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第637話「コンビを組み、依頼を完遂したいと思いますが」

正門の門番に呼び止められ、冒険者ギルド手配の馬車へ乗り込み、

リーベルタース支部へ向かうリオネルとヒルデガルド。


このリーベルタース支部は、ソヴァール王国ワレバッドの総本部の施設に比べれば、

だいぶ規模は小さいが、アクィラ王国王都の支部だけあり、

本館、別棟、闘技場、図書館、ホテルなどを備えている。


街中をしばし走った馬車は、リーベルタース支部へ到着。

正門でチェックを受け、支部の敷地内へ。


敷地内を走った馬車は本館前で止まり、

本館出入り口の前には初老の男性、中年の女性、男性が並び、

出迎えの様相を呈していた。


馬車を止めた御者が素早く降り、さっと扉を開けると、まずはリオネルが降車。


続いて降りて来るヒルデガルドを、リオネルが丁寧に手を取って、フォローした。


それを見て、出迎えメンバー中の初老男性が一歩前に出る。


声を張り上げ、ふたりへ問いかける。


「先にお尋ねし、失礼致します! 貴女様は、イエーラ国ソウェル、ヒルデガルド・エテラヴオリ様ですか?」


「ええ、そうです」


ヒルデガルドが肯定すると、次にリオネルへ、


「そして貴方が、イエーラ国の政治顧問であるソヴァール王国出身のランクS冒険者リオネル・ロートレック殿でしょうか?」


「はい、そうです」


ふたりの氏名、肩書を確認した初老の男性はにっこり。


「事前にお手紙を頂いておりましたから、本日はスケジュールを調整し、お待ちしておりました。このたびは、ようこそアクィラ王国王都リーベルタースへいらっしゃいました! 初めまして! 私はリーベルタース支部のギルドマスター、マウリシオ・アロンソでございます」


対して、ヒルデガルドの手を握ったまま、リオネルが尋ねる。


「ギルドマスター、そちらのおふたりは?」


「はい、リオネル殿。ふたりともサブマスターですが、中へ入ってから改めて紹介します」


「分かりました、宜しくお願い致します」


リオネルが一礼し、ヒルデガルドも同じく一礼した。


初めて訪問した国、初めて相まみえた相手だが、

リオネルは全く臆せず堂々としていた。


一方ヒルデガルドもリオネルの手を握りつつ、ワレバッドで経験を積んだので、

落ち着き払っている。


マウリシオ以下、3名はどのようなファーストインプレッションだったであろうか。


「早速、おふたりをご案内致します。ささ、どうぞ、こちらへ」


マウリシオの(いざな)いの言葉を聞き、


「ありがとうございます!」


「お手数をおかけします」


そうリオネルとヒルデガルドは言い、一歩、二歩と足を踏み出したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リーベルタース支部ギルドマスター、マウリシオが先導。


背後をサブマスターふたりに固められ、リオネルとヒルデガルドは、

支部の特別応接室へインした。


ここで改めて、サブマスターふたりが紹介された。


女性がエベリナ、男性がレミヒオと名乗り、


対してヒルデガルドとリオネルも改めて名乗った。


ヒルデガルドの美しさに驚嘆したとか、リオネルが19歳と聞いていたが、やはり若いとか、軽い雑談の後、本題に入る。


マウリシオが言う。


「ソヴァール王国のローランド・コルドウェル伯爵様――冒険者ギルド総マスターからの手紙を読みましたよ。驚きました、ランクSとはいえ、ギルドのいち冒険者が、鎖国状態のイエーラの政治顧問になるとは」


「はい、御国のフォルミーカ迷宮でヒルデガルド様の祖父であるイェレミアス様と知り合いまして。いろいろなやりとりがあり、お願いをされました」


リオネルはシンプルに説明したが、マウリシオはいまいち納得がいかないようだ。


「成る程。しかしアールヴ族は誇り高く、人間族と折り合いが上手く行かない場合が多い。どうしてそこまで……」


プライドが高く、自種族最上位主義のアールヴ族が、

ランクSとはいえ、何故人間族のリオネルをそこまで信用したのか? 

……マウリシオの疑問は解けない。


ここで「はい!」とヒルデガルドが挙手。

発言を求めた。


「何でしょう? ヒルデガルド様」


「マウリシオ様、簡単な事ですわ」


「ほう、簡単な事ですか?」


「はい、フォルミーカ迷宮でリオネル様に邂逅した祖父は、魔法、スキル、身体能力など、全ての実力を認め、納得し、我がイエーラへ招致したのです。そして私も論より証拠という形で、リオネル様の底知れぬ実力を目の当たりに致しました」


「むう、ヒルデガルド様がリオネル殿の底知れぬ実力を? 確かにギルドのデータベースにはドラゴン、巨人族を含め、リオネル殿のとんでもない討伐記録が記されておりますが」


「はい、それです。最近オークキング以下2千体を討伐という記録が残っていると思いますが、私、その現場に居りました」


「おお、そうだったのですか」


「はい、私の目の前、たった5時間で、リオネル様はオーク全てを倒してしまわれました。オークキングなど、拳一発でしたわ」


「ふうむ、オークキングを拳一発でとは……記録をただ見るのと、実際に現場にいらしたヒルデガルド様から語って頂くのとは、リアルさが全然違いますな」


そろそろ頃合いだろう。


リオネルが話を切り出す。


「……という事でギルドマスター。アクィラ王国内において、高難度の魔物討伐依頼はありませんか? 自分は実績を積んだランクSですし、ヒルデガルド様はまだ実戦経験が不足していますが、ローランド様に直接認めて頂いたランクAです。コンビを組み、依頼を完遂したいと思いますが」


「成る程。おふたりで高難度の魔物討伐依頼を受けたいと?」


「はい、依頼はありますかね? 王家や上級貴族の依頼でも受諾したいと思いますが」


「むうう~~………」


マウリシオは考え込んだ。


心当たりはあるという波動を発していたから、依頼はあるのだろう。


迷い、懸念しているのは、ヒルデガルドの安否に違いない。


万が一、ヒルデガルドに何かあったら責任問題になるからだ。


当然ながら、その点に関しては、リオネルも万全を期すつもりである


どちらにしてもまず話を聞かないと始まらない。


「ギルドマスター、受諾するかしないかはご相談です。自分達も無理は言いません。まずお話をして貰えますか? お願いします!」


リオネルは柔らかく微笑みつつ、強くマウリシオへ迫ったのである。

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