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第645話「閣下、大丈夫です。心配はご無用ですよ」

翌朝、ホテルのレストランで朝食を摂ったリオネルとヒルデガルドは、

アールヴ族の正礼装である独特なデザインの豪奢なローヴを身にまとい、

アクィラ王国宰相との会談へ臨んだ。


会談は、王宮の大広間で行われる事に。


テーブルをはさみ、双方が長椅子(ソファ)に座る。


宰相の背後、周囲には、護衛の騎士が物々しく並び、

騎士達の端には冒険者ギルド、ギルドマスターのマウリシオも立っていた。


アクィラ王国宰相とは、当然ながら互いに初対面であり、

リオネル単独であるのなら謁見である。


しかし形式的には、イエーラの長ソウェルたるヒルデガルドがメインの会見であり、

まずは鎖国状態のイエーラとコミュニケーションを取る為の首脳会談でもある。


王国宰相が声を張り上げる。


「初めまして! ヒルデガルド・エテラヴオリ様! ようこそ! 我がアクィラ王国へ! お目にかかれて光栄です。私が王国宰相ベルンハルド・アクィラでございます!」


「初めまして! ベルンハルド宰相様! こちらこそ、お目にかかれて光栄です。イエーラのソウェル、ヒルデガルド・エテラヴオリでございます。こちらはリオネル・ロートレック様、祖父が契約した政治顧問で、ランクSのレジェンド冒険者という以上に、偉大なる師であり、私個人にとっても、一番大切な方ですわ」


ヒルデガルドはあいさつをすると、リオネルを紹介。

リオネルがイエーラへ来た理由、そして最上級の言葉で称えた。


そんなヒルデガルドの言葉を受け、リオネルもあいさつをする。


「初めまして! ベルンハルド・アクィラ宰相閣下! リオネル・ロートレックと申します。未熟者ですが、何卒宜しくお願い致します」


「ふむ……貴方がリオネル殿か……」


つぶやくように言うベルンハルド。


という事で……あいさつが済み、ヒルデガルドとグレーゲルは、

まずは『首脳会談』として、しばし当たり障りのない話を交わした。


ヒルデガルドの美貌誉めから始まり、両国の暮らし等に関してである。

リオネルは敢えて会話に参加せず、密かに念話でヒルデガルドをフォローした。


そのせいか、会話は無難に盛り上がった。


そして、頃合いと見たのか、ベルンハルドが尋ねて来る。


「ふうむ……マウリシオから聞いたが、魔法使いで、イエーラ政治顧問のリオネル殿が、勇者たるドラゴンスレイヤーの称号を持つのかな?」 


「はい、閣下」


しれっと肯定するリオネル。


ベルンハルドが尋ねたのも無理はない。


19歳のリオネルはいかにも若輩。

身体も筋骨隆々というわけではないからだ。


果たして、ドラゴンスレイヤーと称されるほどの強者なのか?


にわかには信じがたいという眼差しで、ベルンハルドはマウリシオを見た。


対してマウリシオは一歩進み、直立不動で声を張り上げる。


「閣下! 何度も申し上げましたが、冒険者ギルドの戦歴カウンターは、ミスリル製の所属登録証と連動した正確無比の魔法データベースなのですよ」


「ふうむ……」


「冒険者ギルド所属全冒険者の魔物討伐に伴う報奨金の算出は、こちらから計上していますので」


「な、成る程」


「はい! 先ほど閣下のお問い合わせに対する確認の魔法鳩速達便が届きまして、フォルミーカの町長、グレーゲル・ブラードの実弟である冒険者ギルドフォルミーカ支部のギルドマスター、アウグスト・ブラードからも報告が入っております」


「う、うむ……」


「アウグストの手紙によれば、リオネル殿は間違いなく、我が国のフォルミーカ迷宮へ単身潜り、最下層まで行き、無事帰還したそうです。その際にデータベースに記録されている数多のドラゴン、巨人族を倒したのですよ」


