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第565話「まあ、ここであれこれ説明するより、ヒルデガルドさんに見て貰った方が話が早いですよね」

食事が終わり、オーク討伐の打合せをする事となったリオネルとヒルデガルド。


イェレミアスもその場に留まり、話を聞くようである。


リオネルは、しれっと収納の腕輪から、

昨夜、官邸の文官から受け取った地図を2枚取り出した。


1枚はイエーラ全土の地図。


もう一枚は、これから赴く地域を拡大した地図である。


更にリオネルは、いくつものゲームの駒らしきものも、取り出した。


いきなりテーブル上に出現した2枚の地図と駒多数。


昨日から、ヒルデガルドの驚きは止まらない。


「リ、リオネル様!? こ、これは!?」


「はい、事務官さんからいただいた地図2枚と俺が手を加えたゲームの駒ですよ」


リオネルが言えば、ヒルデガルドは食って掛かるように言う。


「そ、それは分かっております!! なぜいきなり出現したのか、教えてくださいっ!!」


身を乗り出すヒルデガルド。


対して、リオネルはさらっと言う。


「はい、収納魔法ですよ。いろいろ持ち運びに便利なんで、普段から重宝してます」


「収納……魔法……」


呆然と言うヒルデガルドをスルー。


リオネルは、話を進める。


「はい、では確認させていただきながら、作戦の説明を進めさせてください」


「は、はい」


「これから赴く場所は、イエーラの『ここ』でよろしいでしょうか?」


地図を指さすリオネルを見て、ヒルデガルドは頷き、返事をする。


「は、はいっ!」


「OKです。で、こちらがこの場所の拡大図と……まず、ケル……いやケルベロスとオルトロスを斥候としてこの地点へ送り込み、状況を確認し、安全が確保出来たら、念話で連絡して貰い、俺とヒルデガルドさんが転移します」


「は、はいっ!」


ヒルデガルドの返事を聞き、リオネルはゲームの駒をいくつか置いた。


「こ、これは!?」


「はい、これはチェスというゲームの駒を俺が少し形を修正したものです。こういう作戦を話す場合、説明がしやすいのでたまに使ってます」


どうやら、リオネルは自分と配下を駒に置き換え、作戦の説明をするようであった。


ヒルデガルドは無言でリオネルの話を聞いている。


「……………………」


「目標地点へ転移後、俺とヒルデガルドさんは、とりあえず現場で待機。ここで配下のゴーレムを警備用に20体出しその場に固定、更にアスプ30体を放ち、跋扈するオークどもを、かく乱し、魔境へと追い立てます。睡眠誘因も使い戦闘不能とさせます。毒は使わせません」


「は、はいっ!」


「アスプたちがオークどもをかく乱したら、俺とケルベロスは出撃。アスプ隊と合流し、イエーラ領内に残ったオークどもを殲滅します。その間、オルトロスとゴーレム20体にヒルデガルドさんを守らせます。念の為、上空にフロストドレイクも待機させます」


「わ、私は! 大丈夫です。それに戦えます! お願いですから私も! 作戦に参加させてくださいっ!」


しかし、リオネルは首を横へ振る。


「いえ、ダメです。ヒルデガルドさんはあくまで立会人ですから、危険にさらす事は絶対に出来ません。指示に従って頂けない場合、同行をお断りし、官邸で待機して頂きますよ」


リオネルからきっぱり言われ、さすがのヒルデガルドも引き下がるしかない。


「う、うう……………………」


「説明を続けます。イエーラ領内へ入り込んだオークの数にもよりますが、殲滅にはそれほど時間がかからないと思います」


「……………………」


「更にケルベロス、アスプへ指示をし、逃げたオークどもの後を追わせ、魔境に攻め込み、オークどもの本拠地である『巣』を特定させます」


「……………………」


「残った俺は、オークどもを完全に追い払い、再度イエーラ領内に生き残りが居ないのを確認したら、一旦戻り、ヒルデガルドさんたちと合流します」


「……………………」


「合流したら、ヒルデガルドさんたちと魔境との国境付近へ転移。ヒルデガルドさんの了解を頂いた上で、地属性魔法を行使し、仮の防護壁を魔境との国境へ広範囲にめぐらせます。高さは……20mくらいあれば充分でしょう。これでこの場所からは、オークどもはイエーラ内へ入れません」


「……………………」


「ただ、他の場所からオークどもは侵入する可能性もありますから、その恐れがある地域住民には注意するよう呼びかけましょう。その後で、当該場所には防護壁なり、魔法障壁で守りを固めます」


「……………………」


「仮の防護壁設置が終わったら、安全を確認しつつ、転移、魔境へ入ります」


「……………………」


「安全には充分に注意しつつ、俺とヒルデガルドさんは護衛とともに、魔境の巣へ接近します」


「……………………」


「多分、オークどもを統率する『上位種』が巣に居ると思います。状況をじっくり見て、一番適切な作戦をとって、そいつを倒し、討伐完遂の現場検証をして頂いたら、官邸へ引き揚げます」


「……………………」


「ちなみに倒したオークの死骸は葬送魔法で処理します。奴らの不死(アンデッド)化を防ぐ為です。……ざっくりですが、以上ですね」


ヒルデガルドは、リオネルの説明を聞き、圧倒されてしまったのだろう。


ず~っと無言だったが、縛り出すように声を出す。


「……………………わ、分かりました」


「念の為、今、説明した作戦は状況等によっては大幅に変更します。あくまで予定として認識してください」


「……………………」


「まあ、ここであれこれ説明するより、ヒルデガルドさんに見て貰った方が話が早いですよね」


リオネルは、そう言い、柔らかく微笑んだのである。

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