第579話「だったら! 論より証拠よ! 討伐した証拠を見せるわ!」
リオネルの想定通り、ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟、
アスプ20体、ゴーレム10体の活躍により、オーク約2千体を打ち倒し、
死骸を塵にし、完全に討伐した。
戦いが終了したと、ケルベロスから念話連絡が入ったので、
索敵を解除しないまま、安全を確認しつつ、
リオネルはヒルデガルドとともに、転移魔法で洞窟前に。
冥界の蒼い炎で塵になったオークどもは、もう影も形もない。
ここでヒルデガルドへ討伐の確認をと、
リオネルはオークキング、オークの死骸計10体を出した。
武器や攻撃魔法を使い、倒したものではないから、
死骸にあまりダメージはなかった。
醜悪な表情さえ我慢出来れば、確認に支障はナッシングだ。
「今まで、遠距離から攻撃魔法で倒していましたから、オークの死骸をこんなに間近で、まじまじと見たのは生まれて初めてですわ」
ヒルデガルドはそう言って、オークキング、オークの死骸をじ~っと見つめ、
「大丈夫みたいです! これ、多分リオネル様に指導を受けた修行のおかげですわ」
「修行って、アスプのですか?」
「はい! 私、蛇よりもオークの方が、全然平気です。不思議ですわね、うふふふ♡」
……という事で、オーク討伐は完了。
その間、リオネルは、オルトロス、アスプ20体とゴーレム10体に、
巣の内部を探索させていた。
……しばし経ち、オルトロスから念話連絡が入る。
オークキングの部屋と思しき場所に大型の宝箱がひとつ。
そして他に中小の宝箱が計3つ発見されたという。
宝箱は施錠されておらず、罠もないとの事なので、
リオネルは、ゴーレムに命じ、運ばせた。
ついでに、空になった魔導発煙筒も回収する。
都合4つの宝箱を見て、驚くヒルデガルド。
「こ、これは!? 宝箱!?」
「はい! 巣穴にあったものです。多分オークどもがイエーラ領内を含め、あちこちから、かすめ取ったものですよ」
「あちこちからかすめ取った? イエーラ領内以外にも?」
「ええ、詳しくは分かりませんし、推測ですが……俺はあると思います。魔境へ迷い込んだ者を襲い、奪ったのかもしれない」
「な、成る程。で、これらの宝箱をどうするのでしょう?」
「はい! 宝箱を開けて中身を確認し、品物にもよりますが、基本的には売却処分です。修理可能なものはメンテナンス、またはリペアし、売ります」
「えええ!? オークが所持していたものを?」
「はい! 魔物がドロップした所持品という事で、嫌悪感があるかもしれませんが、このままだと打ち捨てられ、ゴミになってしまうのが落ちです。なので、そのまま使えるものなら再利用し、価値があっても不要なものは売却すべきだと俺は思います。ちなみに呪われていても商品を引き取り、販売する店もありますし」
「まあ!! 呪われていても、使ったり売ったりするのですか!!??」
「はい、使用可能な物や価値があるものは、解呪して使ったり、売ったりするんです」
「へえ!! しっかりしていますねえ!!」
ヒルデガルドは唖然としてしまった。
いくら解呪するとはいえ、呪われた物を使うなど、
アールヴ族の常識では考えられない事だ。
「ええ、転んでもただは起きぬが冒険者ですから。なので、この宝箱の中身を売り、現金化して、イエーラへ還元しましょう」
「は、はい……」
この宝箱の中身を売り、現金化して、イエーラへ還元しましょう。
そう笑顔のリオネルに言われ、ヒルデガルドは反論出来なかったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
宝箱を収納の腕輪へ搬入したリオネルは、
魔獣兄弟、ジャン、アスプたち、ゴーレムたちと陣へ戻った。
従士たちを、異界、収納の腕輪へ戻し、
リオネルとヒルデガルドは、都フェフの官邸中庭へ転移。
緑の芝生上に、いきなり現れたリオネルとヒルデガルド。
中庭を警備中の武官はびっくり。
事前にオーク討伐行きと帰還を伝えてあったとはいえ、
あわわわわ!となってしまった。
そんな武官へ、ヒルデガルドは満面の笑みで応える。
「たっだいまあ! 今、帰ったわ! うふふふふ♡」
「ヒ、ヒルデガルドさまあああ!!!」
絶叫ともいえる武官の声を聞き、巡回をしていた他の武官たちも、
何事か!と集まって来た。
時間はまだ、午前中なのだ。
まさか、この時間に帰って来るとは、一体どうしたのか?
と武官たちはわけが分からない。
オーク討伐が完了したとは、夢にも思っていないようである。
リオネルとヒルデガルドの出発から、5時間弱しか経っていないので無理もない。
でも、ヒルデガルドは上機嫌。
リオネルも柔らかく微笑んでいる。
本当にわけが、分からない。
ようやく落ち着いたリーダー武官が話しかける。
いつもは無表情に近いヒルデガルドが、にこにこしている。
あまりにも上機嫌なので、凄く戸惑っているらしい。
「あ、あの……ヒルデガルド様!」
「なあに?」
「……ま、魔境のオーク討伐は上手く行きませんでしたか?」
リオネルは、前ソウェル、イェレミアスがわざわざ肝いりで連れて来た実力者。
気を遣い、恐る恐る聞くという感じがありありだ。
対して、ヒルデガルドは、いたずらっぽく笑う。
「うふふふ♡ 実は……」
「実は? やはりだめでしたか?」
「ぶっぶ~! 何言ってるの、ばっちりよ! リオネル様は見事、魔境のオーク2千体を討伐したわ!」
「えええっ!!?? ま、まさかっ!!?? オーク2千体!!?? おふたりは、午前5時過ぎに、ご出発されましたよね? まだ午前10時前ですよっ!!」
「だったら! 論より証拠よ! 討伐した証拠を見せるわ! ここだと芝生を汚してしまうから、訓練場へ行きましょう! おじいさまもお呼びしてくれる?」
「はっ、はいっ!! すぐイェレミアス様をお呼び致しますっ!!」
脱兎のごとく、駆け出す武官。
ヒルデガルドは、別の武官へ言う。
「貴方は、敷物となる大きなぼろ布をたくさん用意してくれる?」
「え? 敷物となる大きなぼろ布をたくさんですか?」
「ええ、使い古しの敷物で構いません。持ち帰った、たくさんのおみやげを並べるの。オーク討伐の成果をお披露目しますからね」
ヒルデガルドは、そう言い、うふふふ♡と含み笑いをしたのである。
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