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第596話「今のこの状況を!! どうしてこうなっているのかを教えて貰えないかっ!!」

ワレバッドの門番により冒険者ギルドの馬車が呼ばれ、

リオネルとヒルデガルドは、総本部へドナドナされた。


ヒルデガルドにとって全てが生まれて初めてという人間の街。


それもワレバッドは、故国イエーラの都フェフが比べ物にならないくらい大きな街。


ヒルデガルドからすれば異国情緒たっぷりな数多の建築、

アールヴ族とは服装が全く違う行きかう人々、

馬車に揺られながら見える車窓越しの光景に、

ヒルデガルドは、凄い! 凄い!と子供のようにはしゃいだ。


凄い!の後は、お約束の質問攻めである。


「あの建物は何ですか?」

「あの人達は何をしているのですか?」

「あの店は何を売っているのですか?」等々。

他にも思いつくままに、リオネルへ何でも聞きまくった。


更に、冒険者ギルド総本部の威容が見えて来ると、


「わああああっ!!!」


と感嘆の声を上げる。


10階建ての本館に、5階建ての別館が3つ、地下書庫付き王都支部の3倍の大きさの図書館、訓練所も兼ねた魔法研究所に、武技の道場が3つ、様々な地形を模した訓練研修合宿所、5,000人収容、1,000人収容、の大と中の闘技場、そして500人収容の小闘技場が3つ。

地下収容付きの倉庫が10棟、ホテルに、広大な公園まである……


そうリオネルが説明すると、ヒルデガルドは驚愕。

目を思いっきり大きく見開き、


「凄い! 凄すぎますわ! ここって、規模はフェフの官邸など比べ物になりませんね!」


「はい、でも、フェフの官邸も使い勝手は結構良いと思いますよ。後で見学し、良い所は取り入れましょう」


「え? ここ、見学が出来るのですか?」


「はい、総マスターか、サブマスターへ頼んで許可を貰おうと思います。関係者以外は立ち入り禁止の場所もありますけどね」


「な、成る程」


と、いう会話を続けていたら、馬車は総本部本館前に到着した。


正門の門番から、速攻で魔法鳩便が飛ばされていたのか、

本館の入り口前には、リオネルが見覚えのあるふたりの男女が立っていた。


リオネルの視線を追ったヒルデガルドも、ふたりの男女をじっと見つめた。

微笑んでいるリオネルを見て、ヒルデガルドも微笑む。

すぐに近しい間柄だと分かったようである。


そして馬車が入り口前に到着。

御者により扉が開けられ、リオネルが先に降り、

続いて降りたヒルデガルドの手を取って支えた。


と、そこへ声がかかる。


「おお! リオネル・ロートレック君! 本当に久しぶりだなあ!」

「ええ! リオネル様! すこぶるお元気そうで何よりですわ!」


ふたりの男女――総本部サブマスター、剣聖ブレーズ・シャリエと、

彼の秘書で麗しきクローディーヌ・ボードレールが、

嬉しそうに声を上げたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


久々に会うリオネルが絶世の美女ともいえるアールヴ族の女性を連れていて、

女性の手はリオネルの手をしっかりと握っていた。


そんな様子を見たブレーズは、穏やかに微笑み、

紹介も後で、とりあえずゆっくり話そうと告げ、リオネルとヒルデガルドを、

クローディーヌとともに、サブマスター室へと(いざな)う。


4人が部屋へ入ると、更に応接室へ。

しばし経って、ギルド職員によりお茶と焼き菓子が運ばれて来た。


ブレーズ曰はく、

本日、冒険者ギルド総本部総マスターでもあり、

ワレバッドを治める領主ローランド・コルドウェル伯爵は所用の為、

不在であるとの事。


職員が去り、扉が閉められてから、改めてそれぞれの紹介が行われる。


リオネルにぞっこんなこのアールヴ族女性は何者?

というブレーズとクローディーヌの興味津々な視線を受けながら、

まずはリオネルからヒルデガルドの紹介が、


「彼女は、ヒルデガルド・エテラヴオリさん、アールヴ族の国イエーラの長、ソウェルです」 


事も無げにしれっと言うリオネルに、ブレーズとクローディーヌはびっくり仰天。


「え!!??」

「ソ、ソウェル!!??」


そんなブレーズとクローディーヌへ、緊張しながらも、


「は、はいっ! 初めまして! リオネル様の仰る通り、私はイエーラのソウェル、ヒルデガルド・エテラヴオリですわ」


……このワレバッドにも、様々なわけあって、

アールヴ族の国イエーラから流れて来た、アールヴ族達が居て、

人間社会で暮らしてはいる。

冒険者になっている者も結構居た。


だが、イエーラは基本的に鎖国政策を行っており、

ソヴァール王国を含め、他国と正式に国交を樹立してはいない。


そうは言ってもイエーラの長、ソウェルなら、

ソヴァール王国にとっては最上級の国賓。

多分、お忍びで来たのだろうが、本来なら国をあげ、歓迎する対象である。


加えて、不思議なのがいくらリオネルがランクSのレジェンドとはいえ、

一介の冒険者。

手をつないで、連れて来るような相手ではない。


そもそも、アールヴ族は、人間族を遥かに下に見ており、

このように親しげになる事はあり得ない。

最も誇り高きソウェルなら、尚更である。


どうして!!?? 何故に!!?? リオネルを様付け!!??


という気持ちを必死に抑え、ブレーズとクローディーヌはとりあえず自己紹介。


「ソ、ソウェル、ヒルデガルド・エテラヴオリ様! 冒険者ギルド総本部サブマスターのブレーズ・シャリエと申します!」

「ソ、ソウェル、ヒルデガルド・エテラヴオリ様! ブレーズ・シャリエの秘書クローディーヌ・ボードレールでございます!」


急ぎ自己紹介を終えたら、ブレーズは、


「リ、リオネル君っ!!」


「はい」


「今のこの状況を!! どうしてこうなっているのかを教えて貰えないかっ!!」


「ぜひぜひ!! お願い致しますっ!!」


身を乗り出して迫るブレーズとクローディーヌ。


あまりの勢いに今度はヒルデガルドがびっくり。


思わず心配になり、リオネルの手をぎゅ!と握るが、


「大丈夫ですよ、ヒルデガルドさん」


リオネルは柔らかく微笑み、ヒルデガルドとの出会い、

そして、現在の状況を話し始めたのである。

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