第559話「オッケー! お安い御用! ほいほいっと!」
「で、ヒルデガルドさん、ファイナルアンサーです。彼らの本体を見せますか?」
微笑んだリオネルは、念の為、再び尋ねた。
対してヒルデガルドは、複雑な表情をしていた。
ケルベロス、オルトロスの本体を見ようか、本当に迷っているようだ。
「あの……リオネル様」
「はあ……」
「お話では竜の従士も……2体見せて頂けるのですよね?」
「はい、竜はケルベロスたちの後に呼ぶつもりです」
「分かりました。じゃあ、いっそのこと竜も呼んで、全て一緒に見せて頂けますか?」
「はい、了解です。実は、1体を既に呼んでいるので、もう1体も呼びますね」
「え? 1体を既に呼んでいる? ……のですか????」
?マークを飛ばしまくるヒルデガルド。
リオネルの話が全く理解出来ないようだ。
無理もない。
火蜥蜴に擬態しているファイアドレイク。
そして、これから召喚するフロストドレイクとの出会いのエピソードは、
高貴なる4界王も絡む込み入った話だ。
これらの話をすっとばして、いきなり状況を理解しろと言う方が難しい。
しかし、説明するとしても、グダグダ状態になる可能性も否めない。
ここはやはり、論より証拠であろう。
ヒルデガルドの了解も得たので、リオネルは4体の従士の『素』を見せる事にした。
「はい、じゃあ、もう1体の竜も呼び、4体すべての本体をお見せします」
「????? は、は、はい! お、お願い致します!」
「了解っす。ほいっと!」
リオネルの言葉に合わせたように空間が割れ、
異界からミニマム化した1mほどの竜――フロストドレイクが現れた。
「あら、可愛い、うふふふふ♡」
1m強のサイズなので、ヒルデガルドには竜でも可愛く見えるらしい。
その言葉を聞き、リオネルは改めて心配になった。
2体の属性竜の、本来の巨大でごつい姿、
そして地獄の門番または番犬という呼び名にふさわしい、
魔獣兄弟の合成獣的な姿をさらしたらどうなるのか、と思ったのだ。
そんなリオネルの懸念を察してか、ティエラが声を張り上げる。
「ヒルデガルド!」
ティエラから、いきなり呼ばれて、?状態のヒルデガルドは「どきっ!」とする。
「は、はいっ!」
「私からの忠告! しっかりと覚悟を決めてリオの部下たちを見る事ね! もう一度、アールヴ族たちにも周知しときなさい!」
「は、はいっ!」
地界王アマイモンの愛娘ティエラが、わざわざ、ここまで念を押すとは……
恐縮したヒルデガルドは素直に『忠告』を聞き入れ、
事務官、護衛役のアールヴたちへ、
「決して、驚かないように!」と再び大きな声で伝えた。
また、イェレミアスも孫娘のフォローをし、
部下たちへ、しっかりと周知してくれた。
これで準備は万端だろう。
「ティエラ様、ありがとうございます。ヒルデガルドさん、イェレミアスさん、助かります」
リオネルは深くお辞儀をし、従士たちの擬態を解くべく、
『解除』の指示を出したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルの命により、
火蜥蜴サラマンダー、そして1m強のミニマムドラゴンは擬態を解いた。
とかげ、または蛇に似た巨大な体躯。
生半可な刃を通さないくらい硬い皮膚やうろこでおおわれており、
1体の体色はどすぐろい赤。
もう1体は美しい湖のような青色。
天空を舞う30mを遥かに超える竜2体。
ファイアドレイクとフロストドレイク。
ごおおおおおおお!!! ごおおおおおおお!!! と、凄まじく響き渡る咆哮。
その圧倒的な存在感!!!
それとほぼ同時に、灰色狼2体も擬態姿を解いた、
体長15m、体高は3m、体毛は銀色。
3っの頭を持ち、竜の尾と蛇のたてがみを持つ巨大な魔獣ケルベロス。
体長15m、体高は3m、体毛は漆黒。
ふたつの頭を持ち、竜の尾と蛇のたてがみを持つ巨大な魔獣オルトロス。
ごっはああああ!!!!!!
ごっはああああ!!!!!!
地上にも響き渡る凄まじい咆哮。
魔獣兄弟ケルベロスとオルトロスも、
存在感では、竜達に勝るとも劣らない。
言うは易く行うは難し……と言う。
事前に起こる事が分かっていても、想像は出来ていたとしても、
実際に体感するリアルな現実は全てを凌駕した。
ひえええええええっっっっ!!!!!!!!!!
うわああああああああああ!!!!!!!!!!
ぎゃああああああああああ!!!!!!!!!!
天空には2体の巨大な竜。
地上には2体の怖ろしい魔獣。
阿鼻叫喚という言葉は、この場の為にあると断言出来る。
ヒルデガルドを始め、配下のアールヴ族たちは、
とんでもないショックで皆、失神。
控えていた配下たちは、ばたばたばたと、芝生に倒れ伏してしまった。
リオネルは、とっさに動き、椅子から崩れ落ちそうになったヒルデガルドを、
しっかりと抱きかかえていた。
ティエラ、リーア、マイムの精霊たちは、事前に伝えていたせいもあり、
大丈夫であったが……
アールヴ族で、何とか耐えたのは、イェレミアスのみという惨状である。
そのイェレミアスが、苦笑し言う。
「正直、私も失神しそうですよ、リオネル様。論より証拠が……効きすぎましたな」
「すみません、そうみたいですね」
「いえいえ、他にも妖精ピクシーと、魔獣アスプ、ゴーレムの軍団を従えるリオネル様は、まるで魔王ですね」
イェレミアスは天空を覆うくらい巨大な体躯を誇る鳥の王ジズまでもが、
リオネルの従士になっているとは知らない。
リーアが、風の従士も見せろ! 不公平じゃない! と、目で抗議をしていたが、
これ以上のショックは不要である。
リオネルは、リーアに『申し訳ありません』と念話で謝った後、
従士たちへ擬態する事を命じた。
そして、ティエラへは『お願い』をする事に。
「ティエラ様」
「うふふ♡ なあに、リオ」
「再び、広範囲鎮静魔法の発動をお願いしても構いませんか。このままにはしておけませんので」
「オッケー! お安い御用! ほいほいっと!」
ティエラはにっこり笑うと、「ぱちん!」と指を鳴らした。
すると、再びソウェルの官邸中に、温かい白光が満ちたのである。
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