第589話「計200体のゴーレムを一度に操る術者など、見た事も聞いた事もない」
最初に訪れた村において、リオネルとヒルデガルド、随行した武官、事務官たちは、
オーク討伐の完遂報告、救援物資の搬入、贈呈、そして全員立ち合いのもと、
岩石製防護壁の検分を行い、転移魔法で次の目的地、とある町へ移動。
次の町でも、町長、助役、町民へオーク討伐の完遂報告、救援物資の搬入、贈呈、
そして全員立ち合いのもと、岩石製防護壁の検分を行い、転移魔法で更に次の目的地、とある村へ移動。
そこからはず~っと同じ繰り返し。
都合20か所余り、結構な数の目的地であったが、距離と時間の壁は、
リオネルの転移魔法が全て解決してくれた。
何と!
通常ならば、約1か月以上はかかる行程が、たった1日で終わってしまったから。
そして各地の首長は勿論、住民たちも、大いに喜び、ヒルデガルドの命によりという強調もされたので、想定通り、彼女の求心力は大いに高まった。
また武官、事務官のリオネルに対する求心力と信頼度も著しく高まった。
当初、イェレミアス、ヒルデガルドをはるかにしのぐ実力を持つリオネルが、
腹黒い野心を発揮し、欲する欲望、暴虐の限りを尽くして、
イエーラを支配するのではという懸念を持つ者も一部居た。
だが、もしそうであれば、こんなに手間がかかる、ややこしい、
回りくどいことはしないと結論付け、疑惑は完全に解消した。
もし邪念があれば、リオネルは、ストレートに速攻で事を行えばよいのだ。
あっという間に、イエーラは蹂躙され、アールヴ族は征服されてしまうだろう。
ヒルデガルドを連れ、わざわざ魔境まで赴き、オーク2千体を倒したり、
イエーラの為に、100㎞にも及ぶ岩石製防護壁など、
魔法で築く必要は全くないからだ。
そんなこんなで……リオネルとヒルデガルドは、立てたスケジュールを進めて行く。
翌日は、まず朝一番で都フェフの中央広場に、
武官交代の見張り付きで、倒したオークキングどもの死骸をさらし、
市民へ大々的に討伐完遂を告知。
官邸へ戻り、ヒルデガルド、武官、事務官、魔法使いへ、
それぞれ武術、魔法指導を行いつつ……
指導が終わると、リオネル、ヒルデガルド、イェレミアスの3人をメインに、
オークの宝箱の中身の売却検討と、交易を行う為のイエーラにおける商会設立、
作成した資料に基づく農地開拓の相談など、ガンガン打合せをこなした。
武術指導、魔法指導は引き続き行うとして、
やはり、宝箱の中身売却は滞ってしまった。
値は付いたものの、魔物がキープしていたモノは、
アールヴ族の商人には抵抗があるらしい。
気味が悪いから、現金は使用禁止、
畏れ多いが、商品の買い上げは遠慮したいと、
商人達全員から申し入れがあったのである。
腰が引けた商人達に、ヒルデガルドは大いに怒ったが、リオネルは笑顔。
「いや、まあ、仕方がないですよ」
「で、でも! リオネル様!」
「落ち着いてください、ヒルデガルドさん」
「は、はい」
「ソウェルの立場を使う強権発動はダメです。対等な商取引ですし、商人さん達へ無理強いは出来ません。彼らとは、せっかく顔なじみになったから、こちらも難度は高いですが、商会設立の方で相談しましょう。現金は人間族の町で物資購入に使い、それ以外の中身は、同じく人間族の町で俺が売ります」
農地開拓に関しては、国内用の食糧増産をメインテーマにし、
特にハーブを交易の目玉、名産品にしようという、リオネルの提案に、
ヒルデガルドとイェレミアスは、「賛成! 異議なし!」と答えたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オーク討伐から10日後……
『農地開拓第1号』の候補地が決定し、リオネル、ヒルデガルドは、
武官、事務官達と現地へ居た。
最寄りの村の村長、助役以下村民達も大勢詰めかけている。
イェレミアスも加わり、検討の末、最初に選ばれたのは、
大中小の岩が点在する、某地の原野である。
農地は勿論、家畜の放牧にも使えず放置された、価値無き土地であった。
決定後、すぐに魔法鳩便で、最寄りの村へ農地開拓の趣旨と訪問を報せた。
村とやり取りの上、スケジュールが調整され、訪問の日時が決定。
訪問する前日、リオネルとヒルデガルドは、武官、事務官達とともに、
『現地』にて、魔物、肉食獣を掃討し、安全を確保。
その上で、やはりというか、開拓予定地を岩石製防護壁で囲っていた。
土地のチョイスだけでなく、打合せの結果、リオネル達の考えたスキームはこうだ。
農地は国所有、運営管理は現地の町村が行うという形態をとる。
整地作業から始め、開拓した土地を現地の人々へ見せ、作付けする農作物を検討、
説明会を行う。
説明会の結果、農地の運営管理を受けないという町村があった場合は、
国が運営管理も行う。
町村側と話がついたら、
作物の種、苗、肥料、国からの完全援助という形で3年間無料で支給、
農作業着、農機具等も無料貸与。
身体ひとつで働く事が可能がうたい文句。
4年目からは、各料金は徴収するが、格安で設定。
1年ごとに、各料金は微増する。
最初の3年間は全てが無料の至れり尽くせりの代わりに、
収穫物は3年間は売り上げの50%を税として納め、
4年目からは税率を大きく切り下げ、売り上げの30%を納める。
10年目以降は、補助なしの町村完全自主運営を目指し、
もしも補助なしにした場合は、税率を更に切り下げ、売り上げの15%とする。
そして10年間の総売り上げが目標額に達した場合、
11年目以降、農地の所有権は町村側が取得可能となり、
収穫に対する15%の税金だけを支払う事となる。
基本スキームは以上だが、改善の進言があったり、何か不備等が生じた場合、
内容は修正したり、無くしたり、新たなものを加えても行く柔軟さを持たせる。
しかし……
ヒルデガルド以外のアールヴ族は半信半疑である。
スキームも難しいが、それ以前の問題。
正直、この岩だらけの、どうしようもない原野をどうやったら、
農地へ変えられるのか?
その答えは、すぐ出た。
リオネルは、こまめに集めたゴーレム軍団を、
収納の腕輪から、大挙出動させたのだ。
ま! ま! ま! ま! ま!
ま! ま! ま! ま! ま!
ま! ま! ま! ま! ま!
そう!
リオネルが繰り出したのは、岩石製、鋼鉄製のゴーレム各100体である。
ヒルデガルド以下、アールヴ達は、びっくりして呆気にとられていた。
計200体のゴーレムを一度に操る術者など、見た事も聞いた事もない。
「さあ! お前達! まずは邪魔な岩を外へ運び出すんだ! 行け!」
ま! ま! ま! ま! ま!
ま! ま! ま! ま! ま!
ま! ま! ま! ま! ま!
任せて欲しい!
というように、ゴーレムは吠えると、一斉にまめまめしく働きだしたのである。
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