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第603話「昨日の今日なので、話が早い」

翌朝、リオネルとヒルデガルドは、昨日同様にホテルのレストランで、

朝食を摂っている。


二度目となれば、もう慣れたもの。


リオネルは勿論だが、ヒルデガルドも余裕を持ち、

ビュッフェ形式風の朝食を楽しむ。


支配人が同じスタッフ4名をつけてくれたから、全てにおいてスムーズである。


相変わらず料理は美味しく、リオネルとヒルデガルドは、気分良く食事をし、

その後、お茶を飲んでいた。


ヒルデガルドは、リオネルから今日のスケジュールを聞いてはいない。

本日の予定を確認しなくてはならない。


「リオネル様」


「はい」


「今日は、午前9時30分にエステルさんがアテンドに来てくださるそうですが、スケジュールの方はどう致しますか? そろそろワレバッドの街中へ出ますか?」


……昨夜の夕食時、明日クローディーヌは本来の業務遂行によりで同行出来ないが、

エステルはフォローすると告げられたのだ。


秘書見習いの彼女は半人前のアシスタント扱いだが、この2日間案内に同行し、

気心も知れて来たし、全く問題なしとの判断がブレーズから下されたという。


というわけで、ヒルデガルドの質問に対し、リオネルは即座に答える。


「いえ、ワレバッドの街中へは行きません。いろいろ考えましたが、今日も総本部内で行動します」


「ええっと……いろいろ考えたとは?」


「はい、この冒険者ギルド総本部は、まるで小さな街の趣きと機能があります。ここにしばらく滞在し、人間社会に触れるトレーニングをして、ヒルデガルドさんが充分に慣れてから、ワレバッドの街へ出るようにしたいと思います」


「な、成る程! 徐々に段階を踏み、私が充分、人間社会に慣れてからワレバッドの街中へ出ると」


「です! その方が不安も少なくなるでしょう。ワレバッドの街中には、治安維持の為の衛兵が居ますが、この総本部は、街中より警備が行き届いています。どの場所でも大勢の警備員の目が光っていますし、ワレバッドの街中よりも、ずっと治安が良いと思いますから」


「分かりました。いつも私をお気遣い頂きありがとうございます。リオネル様の仰る通りに致しますわ」


「ありがとうございます」


「で、話を戻しますが、この総本部内において、具体的に何をどう致しますか?」


「はい、午前中は、例のオーク宝箱の中身を売却するのを、ヒルデガルドさんに見学して貰おうと思います」


「え? あ、あの、討伐したオークの宝箱を?」


「はい、結局イエーラの商人さん達には買い取って貰えませんでしたから、昨日見学したギルド購買部の買い取り部門へ持ち込みます。こちらで作成した商品リストに、見積書もありますから、確認しながら比較して、折り合えば売却します。値段にどれくらい差が出るのか、同じくらいの値段になるのか、分かりませんが、楽しみですね」


「そ、そうですね。売却がどのようなやりとりになるのか、私には全く想像も出来ませんが、凄くわくわくしますわ」


「はい、ギルドの購買部なので、ごまかしや不正はないですし、あくどい買い叩きもないと思いますが、先方から提示された買い取り金額があまりにも安いようなら、今回の売却は見送ります。他で売っても構いませんし」


「そうなんですか?」


「ええ、事前に契約をかわし取り決めをするとか、何か特別な事情が絡んでいない限り、ギルドで必ず売却しなければならないという決まりはありませんし、買い取りは街中等も含め、大体どこでも出来ますから」


「成る程。午前の予定は分かりました、で、午後はどう致しましょうか?」


「はい、売却交渉後、一旦ランチを摂り、午後は逆に、購買部のいろいろなお店で買い物をしてみましょう」


「え!? お、お店で!? か、買い物を!?」


「ええ、ヒルデガルドさんに買い物をして貰います」


「わ、私が買い物を!!」


イェレミアスから聞いた話だと、

ヒルデガルドは、さすがに通貨制度は理解しているが、

私的な買い物は未経験らしい。


祖父や、今は亡き父、母がヒルデガルドの身の回りの物を全て取りそろえたからだ。

ソウェルになってからは、配下の者や使用人達が全てやってくれているという。


昨夜、ヒルデガルドが『女子会』で、クローディーヌ、エステルと話しているのを聞き、リオネルは、人間族女子が好む『ショッピング』も体験させてあげようと考えたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


レストランから部屋へ戻ったリオネルとヒルデガルド。


午前9時30分少し前にエステルが部屋へやって来て合流。


3人で、本日のスケジュールについて打合せを行う。


リオネルは先ほど話したスケジュールをエステルへも伝え、共有した。

総本部にしばらく滞在。

ヒルデガルドが人間社会に慣れてからワレバッドの街中へ出るという方針を聞き、

エステルも大いに賛成する。


「成る程! 分かりました! リオネル様のお考え、とても良いと思います。ワレバッドにご滞在中は、明日以降も私がお世話出来ますし」


エステルの言葉に反応したのはヒルデガルドである。


「え? 明日以降もエステルさんが一緒? 本当なのですか! やったあ!」


「は~い! 本当で~す! 未熟者ですが、精一杯、頑張りま~す!」


……というわけで3人は出発。

別棟にある、購買部の買い取り部門へ。


買い取り部門は、コンサートホールのようなとんでもなく広い部屋である。

大勢のギルド職員が居り、幅広で長い大型の作業台――サッカー台がいくつも並んでいた。


時間によっては、この部屋がいっぱいになるほど、冒険者達でごったがえす。

冒険者達は、自分が得た価値のあるお宝を現金へ変えようと、期待と不安を胸に、

この買い取り部門へ押しかけるのだ。


しかし、朝一番のせいか、売却に赴いた冒険者の数はまだ少ない。


昨日見学したので、ヒルデガルドは買い取り部門の仕様に驚きはない。

だが、リオネルがこれからどう行動するのか、興味津々である。


ここで、先導していたエステルが、たたた!と走り、買い取り部門の長へ駆け寄る。


リオネルとヒルデガルドが、売却用の商品を持参し、来訪した事、

そして趣旨等を告げたようだ。


昨日の今日なので、話が早い。


買い取り部門の長は、部下とともにすっ飛んで来て、 


「これはこれは! おはようございます! ヒルデガルド様! リオネル様! ようこそ、我が購買部買い取り部門へ! さあ! どうぞ、こちらへ!」


ホテルのレストラン同様、買い取り部門にも『特別な個室』があるらしい。


笑顔の長は、リオネル達3人を、部屋の奥へと(いざな)ったのである。

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