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第573話「世界共通? 運命の邂逅と言える、白馬の王子様の話は、イエーラにもある」

「ここここ、これはっ!!??」


もう何度、驚きの声を発した事だろう。


ヒルデガルドは、またもまたも信じられない光景を目にしていた。

否、目にしているだけではない。


実際に体験していた。


そう、まさに今、この瞬間ヒルデガルドは、大空を飛んでいるのだ。


リオネルにしっかりと抱かれながら。


ヒルデガルドは、す~す~と深呼吸。


無理やり気分を落ち着かせ、ぐるりと周囲を見回す。


周囲は、真っ蒼な大空。

遥か遠くには、純白の千切れ雲が、所々に浮かんでいる。


そう、広大な空にふたりは浮き、飛んでいたのだ。


改めて気持ちが、たかぶった。


ヒルデガルドは、リオネルに尋ねてみる。


思わず声が大きくなってしまうのは、無理もない。


「リ、リオネル様!!」


「はい」


「こ、こ、こ、これは!? そ、そ、そ、空を!?」


「はい、間違いなく、空を飛んでいます。飛翔魔法です」


「ひ、ひ、ひ、飛翔……魔法!!??」


「はい、俺、飛翔魔法を習得していますから」


相変わらず、しれっと言うリオネル。


飛翔魔法は転移魔法同様、失われた古代魔法と言われていた。


転移魔法習得だけでも驚異なのに、飛翔魔法まで習得しているとは……

とんでもない、のひと言である。


「ど、どうやって、飛翔魔法を!?」


「はい、俺、風の加護を受けていますから」


ヒルデガルドの質問に対し、正確に答えるリオネル。


だが、ヒルデガルドはもどかしい。

魔法やスキルに好奇心旺盛な彼女は、

リオネルの飛翔魔法習得の経緯を一から十まで詳しく、完璧に知りたいのだ。


いまだ転移魔法習得の経緯を聞いてはいない。

それなのに、飛翔魔法までも、リオネルは習得していたのだ。


知りたい! 何が何でも知りたい! 


入れ込み気味のヒルデガルドをリオネルは、ぴしっと抑える。


「とりあえず、話は以上です。いろいろ事情があるので、続きを話せるかどうかは分かりませんが、まずは目の前の仕事を完遂してしまいましょう」


リオネルの言う事は『正論』である。


術者は自身の能力に関し、むやみにオープンにしない。

むしろ秘匿する。


また、課せられた任務を終わらせる事が最優先であるのだから。


「は、はい……」


「落ち着いたなら、眼下を見てください」


「はい……」


リオネルに尋ねられ、大丈夫と答えた通り、ヒルデガルドは高所は全く平気だった。


眼下には、濃い緑一面の森が広がる。

イエーラの針葉樹林だ。


ところどころ、鮮やかな萌黄色の草原も見える。


太い線のように、流れている川も。


愛する故郷は美しく素晴らしい景色だ。


ただただそう思う。


リオネルは更に言う。


「ヒルデガルドさん、先ほど俺が造った防護壁を良く見てください。長さを含め、改めて確認をお願いします。ちなみに俺たちは今、地上から80m上空を飛んでいますよ」


「わ、分かりました」


リオネルは造った防護壁の向こう側は魔境。


不可思議な広葉樹林に覆われた魔物の国……


イエーラとは全く違う自然環境なのが一目瞭然だ。


先ほどリオネルから聞いた防護壁のスペックは、

高さ20m、厚さが10m、そして長さが100㎞である。


視力の良いヒルデガルドが見た限り、高さと厚さはOK。


問題は長さ、……防護壁は果てしなく続いているように見える。


「ええっと……目視でざっくりとですが、リオネル様がおっしゃった高さと厚さは、おっしゃった通りだと思います」


「ありがとうございます。やっぱり長さ100㎞が問題ですね。ぱっと見では分かりませんから」


「は、はい!」


「ジャンが先行して確認していますが、今のところ、生成が不備で、ひびが入ったり、崩れている部分は無いようです」


「ジャン殿が?」


「はい、しっかりと確認してくれています。俺たちも追いかけますよ。防護壁を、たどって飛びます。速度を大幅に上げますから、しっかりつかまっていてくださいね」


「はいっ! つかまってます!」


リオネルにつかまるのならお手の物?

ヒルデガルドはリオネルをがっしと抱きしめたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


一気に飛行速度が上がった。

リオネルの言う通りである。


防護壁をたどり、抱き合うふたりは、

地上から80mの高さを、びゅんびゅんと勢い良く飛んで行く。


「うふふふふ♡ リオネル様あ! 凄く! 気持ちいい風ですね~!」


リオネルに抱かれたまま、ヒルデガルドはうっとり、思わず叫んでいた。


飛翔魔法は聖なる風の力で飛ぶ。


リオネルは風の一族の頂点たる空気界王オリエンスから、

風の加護を受けている。


その際に、聖なる風も授けられた。


そんな話を聞いたら、ヒルデガルドの食いつきぶりは、半端ないものであろう。


しかし、今のヒルデガルドにとって、そんな話はどうでも良かった。


心から信頼し、安心出来るリオネルとともに、さわやかな風に包まれ、大空を飛ぶ。


夢のようなシーンに、彼女の気持ちは、ひどく高揚していたのだ。


世界共通?

運命の邂逅と言える、白馬の王子様の話は、イエーラにもある。


神話、伝承という形で、様々なエピソードがあり、

アールヴ女子たちは胸をときめかせ、夢を見る。


念の為、ことわると、白馬の王子様は、代名詞のようなもの。

必ずしも白馬に乗っているヒーローというわけではない。


だが、エピソードに共通しているのは、

絶体絶命ともいえるヒロインの大ピンチにさっそうと駆け付け、

圧倒的な強さを見せた上、優しく助けてくれる、素敵なヒーローである事。


そんな最高最強のヒーローが、いつの日にか現れて、自分と結ばれ、

ハッピーエンドになったら最高!


ヒルデガルドは、今まさに、

白馬の王子に助けられるヒロインになりきっていたのである。

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