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第554話「若造の癖に偉そうにして言いましたが、俺の個人的な意見ですから、参考程度で聞いてください」

リオネルがゼロ!と告げたのと同時に、周囲の景色が一瞬にして変わり、


執務室に居た全員が、中庭の芝生の上に立っていた。


驚いたのは、既にリオネルの転移魔法を経験しているイェレミアス以外、

ヒルデガルド以下のアールヴ族たちである。


代表?してヒルデガルドが言う。

噛みながら叫ぶと言って良いかもしれない。


「こ、こ、これはっ!?」


「むうう……これだけの人数を一度に転移させるとは……さすがだな、リオネル君……いや、リオネル様と呼ばせて貰おう」


先ほどのティエラショックから、何とか立ち直りつつあるイェレミアスが、

唸り、感嘆するようにつぶやいた。

どうやら独り言らしい。


そしてヒルデガルドへ声をかける。


「ヒルデガルドよ」


「は、は、はい! おじいさま! い、い、一体!? な、な、何が起こったのでしょうか!? 」


「うむ、リオネル・ロートレック様が行使されたのは、失われし古代魔法……転移魔法だ」


「へ!!?? て、て、転移魔法!!??」


「うむ、そうだ。リオネル様が転移魔法を発動し、執務室に居た私たち全員は、中庭へ跳んだのだよ」


「ま、まさか!!?? そ、そんな!!?? おじいさまでさえ、使う事が出来ない魔法を!?」


念の為、補足しよう。

イェレミアスが転移魔法を行使出来たのは、

フォルミーカ迷宮の古代遺跡において、ストーンサークルの力を借りた場合のみ。


自身の力では、転移魔法を使う事は不可能なのだ。


「ふむ、ヒルデガルド。私はな、1日もかからず、たった1時間弱で、人間の国、アクィラ王国のフォルミーカから、このイエーラまでやって来た。その意味が分かるか?」


イェレミアスが、そう言うと、すぐに気づいたのか、ヒルデガルドはハッとした。


さすがにイェレミアスの孫娘、愚かではない。


そんな孫娘を見て、イェレミアスは微笑む。


「ふふふ、さすがに分かるようだな。約5,000kmの距離をたった1時間で移動する。普通なら考えられない」


「は、はい、その通りです」


「ふむ、論より証拠。リオネル様へお願いし、改めて確かめてみるがよい」


イェレミアスはそう言い、リオネルへ向き直る。


「リオネル様、申し訳ありませんが、孫娘とともに、もう一度執務室へ行き、この場へ戻っていただけないか?」


「分かりました。ではその間、お茶の準備をしておいてください。戻ったら、散歩をし、お茶にしましょう」


「ははは、時間を効率的に使うという事ですな。分かりました。事務官へ命じ、お茶の支度をさせましょう」


「ありがとうございます!」


そんなリオネルとイェレミアスのやりとりを聞き、ティエラはにこにこしていた。

「よきにはからえ」という感じだ。


「では、ヒルデガルドさん、行きましょうか」


リオネルの呼びかけに対し、祖父の命令もあり、


「わ、分かりました。リ、リオネル様……ですわね? お、お願い致します」


と、ヒルデガルドは深くお辞儀をした。


その瞬間!


またも周囲の景色が一瞬にして変わり、


リオネルとヒルデガルドは、執務室にふたりだけで、立っていたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「こ、こ、こ、ここはっ!!??」


再度、一瞬にして変わった周囲を見て、

にわとりのような声で、ひどく驚くヒルデガルド。


対して、リオネルは淡々と、


「はい、転移して、執務室へ戻りました」


「い、いつ言霊を唱えたのですか!? ほ、本当に!! て、転移魔法なんですね!!」


「はい」


「まさか!? 信じられない!! アールヴ族でさえ、行使不可能なのに!! 人間族で失われた古代魔法を使う方がいらっしゃったとは!!」


そんなヒルデガルドの言葉を聞き、リオネルは苦笑する。


「あのう……ヒルデガルドさん」


「な、何でしょう? リオネル……様」


「はい、昔からの価値観で、すぐに考え直すのは難しいと思いますが……」


と言い、リオネルは軽く息を吐く。


「アールヴ族だからとか、人間族だからとか、種族の区別はあると思いますけれど、どちらが優れているとか、劣っているとかの差別はやめた方が良いですよ」


リオネルが言えば、ヒルデガルドは無言、黙り込む。


沈黙は肯定の(あかし)というが、この無言は同意の証ではなさそうだ。


「………………………………」


無言のヒルデガルドに構わず、リオネルは話を続ける。


「転移魔法を使う俺も、自分が全てのアールヴ族よりも優れているんだ、とは思いませんし、劣っているとも思いません」


「………………………………」


「適材適所という言葉もあります。自分の持ち味を活かし、互いの価値観を認めながら、かと言って押し付けたりせず、敬意を払い合い、折り合いをつけて行くのが、仲良くするコツだと思います」


「………………………………」


「若造の癖に偉そうにして言いましたが、俺の個人的な意見ですから、参考程度で聞いてください」


「………………………………」


「さて、中庭へ戻りますか。お茶の準備も出来たと思いますし、散歩をした後に乾いた喉が潤うと思いますよ」


「………………………………」


無言のままのヒルデガルドを見て、柔らかく微笑んだリオネルは、


ぱちん!と指を鳴らした。


その瞬間!


またもまたも! 周囲の景色が一瞬にして変わり、


リオネルとヒルデガルドは、青々とした芝生の上に立っていたのである。

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