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第576話「リオネルは、一体どうやって戦うのか?」

リオネルは先導して来たケルベロスへこの場へ残るように告げ、

無詠唱、神速で転移魔法を発動。


ヒルデガルドを抱いたまま、陣へ戻った。


オルトロス、ゴーレム20体は鎮座して待っていた。


……陣とその周囲に変わった事はないようだ。


念の為、周囲を索敵で探ってみたが、やはり異常はない。


リオネルは抱いていたヒルデガルドをそっと地上に立たせた。


命綱であるハーネス付きの魔導ロープを外し、収納の腕輪へ仕舞う。


改めて間近で見やれば……やはりヒルデガルドは美しい。


アールヴ族らしい長身スレンダーで抜群のスタイル。


小顔で端麗な面立ちをし、アールヴ族特有の小さくとがった耳。


美しい金髪は背の半ばまで伸び、切れ長の目に輝く瞳はすみれ色である。


リオネルは、「ふう」と軽く息を吐き、ヒルデガルドへ話しかける。


「さて、ヒルデガルドさん」


「は、はいっ!」


「先ほど同様、ここで待機していてくださいね。オークとの戦いで大勢が決したら、迎えに来ます」


リオネルの指示を聞き、ヒルデガルドは驚き、


「ええっ!?」


更に両手を合わせ、懇願する。


「あ、あの……洞窟前まで連れて行って頂き、リオネル様の戦いぶりを見守らせて頂くわけにはいきませんか?」


しかし、リオネルは首を横へ振る。


「いえ、それは却下したはずですが」


「分かっております! 重々承知しておりますが、どうしてもリオネル様と一緒に行きたいのです! ソウェルたる立場もありますし、確認をさせて頂きたいのです! 自分の身は自分で守りますから!」


「……う~ん」


ヒルデガルドにガンガンせがまれ、リオネルはじっくりと考えている。


リオネルの中では、先ほど聞いた妖精ピクシー、

ジャンの言葉がリフレインしていた。


『大丈夫! ノープロブレム! リオネル様が無事に戻ってさ、ヒルデガルド様は、安堵のあまりの嬉し泣きだよ』


『うん! おいら、話し相手になっていたんだけどさ。ヒルデガルド様は、ず~っと、ず~っと、出撃したリオネル様の身を案じていたんだよお』


『そうだよお! ヒルデガルド様はさ、何かにつけてリオネル様、リオネル様って、リオネル様の話ばっかりだし、何かといろいろ聞きたがる。だからおいら、口止めされている事以外、いろいろ話していたんだ』


……数分間、リオネルは熟考。

論より証拠、実際の自分の戦いぶりをヒルデガルドに見て貰おうと決めた。


「分かりました。その代わり、護衛の数を増やし、陣を厚くします。それと戦いが終わるまで、絶対陣の外に出ないと約束してください。それを履行して頂けないならOKは出せません」


「お約束致します! リオネル様の言いつけは必ず守りますから!」


リオネルの指示を聞き、真剣な表情で告げるヒルデガルド。


発する波動に偽りはない。

約束はしっかり守ってくれそうだ。


「では行きましょう」


リオネルは柔らかく微笑み、そう言うと、


オルトロス、ゴーレムたちを、ケルベロス、アスプたちが待つ地点へ転移。

安全を確認した上で、自身とヒルデガルドも転移したのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


転移したのは、崖にある巣を望む、100mも離れていない地点である。


「さてと、ここに陣を張り、より厚くします」


ヒルデガルドへ宣言した通り、

リオネルは収納の腕輪から、ゴーレムを更に100体出し、起動した。


全てが鋼鉄製のゴーレムであり、これで先出しした20体とともに、

都合120体のゴーレムが3重にぐるりと林立。

壮観な風景である。

彼らは強固な動く防護壁となり、ヒルデガルドを守る事となる。


リオネルは、魔獣アスプも40体を増援。


都合50体が、ゴーレムの前に位置し、

専守防衛に徹しつつ、遊撃的な役割を果たす。

やはり毒は使用せず、陣へ近寄るオークを問答無用で眠らせるよう命じてある。


陣の上空にはジズが舞い、

また陣の中では、魔獣兄弟の片割れオルトロスが傍らに控え、

ヒルデガルドを守る要となる。


99、9%ありえないが、万が一、陣の囲みが突破された場合、

オルトロスには、背にヒルデガルドを乗せ、

イエーラへ脱出するよう、念話で内々に命じていた。


内々にというのは、下手に脱出の事を告げると、

ヒルデガルドが頑なに拒否すると考えたからだ。


ダメ押し?として、リオネルは妖精ピクシーのジャンも呼んだ。


オークとの戦場上空を舞い、もし異変があれば、念話を使い、

すぐヒルデガルドへ伝えるようにと伝令役を頼んだのである。


「ヒルデガルドさん」


「はい」


「俺が譲歩出来るのはここまでです。ご不満かもしれませんが、貴女の安全を第一に考慮し、『立つゴーレムの隙間から、戦いが見える』この場でお待ち頂きます」


きっぱりと告げるリオネル。


対して、ヒルデガルドも引き際を認識しているようである。


「……分かりました。これ以上無理は申しません。リオネル様のご配慮に深く感謝致します」


「ご理解頂き、助かります。先ほど、魔導発煙筒を見せましたが、今回の作戦をひととおり説明します」


「はい、お願い致します」


リオネルは、オーク討伐の作戦の段取りを話した。


相変わらず簡潔明瞭。


ヒルデガルドは、しっかりと理解したようである。


「では行って来ます」


「リオネル様……ご、ご武運をお祈り申し上げます…………」


そう言いつつ、ヒルデガルドは心配で心配でたまらなかった。


リオネルの底知れぬ実力は、しっかりと認識している。


竜、魔獣兄弟など、頼もしい従士たちも、控えている。


しかし、相手は2千体以上のオークどもである。


洞窟の奥には、上位種も居ると聞いている。


リオネルは、一体どうやって戦うのか?


そもそもリオネルは、魔法使いである。

祖父イェレミアスからは、魔法剣士だとは聞いたが、

体格もたくましくなく、華奢である。


いたって普通の人間族少年という雰囲気。


どうしても戦うイメージがわかなかったのだ。


しかし、その認識が大いなる誤解である事。


心配が全くの杞憂に終わる事を、ヒルデガルドはすぐ知ったのである。

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