第529話「リオネルの話を聞いたイェレミアスだが、少し不満そうである」
リオネルはイェレミアスの主屋内へ、招かれ、入った。
警戒心が強いらしいイェレミアスではあるが、
どうやらリオネルに対して、だいぶ気を許してきたようだ。
最初に会った時に感じた波動が著しく穏やかになっている。
相変わらずゴーレム2体に護衛されたイェレミアスは、リオネル一行を主屋の大広間へと案内し、護衛のゴーレムを後方へ控えさせた。
そして置かれていた長椅子を勧め、リオネルへ楽にして、くつろぐように告げた。
ジャンを肩に乗せたリオネルが長椅子へ座り、ケルベロス、ファイアドレイクがやや後方の床へ座ると……
イェレミアスは、後方へ控えていたゴーレムへ、お茶の準備をするように命じた。
ここでリオネルは、思いつく。
ゴーレムが動く前に、リオネルはひとつの提案をする事にしたのである。
……ボトヴィッドは地上から、イェレミアスへ生活物資等々を届けていた。
何回も行い、ふたりの友情は育まれた。
現在のイェレミアスの状況がそうなのか不明ではあるが、
リオネルはボトヴィッドと同じ事を申し入れしようと考えたのだ。
「イェレミアスさん、ちょっと待ってください」
「おお、待てとは何だい、リオネル君」
「いえ、お近づきの印に、差し入れをしようと思いまして」
「何? 差し入れ?」
「はい、お口に合うかどうか分かりませんが、イェレミアスさんはお茶をお飲みになるようなので、お近づきの印に俺の手持ちのお茶を進呈したいと思います」
リオネルは、『搬出』と心の中で念じ、収納の腕輪からお気に入りの茶葉を出した。
この茶葉は、故郷ソヴァール王国産の高級茶葉である。
冒険者の街ワレバットで大量購入していたものだ。
フォルミーカで購入したものもあったが、故郷の品がベストだと思ったのである。
数はといえば、徳用大型缶入りのものを5つ。
目の前のテーブル上に出して見せた。
テーブル上にいきなり現れた茶葉入りの缶5つを見て、イェレミアスはひどく驚く。
「こ、これは!!?? もしや!! 空間魔法か!!」
さすがはアールヴ族の魔法使い、リオネルが行使した魔法をすぐに見抜いた。
但し、現時点で収納の腕輪云々の説明は不要であろう。
リオネルはさくっと言葉を返す。
「はい、そんなものです。それよりこのお茶はワレバットで買ったものです。たくさんありますので、もし宜しければどうぞ」
リオネルの言葉を聞き、イェレミアスは心の底から嬉しそうに、目を輝かせる。
まるで、純真な子供のように。
「お、おお! おおおお! そ、そうか! ありがたい! では遠慮なく頂戴しよう! 最近は自家生産品ばかりだったからな! 違う茶葉は本当に嬉しいぞ!」
「はい、喜んで頂き、こちらも嬉しいです」
「おお、では! 早速馳走になろう」
「じゃあ、宜しければ、お茶うけに、こちらもどうぞ」
リオネルは茶葉に続き、これまたワレバットで購入しておいた、
とっておきの焼き菓子を出したのである。
これで一気に和やかになった。
笑顔のイェレミアスは、リオネルから直接、茶葉と焼き菓子を受け取り、
茶会の支度をするよう、ゴーレムへ命じたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
奥へ引っ込んだゴーレムは、しばし経ってトレイの上に、
焼き菓子を載せた皿、ポットとカップふたつを載せ、戻って来た。
まるで人間のように滑らかな所作で、丁寧にテーブルの上に置く。
相変わらず凄いゴーレムだなあ……と思いながら、
すかさずリオネルは身を乗り出し、ポットをつかみ、お茶をいれようとした。
しかし、思いのほか素早い動きで、イェレミアスは手を伸ばして制し、ポットをつかみ、ゆっくりとふたりぶんのお茶をいれた。
かぐわかしい香りが立ち上り……
リオネルは勿論、イェレミアスは満足そうな表情となる。
お茶が入ると、カップをつかんで、乾杯?みたいな事を行い、
改めて、リオネルとイェレミアスの会話が始まった。
「おお、リオネル君! 本当に香りが良くて美味い茶だ。焼き菓子も程よい甘さで最高だな!」
「あはは、良かったです。イェレミアスさんに気に入って頂けて!」
「ああ! 大いに気に入ったよ! ありがとう! リオネル君!」
上機嫌のイェレミアス。
ここは根掘り葉掘り尋ねるより、まず自分の出自、これまでの旅の経緯を簡単に話した方が賢明だろう。
但し、詳しく話せない事もたくさんあるのだが。
という事で記憶をたぐりながら……リオネルは話し始めた。
ソヴァール王国王都オルドル出身の魔法使いであり、冒険者でもある事。
冒険者になってからある時、全属性魔法使用者として目覚めた事。
修行の旅に出て数多の人々と出会い、助け合いながら、
魂の絆を結び、旅をして来た事。
しばらくワレバットで修行し、英雄の迷宮を攻略したが、
準備もある程度整ったので、フォルミーカ迷宮へ挑もうとやって来た事などなど……
「……という事で、だいぶはしょりましたが、そんな感じですね」
「う~む……成る程……」
リオネルの話を聞いたイェレミアスだが、少し不満そうである。
無理もない。
リオネルの話には重要な部分、イェレミアスの知りたい魔法の秘密等が欠落しているからだ。
どうしてリオネルが失われた古代魔法を習得出来たのか?
魔獣ケルベロス他、どうやって高位の魔物を従えているかなど。
しかし、分別のあるイェレミアスは、自分だけがクレクレ君になるのは、
とても失礼だと理解もしていた。
次は、自分が話す番……
リオネルの対面にある長椅子に座り、苦笑したイェレミアスは、
自身の事を語るべく口を開いたのである。
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