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第570話「勿論、イエーラ領内にオークどもの気配は皆無だ」

呆然とするヒルデガルドへ、ジャンは「にかっ」と笑い、

おどけたように派手なポーズで、Vサインを送った。


リオネルが改めて紹介する。


「ヒルデガルドさん、ジャンはね、旅の途中、ひょんなことから出会った妖精です。ピクシーなので戦う事には不向きですが、素早くて小回りがきくので、偵察、斥候などの情報収集に長けていますし、明るくてムードメーカーって感じですね」


リオネルは同じ言葉を同時に念話でジャンへ送ると、


『リオネル様!』


『ん?』


『大体合ってるけどさ。おいらは、リオネル様が寂しい時の話し相手って役割も担ってたよ』


などと、自己アピールをして来た。


対してリオネルは苦笑。


「ああ、確かにな」


「うふふふ♡」


そんなやり取りを見て聞いて、ヒルデガルドは思わず笑ってしまう。


こんなに強く底知れないリオネルにも寂しい時があるのかと。


和らいだ空気の中、ジャンが言う。


『さあ! リオネル様! 役者が揃ったところで作戦再開だよ!』


「ああ、了解だ」


リオネルはそう言うと、目を閉じ精神を集中する。


索敵の力を増したのだ。


……アスプたちは、早くもオークどもの群れと接触したようである。


リオネルが能力を伸ばしているのは、転移魔法の最長移動距離のみではない。


ありとあらゆる能力が、まだまだず~っとず~っと伸び続けている。


アスプと遭遇したオークどもは驚いていた。


初めて遭遇する未知の蛇!?という驚きの感情が、

リオネルの心へ、波動として伝わって来る。


対して、アスプたちは口を開け牙を見せ、しゃ~という異音をたて、

オークどもを容赦なく威嚇。


加えて、睡眠誘因で次々とオークどもを眠らせて行く……


バタバタバタと、続けさまに仲間が前後不覚、戦闘不能になるのを見て、

オークどもは恐怖を覚えたようである。


抵抗もせず、泣き叫ぶような悲鳴をあげ、ひたすら逃げ始めたようだ。


リオネルが想定していた以上の効果である。


よし!

そろそろ、俺とケルベロスは出撃だ!


……ジズの上空からの威嚇も上手く行っている。


うん!

ジズは現状ままで!


代わりにフロストドレイクを呼ぶ!


リオネルは、すかさずフロストドレイクを呼んだ。


ぐおおおおお……


異界から、ミニマム化した1mほどの竜――フロストドレイクが現れた。


リオネルは指示を入れる。


『良くぞ来た! フロストドレイク! 今の5倍くらいの大きさになり、上空にて、にらみをきかせてくれ!』


ぐおおおおおんん!!


リオネルの指示を聞き、フロストドレイクは一気に5倍の大きさとなり、

悠々と上空を舞った。


「ヒルデガルドさん」


「は、はい!」


「ジズは予定変更で、そのままオークの追い込みを続行させます。代わりにフロストドレイクを護衛に残します。オルトロス、ゴーレム、ジャンも残して行きますから、一緒に待機していてください」


「は、はい……」


ヒルデガルドは、残されるのが嫌で、一緒に行きたそうな雰囲気だったが、

先に釘を刺されているので、不承不承、従った。


「さあ! ケル! 行くぞ! 出撃だ!」


うおん!


リオネルは、ケルベロスへ呼びかけると、一緒にダッシュ!


猛スピードで、駆け出していたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


広大な草原が広がり、大中小、様々な大きさの岩が、

あちこちに点在している原野を、あっという間に抜け……

森林地帯へ入り、猛スピードで駆けるリオネル、そしてケルベロス。

時速80㎞近い速度である。


ちなみにリオネルの出せる最高走行速度は、現時点で時速150㎞超。

遥かに人間の域を超えていた。


さてさて!


リオネルは、気合が入る。

やってやるぞと大いに張り切る。

フォルミーカ以来、久々の戦いであるからだ。


と、言っても、アスプたちの勢子能力も想定以上。


リオネルたちは、ただただ追い立てるだけ。


我が物顔でイエーラに跋扈していたオークどもは、初めて見るアスプに怯え、

必死に、転がるように走り、逃げていたのだ。


こうなると、追走、追撃は楽である。


フォルミーカの地下庭園を含め、あらゆる地形で戦闘を経験しているリオネルは、

ここイエーラの寒冷地森林も移動は楽勝。


うっそうと立ち並ぶ針葉樹の間を巧みにすり抜け、凄まじいスピードで駆けている。


倒木、岩など、様々な障害物も、軽々とジャンプし、クリアして行く。


リオネルとケルベロスは、ところどころに残されている、

眠り込み、行動不能となったオークどもにとどめを刺し、

死骸を即、葬送魔法と蒼い炎で塵にした。


塵にするのは不死(アンデッド)化防止の為だが、

ケルベロス、オルトロスの吐く蒼い炎は、

冥界の特殊な魔炎なので、死骸のみに効果を表し、火災になる事はない。


再度、死骸有無の確認をする必要はあるが、作業が軽減されるのは間違いなかった。


ただし討伐の証拠として、オークの死骸を数体、収納の腕輪へ放り込んではおく。


そんなこんなで、リオネルとケルベロスはアスプたちに追いつき、合流。


合流後、わずかな時間で魔境との境に到達した。


既にオークどもは、イエーラ領内から追い払われ、魔境内へ逃げ込んでいる。


オークどもからこの地域の解放完了!


ここまでは予定以上に順調だ。


リオネルは新たな指示を出す。


『よし! 奴らを魔境内へ追撃し、本拠地『巣』を発見し、特定しろ! 特定したら、その場で待機の上、念話で俺へ連絡! ケルベロスをリーダーとし、ジズ、アスプたちは、指示に従う事! くれぐれも油断するな! ……行け!』


リオネルの指示に対し、従士たちは一糸乱れぬ、動きを見せた。


上空を舞っていたジズは、即座に魔境へ飛び、

ケルベロスはアスプ30体を率い、速攻で魔鏡へ突っ込んで行った。


残されたリオネルは、改めて、索敵を張り巡らす。


最大有効範囲をと念じたので、ヒルデガルドたちが無事に待機しているのも、

はっきりと分かった。


勿論、イエーラ領内にオークどもの気配は皆無だ。


さあて!


ジャンが上手く話しているみたいだが、

ヒルデガルドさんが心配しているようだし、戻るとするか!


リオネルは、転移(トランジション)!と念じ、

待機するヒルデガルドたちの下へ、帰還したのである。

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