第537話「リオネルの結婚話が、イェレミアスの悩み解消へつながる??? ???」
イェレミアスは、
「ははははは………愚か者か……本当に私の気持ち、事情は全て、 ティエラさまにお見通しなのだな」
と言い、乾いた笑いを浮かべた。
そんなイェレミアスに対し、微笑むティエラは思わせぶりに言う。
「うふふ、そうよ、イェレミアス。まあ、貴方の事情を一切合切調べたのは、リオの為だけどね」
「む? 私の事情を一切合切調べたのは、リオネル君の為にですか?」
「ええ、その通り。リオがこのフォルミーカ迷宮へ潜り、貴方と邂逅し、こうなる事が分かっていたからよ」
「私とリオネル君が邂逅……」
「うん、しちめんどくさい葛藤を抱えた貴方が、リオへ愚痴を吐きまくるって、私には分かっていたもの」
「う、うう……」
「リオはお人好しだから、相談に乗ってあげるだろうけど、プライドが高すぎる貴方は、もったいぶって全てを話さない」
「むむむ……」
「結果、時間ばかりかかってさ、とんでもなく不毛な展開になるでしょ? だから、イェレミアス、私が貴方の事情を全て調べておいたわけ。どう理解した?」
「り、理解しました! だが何故!? ティエラさまが、リオネル君の為にそこまで!?」
「うふふ♡ イェレミアス。アールヴ史上、最強のソウェルと称された貴方なのに、随分と、にぶちんね」
「うお!? 随分と、にぶちん!? わ、私がにぶちん!?」
ティエラから『にぶちん』と呼ばれ、ショックを受け、のけぞるイェレミアス。
補足しよう。
『にぶちん』とは鈍い人を意味する。
鈍いに、人名及び人の特徴の後に付ける事で、
親しみや軽い軽蔑の意味を持たせたものだ。
更にティエラは追撃。
きっぱりと言い放つ。
「そうよお! イェレミアスは相当のにぶちんよ! 貴方は合理的かつ、冷静で理知的だけど、残念ながら、女子の機微を察する能力に欠けているところがあるわ、うふふふふ♡」
けちょんけちょんにされたイェレミアスだが、
相手は高貴なる地界王アマイモンの愛娘。
精霊を敬うアールヴ族が、畏れ多くも、反論出来るはずがなく、
イェレミアスは鈍いと言われる自覚も若干ある。
「むう……耳が痛いし、それは確かに自覚していますが……ティエラ様はまさか!? リオネル君を!?」
「そうよ! 今頃気が付いたの? 本当ににぶちん! 私がリオの事、大好きだからに決まってるでしょ?」
「うお!? 最上級精霊のティエラさまが!? 人間族のリオネル君を大好きとは!?」
「もう! そんなに驚かなくても良いでしょ? リオの事はもうお父様に許可を取っているんだから?」
「「許可!?」」
思わず、驚くリオネルとイェレミアスの声が重なった。
ここまで黙って、ティエラとイェレミアスの会話を聞いていたリオネルであったが、
ティエラが、父たる地界王アマイモンに許可を取ったとは、いったいどういう事だろう?
自分も、『にぶちん』と言われそうだが、全く予想がつかない。
「うん! お父様はこう言った。……ティエラ、お前が望むなら、リオを私の婿にしても構わないって」
これは、最強の衝撃発言!!
リオネルとイェレミアスは、再びのけぞる。
「「うお!?」」
話はとんでもない方向へ進んでいたが、ここでティエラがトーンダウン。
「私とリオが結ばれる……という展開が本当は理想だけど、残念ながら現実的ではないじゃない」
「「………………………」」
「一番大きいのは人間の寿命の問題。人間は長くても、せいぜい100年少ししか生きられない。もし結ばれて、結婚しても、妻の私がリオをさびしく見送るのは確定でしょ?」
「「………………………」」
「結婚してたった100年たたずに、リオと死に別れるなんて、そんな悲劇は私には耐えられないし」
「「………………………」」
「だから私は、思い切って決めたの。リオの正妻には、素敵な人間族のお嫁さんをめぐり合わせるって……」
「「………………………」」
「これは私の個人的な意見だけど、リオへ愛と加護を与えた、他の精霊たちの総意でもあると思うわ」
……いつの間にか、リオネルの結婚話が出ていて、
自分のあずかり知らぬところで、想定外の展開が繰り広げられていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そろそろ、ストップをかけた方がいいかもしれない。
イェレミアスの葛藤の話が、全く関係のない、
リオネルの結婚話へ、すり替わっていたからだ。
「ティエラ様」
「うふふ♡ なあに? リオ♡」
「はい、ティエラ様始め、精霊の皆様のご厚意はありがたいですし、感謝はしますけど、俺、まだ18歳ですし、結婚とか全く考えていません」
「え~? 何それえ? リオの為に皆、一生懸命考えてるよお。、そーだなあ、地属性の私には残念だけど、お相手は水属性の魔法使いで、ミリアンとか、どう?」
「ミリアンって……」
「何よ、あの子嫌い? 凄くいい子じゃない? 水界王アリトンさまやウンディーネたちは喜ぶわ」
「いやいや、ミリアンは嫌いじゃないっすけど」
「なら、いいじゃない?」
「……ティエラ様。本当にありがとうございます、でも今は俺の結婚話より、イェレミアスさんの悩みごとの話が先ですよね?」
リオネルが、やんわりと抵抗すると、ティエラはあっさりと矛を収める。
「うふふふ♡ 分かったわ♡ でもね、この話がイェレミアスの悩み解決へつながるのよ」
??? ???
リオネルの結婚話が、イェレミアスの悩み解消へつながる??? ???
???マークが乱れ飛ぶリオネル。
「ティエラ様、どういう意味でしょうか?」
思わずリオネルが尋ねると、
「論より証拠! ソウェルを継いだイェレミアスの孫娘を、改心かつ意識改革させる為にはね、人間族でありながら、4大精霊に愛される術者、全属性魔法使用者たるリオの存在が必要不可欠なのよ」
ティエラがそう言った瞬間。
イェレミアスは、「おお!」と呻き、
「おお!! そうか!! 確かにそうだ!!」
と言い、納得したのか、両手をばん!と叩いたのである。
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