牙が生えた大きな口からは怒りの為か、

紅蓮の炎が吐き出されている。


そう、このドラゴンの武器は爪と牙、圧倒的なパワー、

そして口から吐く火炎の息だと、資料にはあった。


いつものリオネルなら背後に回り、まずは厄介な攻撃手段である尾を切り落とし、

そのまま背後から攻撃魔法をぶち込むか、ムラマサで急所を突き、とどめを刺す。


万が一、下手を打ち、火の息を浴びても平気だ。

リオネルには、火界王パイモンから授かった加護『火炎無効』がある。


本当に大丈夫?と疑問を言うなかれ。

従士ファイアドレイクの炎で既に検証済みである。


さすがに効果効能を試す際は凄く勇気を要したが。

良い子は絶対に真似をしてはいけない『超絶危険な実験』だと言えよう。


……という事で、ワイバーン同様、まずはドラゴンを抵抗不可の無力化する事に。


威圧、フリーズハイなどのスキルはあるが、

良い機会だと考え、地界王アマイモンの愛娘、

最上級精霊ティエラから授かった加護、『大地の束縛』を使う。


『ヒルデガルドさん、まずは地属性最上級魔法のひとつ大地の束縛で、ドラゴンを行動不能とし、更に究極奥義たる貫通撃を使います』


『成る程! 大地の束縛は、聖なる地の魔力で対象を大地へ縛り付け、行動不能とする魔法で、貫通撃は、敵の肉体を裂かずに、硬化した魔力で内面を撃ち抜き、大ダメージを与える究極の攻撃技ですよね』


日々の教授と修業において……

リオネルはヒルデガルドへ自身の持つ奥義をいくつか教えていた。


ヒルデガルドは、師と仰ぐリオネルから教授された内容をしっかりと(おぼ)えており、即座に返したのだ。


そもそも術者たる者、勿論『全て』を教える事はない。


だが、大事な相手と信頼を深め、人間関係の構築及び発展の為には、

適度な情報公開が不可欠と言えるだろう。


ヒルデガルドの言葉を受け、リオネルは言う。


『はい、その通りです。これらの使用理由ですが、今回の依頼は倒したドラゴンの死骸を売却し、有効に二次使用しますから、攻撃方法も考慮し、身体を破壊する事は避けました』


『はい、納得です! 更に申し上げれば、リオネル様は表向きは風の魔法使いとなっています。だから、例えば凍らせるなど他の属性魔法は使えないですし』


『ええ、そうです。ですが、いずれタイミングが来たら、俺もヒルデガルドさんもまず複数属性魔法使用者(マルチプル)である事をオープンにしようとは思います』


『成る程。それでリオネル様は最終的には、全属性魔法使用者(オールラウンダー)である事もオープンにしますか?』


『それは今後の展開次第、成り行きですね。……という事でそろそろ対処しますね』


『はい! お願い致します! しっかりと見届けさせて頂きますわ』


ヒルデガルドは言い、リオネルの革鎧をぎゅ!と握ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


長いやり取りのようであるが、心と心の会話、念話なので、あっという間。

リオネルとヒルデガルドの会話は、ほんの1分にも満たない。


さてさて!

巣穴から燻り出され、怒り狂うドラゴンを見据え、

リオネルは改めて体内魔力を上げ始める。


体内魔力が上がり、リオネルは無詠唱で『大地の束縛』を発動。


すると、ぶううん!!!と空間から凄まじい異音が発せられ、大気が振動。

ドラゴンの身体は、見えない力により、がっつりと大地に固定されてしまう。


ぐああああああっっっっ!!!???


「動かない~!!!???」と悲鳴をあげたドラゴンは慌てて巨体を必死にゆすり、もがくが、強い魔法の力はゆるまず、びくともしない。


……大地の束縛は術者の魔力と地から発する魔力が融合し、

巨大で特殊な魔力を生成。

対象をその生成された魔力波(オーラ)で拘束する特殊な超が付く上級魔法だ。


また、大地の束縛の効果効能は、他の魔法同様術者レベルに比例する。


ただ習得は当然ながら術者が地属性であるのは勿論、

技量だけでなく、地の精霊との友好度も大きな要因を占めるので、

とんでもなく高難度なのだ。


ちなみに現在この世界において、人間族で行使可能なのは、

ティエラとツーカーレベルで仲の良いリオネルだけ。


という事で諦めず、引き続きもがき、じたばたするドラゴンを見て、

ヒルデガルドが感嘆する。


『リ、リオネル様!!! す、凄いですわ!!! あんなに巨大なドラゴンが魔力で完璧に縛られてしまいました!!!』


『ええ、フォルミーカ迷宮でも大地の束縛を試していましたが、ここでも上手く行ったようです』


微笑むリオネルは第二段階へ入る。


風弾に貫通撃を付加。

これまた特殊な魔力で、ドラゴンの額を傷つけずに撃ち抜くのだ。


精神を集中させたリオネルは、動けないドラゴンの額、ど真ん中を狙い、

一撃で絶命させる事に。


放つ魔法の軌道を自在に変える事が可能な、

『ムービング攻撃魔法』も極めていたから、

リオネルは100%確実に狙った箇所に命中させる事が可能なのである。


軽く息を吐き、リオネルは改めてドラゴンを見た。


相手は動けない。


ここは、じっくりと狙う。


よし!

行け!!


とリオネルは渾身の気合を込め、『貫通撃』を付加した風弾を撃ち出す。


どおおしゅっっっっっ!!!!!


どんんんんっっっっっ!!!!!


ぐがっっっっっっっっ!!!!!


魔法の発射音、命中音、ドラゴンの悲鳴がワンセットであった。


魔力で脳天のど真ん中を撃ち抜かれたドラゴンは、

表面上はかすり傷もなく、あっさりと絶命した。


これで全てのドラゴンを倒した。


リオネルとヒルデガルドがアルヴァー・ベルマン侯爵以下の騎士隊を待機させ、

無残な廃墟となってしまった町――討伐の総本部を出撃してから、まだ1時間も経ってはいない。


リオネルが改めて確認すれば、……ドラゴンの生命反応は完全に消えている。


更にリオネルはケルベロスへ指示をし、ドラゴンの死亡をもう一度確認させた。


間違いなく息絶えていると、ケルベロスからは報告が戻って来る。


これでもうOK。


ケルベロスには、そのまま死骸の番をするよう更に指示。


リオネルはヒルデガルドへ話しかける。


『ヒルデガルドさん、お疲れ様です』


『はい、リオネル様、お疲れ様です』


『これで今回の依頼は完遂されました。気分など大丈夫ですか?』


『はい! 私は全然大丈夫ですわ! リオネル様は?』


『それは良かったです。俺も全然大丈夫ですよ』


『うふふ、問題なくドラゴンどもの討伐が出来て、本当に良かったです』


『ですね! ではアルヴァー・ベルマン侯爵と騎士隊の居る討伐の総本部へ戻りましょう。侯爵へ報告を入れ、ひと休みしたら、現場検証を行いますから』


『了解です!』


引き続き張り巡らされた索敵によれば、周囲に第三者の気配はない。


誰に遠慮する事なく、思う存分魔法を行使出来る。


リオネルは、討伐の総本部付近までの移動に、転移魔法を使う事にした。


『ヒルデガルドさん、転移魔法で討伐の総本部付近まで行きます』


『分かりましたわ、いつでもどうぞ』


その瞬間!


ふたりの姿は煙のように、かき消えていたのである。

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