「やはり本当だったのか!? だが単身であのフォルミーカ迷宮へ入り、最下層まで到達し、無傷で戻って来たとは……す、凄いな!!」


「………………………………」


大広間にマウリシオの声が響き、ベルンハルドは驚いて唸り、

ふたりの会話を聞き、護衛の騎士達も言葉はなく、息をのんでいた。


「そして閣下、昨日の冒険者ギルド訓練場におけるおふたりの格闘、魔法のデモンストレーションは本当に素晴らしかったです」


ここでマウリシオは更に話を続け自身の役目を果たす。


「閣下、例の件は、やはり、おふたりにご相談されるのが宜しいかと……特にリオネル殿に関しては、先日陞爵(しょうしゃく)された、冒険者ギルド総マスター、ソヴァール王国のローランド・コルドウェル侯爵様からご推薦も頂いておりますし」


ベルンハルドにとって、正確な記録に裏打ちされた強さと、ローランドの推薦が、

依頼する決め手となったようである。


「分かった! ヒルデガルド様、リオネル殿へ話をしよう」


大きく頷いたベルンハルドは、まっすぐにリオネルを見つめたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


という事で、ドラゴン討伐の件は、

改めてベルンハルド自ら直々に説明をしてくれた。


マウリシオから聞いた話と同じだが、再確認にもなるし、

リオネルとヒルデガルドは、じっくりと話を聞く事に。


……アクィラ王国の北方に険しい山岳地帯があり、

数年前に邪悪な巨大ドラゴンが住み着いた。

最近はその邪竜がどこからか呼び寄せたのか、手下のワイバーンまで増え、

群れで周辺の町や村を襲い、結構な被害が出ている。


アクィラ王国の騎士隊、王国軍を、ドラゴン出現時から派遣しても、

犠牲者が増えるだけで、中々討伐が叶わない。


そこで冒険者ギルドへも依頼をし、報奨金は最初ドラゴンの討伐のみで、

金貨1万枚(1億円)であったが、そこに数多のワイバーン討伐依頼も加わり、

著しく加算された。

群れを全て討伐して金貨3万枚(3億円)という条件であると。


リオネルとヒルデガルドが、「前向きに検討し、依頼を受けたい」と伝えたら、


「おお! それは喜ばしい! 実は近々、騎士隊、王国連合のドラゴン大討伐軍を派遣しようと考えておりました。そこにヒルデガルド様とリオネル殿が加わって頂ければ百人力、いや、万人力ですぞ」


話し終わり、喜ぶベルンハルド。


どうやらドラゴン大討伐軍にリオネルとヒルデガルドを『助っ人』として、

加勢させる腹積もりのようだ。


「ご安心ください。おふたりが危険な目にあわぬよう、いざという時には我が騎士隊が盾となり守らせて頂きます」とも。


ここでリオネルが口を開く。


「少し、宜しいでしょうか、宰相閣下」


「何だね? リオネル殿」


「せっかくのお申し出なのに恐縮ですが、今回のドラゴン討伐は、見届け人として騎士の小隊をひとつ、つけて頂ければ充分です。基本的に自分とヒルデガルド様で対処します」


「え!?」


「更に付け加えますと、あくまで見届け人なので騎士隊からの援護攻撃も不要です。決して打って出ず、自分の身を守る専守防衛のみに徹してください」


リオネルがフォルミーカ迷宮においてドラゴンを倒していたとしても、

今回の相手は配下のワイバーンも含め、10体以上。

常に群れで行動する相手に対し、何と無謀な!!


そんなベルンハルドの心の波動が伝わって来たのだが……


「閣下、大丈夫です。心配はご無用ですよ。自分はひとりで一度に5体のドラゴンや、ヒュドラと戦った事もありますし、ギルドマスターにはお伝えしてありますが、従士も何体か呼び出し、対応しますので」


リオネルはさわやかに笑い、「自身とヒルデガルドのみで戦う」

と、きっぱり宣言したのである。

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