第647話「更にリオネルはもうひと押しする」
闘技場で、体長20mを超える巨大ドラゴンの死骸を見せられた、
アクィラ王国宰相ベルンハルド・アクィラはリオネルの実力を認め、
ドラゴン討伐の依頼をしてくれる事になった。
ちなみにドラゴンの死骸は、冒険者ギルドの鑑定人が判断した結果、
金貨3万枚で買取りが決まる。
一見とんでもない金額に思えるが、
採取出来る部位を加工した武器防具他の稀少価値等を考えれば、全く法外ではない。
代金は早速振り込まれ、リオネルのギルド所属登録証へ魔力インプットされた。
総マスター、ローランド・コルドウェルの意向で世界中にカードシステムが広まり、
アクィラ王国においても使用可能となっていたのだ。
イエーラから充分な俸給と経費を貰っているリオネルだが、
私用の金はきちんと使い分け、将来の為、貯金もしっかりとしている。
……という事で、王宮へ戻った一行は、宰相執務室に続く大会議室において、
ドラゴン討伐の打合せを行う。
話はリオネル主導で、傍らでヒルデガルドが聞くという形になる。
他に出席者はマウリシオ、騎士隊隊長、王国軍総司令官などである。
全員が揃うと改めて、ベルンハルドはアクィラ王国宰相として依頼をしたいと、
はっきり告げた。
正式な契約書も作り、ギルドを介して発注すると言う。
勿論、リオネルにも異存はない。
但し、転移魔法、飛翔魔法等はまだオープンにはしない。
それらを行使せずとも、ドラゴンどもと戦う術は他にもたくさんある。
実践もフォルミーカ迷宮で済ませていたので心配は殆どない。
「……分かりました、宰相閣下。であれば、前向きに依頼受諾を検討しましょう」
「うむ、感謝するよ、リオネル殿」
「遂行するにあたり、こちらもいくつか確認があります」
リオネルとヒルデガルドにしてみたら、
任せるぞと言われ、簡単にお願いしますと、安請け合いするわけにはいかない。
依頼を受諾し、完遂するにあたり、
行き違いのないよう、もろもろ確認する必要がある。
そして本題である『交易』に関しても、詰めて行かねばならないのだ。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
……もろもろ打合せをした結果、
ドラゴン生息地と周辺の地図と資料の手配、必要な物資の調達、
事前調査を行う事、そして同行する騎士隊小隊指揮官との事前打ち合わせを、
ベルンハルドに了承して貰った。
しかし、以前ヒルデガルドへ告げた通り、
ここからがリオネルの交渉術の見せどころである。
「宰相閣下」
「何だね、リオネル殿」
「はい、打合せの中で閣下のお話をお聞きし、ドラゴンどもの害は改めてしっかりと認識致しました」
「うむ、それは何よりだ」
「それで念の為お聞きしますが、長きにわたり、だいぶ難儀されていますよね?」
リオネルの質問を受け、ベルンハルドは顔をしかめる。
「ああ、そうだ。ドラゴンの奴らには長年苦しめられ、本当に困っておる」
「ですよね? そんな解決が高難度の依頼ですから、確認も兼ねた条件があります」
「ほう、確認も兼ねた条件があるとは?」
「はい、お願いも兼ねているので、何卒、お聞き入れください」
「うむ、そうか。まずは聞こうか」
「はい、ありがとうございます。では最初の条件です。見届け役の騎士隊の小隊は、自分リオネル・ロートレックの指示を厳守する事。下手に動けば危険を招く可能性もあるので、勝手な動きは絶対にナシです」
「分かった! リオネル殿の邪魔にならぬよう、騎士隊へは徹底しよう!」
「そして次、事前に戦闘地域の住民は避難させておく事」
「分かった! 安全の為、住民達は戦闘前に間違いなく避難させる!」
「そして次、こちらも充分に注意はしますが、万が一戦闘の際の家屋等の被害が出てもこちらへ賠償請求はしない事」
「分かった! そんな馬鹿な事は絶対にしない!」
「そして次、討伐したドラゴンは全て所有権をこちらで有し、死骸をアクィラ王国で買い取って頂く事」
「分かった! 先ほどのドラゴン同様、今回倒したドラゴンは、我が王国が高値で買い取り、代金はそちらへ支払おう」
「……全てご了解をして頂き、ありがとうございます。これらを契約書に盛り込んでください。条件はとりあえず以上です」
「とりあえず?」
「はい、次は違うお願いになります」
「ほう、違うお願い?」
「はい、お願いの前にひとつご確認ですが、騎士隊でも王国軍でも、軍を動かす経費は結構な金額です。連合軍出征の経費は莫大ですよね?」
「まあ、そうだな……」
「宰相閣下が最初に出すとおっしゃった騎士隊、王国軍の大規模な連合軍を出動させず、討伐を見届ける為、騎士隊の小隊のみを出し、自分とヒルデガルド様ふたりだけでドラゴンどもを倒すという事は、これまでと違い、その莫大な経費がかからず、削減出来るという事になりますよね?」
「うむ、リオネル殿の言う通りだよ」
「ですから、もし金貨3万枚の報奨金を自分達へお支払いになったとしても、アクィラ王国にとってはコスト削減が出来れば、大きいでしょう」
「うむ、確かに大きい。経費の大幅な節約になる!」
「という事で、コスト削減貢献の見返りに、こちらのお願いを聞いて頂いても構いませんか?」
「ああ、成る程、そういう事か、まあ、とりあえず聞こうか」
「はい、ズバリお伝えします。実はそう遠くない将来、イエーラの鎖国を一部解除した交易を考えています」
リオネルの言葉にベルンハルドは衝撃を受ける。
「な!? イ、イエーラの、さ、鎖国を一部解除!? こ、交易!? ほ、本当かな!?」
「はい、本当です。まあ、あくまでも予定なので、変更や中止も充分にありえますが」
「はい、予定は未定ですから、リオネル様のおっしゃる通りですわ、宰相様」
リオネルの言葉を受け、ヒルデガルドも微笑んで頷いた。
「そうか……だが、古代からず~っと鎖国主義を貫いていたイエーラが開国を考えているなんて、凄くびっくりしたよ」
「はい、詳細に関しては、改めて宰相閣下へお話ししますが、イエーラとアクィラ王国との国境に特別地区を設け、その地区内限定で入国を許可し、商取引を行う事を考えております」
「な、成程。それで鎖国の一部解除なのだな」
「はい! という事で、現在特別地区を建設しつつ、輸出入の概要を考えていますが、そちらとのルールを決めるにあたり、商品料金、関税などを始め、こちらから無理なお願いをしても、大きくご考慮して頂ければ幸いかと」
「むむむ、そ、それは……いきなり言われても、この場で即答は出来ないが……最大限、善処しよう」
ベルンハルドの言う最大限の善処という表現は曖昧だが、
こちらの希望を伝え、話の大筋はまとまった。
更にリオネルはもうひと押しする。
「閣下!」
「な、何だね? リオネル殿」
「冒険者としての立場で今回のご依頼を受ける形になりますが、長きにわたり難儀している国難に対し、第三者たるイエーラの者が立ち向かい、解決するという事実を重く見て頂きたい」
「第三者たるイエーラの者が立ち向かい、解決するという事実を重く見る……」
「はい! 我々がドラゴンどもを討伐した暁には、閣下のご誠意が発揮され、両国の友好を深めると、ヒルデガルド様と自分は信じておりますので」
きっぱりと言い切ったリオネルは、ベルンハルドをじっと見つめ、
深く一礼したのである。
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