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第552話「うふふふ、OK! OK! リオのアイディア通りに行いましょう」

ヒルデガルドの命により、リオネル、イェレミアス、そしてティエラは、

警護役に周囲を固められながら、官邸執務室へ案内された。


執務室で、椅子から立ち上がったヒルデガルドは、

アールヴ族らしい長身スレンダーで抜群のスタイル。


小顔で端麗な面立ちをし、アールヴ族特有の小さくとがった耳。

美しい金髪は背の半ばまで伸び、切れ長の目に輝く瞳はすみれ色である。


「まあ! ようこそ! お戻りになられました、おじいさま! さぞかし、お疲れになったでしょう!」


当然ながら、ヒルデガルドの視線は、イェレミアスへまっすぐに向けられている。


リオネル、ティエラに対しては、あいさつもいたわりもせず、

完全に無視のスルーだ。


つんつんして、高慢さを放ちまくる、そんな孫娘に対し、

イェレミアスは柔らかく微笑む。


「久しいな、ヒルデガルド」


「はい! おじいさまが、旅立たれてたった50年弱ですが、とても寂しかったですわ」


たった50年弱……

長命なアールヴ族にとって、半世紀たる50年間もわずかな時間かもしれない。


「うむ、まずはこちらのおふたかたを紹介しよう」


とイェレミアスが言えば、


ヒルデガルドは、にやっと笑い、ゆっくりと首を横へ振る。


「紹介? 無用ですわ」


「無用? 何故だ? ヒルデガルド」


「はい、人間族の魔法使いなど、名前を知りたいとも思いません。何故、おじいさまが契約したかなど存じませんが、物好きとしか思えませんわ。報酬分働いてくれれば、それで結構です」


ヒルデガルドは、イェレミアスとリオネルが契約した事は、手紙の記載で知っていた。

しかし、イエーラ富国作戦の具体的な契約金、契約条件は知らなかった。


もしも、金貨1億枚と言う莫大な契約金を始め、リオネルに圧倒的有利な内容を知っていたら、ヒルデガルドが断固反対の意思を示すのは、想像に難くない。


「そして、その小さな女の子もしょせん、おじいさまが召喚したそこそこの精霊でしょ? 偉大なるアールヴ族への奉仕者として、我がイエーラへ尽くして貰いますわ」


尊大、傲慢、という言葉が今のヒルデガルドにはぴったりと、当てはまるであろう。


人間族、祖父が召喚した精霊という見方で、おごり高ぶる孫娘。


さすがにイェレミアスも看過出来ない。


「ヒルデガルド!」


「うふ♡ 何でしょう? おじいさま」


「リオネル君の評価、立ち位置は、手紙で伝えてあるだろう!」


「はあい、分かっていますわあ♡ 人間族にしては、そこそこの魔法使いって事ですよね?」 


ここで、リオネルは巨大で不穏な、そして殺気のこもったオーラ……波動を感じた。


ごごごごごごごご!!!!!


という擬音が聞こえて来そうな怖ろしいものだ。


……波動を発していたのは、怒りに燃えるティエラである。


リオネルは……ティエラの殺気に何とか耐えた。

少しだけ、脂汗が流れたが。


しかし、


「うおおおっ!?」


「ひいいいいっ!!!」


「………………………………」


波動に耐えきれなかったイェレミアスは苦しそうに呻き、

ヒルデガルドは情けない悲鳴を上げ……


執務室に居たアールヴ族たちは、警護役も事務官も無言のまま、

全員が硬直してしまったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「小娘」


と言い、ティエラは美しい瞳でヒルデガルドを冷たく見据えた。


対して、ヒルデガルドは言葉を発する事が出来ず、

ただただ震え、悲鳴をあげるだけ。


上位精霊と言っても、しょせん、祖父が召喚した『しもべ』に過ぎない。


ヒルデガルドは、自身が発した通り、ティエラを舐めていたに違いなかった。


「ひいいいいっ!!!」


「もう一度、はっきりとほざいてみるがいい。誰がそこそこの魔法使いに、そこそこの精霊だ?」


「ひいいいいっ!!!」


「愚かで無知なお前は、つつしみという言葉を知らないようね」


「ひいいいいっ!!!」


震え、悲鳴をあげるだけのヒルデガルドを見て、

ティエラは「ふん!」と鼻を鳴らし、


「イェレミアス」


「は、はい! ティエラ様」


「相当な馬鹿娘だという予想はしていたけど……私の予想をはるかに超えた大馬鹿娘ね、こいつ」


「も、申し訳ございませんっ!」


「ひいいいいっ!!!」


尊敬する祖父も自分と同じく震えあがり、平身低頭するのを見て、

ヒルデガルドはまたも悲鳴を発した。


自分の言動が、「とんでもない事をしでかしてしまった」と思い知ったようである。


ここでリオネルが「はい」と挙手をする。


ティエラの殺気にも慣れたようで、柔らかく微笑んでいる。


「あのティエラ様」


「なあに、リオ」


「提案です」


「うふふ、どういう提案?」


「はい、まずは鎮静の魔法でこの場の全員を落ち着かせ、その上で改めてティエラ様と俺で自己紹介しませんか」


「うふ、良いわよ。じゃあ、私が広範囲の鎮静魔法を行使してあげる。この部屋だけでなく、この官邸全部のアールヴ族に効果があるわ」


「凄いですね! ありがとうございます!」


「それで、その後は?」


「はい、論より証拠で、広範囲鎮静魔法の行使でティエラ様の実力が知らしめられます。その後で俺も魔法を使って、『そこそこの魔法使い』だって事をヒルデガルドさんへ証明します。詳しい話はイェレミアスさんを交え、その後でやりましょう」


「うふふふ、OK! OK! リオのアイディア通りに行いましょう」


煮えたぎった溶岩の如く、怒りまくっていたティエラが、

リオネルと話したら、あっさりとクールダウン。

にこにこと真逆の表情となった。


イェレミアスとヒルデガルドは、あまりにも極端な変貌に驚き、

目をぱちくりしていたのである。

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