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第602話「そう! ……私の人生は大きく変わった!!」

存分に楽しんだビュッフェ形式風の朝食を終え、

部屋へ戻ったリオネルとヒルデガルド。


レストランではヒルデガルドが大注目を浴びていたが、

個室のVIPルーム、スタッフの派遣等、支配人の厚意により、

リオネルが懸念したトラブル――ヒルデガルドに対する興味本位の声掛け、

ナンパなど、『第三者の理不尽な介入』は全くなかった。


……ただいまの時刻は、午前8時30分。


「今日は朝から晩まで1日中、思う存分、出来うる限り、総本部の見学を行いたい!」


そんなヒルデガルドのたっての希望で、

昨日同様、本日もクローディーヌとエステルが、

1時間後の午前9時30分に迎えに来て、

つきっきりで1日中、案内をしてくれる事となっていた。


レストランへ行った際に着用した平服のブリオーから、革鎧に着替え、

リオネルとヒルデガルドは、クローディーヌとエステルを待った。


時間通りにクローディーヌとエステルは部屋へ来訪し、合流。


早速昨日の続き、『総本部ツアー』が始まった。


基本的に、クローディーヌとエステルが先導し、各所において説明を行い、

ヒルデガルドがリオネルに対し質問し、答えるというのが昨日の流れであった。


だが、昨日やりとりをした事で、

面倒見の良いクローディーヌとエステルへ多少の信頼も生じたし、

リオネルへの負担も減らしたいという事もあったに違いない。


ヒルデガルドは、信頼するリオネルだけではなく、

会ってから日が浅いクローディーヌとエステルへ直接質問をする事も多くなり、

渡された案内書に、自分なりの意見、感想的なメモを書き入れる余裕も出て来た。


クローディーヌとエステルは誠実であり、

かつ女性同士という気安さも大きかったに違いない。


そもそもリオネル以外の人間族と、ヒルデガルドが懇親するのは、

今回の旅の趣旨を考えれば願ったりかなったりである。


リオネルはすっかりなごやかとなった3人のやりとりを見守りながら、

自分も案内書に補足事項を記載して行った。

改めて冒険者ギルド総本部の施設について知る良い機会になったし、

引き受けたイエーラ富国作戦の参考にもなるだろう。


リオネルは、そんな事をつらつらと考えながら、見学は続いて行く。


昨日は本館を中心に見学をしたヒルデガルドであったが、

今日は夕方までたっぷり時間をかけ、

本館以外の3つの別館、地下書庫付き王都支部の3倍の大きさの図書館、

訓練所も兼ねた魔法研究所に、3つの武技道場、

様々な地形を模した訓練研修合宿所、

そして大、中、小の闘技場をじっくりと見学した。


ちなみに、昨日昼抜きで見学を行ったのだが、

「さすがに今日は、絶対に昼食はお召し上がりになってください!」と、

クローディーヌとエステルから強硬に言われ、

ヒルデガルドは仕方なく、途中会議室にて、ケータリングの食事を摂ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


昨夜は、ヒルデガルドのカルチャーショック的な気分の落ち込みもあり、

クローディーヌとエステルから誘いを断り、部屋でルームサービスを利用した夕食であった。


だが、ヒルデガルドは完全に復活。

今夜もふたりからお誘いがあり、総本部案内の打ち上げを兼ね、

夕食をともにする事となった。


加えて、固い雰囲気にならないようにと気遣って貰い、

本来なら参加するブレーズ抜きでの提案である。


そんな事をして大丈夫かと心配したリオネルであったが、

ブレーズには了承済みと、クローディーヌから聞き、安心した。


4人で話し、格式張らない気軽な食事なので、

正装ではない格好で構わないとなり……

全員で、平服のブリオーを着て集合。


リオネルとヒルデガルドは勿論、クローディーヌとエステルを見たレストランのスタッフは、4名を個室のVIPルームへご案内。


朝食のビュッフェ形式風と違い、ディナーは完全オーダー制。

クローディーヌとエステルが予約したのはコース料理である。


コース料理は最上級のソヴァール王国料理であり、素材、調理、器、盛り付けまで、

至高のものが反映されていた。


用意されたワインも年代物のヴィンテージ。


支配人から命じられた専任のスタッフ10名が、

至れり尽くせりで、ケアをしてくれる。


「す、凄い! 美味しすぎます!」


口当たりが良いせいか、ワインの酔いも手伝い、

ヒルデガルドはひどく陽気になり、饒舌となる。

但し、心のたがは決して外さず、イエーラの内部事情、リオネルの秘密等、

守秘義務のあるものは、絶対口外はしない。


対して、あくまでも敬語を使用するなど、言葉遣いに気を付けながらも、

ヒルデガルドとすっかり打ち解けた感のあるクローディーヌとエステルが、

いろいろ女子向けの話題を振る事もあり、会話はとても盛り上がった。


内容は、完全に仕事を離れ、食、美容、おしゃれ、などなど。

さすがに微妙な話題なので、リオネルとの関係を突っ込む恋バナは出なかったが……


趣味嗜好において、アールヴ族と人間社会の比較がされ、

3人の女子達はとても面白がる。


わいわい、きゃっきゃと心の底から楽しそうに語る女子3人。


これはまさに、人間社会の『女子会』そのもの。


一方、唯一の男子であるリオネルは、場の雰囲気を壊さぬよう、

3人から何か話を振られても、基本は相槌を打ち、必要最低限の会話にとどめた。


異国の御馳走に舌鼓を打ち、ワインがもたらす心地よい気分に浸りながら、

ヒルデガルドはふと、思う。


今も信じられない。

毎日毎日、フェフの官邸、最奥の執務室で、ひとり一心不乱に仕事をしていた私が、


遥か異国の地、ソヴァール王国まで旅をして来て……

生まれて初めて見て触れる人間の社会。


どこもかしこもイエーラとは比べ物にならないスケールに圧倒される。

学ぶ事が、とんでもなく多く、全てが自身の糧となるだろう。


そして……

食べた事がなかった最高の食事に、

邂逅したばかり、気の置けない新たな友たちとの女子会で歓談し、

そばには、最も信頼するリオネルが居る。


改めて感じる。

本当に幸せだと!


長きにわたり、世界から門を閉ざして来たイエーラに生まれ育った自分が、

偉大な祖父のプレッシャーに押し潰されそうになりながら、

無機質で辛く、決まりきった茨の如き道を歩むはずだった自分が、


自分をいたわり、守り、導くリオネルのアテンドで未知の世界へ出て、

全く新たな体験をし、

帰国後は、得た知識と経験を基に、ソウェルとして、イエーラの為に尽くす。

何という、やりがいのある仕事だと心の底から思う。


そう!

……私の人生は大きく変わった!!


おじいさまがお連れになった、

底知れない大器リオネル・ロートレック様によって!!


この方が、私の危機を救い、明るい未来を切り開いてくれた白馬の王子様!!


ヒルデガルドは、美しい菫色の瞳で、リオネルを熱く熱く見つめていたのである。

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