第643話「ええ、時は金なりですよ。とりあえず今日は食事を楽しみまししょうか」
翌朝……ホテルのレストランで、リオネルとヒルデガルドは、朝食を摂った。
やはりというか、ホテルの担当者と護衛達も一緒である。
ディナー時とは違い、ふたりの今朝の格好は、失礼のないレベル、
人間族仕様の上質な平服だ。
アールヴ族仕様の正礼装ほどエキゾチックな雰囲気はないが、
凛々しい人間族の青年と絶世のアールヴ美女カップルという、
大人っぽい趣きを醸し出していた。
さてさて!
昨日の今日でもあり、ギルドマスター、マウリシオを経由した、
アクィラ王国宰相からの連絡はまだない。
依頼の受諾、会見を含めた進展はもう少し時間がかかるだろう。
……という事で、リオネルとヒルデガルドは、時間を有効に使うべく、
リーベルタースの市内見物に行く事にした。
その旨は昨夜のうちに、担当者と護衛達には伝えた。
すると、話が通っていたらしく、彼ら彼女達は即座に「了解」の答えを戻して来た。
リオネルとヒルデガルドが「市内見物をしたい」と言いだす事を想定し、
案内、護衛の対応に関しては、マウリシオが準備していたようだ。
対してリオネルは、念の為、自身の段取りに関して、
ワレバッドの時とほぼ同じ説明をする。
唯一違うのは、リオネルがリーベルタースの地理に明るくないことだけだ。
「自分はまず索敵のスキルを最大限発揮し、悪意を持つ危険人物、不審者が居ないかをチェックします。現時点で自分は、周囲5㎞の悪意の波動をチェック出来ます」
知己たるローランド、ブレーズ、ゴーチェとは違い、
リオネルの能力を第三者から伝え聞いたのみなので、
担当者護衛ともども、実際にかつ直接聞いて驚愕。
無言になってしまう。
「……………………………………………………」
「危険人物、不審者に対しては、威圧、フリーズ等のスキルで無力化、無傷で排除し、確保する手立てを考えております。補正がかかっている為、レベル50の自分より格上のオーガキングは完全停止、ドラゴン、巨人族にも結構な効果がありましたので、人間族等には充分に有効だと思います」
「……………………………………………………」
「ワレバッド同様に、リーベルタースの街中でも剣、斧、やりなどの武器や属性攻撃魔法を使うのは法律により厳禁なので、万が一、他に守る手立てが全くない緊急事態の場合以外、武器魔法は使いません」
「……………………………………………………」
「平時の場合に敢えて使うのなら、素手の格闘術及び、武器なら、こん棒くらいでしょうか」
「……………………………………………………」
「いざとなったらヒルデガルドさんを抱え、自分は現場から速攻で離脱します。その間にそちらで不審者を確保し、逮捕してください。自分は、時速70㎞以上で5時間以上走れますから、多分ですが誰も追っては来れません」
「……………………………………………………」
「……という事で、こちらの希望を言うのなら、護衛はせいぜい10名以内、俺とヒルデガルドさんから10mくらいは離れて頂くのが理想です」
「……………………………………………………」
「いかがでしょうか? ワレバッドの時も同じ方法で護衛しましたが、それらを踏まえ、警備体制のご検討を何卒宜しくお願い致します」
というやりとりを夕食後に行ったのだ。
その結果、ホテルの担当者が案内をしつつ、10mほど距離を取り、
前後左右の四方を、10人の武装した冒険者が距離を取って固めるという、
ワレバッドの警備体制に近い形となったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
担当者を先頭に、護衛に四方を固めて貰いながら、
リオネルとヒルデガルドはホテルを出た。
服装は変更し、今度は冒険者風に革鎧を着込む。
ヒルデガルドもワレバッドで仕立てたおそろいの人間族仕様の革鎧だ。
