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第545話「はあ、それなりに」

話せる範囲内で、これまでの経緯を話したリオネルは、

イェレミアスとボトヴィッドが、旧交を温めている間……


フォルミーカの街の各所を回り、必要な人に会い、必要な手続きをし、

必要な買い物をする事にした。


まずリオネルは、迷宮へ潜る前にお世話になった宿屋、山猫亭へ向かった。


事前にイェレミアスと相談し、イエーラへ数日出発するまでの数日間、

フォルミーカの街で宿泊する事となっており……


自分が以前にお世話になった山猫亭の話をし、

イェレミアスからOKを貰っていたのである。


「ちゃ~っす、リオネル・ロートレック、ただいま迷宮から戻りましたあ!」


リオネルが軽いノリで、山猫亭を訪ねると、店主のダニエラ・ビルトが驚く。


そして、満面の笑みを浮かべる。


「あらあらあら! お久しぶりねえ! リオネルさん!」


「はい! ダニエラさん! お久しぶりです、ご無沙汰しています」


そう言うリオネルを、ダニエラはしげしげと眺め、


「本当に、ケガもなくよくぞご無事で……3か月ぶりくらいかしら? ねえねえ、迷宮からはいつ戻ったの?」


「はい、先ほどです。あの早速ですが……数日間、お部屋をお願いしたいのですが、今、空いてます?」


「ええ、ええ、空いてるわよ! というかリオネルさんなら、無理やりでも空けるから!」 


「ありがとうございます。それで実は今回、俺ひとりではなく連れが居まして」


連れが居る。

しれっと言うリオネルの言葉を聞き、ダニエラから血の気が引く。


リオネルを慕う、愛娘ブレンダの顔が目に浮かんだに違いない。


「え? ええええ!? リ、リオネルさんのお連れさんって? ま、まさか、お、女の子!?」


「いえ、違います。迷宮内で知り合った先輩のような男性です。アールヴ族のベテラン冒険者なのですが、問題ありませんか?」


「え!? 先輩のような男性なの!? あ~、良かった! ウチはアールヴ族の男性でも全然OKだよ!」


リオネルの連れが恋愛関係にある女性ではない事に安堵したダニエラ。

彼女の物言いから、宿泊に支障はないようだ。


リオネルは微笑み言う。


「そうですか、ダニエラさん。改めまして、ありがとうございます。じゃあ、とりあえず本日から、シングル都合ふた部屋、各3泊でお願いします」


「うふふふ、了解。良かった! 良かった! リオネルさんが戻って来たと分かったら、ブレンダも喜ぶわ!」


「そういえば、お姿が見えませんが、ブレンダさんもお元気ですか?」


「うん! 元気! 元気! 今ちょっと出かけてるの。リオネル君が恋しいって毎日泣いてるわよ、うふふふ」


「あはは、毎日泣いてるって……それはだいぶ大げさでしょう? じゃあ、後ほど伺いますね」


「ええ、アールヴ族の方とふたりで来るのね、楽しみに待ってるわ」


という事で、これで安心、今夜から3泊の宿は無事確保した。


リオネルはダニエラへ辞去のあいさつをし、次に冒険者ギルドへ向かったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


てくてく歩き、リオネルは冒険者ギルドへ。


時刻は、午後2時過ぎ。


リオネルは本館受付で、自分の専任業務担当者エミリア・オースルンドを呼び出す。


幸いエミリアは在席していた。


しばらくして、エミリアがやって来た。


エミリアは、ダニエラ同様、久しぶりの帰還に驚くが、同じく安堵する。


「わあ! 3か月ぶりですね、リオネル様! ご無事で良かった!」


「こんにちは、エミリアさん。ご無沙汰ですね。先ほど迷宮から戻りました。……あのう……」


「はい? 何でしょう? リオネル様」


「エミリアさんが手配してくれた受諾済みの依頼の件です。せっかくなのに申し訳ありませんが、迷宮の地下150階までは行けましたが、その先は、行けませんでした。なので、ご依頼いただいた151階以降の探索は達成出来ず、未遂という事となります」


この報告は、イェレミアス、ティエラとの申し合わせの上、判断をしたものだ。


未知たる古代魔法王国遺跡の秘密は、世界のパワーバランスを崩す怖れもあり、

しかるべき時が来るまでは、伏せておいた方が良いと3人は考えたのである。


ちなみに、古代遺跡を発見し、秘密を解いたのはイェレミアスだが、

遺跡がアールヴ族の所有物というわけではないという認識も持っていた。


その認識も、ティエラの強権発動に近いアドバイスからであり、

常識人のイェレミアスは、諭され了承していた。


そもそもフォルミーカは、アクィラ王国の領地内であり、

イエーラが所有を強硬に主張した場合、とんでもない国際問題に、

発展する怖れもあるとも考えたのだ。


そんなやりとりが、裏で行われているとは露知らず、エミリアは微笑む。


「そうなんですか……でも全然OKです。あの依頼は、これまでに完遂した方は居りませんし、お伝えした取り決め通り、ペナルティもなしです」


「分かりました。ありがとうございます」


「まあ、リオネル様が3か月も迷宮へ滞在し、最奥の地下150階層まで行かれたという事は、単純に考えても魔物はたくさん倒していますよね?」


「はあ、それなりに」


「うふふ、それなりにですか? 了解です。今回の討伐内容を確認し、討伐報奨金を精算しますから、特別応接室で打合せを致しましょう」


「はい」


そんなこんなで、特別応接室へ移動したリオネルとエミリアだったが……


「ななななな!!!??? 何ですかあ!!!??? これええええ!!!???」


所属登録証を魔導精算機で確認したエミリアは、

リオネルのとんでもない内容の討伐を目の当たりにして、驚愕。


大が付く絶叫をしていたのである。

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