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第538話「しかし、リオネルの問いかけはまさに正論である」

イェレミアスは、「おお!」と呻き、


「おお!! そうか!! 確かにそうだ!!」


と言い、納得したのか、両手をばん!と叩いた。


リオネルにもティエラの言う意味、意図が分かった。


「論より証拠! ソウェルを継いだイェレミアスの孫娘を、改心かつ意識改革させる為にはね、人間族でありながら、4大精霊に愛される術者、全属性魔法使用者(オールラウンダー)たるリオの存在が必要不可欠なのよ」


という、ティエラのコメント中で、『論より証拠』という言葉が、

特にキーワードであったからだ。


「ええっと、ようは人間族の俺が、イェレミアスさんと一緒に、アールヴの国イエーラへ行って、力を貸すって話ですよね?」


するとすかさず、ティエラがVサイン。

正解音まで叫ぶ。


「ピンポーン!ピンポーン!ピンポーン!」


「論より証拠って事で、俺がアールヴ族の前で力を発揮すれば、ソウェルを継いだイェレミアスさんの孫娘さんが、下に見る人間族の実力を認めざるを得ない。改心、意識革命は良く分かりませんが、彼女が世界へ目を向けるきっかけになると理解しました」


「そうよ、つまり、イェレミアスの孫娘だけではなく、アールヴ族のほとんだが、井の中の(かわず)大海(たいかい)を知らずって事ね」


補足しよう。


井の中の(かわず)大海(たいかい)を知らずとは、

狭い見識にとらわれている『ことわざ』である。


自分の持っている見識だけで、何でもかんでも全て推し量ってしまう浅はかさを、

「大きな海を知らない井戸の中の蛙」に例えて言い表しことわざであり、

略して「井の中の蛙」とも言われるのだ。


「さすがはティエラ様。渋いことわざをご存じですねえ」


「うふふ♡ まあね」


微笑みあうリオネルとティエラの傍らで、イェレミアスは、うんざりした様子で、

「ふう」とため息を吐いた。


アールヴ族が、「井の中の蛙」である自覚はあるようだ。


そんなイェレミアスへ、ティエラは言う。


「良い機会よ、イェレミアス。長年にわたってため込んだ一族の(うみ)を一気に出してしまいなさい」


「そうですね……良い機会かもしれません」


「でしょ? リオの力をアールヴ族へ、全て見せる事は出来ない。けれど、一端でも見せれば、アールヴ族は圧倒される、間違いなく気圧されてしまうわ」


「………………………」


「イェレミアス、この迷宮に設置した魔導水晶の視点で貴方も、見たでしょ?」


「………………………」


「転移魔法、飛翔魔法を存分に行使しながら、数多の魔物を蹴散らし、迷宮を自由自在に探索する、底知れぬリオの力を目の当たりにして圧倒されたはずよ」


「………………………」


「そしてリオの寛容性も、分かっているはず。イェレミアス、誇り高く気難しい貴方ともこうして難なく、打ち解けているしね」


「………………………」


「イエーラへ連れて行っても、アールヴ族たちと、何の心配もなく上手く折り合い、馴染んでしまうと思うわ」


「………………………」


「リオの力の一端を見せ、アールヴ族の生活水準が良くなれば、貴方の孫娘は間違いなくショックを受ける。リオの力を認めている貴方が、孫娘を慰め諭し、新たな道へと導く」


「………………………」


「荒療治だけど、結果、全てが丸く収まる。貴方は孫娘や一族から憎まれずに、反省し、目が覚めた孫娘とともに力を合わせ、一族をけん引出来る」


「………………………」


「アールヴ族は光を得て、前へ進み、新たな世界へステップアップする事が出来るわ」


「………………………」


「リオだけじゃなくて、私たち精霊もリオへ力を貸す。地、風、水、火、4大属性、全ての精霊たちがね。それが全属性魔法使用者(オールラウンダー)たるリオの力なのよ」


イェレミアスを見据えながら、ティエラはきっぱりと言い切ったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ティエラの話をずっと無言で聞いていたイェレミアスは、一気に脱力。

改めて現実を思い知った、そんな表情をし、


「あの、ティエラ様」


「なあに? イェレミアス」


「はい、貴女様がそこまでおっしゃるとは、リオネル君の事を本当に認めていらっしゃるのですね?」


念を押すようなイェレミアスの物言いを聞き、

ティエラはしかめっ面となる。

まだ分からないの?と言いたげに、


「だからあ! さっきから言ってるでしょ? 認めているなんて、生易しいもんじゃなく、私はリオと結婚したいくらい大好きなんだって!」


「は、はい! もう充分に納得致しました!」


叫ぶように言うイェレミアスだが、リオネルは苦笑。

いつの間にか、リオネルがイェレミアスの為、尽力する事が必須となっている事を。


まあ、ティエラの意向でもあるし、断るつもりはない。

イェレミアスとは馬が合いそうだし、アールヴ族にも興味はある。


イエーラに行くのなら、イェレミアスは最高の同伴者となるに違いない。


そう思いながら、リオネルは言う。


「あの~、イェレミアスさん、充分に納得するしないじゃなく、まずはティエラ様へお礼を伝えるのが先ではありませんか?」


人間族とアールヴ族に価値観の違いはあるかもしれない。

しかし、リオネルの問いかけはまさに正論である。


イェレミアスは返す言葉に詰まる。


「むむう……」


「これほどまでに、イェレミアスさん、お孫さん、アールヴ族の事を考えて頂いたのですから」


リオネルから諭され、イェレミアスはようやく気付いたらしい。


「あ!?」


と、声を発した後、深々とティエラへ頭を下げる。


「ティエラ様! 不肖の私と孫娘、迷える一族の為にお骨折りいただき、ありがとうございます」 


「うむ、よろしい! ……と、いう事でうふふ♡ リオ、お願い♡」


大きく頷いたティエラは、悪戯っぽく笑い、

ウインクして、可愛らしくおねだりしたのである。

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