リーベルタースの地理に明るくないとはいえ、
備えあればうれいなしと、
いつものようにリオネルは事前にしっかりと準備をしている。
以前ワレバッドで購入したものと、このホテルに入ってから取り寄せた、
『詳細なリーベルタースの市街地図』を参照し、隅から隅まで頭の中に記憶。
勿論、両方の地図を携帯もしていた
更に昨夜、転移魔法を使い、従士たる妖精ピクシーのジャンを、
真夜中の偵察に行かせ、市内の様子を探らせ、帰還させてから報告を受けている。
そのジャンは、今朝も一行の上空を飛翔し、
異常がないか、逐一報告を入れてくれた。
その為、街中を歩いていても、リオネルは今自分達がどこに居るのかが、
はっきりと分かっていたし、傍らのヒルデガルドにも念話で情報を共有していた。
勿論、索敵のスキルはず~っとMAX状態、
5㎞四方の状況はしっかりと把握している。
万全な態勢でリーベルタースの街を歩くリオネルとヒルデガルド。
案内先も昨夜、希望を入れていた。
ホテルの様式と同じく、フェフ、ワレバッドと比較すれば分かりやすいし、
後学の為にもなるだろうと。
なので、リーベルタースの中央広場、市場、市場露店、繁華街、
商業街区、職人通りをじっくりと見物。
そして王宮、貴族街区は変に刺激を与えない為、
中へは立ち入らず遠目から確認したのである。
これまた事前に伝えて了解を取っていたのだが、
「ランチをなし」にして、ぶっ通しで見物したので、終了は午後2時。
ホテルへ戻って解散し、リオネルとヒルデガルドは『ルームサービス』で、
遅い昼食を摂る事に。
担当者の了解を取り、リオネルがレストランへ直接オーダーした。
……しばらく経って、料理とデザート、そして飲み物が運ばれて来る。
ルームサービスをお願いし、部屋で食事を摂る事にしたのは、
気楽に食事をするのは勿論、一旦得た情報を整理し、
今後の作戦を立てる為でもあった。
運ばれて来たものが全てテーブル上に並べられた。
これで食事の準備は完了。
さすがに盗聴はされていないだろうが、リオネルとヒルデガルドは練習も兼ね、
念話で打合せを行う。
時間は……午後3時を回っていた。
多分、これから摂る食事は、夕食も兼ねる事になるだろう。
食事をしながら、ふたりはやりとりをする。
『ヒルデガルドさん、今日も宰相閣下から連絡はなさそうですね。多分こちらへの対応の仕方を熟考していると思われます』
『こちらへの対応の仕方を熟考……そうなのですか、リオネル様』
『はい、宰相閣下は、昨夜のディナーから、この案内と護衛を含め、俺とヒルデガルドさんをじっくり観察して、マウリシオさんから自分へ報告させ、見極めようとしていると、俺は思います』
『リオネル様と私を見極めようと……』
『ええ、ギルドデータベースの戦歴と、ローランド様が直接認めた俺達の実力を認識しながらも、ドラゴン退治の依頼をして良いのか、そしてヒルデガルドさんと会見を行って良いのかと考えていると』
『成る程……ですね。で、これから、どう致しましょうか?』
『はい、とりあえず、もう少し待ちましょう』
『もう少し……待つのですか?』
『はい、俺の勘では明日あたりに動きがあり、明後日以降会見があると思います。但し、待つ間は、いたずらに時間を無駄にせず、今日のように有効に使いましょう』
『確かに! 本日の見学で私達、だいぶリーベルタースの街に詳しくなりました。フェフやワレバッドとの比較も出来ましたし、大収穫です。貴重な時間の使い方ですわ』
『ええ、時は金なりですよ。とりあえず今は食事を楽しみましょうか』
『はい! こうして気楽に食べる方が、料理は美味しいですね。あくまで個人的な意見ですけど』
『あはは、その意見、俺も100%同意しますよ』
念話の会話もレベルアップし、ふたりの会話は一層弾んだのである。
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