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第534話「まだまだ調べたい、学びたい、習得したいと思い、ずるずる来てしまったのだ」

「ええ、そうよ。貴方は、ず~っともったいぶってさ、リオの話ばかりを欲しい欲しいのクレクレ君じゃ、それはちょっとずるいんじゃないの?」


イェレミアスと正対したティエラはそう言うと、

「うふふ」と悪戯っぽく笑った。


話を隠しもったいぶる。

相手の話ばかりを欲しい欲しいのクレクレ君。

加えてずるい……


辛辣(しんらつ)なティエラの口撃。

そして、全く否定不可能な真実を衝いた言葉。


多分ティエラは異界において、自分とリオネルの会話をずっと聞いていたに違いない。


その上で、ズバリ指摘しているのだ。


ぐうの音も出ず、イェレミアスは全く反論が出来なかった。

全面的に認めざるを得ない。


「わ、分かった! い、いや! よ~く理解させて頂きました! ティエラ様!」


「うふふ♡ 分かれば宜しい!」


言葉遣いを敬語に変えたイェレミアスの言葉を聞き、ティエラは満足そうに微笑んだ。


そんなティエラを見て、噛みながら返事をするイェレミアス。


「は、はいっ!」


ティエラは更にイェレミアスを促す。


「じゃあ! さっさとカミングアウトしてくれる? イェレミアス」


「は、はいっ! かしこまりましたっ! ティエラ様!」


ティエラが(さと)すのを聞き、当初は止めようとしたリオネルであったが、

イェレミアスから『怒り』『屈辱』等の波動が全く発せられていなかった。


なので、言葉をはさむ事をしなかったのだ。


今、イェレミアスは「恐れ入った!」という感服の波動を発していた。


ティエラが高貴なる最上位精霊という立ち位置もあるだろうが、

孫娘に叱られる祖父というイメージを楽しんでいるのでは?とリオネルは思う。


実際、1,700年以上生きて来たイェレミアスより、上級精霊として、推定数万年以上は生きているティエラの方がはるかに年上だと思うが、それを突っ込むのは野暮(やぼ)である。


というか、もしも女子の年齢などちゃかしたら、リオネルが瞬殺されかねない。

ティエラならば、尚更である。


であれば、年恰好はさておき、祖父と孫ではなく、

年齢の離れた姉が弟を叱るという図式でも良いのかもしれない。


「リオネル君、すまなかった。まず私のスペックから簡単に述べよう」


早速イェレミアスは謝罪して来た。


イェレミアスの謝罪に対し、リオネルは素直に礼を述べる。

たとえティエラの擁護があっても、相手に対しマウントをとるような真似はしないのだ。


「ありがとうございます、イェレミアスさん。そしてお願い致します。とりあえずはひと通りお聞きしますので、口をはさまずに黙っています」


「分かった。リオネル君の聞きたい事があれば、質問は後でまとめて受けよう」


リオネルの『提案』をイェレミアスはOKした。


そして柔らかく微笑むと、ゆっくりと語り始めたのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


リオネルとティエラが見守る中、イェレミアスは話して行く……


「私は、アールヴ族としてこの世界に生まれ落ち、人間の定めた時間で1,700年余り経つ。水属性、風属性、ふたつの属性を得意とする複数属性魔法使用者(マルチプル)だ」


「…………………………………………」


「そして、ティエラ様のおっしゃる通り、アールヴ族の長ソウェルを務めていた」

 

「…………………………………………」


「後継者が文句なくソウェルを務められるくらい充分に育ったので、後を託し、私はあてもない旅に出た」


「…………………………………………」


「まあ、あてもなくと言いつつ、このフォルミーカ迷宮へ来る事だけは決めていたがな」


「…………………………………………」


「だが、急ぐ旅ではなく、まあ予定は未定という感じで、いろいろ寄り道をしながら、このフォルミーカ迷宮へ来たという事だ」


「…………………………………………」


「冒険者になったくだり、このフォルミーカ迷宮でこの古代文明を発見したくだりは話した通りだ」


イェレミアスの言葉を聞き、リオネルが、そしてティエラも無言で頷く。

既に聞いているという意思表示であろう。


「…………………………………………」


そんな両者を見て、イェレミアスも頷いた。


ふうと息を吐き、話を続ける。


「この古代文明を探し当て、調査し、研究し、習得するにあたって……私はまさに、大いなる驚嘆と喜びの日々を過ごして来た」


「…………………………………………」 


「しかし……ある時葛藤が生まれた」


「…………………………………………」 


「これまたティエラ様のおっしゃる通り、この古代文明をアールヴの国イエーラへ持ち帰れば同胞達は、とてつもなく豊かな暮らしが出来るのではという思い……そして人間の文化を認め、尊敬し、取り入れる事は、先祖に対する冒とくではないかという葛藤だ」


「…………………………………………」 


「この古代文明は奥深い、奥深すぎる……」


「…………………………………………」


「まだまだ知らない事が多すぎる……」


「…………………………………………」


「私は完璧主義なところがあってな……」


「…………………………………………」


「まだまだ調べたい、学びたい、習得したいと思い、ずるずる来てしまったのだ」


「…………………………………………」


「私の話は……以上だ」


イェレミアスの話を聞き終わったリオネルであったが、「はい!」と挙手をした。

何か、質問があるようだ。


「ふむ、何か聞きたい事はあるかね?」


そうイェレミアスが言うと、笑顔のリオネルは、


「はい、イェレミアスさん。最後のくだり、肝心な部分が抜けていますよね?」


と、(ほが)らかに質問したのである。

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