第549話「どうやらアウグストは、リオネルの動向もチェックしているらしい。 しかし、この質問も想定内だ」
フォルミーカ迷宮の探索を終え……
リオネルが地上へ戻ってから、1週間が経った。
しかし、いまだリオネルはフォルミーカの街にとどまっている。
イェレミアスとの契約に基づき、すぐアールヴの国イエーラへ赴かないのは、
冒険者ギルドの総マスター、ローランドから、
ランクS昇格決定の連絡を待っている為だ。
それゆえ、当初、山猫亭に3泊4日で予約を入れたのだが……
昇格確定には多少時間がかかるという事で、
イェレミアスとともに、引き続き、連泊したのである。
その間、担当者のエミリアがギルドの業務連絡の為、山猫亭を訪れた際、
山猫亭の一人娘、ブレンダといきなり鉢合わせ。
恋する女子の本能的に察したのか、
「貴女は誰? リオネルさんに何の用?」というブレンダの問いかけから始まり……
エミリアの、
「私はリオネル様のお世話をする専任業務担当者です。専任秘書になりたいとも考えています」
などなどの会話が交わされ……
乙女ふたりが、一触即発に近い微妙な雰囲気の中、
リオネルが間へ入り、なだめ、事なきを得たものの、
互いに、ライバルとして認識し、バチバチと火花を散らす一幕もあった。
またリオネルは、フォルミーカ滞在中の時間を有効に使った。
必要な物資を大量に購入したり、冒険者ギルドの図書館で調べ物をしたり、
イェレミアスとイエーラ富国策に関して綿密な打合せをしたり、
時たま、フォルミーカから出て、これまたイェレミアスとともに、
郊外の原野で戦闘訓練を行ったりもしたのである。
その際は、ケルベロス、オルトロスの魔獣兄弟、
ファイアドレイク、フロストドレイクのドラゴンコンビ。
アスプ、ゴーレム各軍団も参加した。
仲間たちとともに、訓練に励むリオネルは、
インテリジェンスソードたる退魔刀ムラマサを携えていたのは、言うまでもない。
そんなこんなで、1週間が過ぎ、8日目の朝……エミリアがやって来た。
おすまし顔のエミリアの顔を見たブレンダは不機嫌そうに、しかめっ面をしたが……
「担当者のエミリアさんとは、冒険者ギルドを介した、あくまでも仕事上の関係だ」
とリオネルから言われているので、表立って、口出しはしなかった。
ちなみに、リオネルからエミリアへは、
「ブレンダさんは宿屋のオーナー店主の娘で自分は単なる客である」
と伝え、納得して貰っていた。
このやりとりで……
ふたりの恋する乙女は、リオネルの物言いと態度から『脈ナシ』と感じたのだが、
アプローチを全く諦めていなかった。
否!
諦めるどころか、恋心はますます燃え上がったようである。
一方の、リオネルはといえば、初恋の相手ナタリー・モニエにふられ、
ミリアンから告白を受けて以降、自分の恋愛観を自覚したようである。
心の底から相手を好きにならないと、本気で相手へ踏み込めないと……
さてさて!
そのエミリアが報せに来たのは、フォルミーカ支部ギルドマスター、
アウグストからの手紙のお届けの為である。
早速リオネルが開封し、読んでみれば、
リオネル・ロートレック様。
ソヴァール王国ワレバットの冒険者ギルド総本部総マスター、ローランド様から、
魔法鳩便が届いた。
大至急、フォルミーカ支部へ来られたし!
冒険者ギルド、フォルミーカ支部ギルドマスター、アウグスト・ブラード
という事であった。
「分かりました、すぐ伺います」
と答えたリオネルは、身支度をし、エミリアとともに、
急ぎフォルミーカ支部へ向かったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
リオネルはエミリアとともに、フォルミーカ支部へ。
エミリアの先導で、すぐギルドマスター室へ通された。
アウグストは満面の笑みを浮かべ、待っていた。
開口一番、
「リオネル君、おめでとう!」
と、握手を求めて来た。
対して、儀礼上リオネルも握手で応えた。
こうなると、次の言葉も簡単に予想出来た。
「リオネル・ロートレック君! 君は冒険者ギルドのランクSへ正式に認定された。ワレバッドの総ギルドマスター、ソヴァール王国貴族でもある、ローランド・コルドウェル伯爵からのご指示だ」
「はい、ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
「ふむ、一緒に送られて来たが、これが新たな所属登録証だ。受け取ってくれ」
アウグストは、ランクSと金色で記された所属登録証を渡してくれた。
「重ね重ねありがとうございます」
リオネルは所属登録証を受け取ると、改めて深くお辞儀をした。
そんなリオネルを見て、アウグストはため息を吐く。
「リオネル君」
「はい」
「君が地位、名誉、金になびかない人間だとは分かっているし、エミリア経由で何度も出したオファーも断られている。……だが敢えて聞こう。私のオファーを受ける気はないかね?」
アウグストの出したオファーは、次期ギルドマスターを見据えた、フォルミーカ支部サブマスターの地位。俸給は倍というものだ。
「申し訳ありませんが、お受け出来ません」
「そう言うと思ったよ。ちなみに総マスターからも、本部の管理職にという話が来ているが、断るのかね?」
さすが策士のアウグスト。
ローランドのオファーより、自分のオファーを先に告げるのが抜け目ない。
「はい、申し訳ありませんが、同じくお断りします。ローランド様へは、自分から魔法鳩便を出しておきます」
「そうか、分かった……それと君が今、一緒に居るのは、アールヴ族の前ソウェル、イェレミアス・エテラヴオリのようだが……」
どうやらアウグストは、リオネルの動向もチェックしているらしい。
しかし、この質問も想定内だ。
「はい、イェレミアスさんとは迷宮内で知り合いまして、アールヴ族の国イエーラへ戻るらしいので同行します」
無難な答えで切り返したリオネルは、柔らかく微笑んだのである。
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