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第629話「フェフ市内は勿論、近隣の町村からも客が押しかけ、 開店時間前から、長蛇の列となった」

リオネルが請け負ったアールヴ族の国、イエーラ富国作戦。


……やるべき仕事は山積みだが、相談の上、優先順位をつけ、

リオネル、ヒルデガルド、イェレミアスは次々とこなして行く。


同時進行で上手く進める為には、確実性とともに効率性が求められる。


それゆえ、農業支援策の書類を作成する間に、同時進行で、

設立する公社職員募集作業を詰めて行く。


先日実施された第一次面接の通過者だが、年齢性別は老若男女、

そして職業も千差万別。


商業未経験者が多かったが、既存の大手商店からも、中堅若手の応募が結構あった。


これはオークの宝箱を臆して買い取らず等、これまでの古いやり方を変えようとしない商店主、幹部社員達の方針を知り、

違和感と将来への危機感を覚えているようであった。


また、国が本腰を入れ、公社を設立し、商業の振興を行う事に期待しているらしい。


という事で、引き続き、リオネル、ヒルデガルド、イェレミアスが立ち会い、

官邸において、第二次、更に最終面接を行った。


第一次面接でもそうだったが、あくまで人物、能力本位。

年齢、性別、身分、出自などは一切問わなかった。


ただ公社は現金、商品を扱い、対人関係が重要な仕事。

なので、さすがに心を読む事はしなかったが、不正行為や犯罪者が出ては困るので、

応募者から(よこしま)な波動が出ていないかどうか、

リオネルは、充分にチェックをさせて貰った。


そんなこんなで、面接の結果、計100名もの公社職員が採用された。


既存の大手商店からの転職組には、いくつかの商店から、

「引き抜きだ!」とのお門違いな抗議があったが、

あくまでも、応募者の希望ありきの正当な転職だと、却下した。

また、以前念書を取り交わした事もあり、

今後、公社の正当な商業活動に対し余計な干渉をしない事も確認する。


さてさて!

リオネルは、採用したその100名をまず商業経験者、未経験者に分け、

更にひとりひとり面談を重ね、幹部職員、一般職員に分けた。

更に更に希望を聞き、国内部、国外部へと振り分ける。


念の為、補足すると、国内部は国内向け取引、販売のセクションであり、

国外部は国外との交渉、取引――輸入輸出を担当するセクションだ。


公社のオフィスは、官邸内の別棟に本部を置くが、

国外部のメインオフィスは、国境沿いに建設中の特別地区へ置く事も決めた。


また、国内部が商品を販売する店舗を確保する為、都フェフにある大型空き店舗も、

購入しておいた。


更にリオネルは、官邸の事務官、武官達も参加させ、

官邸において100名の公社職員全員へ7日間の『商業研修』を行った。

事務官、武官達は、公社職員達と一緒に研修を受ける事で、

公社の仕事内容を3者で共有する為でもある。


研修ではまず公社の意義を改めて説明し、商業経験者にも最初から、

商いのイロハを教授する。

人間社会の作法、それに伴う注意事項も併せて丁寧に説明した。


その際、冒険者ギルドから購入したテキストが『教科書』として役に立った。

冒険者引退後、商人になる為の講座のテキストを、

リオネルは、特に大量に購入していたのである。


商業研修後は、再び公社担当の事務官と公社の幹部職員クラスを集め、

その後の段取りを説明。


既存商店からの転職組である商業経験が豊富な幹部職員達から直接、

現場の一般職員達へ指示が出せるようレクチャーも行った。


転職組には店舗運営の現場経験者も居り、

リオネルが四六時中監督せずとも、店舗の販売業務は何とか機能出来そうである。


これで何とか、公社の基本形は出来て来た。


そうこうしているうちに、農業支援を担当する事務官達から、

各地の首長達へ送付する書類作成が完了したという報告が入った。


リオネルは、ヒルデガルド、イェレミアスとともに書類の内容をじっくりと確認。

若干校正を行い、修正したものを完成版とし、

間を置かず魔法鳩便で送ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


業務の開始は、まず国内部から。


購入した大型店舗を早速使い、販売業務を行う。


リフォームや設備投資なしですぐに販売が出来るよう、

以前の店舗設備がそのままある案件を、リオネルは『居抜き』で購入していたので、

備え付けの商品陳列棚、購入窓口などは、そのまま流用する事が出来る。


この店舗で販売する予定の商品は、

ワレバッドで仕入れて来たアールヴ族が好む人間族用の食料品、

優先順位の高い生活必需品、ヒルデガルドが気に入ったおしゃな雑貨、

リオネルが大量購入した衣料品などなど。


その店舗で、リオネルは更に7日間の研修――

公社職員同士で模擬販売を行い、『販売研修』を行った。


いわゆる『お店屋さんごっこ』ではあるが、

扱うのはアールヴ族には物珍しい商品も多く、

商業経験者も未経験者も楽しく仕事が出来たようである。


これから自分たちが新たな仕事を切り開くという、

公社職員達のモチベーションは高く、マネジメント役の幹部職員も、

上級職の驕りを見せなかったので、公社内の雰囲気も上々だ。


オープンも問題ないと、リオネル、ヒルデガルド、イェレミアスのOKが出たので、

販売研修の7日後、正式に開店する事となった。


ただ、人間族のどのような商品が、受けるのか、売れるのかは全くの未知数。

イエーラ国内産の類似商品と、品質、価格面での兼ね合いもある。


事前の商業研修、販売研修において、職員同士の意見交換と聞き取りもやり、

リオネルは改めて販売商品の大幅な絞り込みと更なる選択を実行した。


品ぞろえが豊富なのに越した事はないが、商品説明がいちいち多くなるのを想定。


そうなれば、まだ人間族の商品に不慣れな職員達の負担が、

大きくなりすぎる事も考えたのだ。


しかし、公社職員のやる気はとどまる事がなかった。

オープンまでの7日間、ぎりぎりまで、

職員達からぜひにという販売研修の希望が出て、

みっちりと商品知識の学習を行い、接客、店舗運営の鍛錬をしたのである。


対してリオネルは、職員達を激励、監督、指導しながら、

事務官達にも指示を出し、フェフ市内と近辺の町村に、

公社直営店開店を大々的に告知させた。


……そして迎えたオープンの日。


公社直営店舗の営業時間は午前10時から、午後8時。

職員達は、休憩をとりながらの3交代制。


国が商売をするという物珍しさ、好奇心も加わって、

フェフ市内は勿論、近隣の町村からも客が押しかけ、

開店時間前から、長蛇の列となった。

だが、警備担当の武官が目を光らせ、交通整理をしてくれたので、

幸いにも争いは起こらなかった。


そして、時間が来て、開店と同時に、客がどっと店内へ。


それから公社職員達は目の回るような忙しさに。


……結局、開店から約4時間後の、午後2時。


用意した商品は全て売り切れ、

オープン初日は終業時間前に閉店となってしまったのである。

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