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第526話「こらあ! アールヴのじいちゃん! オミットするな! おいらだって居るぞお!」

長きに(わた)り、フォルミーカ迷宮の深層において、

一部の者以外には、人知れずひっそりと隠遁生活を送って来たらしいイェレミアス。


仲間でもない他者の介入には用心深く、ひどく敏感なのは無理もないといえよう。


自ら述べる通り、警戒心が強いイェレミアスではあったが……

魔獣ケルベロスが、交渉は上手く行くだろうと告げた通り、

全く欲を見せず、泰然自若としたリオネルとの問答の末、

フォルミーカ迷宮の秘密に触れる事を許してくれた。

明日午前8時に迎えに来て、案内すると約束して……


という事で!

早めに起床し、準備しようと決めたリオネル。


翌朝午前4時には起床。

しっかり身支度をし、仲間と共に食事をし、キャンプをたたんだ。


これらにトータル小一時間かかったが、

イェレミアスが迎えに来る午前8時までは、あと約3時間ある。


これからイェレミアスの下へ赴くにあたり、

リオネルは『護衛』の数を3者にすると約束した。

よって、これから仲間の人選を行わねばならない。


ケルベロス達は昨日、イェレミアスの話を聞いていたから事情は認識していた。

一方、オルトロス達『休憩組』には改めて状況と事情を説明した。


熟考の上で、誰を選ぶのか、昨夜のうちに考えてある。


選ばれたのは、灰色狼風に擬態したケルベロス、

火の精霊サラマンダーに擬態したファイアドレイク、

そして妖精ピクシーのジャンである。


それ以外の『仲間』達には、それぞれ異界、収納の腕輪へインして貰い、

休憩&スタンバイ状態となって貰った。


そんなこんなで、午前7時。

イェレミアスが迎えに来るまで、あと1時間となった。


目の前のストーンサークルにまだ変化はない。


ケルベロスが言う。

イェレミアスからの監視の目や耳はあるかもしれないから、

当然ながら会話は、心と心のコミュニケーション、念話だ。


(あるじ)よ』


『何だい、ケルベロス』


『いつもの事だからあまり心配はしていないが、念の為だ。イェレミアスほど警戒する必要はないが、初対面に近い相手を信用しすぎるのもいかん。油断は絶対に禁物だぞ』


『了解。直接でも間接でも、万が一、イェレミアスさんが俺を害そうとしたら、すぐに対処するよ』


『うむ、心得ているのなら問題ない』


ケルベロスが満足げに言うと、次はジャンが発言を求めて来る。


『リオネル様。おいら、姿を現した方が良いよね?』


『ああ、その方が良いな』


妖精たるジャンの姿は、常人たる人間族には視認も気配を察する事も不可能だ。

しかし妖精族の末裔たるアールヴ族は、気配くらいは察する事が出来る。


高位の魔法使いたるイェレミアスなら、

ジャンの存在を完全に認識する事が出来るだろう。


で、あれば、最初から姿を見せていた方が潔いし、すがすがしい。


『!!!!!』


ファイアドレイクも、警戒されないよう、

小さなとかげの姿、「サラマンダーのままでいる」と告げて来た。


やがて……目の前のストーンサークルにおいて、わずかではあるが、

不可思議な魔力が立ち上った。


よじれた空間が「ぱきぱきっ!」と、音をたてて裂ける。


そして、ストーンサークル内に現れたのは……3者。


護衛と思しき昨日のゴーレム2体にはさまれ、

痩身痩躯で長い金髪にエメラルド色の瞳、特徴的なとがった耳を持つ、

エルフことアールヴ族魔法使いのイェレミアスだったのである。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


ゴーレムではなく、生身――本体の身体で現れたイェレミアス。


昨日、用心してゴーレムを介しての接触であったが、さすがに今朝は自身で出向いて来た。


リオネルはにっこりと微笑み、元気よくあいさつする。

イェレミアスへの『本人確認』も忘れない。


「おはようございます! 貴方がイェレミアス・エテラヴオリさんですね! どうも、改めまして! 何卒宜しくお願い致します!」


リオネルの屈託のない笑顔は、他者を惹きつける力があるようだ。


対して、イェレミアスも相好を崩し、微笑む。


「あはははは。やあ、おはよう、リオネル・ロートレック君! 朝から元気だね?

こちらこそ、改めましてだな、宜しく頼むよ」


イェレミアスは、リオネルに付き従う3者を見ても、目を細める。


リオネルがちゃんと約束を守っている事に満足げな様子だ。


ここでリオネルは、従える3者を紹介する事にした。


「イェレミアスさん、改めて彼らも紹介します。ピクシーのジャン以外は擬態していますが、魔獣ケルベロス、火竜ファイアドレイク、そして妖精ピクシーのジャンです」


リオネルの言葉を聞き、イェレミアスは驚き、目をみはった。


「何と!!?? 放つ波動から高位の存在だと思ってはいたが! ケルベロスにファイアドレイクか! こりゃ驚いた!」 


そんなイェレミアスの言葉を聞き、怒りにぶんぶん背中の羽を震わせ、

念話で断固抗議したのはジャンである。


『こらあ! アールヴのじいちゃん! オミットするな! おいらだって居るぞお! リオネル様には誠心誠意お仕えしてるんだからなあ!!』


『おお、これはすまん、すまん。ジャン……だったな、宜しく頼むぞ』


イェレミアスが謝罪したので、ジャンはすぐ機嫌を直す。


『おう! 分かった! 仕方ないねえ! 頼まれてやらあ!』


このやりとりで、場の雰囲気が一気になごんだ。


戦いには参加しないジャンだが、ムービーメーカーとしての役割は大だ。


ストーンサークルの空間は……まだ割れていた。


イェレミアスは、リオネル達を(いざな)う。


「では、私たちについて来てくれ」


「はいっ!」


元気よく返事をし、頷いたリオネルは力強く一歩を踏み出したのである。

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